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特集対談

 5連覇中の福間香奈女流王位(32)に加藤桃子女流四段(29)が挑戦する「第35期女流王位戦」(新聞三社連合主催)五番勝負が4月25日、開幕する。4年ぶり2度目の顔合わせとなる両対局者に意気込みを聞いた。同時に、今年は女流棋士制度の発足50年に当たる。日本将棋連盟女流棋士会長・山田久美女流四段(57)と、日本女子プロ将棋協会代表理事・中倉宏美女流二段(45)に、五番勝負の展望と女流棋士のこれからについて語ってもらった。

対談:山田久美女流四段 × 中倉宏美女流二段

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五番勝負の展望は。
山田久美女流四段
山田
福間さんは、加藤さんを相手に中飛車で良い結果を出しているので、今回の五番勝負も中飛車を指してくると予想します。福間さんは、急戦に対する受け方や、持久戦に対する攻め方を相手によって微妙に変えている印象があり、緻密な将棋を指されます。
中倉
私も、福間さんは中飛車を採用すると思います。お互いに深い研究をしているので、最新の形を見ることができそうです。
山田
2人が対局した前回の女流王位戦五番勝負では、加藤さんが居飛車穴熊で敗れているので、今回は居飛車穴熊を採用せず、急戦で挑むのではないでしょうか。
中倉
加藤さんは、このシリーズはこれで行くんだと決めたら、その戦型を微修正しながら続けて指し続ける印象があり、結構意地っ張りなところがあります。第1局にどの戦型を持ってくるかが楽しみです。
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今年は女流棋士制度が発足して50周年という節目の年です。
中倉宏美女流二段
山田
応援をしてくださるファンの方々、スポンサーや関係者の皆さまのおかげです。感謝の気持ちでいっぱいです。
中倉
日本将棋連盟女流棋士会と、日本女子プロ将棋協会が合同で50周年を祝うイベントを企画しています。記念の年を私たちも楽しんでいきたいと思っています。
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今後の女流棋士について。
山田
将棋を指す女の子が増え、女流棋士を目指す子も増えています。しかし、女流棋士になっても、誰もがタイトルを狙えるわけではありません。夢を追いかけても必ずしもかなうとは限らない、厳しい世界だと教えていきたいですね。自分は何ができるのかを考え、自分の立ち位置を自分で決めることのできる女流棋士になってほしいと思っています。
 日本女子プロ将棋協会の女流棋士は、女性への将棋普及を目標として、一丸となっていますね。
中倉
普及にはいろいろな形があるので、できることを工夫しながらやっていきたいと考えています。女流棋士として将棋を指していけるのは、これまで道を作ってくれた先輩たちのおかげ。だからこそ、自分たちのできることをやっていくのだと、50周年という節目に再確認したいと思っています。
 将棋の発展に女流棋士が貢献できることは、たくさんあると感じています。

展望

 いま女流棋界は福間香奈女流王位(女流五冠)と西山朋佳女流三冠(28)がタイトルを分け合っている。この5年の間、福間と西山以外で女流の八大タイトルを獲得したのは、加藤桃子女流四段と、伊藤沙恵女流四段(30)のみだった。
 だが最近は新しい世代の台頭が目覚ましい。その代表格が大島綾華女流二段(21)だ。初参加の今期女流王位リーグでは伊藤を破り、西山をあわやというところまで追い詰めた。大島はマイナビ女子オープンで挑戦権を獲得し、一気にトップ集団に迫ろうとしている。
 若手の足音が聞こえる中、加藤は昨年、関西に移籍した。振り飛車党の福間、西山に対抗するため、振り飛車を得意とする棋士の多い関西に飛び込んだのだ。将棋に集中するため、普及の仕事を控える決断もした。そこにはタイトルを長く持ち続ける女流棋士になりたい、という不退転の決意がある。まだ若手に抜かれるわけにはいかない。試行錯誤が好結果を生むか。
 迎え撃つ福間は今年の正月に結婚を発表。変わったことは、対局が遅くなっても翌日は普段通りの時間に起きるようになった程度と言い、泰然とした雰囲気は変わらない。しかし「日々の積み重ねが盤上に表れる」とさらりと話すときの表情は鋭い。常に自己と向き合い、ひたすら盤上を探究する日々。年明けの女流名人戦五番勝負では、西山から女流名人を奪取し女流五冠に返り咲き、充実期を迎えている。
 福間と加藤による女流王位戦五番勝負は、第31期以来4年ぶり。そのときは、コロナ禍に入ったばかりで幾度となく日程変更があり、負担をかけることも多かった。全国行脚はなく東西の将棋会館で行われた。
 だからこそ今期の五番勝負は、悔いなく将棋を指せる環境をつくることで、対局者の熱意に応えたい。担当記者としてそう思っている。

(新聞三社連合・森本孝高))