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特集対談

里見香奈女流王位(25)=女流王座、女流名人、女流王将、倉敷藤花=に伊藤沙恵女流二段(23)が挑戦する第28期女流王位戦五番勝負が4月26日に開幕する。
里見は昨年、女流王座を奪取して、2013年以来の女流5冠に返り咲いた。6つある女流タイトル同時制覇を目指すうえで、大事な防衛戦だ。伊藤は奨励会をへて女流棋士としてデビュー。2度目のタイトル戦となるこの五番勝負で、初タイトル奪取を狙う。戦いを前に両対局者に抱負を聞くとともに、遠山雄亮五段と中村真梨花女流三段に勝負を占ってもらった。

対談:遠山雄亮五段×中村真梨花女流三段
遠山「もつれる展開か」/中村「相振り飛車が軸」

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紅白リーグから挑戦者決定戦を振り返って。
遠山雄亮五段
遠山
白組は、結果的に中村さんと伊藤さんとの直接対決が、大きな一番でした。中村さんがここで勝っていれば、リーグ最終戦は有利な状況で迎えることができました。
中村
その伊藤さんとの将棋は、終盤でこちらの勝ち筋があったのですが、それを逃してしまいました。
遠山
紅組は、私と同世代の岩根忍女流三段と本田小百合女流三段が頑張っていて、いい将棋を指していました。
中村真梨花女流三段
中村
本田さんは女流王位戦リーグの常連です。伊藤さんと共に、5戦全勝で挑戦者決定戦に進出しました。
遠山
挑戦者決定戦は最後、本田さんに勝ち筋があって惜しい内容でしたが、伊藤さんがしのいで勝利をつかみました。
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その伊藤女流二段の将棋は?
中村
最近は月1回のペースですが、一緒に研究会をしています。戦型は矢倉と相振り飛車がメーン。たまに居飛車対振り飛車の対抗形を指しています。
遠山
玉がなかなか捕まらないイメージがありますよね。基本的に受けの棋風ですが、受け一方にはならず、受けながらカウンターを狙う将棋です。
中村
位を取って厚みを築く戦い方が多いので、入玉模様になりやすいですね。基本的に早指しで、勝つときは持ち時間を余していることが多いです。
遠山
戦法といい、時間の使い方といい、勝ちパターンを持っています。これは奨励会での経験からくるものでしょう。
――
迎え撃つ里見さんの将棋は?
中村
以前は居飛車、振り飛車を問わず、いろいろな戦法を指していましたけど、振り飛車に戻ってきた印象があります。
遠山
最近は中飛車ばかり指していますよね。奨励会三段リーグとの兼ね合いで、戦型をしぼっているように感じます。
中村
棋風はデビュー時のような攻め一方から、バランス型に変わりました。
遠山
着実に強くなっていて、女流の中では頭一つ抜けている感じですね。奨励会は年齢制限が近づいていますが、自分も含め、これまでぎりぎりで昇段した棋士は結構います。チャンスは十分あると思います。
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5番勝負の見どころは?
遠山
里見さんの攻め、伊藤さんの受け、という展開になるでしょう。矛と楯のどちらが強いかという勝負が見られると思います。
中村
ただ、受ける方はミスができないというプレッシャーがありますよね。受けが破綻すると、取り返しがつかないですから。
遠山
そういう意味で、持ち時間が4時間と長いのは伊藤さんにとって好材料でしょう。
中村
戦型は里見さんに選ぶ権利があるのかなと思いますが、相振り飛車が軸になるシリーズになると思います。
遠山
両者はタイプが違うので、それがかみ合って一局一局が熱戦になるのでは。5番勝負はもつれると予想しています。
中村
私もそう思いますが、伊藤さんとしては、出だしの2局で1つ勝っておきたいですね。盛り上がるシリーズになることを期待しています。

里見独走阻むライバル

里見香奈女流王位が初めてタイトルを取ったのは2008年11月の倉敷藤花戦である。当時、里見は16歳8カ月の若さ。以来、女流棋界は彼女を中心に回り始めることになる。
13年5月には史上初の女流5冠に。里見は名実ともに女流のナンバーワンになった。その後、体調不良による休場などもあり、女流名人のみにまで後退した時期もあったが、復帰後は順調に勝ち星を重ね、16年には再び女流5冠になった。
現在、里見の通算獲得タイトル数は26期。これは清水市代女流六段(クイーン王位)の43期に次ぐ記録だ。まだ25歳という若さを考えれば、その記録がどこまで伸びるか、想像もつかないほどである。
とはいえ、現在の里見の独走状態が今後も続く保証はない。実は、今ほど里見を追うライバルが多くなった時代はない。
西山朋佳奨励会三段は里見と同じく奨励会に在籍している。女流棋士ではないため女流棋戦の参加機会は少ないが、その実力は里見に引けを取らないと評価されている。
先のマイナビ女子オープンの挑戦者決定戦で里見を破り、里見の女流6冠同時制覇の夢を打ち砕いたのが上田初美女流三段。上田の将棋は結婚を機に充実度を増したという評判だ。
そして、里見以外ではただ一人女流のタイトル「女王」を持っているのが加藤桃子奨励会初段。その加藤の奨励会時代のライバルだったのが、今回女流王位戦の挑戦者になった伊藤沙恵女流二段である。伊藤も奨励会1級までいった。
ちなみに、伊藤は小学5年生の時に小学生名人戦で全国3位に入った天才少女である。この時の優勝者が佐々木勇気五段。準優勝が菅井竜也七段だったことを考えても、そのレベルが分かる。
伊藤は奨励会でやや苦労した面もあったが、14年に女流棋士になってからは徐々にその力を発揮してきた。翌年の女流王座戦ではライバルの加藤に挑戦して2勝3敗1持将棋と肉薄。そして、今回の挑戦となる。
伊藤の将棋は女流棋士には珍しい受け重視。かつての天才少女が現在の女流5冠を相手にどう戦うか。里見の攻めを伊藤がどう受けるか。今回の女流王位戦はそこが注目される。  
=敬称略=

(鈴木宏彦[すずき・ひろひこ=将棋観戦記者])