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特集対談

甲斐智美女流王位(30)=倉敷藤花=に清水市代女流六段(45)が挑戦する第25期女流王位戦5番勝負が22日、徳島市で開幕する。前期、フルセットの末に里見香奈女流5冠(当時)を下し、念願の復位を果たした甲斐。対する清水はタイトル獲得数43期(女流王位は14期)を誇る女流棋界の「顔」で、自身から女流王位を奪った甲斐を相手に、5期ぶりの復位を狙う。5番勝負に先立ち、両対局者に抱負を聞くとともに、今期第1局と第2局でそれぞれ立会人を務める武市三郎七段と野月浩貴七段に、勝負の行方を占ってもらった。

対談:武市三郎七段 × 野月浩貴七段

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まずは挑戦者決定までを振り返って。
武市三郎七段
武市
20年以上も活躍してきた、清水市代女流六段と中井広恵女流六段の二人が勝ち上がってきたのはさすがですね。
野月
リーグ戦では振るわなかったが、山口恵梨子女流初段や渡部愛女流初段らの若手も成長しています。今後の活躍に期待です。
武市
挑戦者決定戦は最初、清水さんがリードしたんですが、久しぶりの挑戦というプレッシャーがあったのかな。その後、混戦になってしまいました。
野月
中井さんもタイトル挑戦は久しぶりになるので、それは互いにあったと思う。劣勢になっても諦めない姿勢が大熱戦につながりました。最終盤に出た中井さんの失着を、清水さんが見事にとがめました。
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挑戦者の清水女流六段の印象は?
矢内理絵子女流四段
武市
クイーン称号をいくつも持っているので強いのは当然ですが、特に女流王位戦で強いというイメージ。
野月
5番勝負出場連続19期という大記録がありますからね。タイトルを持っているだけではなく、失ってもすぐに挑戦しているところがすごい。
武市
居飛車党の攻め将棋。年齢的な衰えもあるはずなのに、勝率は以前と変わらず高い。力がある証拠です。
野月
最近は最新形の将棋にならないようにして、力と力がぶつかり合う将棋を目指しているように感じます。自分の力の出る展開をよく知っているからでしょうね。
――
挑戦を受ける甲斐女流王位は?
武市
後に効いてくるような堅実な手が多いという印象です。
野月
僕は2年前のNHK杯で当たりました。対局前に彼女の棋譜をすべて並べたが、強いと思いました。
武市
いまは女流が男性棋士に勝っても、ニュースにならない時代ですが、昨年度は元王位の深浦康市九段を含め4人から勝ち星をあげました。
野月
中盤のねじり合いに力を発揮する一方、切り合う展開が少し苦手かと感じた。基本は振り飛車党だけど、最近は居飛車も指すようになり、進化し続けています。
――
5番勝負の見どころは?
武市
互いにじっくりとした展開を好みます。また、終盤の寄せには自信があるから、序中盤で時間を使うことになるでしょう。
野月
対戦成績を見ると、タイトル戦の結果とは逆に清水さんが勝ち越している。戦型は甲斐さんの振り飛車が多いですね。
武市
仮に相居飛車になっても、清水さんが後手番なら挑戦者決定戦のときのように変化して、面白い将棋が見られそうです。
野月
甲斐さんは今回、ゴキゲン中飛車か角交換振り飛車のどちらかを選ぶような気がします。清水さんがどんな対策で臨むかにも注目したい。女流将棋もレベルが高くなってきたので、女流の棋譜をチェックする男性棋士もいます。新手や新構想が出てくるのかもしれません。
武市
勝ったり負けたりしながら、番勝負は進むのでは。力のこもった対局が毎局見られそうで、楽しみです。
野月
どちらかの3連勝で終わることはないでしょう。前期は5局すべてが熱戦でしたが、今期もそれを上回る好勝負を期待したいですね。

激動の一年

 2013年度の女流棋界は、近年まれに見る激動の一年だった。
 年度初めに行われた第6期マイナビ女子オープンで里見香奈が上田初美を破り、前人未到の大記録、女流5冠(女王・女流名人・女流王位・女流王将・倉敷藤花)を達成。
 しかし、初防衛戦となった本紙主催の第24期女流王位戦で試練が訪れる。甲斐智美に敗れ、人生初となるタイトル失冠。続く第35期女流王将戦で香川愛生、第21期倉敷藤花戦で再び甲斐にタイトルを奪われ、3棋戦連続の敗戦で女流2冠に転落してしまった。
その里見が巻き返しを見せたのが第3期女流王座戦。加藤桃子からタイトルを奪取して、再び女流3冠に返り咲くと、その後も勢いはとどまらない。奨励会で三段に昇段すると、年明けには第40期女流名人位戦で中村真梨花の挑戦を退け、完全復調を思わせた。
 ところが、年度末に「里見の半年間休場」という激震が走った。体調不調がその理由で非常に残念だが、しっかりと静養して一日も早い回復を願いたい。
 里見の途中棄権となった今期の女流王位戦は、清水市代と中井広恵の実力者が活躍し、健在ぶりを見せた。両者による挑戦者決定戦は清水が中井を破り、挑戦権を獲得。実に本棋戦20回目の5番勝負登場となった。
 清水はタイトル獲得43期を誇る女流棋界の第一人者。現在は無冠に甘んじているが、復活の兆しを感じさせる女流王位挑戦だ。
 対する甲斐は倉敷藤花の獲得で女流2冠に輝き、充実著しい。記憶に新しい第55期王位戦予選での活躍も圧巻だった。王位3連覇で知られる深浦康市に完勝したのだから、その実力は疑いようがない。
 過去2回の5番勝負はいずれも甲斐が制したが、今期はどんな結末を迎えるのか。世代を代表するトップ同士の対戦だけに、フルセット決着を予想する。いずれにせよ激戦は必至だ。
=敬称略=

(内田晶=将棋観戦記者〉