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特集対談

 将棋の第33期女流王位戦(新聞三社連合主催)五番勝負が、4月26日に開幕する。里見香奈女流王位=女流王座、女流王将、倉敷藤花=(30)に、西山朋佳女流二冠=白玲、女王=(26)が挑戦する好カードとなった。同時期に開催されるマイナビ女子オープン五番勝負では、女王・西山に里見が挑戦し、両者の対決は春の十番勝負となっている。マイナビ女子オープンは第1局を里見が制してスタートしたが、女流王位戦はどうなるか。戦いに臨む対局者に意気込みを聞くとともに、中座真七段(52)と加藤桃子清麗(27)に見どころを語ってもらった。

対談:中座 真七段 × 加藤桃子清麗

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里見女流王位、西山女流二冠の棋風からうかがいます。
中座 真七段
中座
里見さんは、攻めと守りとバランスがいいですね。西山さんは豪腕といわれているように、力強い将棋を指されている印象です。
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加藤清麗にはお二人と戦った経験を通して、印象を聞きます。
加藤
里見さんは、相手によって距離感を変えているなという気がしています。私に対しては、カウンター狙いだったりするところがあるのでしょうか。固めるというよりは、バランスを取る将棋かなと思っています。
 西山さんは、もちろん豪腕なところもあるのですが、最近の将棋では穴熊を採用される比率があがっていて、じっくり戦う方針を採られているのかなと思っています。以前は、はやくから駒をぶつける印象があったのですが、その部分は変化が出ているのかなと感じています。
加藤桃子清麗
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女流王位、マイナビ女子オープンと同時並行で戦います。どのような展開が考えられますか。
中座
二人は振り飛車党なので、おそらく相振り飛車の将棋になるでしょう。相振り飛車は自由度がありまして、毎局工夫が見られると思います。見所のひとつといえますね。
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加藤清麗は、二棋戦並行してタイトル戦を戦われた経験があります。
加藤
十番勝負は長期間ですが、密度濃くあっという間に終わってしまうのかもしれません。それぞれ(女流王位戦とマイナビ女子オープン)、持ち時間が違いますよね。女流王位戦は4時間と長いので、時間の使い方がポイントと思っています。4時間と3時間(マイナビ女子オープン)で、作戦の違いがあるのかが興味深いところです。
 私も相振り飛車の可能性が高いと思います。特に里見さんは、先手での中飛車の採用率が高いので、中飛車を軸にどこに飛車を振るのか、また西山さんの振り飛車を見て、里見さんが居飛車模様にすることがあるか、といったところも注目です。
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楽しむポイントは。
中座
女性の棋戦は華やかで、将棋の方もレベルが高いので、じっくり楽しんでいただきたいですね。
加藤
序盤の戦型選択から、駆け引きからはじまります。お二人とも、戦略も練られてくるので、それなりの局面に進んでも互角になると思います。その後、中終盤でどちらがどのように仕掛けるかがポイントです。
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女流王位リーグを振り返ります。西山さんと加藤清麗の入った白組は、特にタイトル経験者のそろった組となりました。
加藤
強敵ぞろいというか、たくさん勝たれている方が入ったリーグとなりました。西山さんとの3戦目はお互いに連勝で迎えて、熱い戦いでした。西山さんの採用された穴熊は、私が直前に指した戦型と全く同じだったため、意表を突かれました。力を出し切ったんですけど、終盤に緩手が出て敗れてしまいました。西山さんはこのリーグで5連勝、さすがです。
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西山女流二冠は、穴熊を採用することも増えていますね。
加藤
いろいろな形を指されるので、もしかしたら意表じゃないのかもしれないですが、違う棋戦で穴熊されているのも見ていまして、マイブームではないのではないかなと思いました。
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中座七段には、女流棋界全体の印象を聞かせてください。
中座
里見さんと西山さんの二強というイメージ。その中で、加藤さんは清麗獲得、やってくれましたね。また伊藤さんが女流名人を取って、群雄割拠と言いますか、タイトル争いが熾烈になります。
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女流王位戦とマイナビ女子オープンと、タイトル戦を並行して戦うことになります。加藤清麗は経験がありますが、そのときのことをくわしく。
加藤
2年前の春(女流王位で対里見、マイナビ女子オープンで対西山)と、昨年秋(清麗、倉敷藤花で対里見)で体験しましたが、同じ相手と戦うのと違う相手と戦うのは別物だなと感じました。戦型選択の面で相当気をつかいました。同じ相手だと同じ戦型になりがちで、ちょっとずらすかな、他のにしようかなとか考えることはありました。2年前はそこまで気をつかわなかったのですが、中飛車を得意とする二人だったので、考えなければいけないなと思った部分がありました。
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里見将棋の特徴。
中座
里見さんは、受けが強いという人もいますが、私は攻めが強いなという印象を持っています。
加藤
基本は手堅く、勝率の高い手を重ねるタイプだと思います。美しい構えを好まれ、中飛車のときは、6九の左金を4七に持っていくためにどうするかを一番に考えている気がします。7八に開くときもありますが、4七を目指していて、駒の効率を追求している繊細な将棋の印象です。終盤は、際どいところでも踏み込んできます。
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西山将棋とは。
中座
西山さんと練習将棋を指したことがあります。思いもしないところに手が行くことがあり、指していて楽しいですね。押し引きのタイミングが独特で、魅力ある将棋です。早見え早指しで、人が考えていないところを読み、よく手が見えるなと感じます。
加藤
西山さんの将棋の魅力は金銀が前に出てくる将棋だと思っていて、厚みのある将棋を指されます。形勢が悪くなっても、相手にプレッシャーをかけるのがうまく、勝負術にたけています。リスクの高い手が多いのですが、それがすごい魅力的で華やか。中座先生もおっしゃっていますが、セオリーを覆す考えもしない手を指され、視野が広いなと感じます。
――
どんな戦型になる?
中座
10局指すことになるので、試したいなという形はあると思います。普段やってない形が出てくるかもしれません。西山さんは王位リーグの最終戦の中井戦で雁木をやっていましたので、今までと違った戦型を指したいというのがあるのかなと感じました。
加藤
里見さんは、いままで中飛車が90パーセントだったのが、75パーセントくらいになって、他の筋に振ることが増えているかなと感じています。里見さんは相手に合わせているのではと思います。相手が強気に来ない場合は、歩調を合わせている印象。自分の体勢がいいときに攻め込む気がしています。
 西山さんは、どこに飛車を振るのかがわからないのですが、どこに振っても強いです。
 この二人に関しては里見さんの方が型が決まっている気がします。西山さんの方が対応しなければいけない部分が多く、挑戦者の方が気をつかうのかなと思います。
――
里見女流王位は対局の際、どんな雰囲気なのでしょうか。
中座
(西山対里見の対戦となった昨年の)女流王将戦の第3局で立会を務めました。私の受け方ですけど、里見さんが入ると空気が一変した気がしましたね。
加藤
里見さんが入室されるときが引き締まるというか、迫力があります。私が挑戦者のときは、里見さんが入室されると、里見ペースまでは行かないんですけど空気感まで支配する迫力を感じます。
――
加藤清麗、西山女流二冠についてはいかがでしょうか。
加藤
西山さんも普段は柔らかいんですけど、対局の時はピシーっとされています。
 西山さんとは、最近お話しするようになりました。理解力が高く、聡明な方だなと感じます。気遣いの方で、相手の意図をくみ取るのが得意。口調は柔らかく、おちゃめなところもあってかわいらしいです。
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見どころを改めて。
中座
最近、お二人の将棋は息が合っているなと感じます。力を出し合える信頼関係があるのでは。今回のシリーズはお互いの力が目いっぱい出そうです。
加藤
大熱戦になると思っています。ダブルタイトル戦で、将棋以外の総合的要素が盤上に現れるのではないでしょうか。
 里見さんは作戦勝ちをして、一気に攻めた場合は主導権を握っていることが多い。
 戦いが長引いて、ゴチャゴチャするような展開になれば、西山さんに分がある気がします。

展望

 八つある女流タイトルのうち、四つを保持する里見香奈女流王位に、西山朋佳女流二冠が挑戦することになった。今期の女流王位戦五番勝負は、頂上決戦と呼ぶにふさわしい顔合わせである。
 西山は昨年、奨励会三段から女流棋士に転向。女流棋士のみに参加資格が与えられている女流王位戦は、今期が初登場だった。強豪ひしめく白組リーグを全勝で制し、挑戦者決定戦では、元女流王位の渡部愛女流三段に快勝して挑戦権を得た。
 同時期に開催されるマイナビ女子オープン五番勝負は、女王・西山に、里見が挑んでいる。タイトルホルダーと挑戦者を入れ替え、あわせて春の十番勝負を戦うことになった。
 両者は、昨年秋にも女流王座戦五番勝負、女流王将戦三番勝負と、連続する2つのタイトル戦でぶつかっている。このときは、いずれも挑戦者だった里見女流王位が奪取に成功している。
 西山は、昨年秋のタイトル戦を「あっさりした将棋が多かった。持ち味だったはずの粘り強さが足りていなかった」と振り返っている。原因のひとつに、西山は体力面をあげている。その反省を生かし、最近は運動する時間をつくり「体調面ではいい状態で挑めそう」と、新たな気持ちで対局に臨む。
 迎え撃つ里見は、今年に入り、女流名人を失ったものの、公式戦では澤田真吾七段、池永天志五段に勝利し、好調といっていい。女流名人戦を戦っている最中は対局数が多かったが、いまは落ち着いており、「長編の詰め将棋を解きリフレッシュした」とも話していた。
 春の十番勝負を両者ともいい状態で迎えているのは間違いないだろう。
 ともに振り飛車党。戦型の本命は相振り飛車だが、西山の振り飛車に対し里見が居飛車に変化する力戦調の将棋になることも考えられる。もちろん両者、さまざまな型を想定しているだろうから、二人の息がぴったり合い濃密な内容の将棋を見ることができそうだ。
 女流二強の戦い。どちらも死角が見当たらない中で、あえてポイントをあげるとすれば、厳しい日程の中で、どれだけ良いパフォーマンスを出せるかだろう。女流王位戦第2局の札幌と、マイナビ女子オープン第3局藤沢対局の間は、中2日となっている。ここをどう乗り切るかが、勝負の行方を左右するのではと思っている。

(新聞三社連合・森本孝高 )