
里見香奈女流王位(24)=女流名人、女流王将、倉敷藤花=に岩根忍女流三段(35)が挑戦する第27期女流王位戦5番勝負が5月12日に開幕する。里見は昨年、女流王位を奪還すると、その後も2つのタイトルを奪って女流4冠になるなど好調が続く。今期は女流王位初防衛を目指す。岩根は2度のタイトル戦出場の経験を持つ実力者。初めて挑む女流王位戦で、初タイトルを狙う。5番勝負を前に、両対局者に抱負を聞くとともに、戦術に詳しい勝又清和六段と女流棋士会副会長の村田智穂女流二段に勝負の行方を占ってもらった。
この10年間で、将棋界では強くなったものが3つある。それは、コンピューターと子供、女性である。
コンピューター将棋の進化を知らない人はもういないだろう。囲碁界でも世界チャンピオンが人工知能(AI)に負けて話題になったが、将棋界ではもう数年前からコンピューターが人間のレベルを超えている。今は多くのプロ棋士がコンピューターを敵ではなく、研究のパートナーとして積極的に取り入れている時代だ。
子供の上達ぶりもすごい。指導者のレベルが上がり、よい教材がそろい、さらに、スマートフォン(スマホ)やパソコンでプロの棋譜がいつでも見られる環境になったことにより、子供の成長速度は格段に上がった。小学3年生でアマ四段といえば、昔なら大天才だったが、今はそのくらいの子供たちがごろごろいる。
女性の上達もすごい。強くなった子供たちのなかには少女もたくさんいて、それが女流棋士予備軍として将棋界に入ってくる。最近の新人女流棋士のレベルは10年前より大駒1枚強くなったといわれる。里見香奈と西山朋佳が奨励会三段になったのも、その延長線上にある。
コンピューターと子供と女性の上達はそれぞれ別物ではなく、実はリンクしている。インターネット環境の成熟による情報のデジタル化がそれぞれの上達をもたらしたのだ。
今回の女流王位戦では3人の男の子のお母さんである岩根忍が挑戦者になった。普段は子供の世話にかかりっきり。将棋の勉強をする時間はほとんどないというお母さんがなぜ挑戦者になれたのか。
「スマホで棋譜中継を見るのが、今できる唯一の勉強法。それで強くなれるかどうかは分かりませんが、私にはすごく役立っています」と岩根。スマホの棋譜中継が子供の成長速度を上げたのみならず、ママさん棋士の活躍の可能性を広げたのだ。
もちろん、岩根には基礎の部分に、「人間としての将棋の強さ」がある。それがなければ、タイトル戦の挑戦者になどなれるはずがない。しかし、その人間の強さがスマホによって、さらに磨かれる。スマホと人間力の融合。今はそういう時代である。
=敬称略=
(鈴木宏彦[すずき・ひろひこ=将棋観戦記者])