
将棋の里見香奈女流王位(28)=清麗、女流名人、倉敷藤花=に加藤桃子女流三段(25)が挑戦する第31期女流王位戦五番勝負が4月3日に開幕する。前期、女流王位通算5期獲得でクイーン王位の称号を得た里見は、女流四冠を保持する第一人者。今冬の女流名人戦では3連勝での防衛と、圧倒的な実力を見せつけた。対する加藤は、奨励会在籍時に女流タイトル8期の実績を持つ実力者。昨年4月の女流棋士転向後は8割を超す勝率で、女流王位戦に続き、マイナビ女子オープンでも挑戦権を得た。対局者に意気込みを聞くとともに、中村太地七段(31)と本田小百合女流三段(41)にシリーズの展望を語ってもらった。
「対局の前日はあまり眠ることができませんでした」
挑戦者決定戦直後のインタビューで、加藤桃子女流三段が興奮冷めやらぬ様子で、ホッとした表情を浮かべていたのが、少し意外だった。
昨年4月に女流棋士デビューした加藤にとって、女流王位戦は初参加で得た挑戦権。といっても奨励会時代には、門戸の開かれている女流棋戦で8度のタイトルを獲得した実力者なのだから、もっと落ち着いた受け答えをするのかなと思っていた。しかしそんな予想は裏切られ、並々ならぬ闘志を持って挑戦者決定戦に臨んでいたことが伝わってきた。
女流棋士となってからは、積極的にイベントにも参加。テレビの聞き手としてもおなじみの存在となった。でもやっぱり「女流タイトルを狙うこと」が女流棋士として最も大切と考えている。
絶対に勝つんだという強い気持ちが、みなぎる闘志の原動力。それが鋭い攻めとなって盤上に現れている。挑戦者決定戦では、自ら難解な変化へ誘導して快勝。そんな思い切りの良さが加藤将棋の魅力となっている。
加藤が「自分自身のスタイルを持っていて、かっこいい」と尊敬する里見との挑戦手合となった。両者はタイトル戦で5度ぶつかっていて、里見の4勝1敗という成績が残っている。通算成績は里見の15勝6敗だが、1年ほど両者の対局はなく、新たな気持ちで盤の前に座ることができるはずだ。
加藤に気掛かりがあるとすれば、女流王位戦とマイナビ女子オープンの2棋戦で挑戦権を得たため、五番勝負を並行して戦わなくてはならなくなったこと。里見と西山朋佳女王という二強相手に、いかに気持ちを切らさず戦い抜くかが課題だ。移動を伴う重要対局が続く加藤にとって、この春は試金石となる。
里見は挑戦手合に臨むにあたり「読みと形勢判断の精度を上げていきたい」と話していた。おそらく、対局は自分自身との戦いになるという意思表示なのだろう。ストイックな里見のことだから、第1局から全力を出せる状態でやってくることは間違いない。
最近の里見振り飛車は、バラエティーの豊かさが特徴といえる。中飛車、三間飛車、向かい飛車など多彩なストックからどんな戦型を選ぶのだろうか。五番勝負を観戦する上で、楽しみなところだ。
加藤の攻めを里見が受け止め、中終盤でねじり合う。動の加藤に、静の里見。対照的な両者が、春の女流将棋界を彩る。
(新聞三社連合・森本孝高 )