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特集対談

将棋の里見香奈女流王位(29)=清麗、女流名人、倉敷藤花=に山根ことみ女流二段(23)が挑戦する第32期女流王位戦(新聞三社連合主催)五番勝負が27日に開幕する。女流王位を通算6期獲得している里見女流王位は、女流四冠を保持する第一人者。防衛すれば女流タイトル獲得数が44となり歴代1位となる。対する山根女流二段は女流タイトル初挑戦。2020年度は17連勝を達成した勢いのある挑戦者だ。両対局者に意気込みを聞くとともに、高見泰地七段(27)と渡部愛女流三段(27)にシリーズの展望を語ってもらった。

対談:高見泰地七段 × 渡部愛女流三段

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山根ことみ女流二段が挑戦者になった。
高見泰地七段
高見
棋譜を見れば実力で挑戦権を勝ち取ったことがわかります。山根さんは振り飛車党で破壊力のある戦いを好んでいる印象です。愛媛から東京に出てきて環境を変え、自ら研究会の相手を見つけて強くなっています。覚悟を決めて将棋を打ち込んでいるところは見習いたいですね。
渡部
明るくほんわかしている姿からは想像できない攻め将棋。最近では粘り強さも兼ね備えています。
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山根女流二段は2020年度、17連勝を達成。
渡部
本当にすごい。自信をつけていると思います。中盤で良くなって押し切る将棋もありますが、挑戦者決定戦は辛抱して逆転していて、あきらめない気持ちを感じました。
渡部愛女流三段
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里見香奈女流王位の印象は。
高見
隙が無く、苦しくなっても逆転することが多いなと感じます。先日、女流名人戦五番勝負第3局で立会人を務めましたが、集中力を高めて盤上に没頭していたのが印象深かったです。
渡部
優しく明るい先輩ですが、盤上では決め手を与えてくれず勝ちきるのが大変な相手です。いろんな振り飛車を指されるので、中飛車なのか、三間飛車なのかといったように、どこに飛車を振るのか予想をしづらいところがあります。
――
五番勝負の展望を。
高見
相振り飛車のシリーズになると思います。相振り飛車は一方的に攻める展開になりにくいので、総合力の勝負になると見ています。
渡部
お互い終盤力が高いので、激しくねじりあう展開となりそうです。王者の里見さんに、山根さんがどう立ち向かうのかに注目です。
――
絶対王者の里見女流王位は厚い壁。挑戦者の山根女流二段にとって理想の展開があるとしたら。
高見
勢いある山根さんとしては第1局に勝っていいスタートを切りたいところです。4局目が今シリーズにとって重要な対局になるのではないでしょうか。山根さんは初挑戦で緊張もあるでしょうが、第4、5局となればタイトル戦の雰囲気にも慣れ、普段以上の実力を出せると思っています。

飛躍の挑戦者

 勢いある挑戦者がやってきた。
 山根ことみ女流二段は終盤力に定評があり、関係者の評価も高い女流棋士。しかしこれまでタイトル戦線に食い込むことはなかった。女流王位戦ではリーグ入り経験はあるものの、今期は予選からの参加だった。
 一気の飛躍の理由には、精神面の充実がある。コロナ禍の中、この一年ほどは、対面で練習する機会が失われてしまった。熱心に研究会に参加していた山根女流二段にとって痛手だったが、逆に自分自身を見つめ直す機会にもなっていたようだ。
 「対局に感謝する気持ちが強くなった」と山根女流二段は繰り返している。一局の将棋をより大切に指すことで、粘り強くなっていった。2020年秋からの17連勝は、そんな心の成長が大きな力となった。四間飛車党で、最近は居飛車の雁木も積極的に採用し作戦の幅を広げているところでもある。
 対する里見香奈女流王位は、勝てば女流タイトル数の新記録が懸かる五番勝負。「注目されることで、将棋にスポットが当たることがうれしい」と話しているように、大記録に挑む過程でさえも自身の力に変えようとしている。
 ストイックに将棋と向き合い、得意の中飛車に磨きをかけようとする姿勢をくずすことはない。誰が挑戦者になっても自分との戦いだと感じているのだろう。
 山根女流二段は中盤まで互角に渡り合って、得意の終盤勝負に持ち込みたい。もちろん終盤は里見女流王位も得意とするところで、そうなれば激戦は必至だ。
 求道の王者が新記録を達成するか、それとも新しい風が壁を突き抜けるのか。女流棋界の春がはじまる。

(新聞三社連合・森本孝高 )