
将棋の里見香奈女流王位(26)=女流王座、女流名人、女流王将、倉敷藤花=に渡部愛女流二段(24)が挑戦する第29期女流王位戦五番勝負が5月9日に開幕する。昨年の里見は、5つ保持する女流タイトルをすべて防衛した。今期は通算5期で獲得できる「クイーン王位」が懸かっている。渡部は初のタイトル戦出場で、タイトル奪取を狙う。戦いを前に抱負を聞くとともに、先ほど引退された女流プロ第1号の蛸島彰子女流六段と青野照市九段に、勝負を占ってもらった。
昨年度の女流棋界は、24歳の伊藤沙恵女流二段が大活躍した。女流王位戦を皮切りに女流王将戦、倉敷藤花戦、女流名人戦と4つの棋戦で挑戦者になった。
しかし、里見香奈女流王位の壁は厚かった。女流王位戦こそフルセットだったが、他はいずれもストレート負け。伊藤にはつらい結果になってしまった。
ただ、伊藤は里見に迫る数少ない棋士であることには違いなく、今後の活躍に期待したい。
女流棋界では強い里見だが、四段(男性と同じプロ)を目指して、挑戦していた奨励会は年齢制限により退会することになった。
三段リーグが終了後、初の公の場となった、3月27日の女流名人就位式。そこで里見は、奨励会を挑戦させてもらったことへの感謝とともに、今後は取材やイベント出演を積極的にこなしていきたいと話した。
その表情は、これからは自分が女流棋界を引っ張っていく―そんな決意を感じられた。奨励会退会のショックは少しあるらしいが、心配は無用のようだ。
今期の女流王位戦紅白リーグ表から、女流棋界の現状が見えてくる。
まず、目につくのが清水市代女流六段、中井広恵女流六段、山田久美女流四段のベテラン勢だ。3人は予選から勝ち上がってきた。それだけにとどまらず、清水は挑戦者決定戦進出、山田はリーグ残留という結果を残し、存在感を示した。
また、中堅も激しい星の取り合いをみせてくれた。白組では、2勝3敗で本田小百合女流三段と藤田綾女流二段、千葉涼子女流四段の3人が並び、前期成績上位の本田が残留するという混戦ぶりだった。
逆に若手は、前期残留の山根ことみ女流初段と、予選を抜けた渡部愛女流二段の2人しかいない。少し寂しい気がするが、その分、挑戦者になった渡部はよく頑張ったといえるだろう。
その渡部は「女流プロになってから、強くなりたいという気持ちにブレはなかった」と話す。奨励会経験者が多い女流棋界の中で、そこに在籍せずに強くなれたのは、たゆまぬ努力があってこそだ。
対する里見も、奨励会に入ってからの勉強量はすごかったと聞く。渡部にはそんな里見を恐れず、5番勝負に挑んでほしい。
それを見た若手が、伊藤や渡部に続くきっかけになれば、女流棋界は盛り上がりを見せるだろう。
(新聞三社連合=藤本裕行)