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特集対談

 里見香奈女流王位(31)=白玲、清麗、女流王座、倉敷藤花=に、伊藤沙恵女流三段(29)が挑戦する第34期女流王位戦(新聞三社連合主催)五番勝負が、4月26日に開幕する。女流王位を通算8期獲得し、現在4連覇中の里見が防衛を果たすか、それとも伊藤が初の女流王位を獲得するのか。両対局者に意気込みを聞くとともに、戸辺誠七段(36)と武富礼衣女流初段(24)に、五番勝負の展望を語ってもらった。

対談:戸辺 誠七段 × 武富礼衣女流初段

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伊藤沙恵女流三段が挑戦者となりました。
戸辺 誠七段
戸辺
伊藤さんは、戦型の幅が広く自在流の印象があります。相振り飛車も指しますし、対抗形も居飛車側、振り飛車側のどちらも指しこなします。力強い受けを好み、玉さばきというのでしょうか、玉が中段にいるときに、より強さを発揮する印象です。
武富
伊藤さんは、独特な受けの棋風。対局すると、自分の中の候補にない手が飛び出し、それが厳しい手なのです。観戦していても、一局ごとに発見があります。
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対する里見女流王位について。
武富礼衣女流初段
戸辺
里見さんは女流棋士の第一人者として、将棋界全体を引っ張ってきた存在。振り飛車党で、最近は中飛車を究めようとしている気がします。
 男性との公式戦でも活躍し、昨年は棋士編入試験にも挑戦されました。男性棋士に勝つためにどうしていったらいいか、男性棋士へ挑んでいくことで、さらなる高みを目指して中飛車を指している印象です。
 昔は「出雲のイナズマ」と呼ばれ、攻めの鋭い将棋でした。しかし最近は、カウンターを狙いながらペースを握っていく将棋が多いように感じます。
武富
中飛車のスペシャリストとして、常に新しい将棋を指されています。私が小学3年生のとき、里見さんから指導を受けたことがあります。
 当時、里見さんはまだ10代で、一緒に記念写真を撮っていただきました。手紙を渡したところ、その返事もいただいて感動しました。タイトル戦が続いて忙しいころだったにもかかわらず、優しく将棋の相談に乗ってくださり、温かくて柔らかく、すてきな人柄を感じました。
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どんな五番勝負になりますか。
戸辺
里見さんは振り飛車党ですので、普通に飛車を振ると思います。対する伊藤さんは、力戦に持ち込むのが得意。オーソドックスな相振り飛車も考えられますが、伊藤さんがさまざまな戦型をぶつけていくのではないでしょうか。
武富
戦型予想は難しいですね。力戦調の将棋になっていくのではないでしょうか。よく指されている定跡の形になることは少ないと思います。お互いに棋風が分かっているので、序盤で駆け引きがあるはずです。お互いに相手の想定を外しながら、自分の将棋を指したいと思っているのではないでしょうか。
戸辺
序盤の駆け引きは注目ポイントです。攻めさせてカウンターを狙いたい里見さんに対し、伊藤さんも受けに力を発揮するタイプです。どちらが先攻するのかも興味深いところです。

展望

 挑戦者決定戦終了後のインタビューに応じた伊藤沙恵女流三段は、充実した表情だった。昨年、初タイトルとなる女流名人を獲得したことが、いい影響を与えている。
 伊藤にとって、タイトル獲得までの道のりは長く、9回目の挑戦でやっとつかんだ栄冠だった。今年2月に失冠してしまったが、女流王位戦は白組リーグを全勝で抜け、挑戦者決定戦で甲斐智美女流五段に快勝。すぐタイトルホルダーに返り咲くチャンスを得た。タイトルを失っても「気持ちの切り替えはできた」と話しており、好調といっていい。気負いなく五番勝負に臨むことができる。
 防衛戦を迎える里見香奈女流王位は昨年、8つある女流棋戦において、すべてのタイトル戦に出場した。これは偉大な記録である。棋士編入試験も経験し、多忙な一年を過ごした。そのときと比べ、いま日程は落ち着いている。並行して行われるタイトル戦はなく、この五番勝負に集中できる。
 振り飛車党の里見は最近、中飛車を究めることに軸足を置いているように感じる。中飛車を通して、将棋の無限の可能性を追求する姿は、孤高の研究者のようだ。女流棋戦としては最長となる4時間の持ち時間を生かし、独自の構想を披露するのではないか。
 戦型の選択権は、オールラウンドプレーヤーである伊藤が握っている。里見の中飛車相手に、伊藤がどのような作戦を採用するか。ここが五番勝負の最大の注目点となる。ともに工夫を凝らし、新型が生まれる可能性もあるだろう。
 実力者同士の戦いなので、中終盤のねじり合いも迫力満点。見る者を沸かせることは間違いない。
 異口同音に「いい内容の将棋を指したい」と話す二人から、どのような棋譜が生まれるのだろうか。いまから楽しみでならない。

(新聞三社連合・森本孝高 )