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特集対談

甲斐智美女流王位(31)=倉敷藤花=に里見香奈女流名人(23)が挑戦する第26期女流王位戦5番勝負が22日、兵庫県姫路市で開幕する。今シリーズを制すれば、女流王位獲得が通算5期となり、「クイーン王位」の称号を得る甲斐。対する里見は今年1月、病気休養から復帰。以降は負けなしの8連勝と上り調子で、3期ぶりの復位を目指す。5番勝負を前に、両対局者に抱負を聞くとともに、初代女流王位の中井広恵女流六段と、第2局の立会人を務める中座真七段に勝負の行方を占ってもらった。

対談:中井広恵女流六段 × 中座真七段
(中座「好局が期待できる二人」/中井「レベルの高い将棋を」)

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紅白リーグから挑戦者決定戦までを振り返って。
中井広恵女流六段
中井
今期から同星で並ぶと直接対決の勝者優先というルール変更があり、リーグ最終戦ではその影響がありました。
中座
紅組は清水市代女流六段が最終戦、苦しい将棋をひっくり返しての優勝。同じ4勝1敗の岩根忍女流二段は、4回戦で清水さんに負けたのが痛かったですね。
中井
白組は本田小百合女流三段が最終戦に勝てば優勝でしたが、中倉宏美女流二段に敗れて2敗となり、里見香奈女流名人の優勝に。本田さんには残念な結果となったが、中倉さんとの将棋は力のこもった熱戦でした。
中座
挑戦決定戦は里見さんが清水さんの攻めをがっちり受け止め、快勝だったと思います。
――
その里見さんの状態は?
中座真七段
中井
里見さんの復帰戦が私とでした。対局中はおなかを押さえるなど、しんどそうなしぐさが見られました。体調面はまだ不安があると聞いていますが、徐々にでも良くなってほしいですね。
中座
復帰後は決断が良くなりました。時間をあまり使わずに指しています。ここまでの8局は負けなしで、内容もいいです。
中井
将棋は休場前よりも安定しているように感じました。昔は攻め将棋でしたが、今は受ける時はしっかり受ける将棋に変わりました。
――
対する甲斐さんは?
中座
受け主体の棋風だと思いますが、相手に攻めさせてから受けるという独特なスタイル。危ないように見えてギリギリのところで耐えるというイメージです。
中井
そう、甲斐さんと指していると、なかなか攻め切れないんですよ。
中座
公式戦で一度対戦したことがあります。その時は自分の読みにない受けの手を指されて、こちらが慌ててしまいました。懐が深いです。
中井
あと、対局中の態度が変わらないので、形勢をどう思っているのか、読みとれないです。それも強みですよね。
――
5番勝負の見どころは?
中井
二人とも振り飛車党で、石田流に中飛車と戦法選択が似ています。たまに居飛車を指すこともありますね。
中座
戦型は里見さんが決めるかと思いますが、相振り飛車を含め、振り飛車がメーンでしょう。両者のタイトル戦では相掛かりの将棋がありました。私の希望は横歩取りですが、相居飛車の将棋も1局は見たいです。
中井
里見さんもいろいろな戦型を研究しているのでしょうが、復帰したばかりなので自信のある振り飛車を選ぶかと。甲斐さんは以前、居飛車党だったので、相居飛車なら甲斐さんに分があると思います。
中座
甲斐さんは里見さんから2つのタイトルを奪っているんですね。里見さんは借りがあります。好局が期待できる二人なので星が偏ることはないでしょう。期待も含めフルセットを予想します。
中井
持ち時間4時間は女流棋戦の中で一番長い。手がしっかり読める分、内容も充実するでしょう。二人でレベルの高い将棋を見せてほしいですね。

激動の女流棋界

 昨年、女流棋界は40周年を迎えた。1974年に始まった第1期女流名人位戦は6人でタイトルを争ったが、現在は現役女流棋士53人を数え、女流王位を含む6つのタイトルを争うまでに成長した。
現在のタイトル保持者は次の通り。
女王 加藤桃子
女流王座 加藤桃子
女流名人 里見香奈
女流王位 甲斐智美
女流王将 香川愛生
倉敷藤花 甲斐智美
現役奨励会員の加藤と里見、元奨励会員の甲斐と香川が名を連ねている通り、奨励会での経験がモノをいうのは間違いない。男性プロの予備軍と対局を繰り返すことで、技術と精神の両面を鍛えられるからだ。里見は奨励会三段、加藤は初段に在籍。女流タイトル獲得はまだないが、西山朋佳二段もいる。
その彼女らの存在が女流棋界全体の底上げにもつながっているようだ。女王2期の実績を持つ上田初美女流三段、タイトル挑戦3回の中村真梨花女流二段、新人ながらマイナビ女子オープンで挑戦者決定戦に進出した和田あき女流初段ら若手が着実に力をつけてきている。
いまの女流棋界は、奨励会経験者でもタイトル挑戦が難しい時代になりつつある。
一方で、2014年度は清水市代女流六段が女流王位戦、女流王将戦、女流名人戦で、山田久美女流四段が倉敷藤花戦で、それぞれ挑戦者になるなど、ベテランの活躍が目立った。世代交代を簡単には許さないパワーも健在だ。
そして、15年度は復帰した里見の動向からも目が離せない。一時は5冠を保持していた第一人者が、現在は女流名人の1冠。タイトルをいくつ取り返すだろうか。この女流王位戦で巻き返しのきっかけをつかみたいところだろう。
挑戦を受ける甲斐女流王位は着実に地歩を固めてきた。その自信を里見にぶつけ、堂々とした指し回しで勝利を狙う。今期の5番勝負も熱戦必至だ。
=敬称略=

(藤本裕行=新聞三社連合〉