特集

第24棋 特集対談

里見香奈女流王位(21)=女流名人、女流王将、倉敷藤花=に甲斐智美女流四段(29)が挑戦する第24期女流王位戦5番勝負が25日、兵庫県姫路市で開幕する。前期と同じ顔合わせながら、攻守は逆転。現在挑戦中のマイナビ女子オープンで女流棋界初の5冠を目指すなど好調の里見に対し、前期失冠の甲斐が雪辱を狙う。開幕に先立ち、両対局者に抱負を聞くとともに、上田初美女王ら4人の女流棋士を育てた伊藤果七段と、元女流王位の矢内理絵子女流四段に勝負の行方を占ってもらった。

対談:伊藤果七段 × 矢内理絵子女流四段

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まずは挑戦者決定までを振り返って。
伊藤果七段
伊藤
リーグ表を見ると、ベテランと若手の実力者がそろいました。いまの女流棋界はみんな棋力の向上がはっきりと分かるし、将棋に対する姿勢がよくなったと思います。棋譜を見れば、勉強の跡も見えますね。
矢内
女流王位戦の紅白リーグには、みんな入りたいと思っています。リーグ戦は5回戦なんで、一局一局に気合が入ります。
伊藤
鈴木環那女流二段はリーグ戦、4勝1敗ですか。マイナビ女子オープンでは挑戦者決定戦に出ており、素晴らしい活躍だと思います。
矢内
私は出だしまずまずだったんですが、後半失速してしまって…。最終戦の中井広恵女流六段戦は、もう少しうまく指せたと思います。残念でした。
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その中で甲斐女流四段は?
矢内理絵子女流四段
伊藤
挑戦者決定戦は、中井女流六段が圧倒的に押していたように見えたけど、甲斐女流四段がよく耐えて、逆転に成功しました。
矢内
甲斐女流四段は中終盤に力を発揮するタイプ。粘り強いというか、容易に崩れない将棋を指されます。
伊藤
それにしても中井女流六段戦は、力がないとそのまま押し切られてしまうところを、うまく持ちこたえました。また、最終盤で差をつけて勝ったところも、すごいと思いました。
矢内
戦法はゴキゲン中飛車や石田流など、今どきの振り飛車が多い。ただ、挑戦者決定戦では角交換振り飛車戦法を採用していました。
伊藤
でも、序盤からリードを奪うような感じではなく、スロースターターという印象ですね。
――
受けて立つ里見女流王位は?
伊藤
とにかく強いですよね。最近は振り飛車だけではなく、居飛車の将棋も指すようになり、幅を広げようとしています。
矢内
しかも、ここ一番で相手の得意戦法に挑んでいくこともあります。自分ではなかなかできないことで、感心しました。
伊藤
相手の得意戦法で戦うということは、勝てば自信になるし、負けても勉強にはなる。勝ち負けも大事だが、高みを目指すために意識しているんでしょうね。
矢内
昨年、倉敷藤花戦3番勝負で対戦しましたが、安定しているものを感じました。
――
5番勝負の見どころは?
伊藤
甲斐女流四段は飛車を振るでしょうね。それを見て里見女流王位は居飛車でいくか、相振り飛車にするかを決めることになると思います。
矢内
甲斐女流四段は序盤で形勢を離されないようにして、中終盤の競り合いに持ち込みたい。
伊藤
両者の対戦成績を見ると、意外と差がありますね。
矢内
でも、実力差がそれほどあるわけでもないので、ちょっとしたきっかけで連勝することはよくあります。私も清水市代女流六段から女流名人を取ったとき、かなり負け越していたのですが、3連勝しました。
伊藤
それは甲斐女流四段に向けていい応援になるかも。里見女流王位は5番勝負でリードされたことがない。先の女流名人位戦では上田初美女王とのフルセット(3勝2敗で防衛)になったが、星勘定では里見女流王位が常に先行していた。
矢内
甲斐女流四段としては、まず初戦を取りたいですね。
伊藤
そうだね。続く第2局も勝って、里見女流王位が追い込まれたところを見てみたい気もします。逆に里見女流王位が2連勝すると、甲斐女流四段は苦しい。
矢内
期の5番勝負を振り返ってみると、甲斐女流四段らしい粘りも見せていた。それに5番勝負を楽しんでいたように見えました。自分のペースでやれると思います。
伊藤
リターンマッチというぐらいだから、甲斐女流四段も〝取り返してやる〟という気概で臨むでしょう。女流タイトル全冠制覇を期待されている里見女流王位相手に大変ですが、風穴を開けてほしいとも思いますね。
矢内
両者によるフルセット、激戦を見たいです。

押し寄せる新旧交代の波

 将棋界の一年は4月から始まる。女流棋界のタイトル戦は6つあり前期は5月に(1)マイナビ女子オープン、(2)女流王位戦、10月に(3)女流王将戦、11月に(4)女流王座戦、(5)倉敷藤花戦、2月に(6)女流名人位戦が決着した。
 前期のシーズンを通しての主役は、何といっても里見香奈。(2)の奪取を皮切りに(3)(5)(6)で防衛を果たし、圧倒的な存在感を発揮した。女流4冠獲得は、1996年の清水市代以来。棋士養成機関である奨励会での修業が生き、持ち前の鋭い攻めの棋風に強靱(きょうじん)な受けの力が加わったという評判だ。
  里見以外のタイトル保持者は、女流王座の加藤桃子と女王(マイナビ女子オープン優勝者)の上田初美。里見と同じく奨励会在籍中の加藤は(1)と(4)に参加し、(4)では貫禄十分のたくましい指し回しで防衛に成功した。上田は(1)の防衛戦を危なげなく乗り切り、(6)は2-3で敗れたものの内容の濃い好勝負を演じファンを沸かせた。
 前期のタイトル戦がこれまでとやや異なる様相を呈したのは、長らく第一人者として君臨してきた清水の大舞台登場が1度もなかったことによる。その前年はほぼ全棋戦でタイトル挑戦か挑戦者決定戦進出を遂げ、年間最多対局(55局)と最多勝利数(40局)の金字塔を打ち立てるほどだったのにどうしたことか。
 第4期から22期まで19期連続で5番勝負に出場し獲得数14期を数える(2)でも、今期はあと一歩でリーグ優勝を逸した。新旧交代の波は確実に押し寄せている。(6)の挑戦者決定戦では上田に敗れ、昨年3月に優勝し有終の美を飾った大和証券杯女流最強戦((7))の、今年の優勝者がその上田であったのも象徴的だ。清水の今後の巻き返しが注目される。
 前期(1)~(6)の敗退者と(7)の準優勝者は、(1)長谷川優貴(2)甲斐智美(3)中村真梨花(4)本田小百合(5)矢内理絵子(6)上田初美(7)中井広恵という面々。あえて一人を挙げるなら、(3)の3番勝負で先勝しながら里見に屈した中村のさらなる成長に大いに期待したい。今期の(1)と(2)で挑戦にあと一歩及ばなかった鈴木環那も、いつか努力が実る日がくることだろう。
=敬称略=

(小池大志=将棋観戦記者〉