エッセー

 菅井竜也挑戦者が羽生善治王位を4勝1敗で下し、タイトル初挑戦で栄冠をつかんだ記憶はいまも鮮やかに残っている。七番勝負前は藤井聡太四段(現七段)のデビューからの29連勝が社会的現象として取り上げられており、菅井が20代棋士の存在感を示した。
 それをのろしとするように、続く王座戦では中村太地王座(30)が初タイトルを獲得し、世代交代の波が押し寄せたと思われた。
 王位、王座の連続失冠によって棋聖の一冠に後退した羽生前王位だったが、年末の竜王奪取で永世七冠を達成。今年に入ると同じ40代の久保利明王将が豊島将之八段の挑戦を退け、若手の勢いに待ったをかけた。
 今春、新設された叡王戦では24歳の高見泰地叡王が誕生した。現在は8つのタイトルを7人が保持する、まさに戦国時代である。
 今期七番勝負は将棋界では初となる、平成生まれ同士のタイトル戦となった。
 豊島八段は王将戦、現在進行中の棋聖戦に続き、今年3つ目の番勝負となる。菅井は今期初防衛を果たせば6月から新たに施行された「タイトル2期獲得で八段昇段」の第1号となる。
 菅井が奨励会に入ったとき、豊島は既に三段だった。菅井少年は豊島の姿を、憧れのまなざしで見ていたと振り返る。プロ棋士になると研究会を行っていた時期もあり、専門紙が企画したチーム戦ではタッグを組んで優勝したこともあった。互いの将棋観はよく知っているだろう。
 好調を維持する挑戦者に対し、王位獲得後の菅井は5割を上回る程度の成績。7割を超える通算成績からすると視界良好ではない。
 この1年、相居飛車の将棋をよく指したことは影響としてあるだろう。七番勝負では、新たな菅井振り飛車を見せてくれるのではないかと期待している。
 今回は20代の関西棋士によるタイトル戦で、1992年の第41期王将戦、南芳一王将(28)―谷川浩司竜王(29)以来となる(年齢と肩書は当時)。
 第1局の立会人は谷川九段が務める。谷川九段は関西で孤軍奮闘した時代、奨励会員がトップ棋士の対局を見られなくなってしまうので、情報量でまさる関東に移籍しなかったと聞いたことがある。豊島のことはデビュー時から高く評価してきた。菅井とは現在、研究会を行っている。関西の大先輩がどのような思いで、2人の対局を見守るのかも非常に興味深い。

(池田将之[いけだ・まさゆき]=将棋観戦記者、敬称略)

対談

菅井竜也王位(26)に豊島将之八段(28)が挑む将棋の第59期王位戦七番勝負が7月4、5日、愛知県豊田市で開幕する。前期、念願のタイトルを獲得した菅井は初の防衛戦となる。対する豊島は、今年に入り3つ目のタイトル挑戦と絶好調。6月から始まった棋聖戦と並行して戦う。将棋界初の平成生まれ同士のタイトル戦。王位戦では初の関西所属同士の対戦となる。菅井と同じ振り飛車党の久保利明王将(42)と、豊島と同じ居飛車党の木村一基九段(45)に、7番勝負の行方を占ってもらった。

久保利明王将×木村一基九段

――
豊島八段が挑戦者になりました。
久保
紅組は実力者がそろったが、羽生善治竜王(棋聖)が一歩抜け出しました。。
木村
白組は途中まで、澤田真吾六段が引っ張ったが、リーグ最終戦での淡泊な負け方がもったいなかった。結局、チャンスが回ってきた豊島八段が澤田六段とのプレーオフを制しました。
久保
挑戦者決定戦は互いの調子の良さが出ていたが、豊島八段の終盤での切れ味がよかった。
久保利明王将
木村
内容的にも豊島八段が押していた。その後すぐ、羽生棋聖に棋聖戦第1局でも勝利した。充実しています。
――
豊島八段の将棋は?
久保
以前から強かったが最近は安定感が増し、そして勢いもある。
木村
リーグ戦でも角換わりの将棋が多かったが、普段の研究が生きているように感じた。
久保
昔は時間を使うタイプだったが、今は終盤に時間を残すようにしており、スタイルが変わった。
――
対する菅井王位は?
久保
振り飛車でもみんなが指すような戦型から離れ、独自の将棋を作ろうとしている。
木村
居飛車もたまに指していたが、振り飛車に比重を置いている。
久保
勝つときは、早めに優勢にしてそのまま押しきる展開が多い。
木村
指すテンポが速く、一手に1時間以上を考えることが少ないです。。
畠山鎮七段
――
7番勝負の見どころは?
久保
まずは時間の使い方でしょう。1日目でかなり進むこともあるでしょうし、形勢も差がつく可能性があると見ている。
木村
前期の菅井王位と今年の王将戦での豊島八段を見ていると、これまでの2日制の雰囲気とは違うことになりそう。ゆっくりやろうという感じではない。
久保
両者の対戦を見ていると、定跡形にはならなくて力戦形の将棋が多い。
木村
序盤研究で評価されている両者だが、中終盤でのごちゃごちゃした場面でも力を発揮する。
久保
豊島八段は負けた戦型をもう一度やってくる傾向があるように思う。
木村
そういえば、今年も王将戦では相振り飛車が多かったね。
久保
1局はあると思っていたが予想以上に指された。相振り飛車は相居飛車の感覚で指せるので、有力と感じているのでしょう。
木村
戦型については、番勝負ならではの面白さが出る。菅井王位も前期のような新作戦が飛び出すか、興味は尽きない。
久保
個人的には、菅井王位が後手番のときに何をやるのか、注目している。戦型から想像がつかない。振り飛車系の意表を突く戦法が出るかもしれない。
木村
序盤研究型の代表格みたいな両者なので、あえて中盤をどのように戦うのか、形勢が不利な方がどう頑張るのか。そういったところを楽しみにしたい。
久保
4勝3敗で菅井王位。同じ振り飛車党ということもあるが、両者の実力も拮抗(きっこう)していると思う。
木村
私は勢いを買って4勝3敗で豊島八段。ただやっぱり、7局目まで見たいですね。