王者と新鋭

 第58期7番勝負は、タイトル戦初挑戦となる菅井竜也七段が、羽生善治王位への挑戦権を獲得した。
 2期前、菅井七段は挑戦者決定リーグを4勝1敗で終え、佐藤康光九段とのプレーオフを制して挑戦者決定戦に進出。広瀬章人八段との対局は優位に進めていたが、逆転負けを喫した。前期も4勝1敗だったが、木村一基八段が5戦全勝のため届かなかった。
 今期の挑戦者決定リーグ(白組)は、渡辺明竜王や佐藤天彦名人など、実力者がそろう激戦区となった。初戦で佐藤名人を下し、2戦目で佐々木勇気五段に敗れたが、そこから3連勝でリーグ優勝。挑戦者決定戦では、澤田真吾六段を得意の振り飛車で圧倒した。
 今年に入ってからのタイトル戦は、すべて関西所属棋士が挑戦している。年頭の王将戦では久保利明九段(当時)が6期ぶりとなるタイトルに復帰した。続く棋王戦で千田翔太六段、名人戦で稲葉陽八段、棋聖戦で斎藤慎太郎七段と、いずれも20代棋士だ。
 菅井七段は7割を超える通算勝率を誇るけれどタイトル戦とは縁がなかった。4月で25歳になった。最近は段位が上がったことでタイトル戦に仕事で呼ばれることが多くなったという。盤側から対局者の席まではわずかな距離だが、別世界だ。「正直、悔しい気持ちはあった」と吐露する。同世代に後れを取らないためにも、相当な覚悟だったことは想像に難くない。
 王位通算18期、6連覇中の「絶対王者」は昨年、佐藤天彦八段(当時)に名人を奪われ、次の棋聖戦では永瀬拓矢六段に1勝2敗と追い込まれた。そこから連勝で逆転防衛。続く木村八段との王位戦でもカド番をはね返した。王座戦では糸谷哲郎八段を3連勝で退け、3冠を保持した。
 羽生王位と菅井七段の対戦成績は1勝1敗。最後の対戦が5年前。ともに持ち時間の短い棋戦だったので「初手合いみたいなものです」と菅井七段は話す。6年前の初対戦は相手の顔が見えないインターネット対局だった。翌年、初めて間近で盤を挟んで敗れた。
 菅井七段は数年前から居飛車を指し始めるなど、棋風改革に取り組んできた。最近は再び振り飛車の採用が多くなっている。7番勝負の戦型は、菅井七段の選択がカギを握っていると言えるだろう。
 王者と伸び盛りの新鋭の取り組み。目が離せない戦いとなるに違いない。

(池田将之[いけだ・まさゆき]=将棋観戦記者、敬称略)

対談

 羽生善治王位(46)=王座・棋聖=に菅井竜也七段(25)が挑戦する将棋の第58期王位戦7番勝負が7月5、6日、三重県菰野町で開幕する。羽生は昨年、王位を含め保持する3つのタイトルを防衛し、通算獲得タイトル数を97期に伸ばした。早ければ年内に達成する100期へのカウントダウンが始まっている。対する菅井はタイトル初挑戦。今年に入り、同じ関西所属棋士のタイトル挑戦が続く中、奪取の期待がかかる。今期第3局立会人の屋敷伸之九段(45)と、菅井七段の研究会仲間である畠山鎮七段(48)に、勝負の行方を占ってもらった。

屋敷伸之九段×畠山鎮七段

――
菅井七段が挑戦者になりました。
屋敷
今期の紅白リーグは、渡辺明竜王と佐藤天彦名人をはじめ、20代から40代までの強豪がそろいました。どちらのリーグ戦も面白い将棋が多く見られました。
畠山
そんな中、菅井七段と澤田六段が勝ち抜けました。そろそろ、彼らの世代が出てくる頃かと見ていました。
山崎
リーグ戦はあらかじめ先後が決まっており、対策を立てやすい面はあります。事前の研究をしっかりして、対局に臨まれたように感じました。
屋敷伸之九段
屋敷
挑戦者決定戦は、菅井七段の角交換振り飛車での駒組みがうまかった。澤田六段もそれなりに対応していたが、結果的には菅井七段の快勝でした。
畠山
ここ2年ぐらい、タイトル戦に出るぞという菅井七段の気迫を感じていました。ただ、これからが勝負だと思っているはずです。
――
菅井七段の将棋は?
畠山
近年は居飛車も取り入れて指していたが、最近は振り飛車の採用率が高くなっています。
屋敷
決断がよくて、勝ちっぷりがいいですね。自信を持っているように感じます。
畠山
研究会で100局以上指したが、どの戦型にもオリジナルの手順を持っているし、勉強量も半端ではないと感じます。
――
対する羽生王位は?
屋敷
安定感がありますよね。前期、カド番に追い込まれた時は危ないかなと思いましたが、立会人を務めた第6局は普段と変わらない立ち振る舞いで勝ち、逆転防衛につなげました。
畠山
ただ、新しい戦術で距離感がつかめていない部分を感じるなど、以前とは違う負け方が見られるようになりました。
屋敷
今年も棋聖戦からですが、タイトル戦が始まると調子を上げていくのでしょう。
畠山鎮七段
――
7番勝負の見どころは?
屋敷
居飛車対振り飛車のシリーズになるでしょう。羽生王位の振り飛車対策に注目しています。
畠山
羽生王位にとってはやりにくい相手のように思います。世代が違いますし、菅井七段の間合いは独特なところがあるので。
屋敷
菅井七段は2日制のペースを早くつかめるかが鍵。自分の時(第42期王位戦)は、2日目の夕方に疲れてきたことが多かったです。
畠山
菅井七段の1日目の持ち時間の使い方も気になるところ。羽生王位に合わせて使っていくのか、振り飛車の経験値で早く指して差をつけていくのか。
屋敷
封じ手は持ち時間との兼ね合いもあるし、局面にもよりますね。
畠山
これまでの菅井七段のイメージだと、指す手が決まれば封じ手20分前なら指しそうな気がします。あと、終盤での千日手は可能性が低いと思いますが、序盤での千日手は高いように思います。
屋敷
角交換振り飛車は手詰まりになりやすいので、菅井七段は千日手か、それを打開するのか、の二段構えで臨むのでしょう。いつもより千日手の出現は高い気がします。
畠山
1日目から見どころの多いシリーズですが、菅井七段が自分のペースで戦うことができれば、4勝2敗で勝つと予想します。
屋敷
勢いのある若手に2連敗スタートだと、さすがの羽生王位も苦しいでしょう。ただ、最終戦までもつれれば、羽生王位が勝つ気がします。互いが自分のペースをつかめれば、おのずと熱戦になる7番勝負だと思います。