【永瀬九段 高見七段 対談】

 藤井聡太王位(23)=竜王、名人、棋聖、棋王、王将=に、伊藤匠二冠(23)=叡王、王座=が挑戦する将棋の「伊藤園お〜いお茶杯第67期王位戦」(新聞三社連合主催)七番勝負が、7月4日に開幕する。今年でプロ入り10年の節目となる藤井王位が7連覇を果たすか、王位戦初挑戦の伊藤二冠が奪取するか。両対局者に意気込みを聞くとともに、昨年王位戦に挑戦した永瀬拓矢九段(33)と、高見泰地七段(32)に七番勝負の展望を語ってもらった。

永瀬拓矢九段×高見泰地七段

永瀬拓矢九段
永瀬
藤井王位が先手番の場合、ほぼ戦型は角換わりになります。伊藤二冠が先手番なら相掛かりが8割、角換わりが2割になるのではないでしょうか。
高見
2人は戦い方のタイプが異なります。
永瀬
藤井王位はいわゆる「王道」の将棋。中原誠十六世名人や羽生善治九段のような、歴代の名棋士をほうふつとさせます。対する伊藤二冠は、これまであまり見られなかった「ニュータイプ」の棋士です。藤井王位にとって、伊藤二冠は読みが合わない棋士の代表格ではないでしょうか。
高見
読みが合わないとは。
永瀬
伊藤二冠は「ここは攻めてくるだろう」という局面で守り、「守りのターンだろう」と思う局面で攻めてくるタイプだからです。「呼吸が逆」と言えばよいでしょうか。藤井王位は形勢判断を狂わされてしまっているところがあります。想定と全く違う手を指されているにもかかわらず、形勢は互角で難しいまま。これが伊藤二冠のすごさです。
高見泰地七段
高見
対戦相手が読んでおらず、かつ形勢の難しい手を指すことができれば、相手の読み筋を根本から否定できます。
永瀬
ええ。ただ、読みは合わないものの、藤井王位は伊藤二冠と指すことを純粋に「楽しい」と感じているはずです。対局中に自分の読みにない手、つまり新しい情報を受け取ることで、その場で深く考えることができますし、対局後の研究材料も増えます。それを受け止めて、相手の良さを吸収しようとするのが藤井王位です。
高見
藤井王位は、2日制のタイトル戦では1度も敗れていません。
永瀬
伊藤二冠が保持されている叡王と王座は、どちらも1日制でチェスクロック方式の棋戦。時間が切迫し一分将棋になりやすい条件下で、伊藤二冠の鋭い逆転術が発揮された印象です。一方で、王位戦のようなストップウオッチ方式だと、1分未満であれば時間は切り捨てられます。同じ持ち時間であっても、チェスクロック方式と比べると、ストップウオッチ方式は持ち時間が長い感覚があります。藤井王位は残り10分から桁違いに強いです。
高見
時間の使い方も注目ですね。
永瀬
第1局はお互いに持ち時間を使い切る熱戦になり、第2局以降は使い切らずに終局する、というのが私の予想です。もし両者が一分将棋になるような展開になれば、大激戦のシリーズになります。伊藤二冠は前半の4戦で2勝はしたいはず。先手で取りこぼさず勝ちきることができれば、面白くなります。

【担当記者展望】

 六冠対二冠という複数タイトル保持者による頂上決戦は、最先端の研究が激突し、一進一退の攻防が繰り広げられることになる。
 人工知能(AI)研究が進み、一見すると定跡化された範囲が広がったように見えるが、盤上はまだわからないことだらけである。だからこそ、自分自身の将棋観を羅針盤にして棋士は対局に臨み、一手一手を指し進めることになる。
 先が見えず底が深い盤上において、藤井聡太王位の読みはどこまでも潜り込んでいく。伊藤匠二冠と初めてタイトル戦で戦った第36期竜王戦七番勝負(2023年)の第4局。この対局を制した藤井が防衛を果たすのだが、勝負手を繰り出す伊藤に対し藤井は長手数の詰みを読み切っていた。詰みから逆算されるレーザービームのような「直線」の読みは他の追随を許さない。
 一方、伊藤の魅力は局面の可能性を広範囲に巡らせ、その瞬間の最適解を選び取る自在さにある。普通の棋士なら思考の枠から外してしまう手も検討していく。藤井が「曲線」と形容するその指し回しは伊藤ならではのものだ。藤井の八冠を崩した第9期叡王戦五番勝負(24年)第5局では、劣勢であっても崩れることなく驚異的な粘りで逆転につなげた。
 23歳、伸び盛りの両者にとって、対戦成績(藤井15勝、伊藤6勝、1持将棋)は気にするものではないはずだ。直線が曲線を貫くのか、曲線が直線をかわすのか。両対局者がこの夏、盤上にどのような軌跡を描くのかを楽しみにしたい。(新聞三社連合・森本孝高)