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加藤桃子女流王座が五番勝負を振り返る(part6)
座談会 加藤桃子女流王座 深浦康市九段 瀬川晶司四段
Part6 リコー杯女流王座戦第5局 「終わってしまう悲しさがあった。」
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第4局の逆転負けから第5局まで約1週間しか時間がありませんでした。気持ちの切り替えはできましたか?
加藤
普段はあまり引きずるタイプではないですし、奨励会でも似たようなことをやっていると思います。でも覚えている限りでは第4局ほどのことはなかったです。
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過去最高というか最悪だったのですね?
加藤
はい(苦笑)。今回は苦しかったです。
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第5局の直前は何を考えていましたか?
加藤
第5局は先後が決まっていなかったのでそこが気になっていました。
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先後はどちらがよかったですか?
加藤
そんなに気にしてはいなかったのですができれば先手が欲しかったです。
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振り駒の結果先手番になりました。
加藤
第2局で負けたリベンジがしたかったので先手番でよかったと思いました。でも第4局までずっと後手番が勝っていたのでそこは少し気にしていました。
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第2局に引き続き清水さんの横歩とり3三角戦法の△8四飛型になりました。先手が両方の端歩を受けました。これは研究だったのですか?
加藤
はい。この形になったら受けようと決めていました。第2図で▲5六飛か▲6六飛かで迷いました。最近は▲6六飛が多かったのですが▲5六飛は廃れてしまったのですか?
深浦
▲5六飛だと△6二銀▲7五歩の後で後手から△4五角を絡めて1筋攻めてくる手が残ります。▲6六飛の方が無難だということだと思います。
【第1図以下の指し手】
▲6六飛△7二金▲7五歩△2四飛▲2七歩△2三銀▲8六飛△8二銀▲4八銀△8三銀▲7七桂△3四銀(第2図)
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ここで▲7四歩と仕掛けました。狙っていた一手だったのですか?
加藤
実はこの局面まで全く同じ将棋を指したことがありました。この局面になったら▲7四歩といくしかないと思っていました。
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そうでしたか。▲7四歩に対しては本譜の△4五銀以外にどういう選択肢がありましたか?
深浦
△8四歩はどうですか?
加藤
▲4六角△2一飛▲7三歩成△同桂▲7四歩△同銀▲8四飛でどうかと思っていました。(変化図1)
瀬川
この局面は相当うるさいよね。△8三金には▲同飛成~▲7三角成だし。
加藤
受けが難しそうですよね。
深浦
うん、そうですね。▲7四歩ついた局面は相当うるさいのですね。
【第2図以下の指し手】
▲7四歩△4五銀▲4六歩△8五歩▲7六飛(第3図)
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控え室ではここで△5四角を本線に考えていました。▲6五角の合わせには△7四銀がぴったりで▲5四角には△同銀と手順にあたっている銀を引くことができます。
加藤
そうですね。△5四角と打ってくると思っていました。△5四角には▲6六飛を予定していました。△3四銀には▲5六歩ですかね?
深浦
そこで△2六歩といけるかどうかだと思いますが簡単ではないですね。妥協するなら△4四歩ですが、▲5五歩に△4三角となればこれは先手もやれると思います。
瀬川
難しいですね。でも後手としては本譜よりこちらを選ぶべきだったと思います。
深浦
ところで昼休はどのあたりだったのですか?
加藤
▲7六飛(第3図)の局面です。
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昼はたくさんたべられましたか?
加藤
うな重の竹を注文しました。
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第4局は梅だったからグレードアップしましたね?
加藤
はい。松はどれくらいなんでしょうね?
一同
(笑)
瀬川
量が多いんだっけ?
深浦
味は変わらないんじゃなかったっけ?
瀬川
そうか。じゃあ今度お腹すいた時に試してみてください(笑)
加藤
はい。
【第3図以下の指し手】
△2六歩▲同歩△5四銀▲7三歩成△同桂▲7四歩△同銀▲同飛△8三角▲4七角△7四角▲同角△8六歩(第4図)
加藤
ここで△8六歩と手を渡されてどうしていいのかわかりませんでした。この局面ではこの手が一番困りました。▲同歩は利かされで将来△8七歩の筋が残ってしまいます。どうするんだろう?
瀬川
うーん。でも本譜の▲6四銀はなかなかの一手だと思いました。次に▲3五角の狙いがあります。
深浦
▲6四銀△2一飛の時に藤井九段がいっていた▲5六歩とつけばおもしろかったのではないでしょうか?銀を得してますし優勢なのは間違いないと思うのですが決めるとなると難しいですね。
加藤
本譜は▲3六角と打ったのですがこの手が大悪手でした。
【第4図以下の指し手】
▲6四銀△2一飛▲3六角(第5図)
加藤
ここで△2四飛と指されていたら困っていました。次に△4五銀~△6四飛と要の△6四銀をとられる筋をうっかりしていました。
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△2四飛は大盤解説会で豊川七段も指摘していました。
加藤
▲3六角を打ってから△2四飛に気がついてしまって。清水さんが長考されている間「△2四飛と指さないでくれ。」っと思っていました。
瀬川
普通はそういう時は指されちゃうんだけどね。
加藤
(笑)
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そこは日頃の行いということで。
瀬川
そうか俺は日頃の行いが悪いから指されちゃうのか(笑)
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本譜はここで△3四飛でした。
深浦
この五番勝負のシリーズはこれまで全局通して清水さん、加藤さん共にはっきり悪い手というのはなかったと思うのですがこの△3四飛は唯一の疑問手だったと思います。飛車を手放してしまうと先手玉に迫るはやい手がなくなってしまいます。
瀬川
ここからは加藤さんがはっきりよくなりました。
【第5図以下の指し手】
△3四飛▲5六角△4四飛▲7三銀成△同金▲8五桂△8四金▲7三桂成△3五歩▲1八角△4六飛▲4二歩△2六飛▲8六歩△3六歩▲2二歩△7一飛▲7二歩△8一飛▲3六歩△4四歩(第6図)
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第6図までの手順中▲8六歩、▲3六歩とじっと歩をとった手が落ち着いた好手と控え室で評判でした。
深浦
ここから(第6図)から手が伸びたよね。
加藤
ありがとうございます。
【第6図以下の指し手】
▲3七銀△2四飛▲3五歩△3六歩▲同銀△5五銀打▲3四角△4三銀▲2一歩成△3四銀▲同歩△4五桂▲3五桂△5四歩▲4五銀△同歩▲6五桂(第7図)
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4八にいた先手の銀が3六まで進出し、攻めに厚みが増しました。▲6五桂で挟撃体制となりました。この後も手は続きますが、確実に後手玉を追いつめた加藤さんの勝ちになりました。どのあたりがポイントでしたか?
深浦
加藤さんが▲3六角と打った局面(第5図)がポイントだったと思います。ここで△2四飛なら難しかったと思います。ただ、△2四飛はこの手の直前に△2一飛と引いたばかりでしたので盲点になっていたのかも知れません。
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清水さんが投了した瞬間は何を感じましたか?
加藤
嬉しかったですし、ほっとしました。ただ、五番勝負が終わってしまうという悲しさがありました。第5局の前日から明日で五番勝負が終わっちゃうんだって思ってました。五番勝負が本当に楽しくて、勉強してる間も楽しいですし将棋やってるのも楽しかったです。
深浦
僕もありました。羽生さんとの王位戦の時に感じました。終わっちゃうのが寂しいなって思いました。
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そうでしたか。終わってしまう寂しさがあるのですね。
以上で第5局の振り返りを終わりたいと思います。 次回はいよいよ最終回「五番勝負を振り返って」になります。(part7に続く)
※2011年12月末日に収録。段位、肩書きは当時のもの。
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