加藤桃子女流王座が五番勝負を振り返る(part4)
座談会 加藤桃子女流王座 深浦康市九段 瀬川晶司四段

Part4 リコー杯女流王座戦第3局 「やりたいことがある。」

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ザ・リッツ・カールトン大阪第3局は大阪のザ・リッツカールトンで行いましたが大阪には今までいったことがありましたか?
加藤
大阪は小さい頃にキリンビバレッジ学生将棋選手権にでた時に行きました。その時に関西将棋会館にも行きました。
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大阪では一般のお客さんにも参加頂き、盛大に前夜祭を行いました。そこでスピーチもして頂きました。スピーチも段々慣れてきた印象を持ちましたがいかがでしたか?
加藤
そうですね。第1局の時よりもうまくできたと思います。自分の気持ちをうまく言葉で伝えられたと思います。
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第3局はゴキゲン中飛車になりましたが五番勝負が始まる前から決めていたのですか?
加藤
はい、決めていました。五番勝負の間でどこかで一局はやりたいなと思っていました。
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普段の奨励会では居飛車が中心で振り飛車はあまり指さない感じなのですか?
加藤
居飛車が中心なのですが時々、中飛車を指していました。
深浦
今思えば、前夜祭で加藤さんがいっていた「秘策がある」というのはゴキゲン中飛車のことだったのですか?
加藤
そうですね。ゴキゲン中飛車のことですね。「秘策がある」というのは実は関西のとある先生が最初におっしゃっていて私は「やりたいことがある」っていったんですよ。それがいつの間にか「秘策」にかわってしまって。(笑)
深浦
なるほどねー(笑)。
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そうそう、第3局の前夜祭ではやりたいことがあるっていたんですよね。
加藤
はい。
深浦
それは全然違うね(笑)「秘策」ってなんか強烈なイメージがある。
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加藤さんに後で聞いたんですけど、リコー杯の第2局の時に清水さんに何気なく「相手がゴキゲン中飛車の時は何やってるの?」って聞かれてその話題でしばらく話をしたようです。加藤さんはその時に第3局でゴキゲン中飛車やろうと思って決めていたのでドキドキしていたらしいです。清水さんからしてみればまさか相掛かりや横歩とりを指す加藤さんがゴキゲン中飛車を指すとは思わなかったのでしょう。それで清水さんとそういう話をしたからゴキゲン中飛車を選んだと思われるのが気が引けたので前夜祭の時に「五番勝負が始まる前からやりたい戦法があるのでそれを指したい。」という発言になったみたいです。あの発言は清水さんに向けて宣言しておきたかったみたいです。
加藤
はい、そうなんです。
深浦・瀬川
なるほどねー。
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第1図は44手目△14歩までそれでは第3局を振り返ってみましょう。
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加藤さんのゴキゲン中飛車に対して清水さんは超速▲4六銀型を選択しました。加藤さんの△4四銀に対して先手の銀冠、後手の穴熊と持久戦になりました。
加藤
今回、清水先生のゴキゲン中飛車対策が予想とはずれてしまいました。清水先生は▲7八金型を多く指されていたのでそちらを中心に研究していました。
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この局面(第1図)では▲8六角もあるのではないかと控え室ではいわれていました。
加藤
それには△同角▲同銀△3三桂と指す予定でした。
瀬川
その展開は先手があまり幸せにならない形らしいですよ。
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らしいって何ですか?(笑)
瀬川
>第2図は48手目▲33桂までいや(笑)囲いが薄いし。▲2八飛車がいなくなると△5八角とかで▲4六銀が狙われてしまいますからね。先手が気を使う展開になってしまいます。
 
【第1図以下の指し手】
▲5九角△3一飛▲2六角△3三桂(第2図)
加藤
△3三桂指すのはやかったですよね?
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2分で指しています。
加藤
もう少し考えるべきでした。でもまさかここで仕掛けてくるとは思っていなくて。
 
【第2図以下の指し手】
▲2四歩△同歩▲4四角△同歩▲2四飛△5六歩▲同歩△6四角▲2二飛成△1三角 (第3図) 。
深浦
第3図は58手目△13角までゴキゲン中飛車は永瀬四段に教わっているのですか?
加藤
はい、そうです。
深浦
実はこの時永瀬くんに別件でメールしてて「これ永瀬くんが教えたの?」って聞いたら「はい。でも▲2二飛成のところは振り飛車失敗ですね。」っていう返事が返ってきて秘策は失敗したんだなって思ってました。でもここからの攻防は見ごたえがありました。
 
【第3図以下の指し手】
△1三角▲2三竜△5七歩▲2二銀△5八歩成▲1三銀不成△同香▲6五歩△7三角▲4二角△6一飛▲3三角成△6四歩。
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第4図は70手目△64歩までこの局面の形勢はいかがでしょうか?控え室では振り飛車もいけるのではという評判でしたが。
加藤
はい、そうですね。
深浦
後手に楽しみが多い局面だと思います。△5八との存在と飛車が使えてきそうな展開になりましたので。
 
【第4図以下の指し手】
▲3四馬△6五歩▲6一馬△同金▲6二歩△7一金寄▲2一竜△5一歩▲同竜
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この局面(第5図)は手ごたえがありましたか?
加藤
第5図は58手目△34歩までそうですね。自玉が固いので少しいけるかなと思ってました。ただ、ここで間違えてしまいました。△6六歩▲同金△6九銀と打ったのですが▲6七金上を見落としていました。ここでは△6六銀と上から手厚く打てばよかったです。
 
【第5図以下の指し手】
△6六歩▲同金△6九銀▲6七金上△4八角▲7三竜△同銀▲5五角△6三飛
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この△6三飛は控え室でも粘りのある一手と言われていました。
深浦
第6図は90手目△63飛まで僕も印象に残っています。普段は受け将棋なのですか?
加藤
いえ攻め将棋です。
深浦
△6三飛車のような手って打ったことありますか?
加藤
あまりないのですが、△6三飛車はいい手っぽいなと思い打ちました。
深浦
永瀬四段はよく打つけどね。瀬川さん、どうですか自陣飛車は?
瀬川
いやいや。時間ないとわからないね。ここで▲5五角打つのは?
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それは本譜ですね。
瀬川
そっか、同じか。(苦笑)
 
【第6図以下の指し手】
▲5五角打△6五金▲6一歩成△同金▲6四歩△同金▲2一竜△5五金▲同銀△5一歩
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第7図は100手目△51歩まで▲5五角打△6五金に▲6一歩成が清水さんが秒に追われて指してしまって手でここでは▲7三角成△同飛▲4四角としてれば先手が優勢だったとのことでした。
加藤
はい。そう指された方が嫌でした。本譜はよくなったと思っていたのですが△5一歩(第7図)では△6六飛▲同銀と交換してから△5一歩とするべきでした。
深浦
そうですね。先に飛車をきっておけば角2枚を手に持ち攻めがきれることはないので優勢だったと思います。
 
【第7図以下の指し手】
▲6四歩△6二飛▲8四歩△6五歩▲3九角△8四歩▲5四桂△6四飛▲同銀△同銀▲8二歩△7八銀打
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第8図は112手目△78銀まで本譜は先手が盛り返したのではないかとの評判でしたが、この△7八銀が強烈な一手でした。▲同銀は△同銀成▲同玉△6九角▲7七玉△7八銀であっという間に寄ってしまいます。ずっと前から狙っていたのですか?
加藤
はい。△6四飛と指した時からの読み筋です。
深浦
控え室でも誰も読んでなかったのですよね?
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はい。一瞬、何が起こったのかわからないという雰囲気でした。
瀬川
そうか、こんなに厳しいのか。▲8二歩も入らないんだね。▲8二歩の代わりに▲2八角だとどうでした?
加藤
それでも△7八銀打とする予定でした。▲6四角と銀をとられても△7三桂で桂馬が寄せに参加できるので。
瀬川
なるほど。
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本譜はこの後、▲8一歩成△同玉▲8二歩△同玉▲7七金△6八と▲8四角△8七銀成▲同玉△7八角(第9図)と進み加藤さんが勝勢になりました。
瀬川
変化図1は▲28角まで途中▲8四角で▲2八角とこちらに出るのはどうでしたか?(変化図1)
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どう指すのでしょうか?
深浦
△6四銀は受けるのが難しいので△8七銀成▲同玉に△6七とでしょうか?▲6四角△7三角▲同角成△同金と進みます。しかしそこで▲6二飛車がありますね。(変化図2)
加藤
あぅ。
深浦
すごい声だすね(笑)
加藤
変化図2は▲62飛まで▲6二飛車は・・・・・・。(声がかすれる)
瀬川
これは後手負けですね。飛車をとれば▲7一角から詰んでしまいます。 (この後▲2八角の局面で検討が続くが後手が勝つ変化がでてこない。)
深浦
▲2八角と指されたら後手がまずそうですね。
瀬川
うん、後手が負けてるかもしれないね。
加藤
そうですね。
 
【第8図以下の指し手】
▲8一歩成△同玉▲8二歩△同玉▲7七金△6八と▲8四角△8七銀成▲同玉△7八角(第9図)
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変化図9は122手目△78角まで本譜はこの△7八角が決め手で以下は後手の勝ちになりました。
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これで2勝1敗となり女流王座まであと1勝となりました。それでは次に第4局をみていきたいと思います。(part5)に続く。

※2011年12月末日に収録。段位、肩書きは当時のもの。

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