加藤桃子女流王座が五番勝負を振り返る
座談会 加藤桃子女流王座 深浦康市九段 瀬川晶司四段

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第1期リコー杯女流王座戦五番勝負は加藤桃子さんが3勝2敗で清水市代女流六段を破り、初代女流王座を獲得しました。今回は加藤桃子女流王座、深浦康市九段、瀬川晶司四段に集まって頂き、五番勝負を振り返ってもらいたいと思います。司会は株式会社リコーの馬上勇人(もうえはやと)です。
今回、以下の7部構成で話を進めていきたいと思います。
司会進行・馬上勇人氏

馬上勇人氏

瀬川晶司四段

瀬川晶司四段

深浦康市九段

深浦康市九段

加藤桃子女流王座

加藤桃子女流王座

(1)五番勝負を迎えるにあたって
(2)女流王座戦第1局
(3)女流王座戦第2局
(4)女流王座戦第3局
(5)女流王座戦第4局
(6)女流王座戦第5局
(7)五番勝負を振り返って

Part1 五番勝負を迎えるにあたって 「今まで生きていたなかで一番将棋をやっていた。」

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まずは加藤桃子さんにお聞きしたいのですが五番勝負がはじまるにあたり相手の清水さんにはどういう印象を持っていましたか?
加藤
居飛車党で力戦の将棋を好んでいる印象がありました。居飛車の経験が豊富で経験値の違いが自分とはあると感じました。
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対清水戦に向けてどういう準備をしてきましたか?
加藤
清水さんの将棋や相居飛車の棋譜をならべました。調べてみると自分が苦手だなという戦型や指したことがない戦型もあり棋士の先生方に教わったりして勉強しました。
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五番勝負第1局対局開始棋譜はどれ位ならべてきたのですか?
加藤
今まで生きてきたなかで一番ならべました。
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そうしてきたなかで改めて清水さんの将棋、清水将棋をどう分析しましたか?
加藤
序中盤でリードを奪っている感覚がありました。序盤で間違えて作戦負けになってしまいそのまま押し切られるのが嫌だったので自分も序盤を勉強した上でそれにプラスして自分なりの工夫を考えていきたいと思い勉強してきました。
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清水さんは相掛かりや右四間飛車がタイトル戦でも何度も指しており得意戦法という印象がありますがそういった戦法を指す人は奨励会ではあまりいないのですか?
加藤
出場者決定戦終局後の加藤桃子女流王座奨励会の級位者は居飛車対振り飛車の対抗形になることが多いです。相居飛車の将棋はあまり指してないです。
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奨励会でも最近はあまり相居飛車を指す人がいないのですか?
加藤
級位者はそういう傾向があります。有段者になると相居飛車を指す人が増えてきます。
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今回、清水さんが相掛かりが得意ということで、正直それを受けないという選択肢もあったと思います。具体的には女流王座戦ベスト16の対千葉涼子女流四段の時のように一手損角換わりにすることもできた。一手損角換わりであれば現在、女流将棋界ではほとんど指されていないと思うので経験値でも清水さんを上回れた可能性があったという見方もできると思いましたがいかがですか?
加藤
今回の五番勝負は目先の勝負だけではなく将来を見据えて自分にとってためになるようにしたかった。今回、相掛かりを勉強したいという思いと清水先生の相掛かりを受けて立ちたいなという思いが強かったです。
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ではここからは深浦さん、瀬川さんにお聞きしたいのですが今回の五番勝負はどんな勝負になると予想していましたか?
深浦
昼休明け再開後、考える加藤桃子女流王座そうですね。清水さんといえば強烈な攻め将棋で僕も公式戦で対戦したことがありますけど、そこに加藤さんがどう挑むかということで注目していました。加藤さんの将棋は僕はよく知らないこともありどういう展開になるのか興味があった。1局目をみて加藤さんの将棋がすごいしっかりしているなと感心してみていました。清水さんの終盤は男性プロにもひけをとらない位の終盤力なのでその清水さんに競り勝ったのが非常に大きいと思いました。
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そうしますと五番勝負が始まる前は第1局目がひとつの大きな勝負という見方をされていたのですか?
深浦
そうですね。第1局目はホテルニューオータニで行われ、男性棋士も女流棋士も大勢来ている非常に注目された中での対局でした。そうした中で終盤がとても長いおもしろい戦いでした。これが第1期のリコー杯を象徴していたと思います。
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瀬川さんはいかがでしょうかね?
瀬川
第1局終局後の感想戦の様子加藤さんとは最近よく指していたのですが、正直五番勝負の出場が決まった頃は清水さんの方が厚い(有利)かなと思っていました。清水さんとはもちろん公式戦でも指したことがあり力があるのはわかっていましたし、初めてのタイトル戦で普段の対局とは違う雰囲気で緊張もするだろうし加藤さんが少し厳しいかなと思っていました。 でも、五番勝負の出場が決まった後に加藤さんと研究会で指したのですが、以前よりとても強くなっているなと感じたのです。特に五番勝負出場が決まってからはよく練習将棋でも負かされるようになったなという記憶がありモチベーションをあげているなと感じました。そこで考えをかえて緊張しすぎて雰囲気にのまれなければ相当いい勝負なのではないかと思っていました。将棋はなかなか強くならないのですが、加藤さんは五番勝負出場が決まってから力があがっているなと感じました。 ですので、今回の女流王座戦は一方的なスコアにはならないと思っていました。
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加藤さんは自分ではそういう(強くなっている)実感はありましたか?
加藤
五番勝負に準備している期間は今まで生きていたなかで一番将棋をやっているなと思っていました。2011年は今までで一番将棋をやっているなと感じていて特に清水先生との五番勝負が決まった後は、何もかも忘れて将棋だけに取り組んでいました。そして奨励会の方でも今までやってきたことが結果につながったので少し自信がついてきました。
深浦
僕も少し質問させてください。タイトル戦の前夜祭でスピーチをする機会があったと思いますが企業や新聞社の偉い方々がいるなかでまた清水さんはとても人の心を掴むのがうまい。そのような中で話をするというのはどうでしたか?
加藤
とても緊張していました。清水先生はスピーチがほんとにうまくて気遣いもすごい方でした。私は清水さんの後にスピーチでしたのでさらに緊張してしまいました。でも、慣れない場ではありましたけど自分なりには挨拶することができたと思います。
深浦
そういう慣れない場で話をした後に次の日は対局に集中するというその辺りの切り替えもすごいと思いました。
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加藤さんのお母さんに聞いたんですけど対局のことよりスピーチのことで頭がいっぱいだっていっていました。それを聞いて悪いことをしたなと思いました。
加藤
いえいえ(笑)。
瀬川
でもスピーチをしないわけにはいかないからね。
深浦
僕もタイトル戦にでた初めての頃は緊張してね。第1局では羽生さん相手に初手▲9六歩って突いちゃって(笑)。
一同
(笑)
瀬川
いや、それは緊張とは関係ないでしょ(笑)。
深浦
でも初手に手が震えたりしなかったですか?
加藤
第1局対局開始、駒を並べる加藤女流王座駒を並べる時に升目にうまくいれられませんでした。どの将棋もそうなんですけど手が震えてしまって綺麗に並べることができませんでした。
深浦
広瀬さんも初めてのタイトル戦の時はそうでした。駒がもてなくて谷川先生が一回、とめたんですよね。落ち着かせようということで。
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そうだったんですか?あの広瀬さんがそんなに緊張されてたんですか?
深浦
まあ、誰しもそうですよね。
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では次に第1局について話を伺いたいと思います。(Part2に続く)

※2011年12月末日に収録。段位、肩書きは当時のもの。

>> Part2 リコー杯女流王座戦第1局