# --- Kifu for Windows (HTTP) V6.52 棋譜ファイル --- 対局ID:1440 開始日時:2012/09/05 09:00 終了日時:2012/09/05 22:22 表題:王座戦 棋戦:第60期王座戦五番勝負 第2局 持ち時間:各5時間 消費時間:144▲299△297 場所:神奈川・横浜ロイヤルパークホテル 図:投了 手合割:平手   先手:渡辺明 後手:羽生善治 手数----指手-- *渡辺明王座に羽生善治二冠が挑戦する第60期王座戦五番勝負。第1局は渡辺が制して、防衛に向けて好スタートを切った。第2局は9月5日9時に横浜市「横浜ロイヤルパークホテル」にて行われる。 *立会人は青野照市九段。記録係は杉本和陽三段(20歳。米長邦雄永世棋聖門下)。 *渡辺は8時52分ごろ、羽生は54分ごろに対局室入り。両者大橋流で駒を並べる。 *本局はニコニコ生放送にてライブ中継が行われる。解説は飯島栄治七段、聞き手は安食総子女流初段。 *【ニコニコ生放送】 *http://live.nicovideo.jp/watch/lv105247301 *(棋譜・コメント入力=銀杏) *※は感想戦の内容。 1 7六歩(77) *「定刻になりましたので、渡辺王座の先手でお願いします」と立会人の青野照市九段が宣言して対局が開始された。渡辺の初手は▲7六歩。 2 3四歩(33) *本局の観戦記は矢内理絵子女流四段が担当する。9月26日からの掲載予定。王座戦の観戦記は本局で2回目とのこと。 *新聞解説は広瀬章人七段。広瀬七段は昨日「相居飛車は間違いないですね。横歩取りに進みそう。羽生二冠が2手目△8四歩なら王座は矢倉にしそうです」と話していた。 *羽生が2手目を指したところで、関係者が退席する。渡辺はゆっくりとお茶を飲み、羽生は信玄袋から扇子などの対局道具を取り出す。 3 2六歩(27) *渡辺明(わたなべ・あきら)王座は1984年4月23日生まれの28歳。東京都葛飾区出身。所司和晴七段門下。棋士番号は235。 *2000年4月1日、15歳で四段。03年、第51期王座戦でタイトル戦初登場。当時の羽生善治王座に2勝3敗で敗れた。04年、第17期竜王戦で初タイトルの竜王を獲得。以降、竜王8連覇中。11年、第60期王座戦で羽生に3連勝して王座奪取。自身初の二冠王を達成するとともに、羽生の王座戦20連覇を阻んだ。 *タイトル獲得は竜王8期、王座1期。棋戦優勝は5回。 4 4二飛(82) *「あっ」「へぇ、そうきますか」「ほぉ」など控室で声が上がった。羽生はゆったりと扇子をあおぎ、渡辺は体を前傾させた。 *7月から8月にかけて行われた第53期王位戦七番勝負で藤井猛九段が採用した作戦だ。2年前の第58期第1局でも挑戦者の藤井九段が当時の羽生王座に採用した。 *http://live.shogi.or.jp/ouza/kifu/ouza20100909.html *羽生善治(はぶ・よしはる)二冠は1970年9月27日生まれの41歳。埼玉県所沢市出身。二上達也九段門下。棋士番号は175。 *85年12月、15歳で四段昇段。89年に初タイトルの竜王を獲得。92年、第40期王座戦で王座獲得。自身初の二冠王に。以降、王座19連覇。これは同一タイトル連覇の歴代最長記録。96年、史上初の七冠王。同年、王座連続5期獲得により、名誉王座の資格を得た。 *今期五番勝負登場により、同一タイトル戦連続登場数を21に伸ばし歴代1位タイに(大山康晴十五世名人が名人戦と王将戦で記録)。 *タイトル獲得は王座19をはじめ、歴代最多の計82期。棋戦優勝は40回。 5 6八玉(59) *渡辺と羽生は9年前に横浜ロイヤルパークホテルで対局している。第51期王座戦第5局、終盤で勝勢になった羽生の手が震えた対局といえば分かりやすいだろうか。 *渡辺は当時五段。第3局(三段時代の広瀬七段が記録係を務めた)までで2勝1敗とリードしたが、第4局と第5局を敗れてタイトル獲得はならなかった。それから9年。渡辺が昨年羽生から王座を奪取したため、立場を変えての対局となる。 *第51期王座戦五番勝負の模様は、日本経済新聞「将棋王国」で見ることができる。 *http://hobby.nikkei.co.jp/shogi/report/2003.cfm *当時の将棋世界誌で観戦記を書いたのが本局の立会人を務める青野九段。「こんな感じで手を震わせたんだ。その対局から他の人との対局でも手を震わせるようになったね」と言いながら、継ぎ盤の駒を持った。 6 8八角成(22) *過去の対戦成績は渡辺20勝、羽生16勝。 *王座戦では渡辺6勝、羽生3勝。 *第51期五番勝負は羽生3−2。 *第59期五番勝負は渡辺3−0。 *進行中の今期五番勝負は渡辺1−0。 7 同 銀(79) *渡辺は王座戦での対羽生戦4連勝中。羽生の王座19連覇が途方もない実績であれば、その相手に連勝していることもすごい。 *王座戦五番勝負の特徴として、現在の1日制タイトル戦で唯一夕食休憩があることが挙げられる。9時開始なので、普段の対局と違って残り1時間前後で夕食休憩に入ることがほとんどだ。局面も残り時間も険しい。 *五番勝負に21年連続登場している羽生は、このような特殊な状況での経験値が非常に高い。しかし、前期の渡辺は、終盤のねじり合いで羽生を制した。今期第1局も羽生のわずかなミスをとがめている勝っている。 8 6二玉(51) *日本経済新聞が特別協力している第2期リコー杯女流王座戦は、9月4日に挑戦者決定戦が行われ、本田小百合女流二段が加藤桃子女流王座への挑戦権を獲得した。 *1992年に女流棋士としてデビューしてから20年でのタイトル挑戦だ。 *92年は羽生が第40期王座戦で王座を獲得した年でもある。 9 7八玉(68) *王座戦は今年で60期を数える。1953年に創設されてから第30期までは優勝棋戦だった。第31期からタイトル戦に格上げされた。王座戦はタイトル戦になって30期目でもあるわけだ。 *タイトル戦になってから王座を獲得した棋士は順に、中原誠十六世名人、塚田泰明九段、谷川浩司九段、福崎文吾九段、羽生、渡辺の6人。羽生が王座19連覇したため、王座を獲得した棋士は少ない。 *なお、立会人の青野九段は1953年1月31日生まれ。 10 2二銀(31) *本局が行われている横浜ロイヤルパークホテルは、みなとみらい21のシンボル的存在として知られる横浜ランドマークタワー内上層階部にある。横浜ランドマークタワーは70階建て、高さ296mの超高層ビルだ。 *対局は65階にある茶室で行われており、260mほどの高さにある。100mクラスの高層ビルを見下ろす格好。同じ階にある控室からは東京都庁や東京スカイツリーが見える。 *日本で最も高所に位置するホテルで、1993年に開業。横浜市内で有数の高級ホテルとして知られる。 *http://www.yrph.com/ 11 4八銀(39) *横浜は横浜ロイヤルパークホテルのある横浜みなとみらい21をはじめ、中華街、赤レンガ倉庫、横浜マリンタワー、八景島などさまざまな観光名所がある。 *ホテルすぐ近くの横浜港は1859年に国際貿易港として開港。長年、京浜工業地帯の工業港、東京に近い商業港として発展している。 12 7二玉(62) *現在発売されている『将棋世界』10月号の勝又清和六段による講座「突き抜ける!現代将棋」で角交換四間飛車が取り上げられている。 13 5八金(49) *本局は日本経済新聞本社(東京・大手町)2階「SPACENIO」にて18時から大盤解説会が行われる。本局は現地での大盤解説会は行われない。 *東京・「将棋会館」では森下卓九段、鈴木環那女流二段による解説会が行われる。 *【大盤解説会のお知らせ】 *http://kifulog.shogi.or.jp/ouza/2012/09/post-a632.html 14 3三銀(22) *羽生の本年度の成績は24勝8敗(0.750)。 *勝数ランキングと対局数ランキングで1位、勝率ランキング11位。 *なお、非公式戦の達人戦の分も含めると、月7局ペースで対局している。 *通算成績は1201勝460敗(0.723)。 *先月に史上5人目の通算1200勝を達成した。 15 7七銀(88) *渡辺の本年度の成績は8勝5敗(0.615)。 *通算成績は410勝192敗(0.681)。 *ここで羽生が席を外した。この間に、記者は手元のデータベースを調べる。羽生の4手目△4二飛は2回目。ただし、4手目に△3三角や△9四歩から角交換四間飛車にした将棋も何局か経験している。それらの合計は4勝1敗。 *9時40分過ぎ、10分ほど席を外していた羽生が対局室に戻る。 16 4四歩(43) *「この局面はなかったのではないでしょうか」と広瀬七段。調べてみると、同一局面の将棋がない。「指し手の組み合わせが難しいのです」と広瀬七段が続ける。早い△4四歩が羽生の工夫のようだ。どのような構想を描いているのか。 *△4四歩と突かなければ、△2二飛〜△4四銀〜△3三桂といった含みがある。角交換振り飛車では△4四歩を突かないことが多い理由だ。羽生はそれを放棄した。 *なお、似た形では7月に行われたB級2組順位戦▲島朗九段−△藤井猛九段戦で△4四歩が指されている。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>この手はちょっと意外でした。後手は2筋に飛車を回ってから反撃する手段があるのですが、飛車を回ると▲4三角と打ち込む隙が出来るからです。 17 5六歩(57) *「△4四歩は△4五歩を狙っています。▲5六歩は△4四歩に対応したもので、▲5七銀と上がって受けられるようにしています。ただ、▲2六歩型なので、△4五歩▲5七銀に△4四銀としていく可能性もありますね。後手は△4四歩と突いたので、伸ばさないと苦労すると思います」と広瀬七段。 *△4五歩に▲5七銀を用意した▲5六歩。しかし、「角交換には5筋を突くな」という格言もある。損得はどうなのだろう。 18 8二玉(72) *「ちょっと意表ですね。まだ羽生さんの意図がちょっと分かりません」と広瀬七段。 *ここで渡辺が手を止めて考えている。その間に10時を回った。矢内女流四段は対局室に入って取材を続けている。 *渡辺は30分近く考えている。先手からは▲2五歩や▲5七銀、▲8八玉などが考えられるところ。後手からも△4五歩や△7二銀、△9二香など手が広い。自分が損しないように、よい組み合わせの手順で進められるかどうかがポイントになりそうだ。 19 8八玉(78) *35分の長考で羽生と歩調を合わせた。 20 7二銀(71) *羽生は片美濃に。時刻は10時30分になろうとしている。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>穴熊を目指して△9二香〜△9一玉と進めると▲6五角があります。△4四歩と突いていますから、美濃囲いが妥当でしょう。 21 7八金(69) *10時30分になり、担当記者が対局室へ。昼食のメニューを聞く。対局者の昼食は、渡辺が海鮮入り焼きそば。羽生はフレッシュトマトとモッツァレラチーズのスパゲッティーとフレッシュジュース(グレープフルーツ)。ここまでの消費時間は渡辺49分、羽生28分。渡辺は19手目▲8八玉に35分使っている。 22 5二金(41) *今日の横浜は晴れ。最高気温は33度と予報されている。残暑厳しい日が続く。 23 5七銀(48) *「▲2五歩は△2二飛から△2四歩の筋があるので、それを警戒した駒組みです。先手は▲3六歩や▲2五歩、▲6六歩が間に合えば十分に思います」と広瀬七段。 24 7四歩(73) *「後手は当分3三銀を動かさないつもりかもしれません。△7四歩で△6四歩だと▲7五歩と位を取られるのを嫌いました」と広瀬七段。一瞬▲5五角のラインが気になるが、序盤なので△6四歩から△6三金とよくある形に戻せる。 *青野九段が和服からスーツに着替えて控室に戻る。「△4四歩と突いたから、△2二飛と回るつもりではないんでしょうね。普通の四間飛車から△4五歩と突いて、角交換した将棋だと思えば不思議ではないですからね。そういう将棋だと、先手だからといっても、居飛車から手を作っていくのが大変なんですよね」と青野九段。 *羽生の指し方は千日手も視野に入れた戦術であるようだ。最新形に昔からある形を組み合わせている。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>これは奥深い手です。渡辺王座が狙っている先手の玉頭位取りを看破して先に7筋の歩を突きました。一流は違いますね。 25 6六歩(67) 26 6四歩(63) 27 6七金(58) 28 6三金(52) *互いに囲いが平面的から立体的に。 *先手はどこに主張点を作るか。あまり無難に進め過ぎると、手詰まりになる心配も出てくる。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>ここでは争点があまりありませんので、千日手の心配もしなければなりません。 29 5五歩(56) *11時2分、渡辺は中央の位という主張点を作った。▲3六歩〜▲3七桂〜▲5六銀と活用する含みが生じている。 *後手は△7四歩で7筋位取りを阻止できたが、△5四歩は▲3一角があったため、5筋位取りは阻止できなかった。 *ここからは位をめぐっての駆け引きが行われそうだ。 30 9四歩(93) 31 9六歩(97) *端歩を突いてあるだけで玉の逃げ場所が広がる。終盤の寄せ合いで金銀2枚分変わるともいわれる。ただし、双方に端攻めの味が生じる。 32 7三桂(81) *居飛車対振り飛車では、矢倉は少々違和感があるが、このままで戦うのか他の囲いに組み替えるのか。 *「先手が▲5五歩と位を取ったので、千日手はないですね。角交換の四間飛車というと、鷺宮定跡(急戦で▲3八飛と回る形)で△4五歩と突かれたときに角交換から▲2八飛と戻る将棋もあるんですけど、それだとこのように居飛車は堅くできないんです。ここまで組めるなら先手は不満ないでしょうね」と青野九段。 33 2五歩(26) *「次に▲5六銀と上がって、△4五歩に▲6八角から▲3六歩〜▲3七桂と進むと、4五歩が受けにくいですね」と青野九段。 *時刻は11時30分になろうとしている。 34 8四歩(83) *ここで△6五歩は放置されて困る。先手に歩を渡すと、▲3六歩から▲3五歩△同歩▲2四歩△同歩▲3四歩が生じてしまうからだ。 35 3六歩(37) *▲3七桂から▲5六銀と進めば、後手から攻め駒が前に出しにくくなる。それを避けて△4五歩も▲3七桂から▲5六金のように歩を狙える。 36 1四歩(13) *ジッと。あくまで攻撃形を発展させない。低く構えたままだ。 37 1六歩(17) *11時40分前に指された。昼食休憩は12時から13時。動かせる駒やその後の構想が難しい。この局面で昼食休憩に入るかもしれない。羽生は眼鏡を外して盤面を見詰めている。渡辺は腕を組んで泰然としている。 *▲3七桂から▲5六銀が指摘されていたが、渡辺は間合いを詰める。このような将棋では、△4五歩〜△1三角〜△4四銀と端角で2筋を支える指し方も時折見かける。しかし、▲1六歩で後手はプレッシャーがかかった。 *対局室に青野九段が入る。羽生が20分使って昼食休憩に入った。消費時間は渡辺1時間13分、羽生1時間25分。 *「隙を作らない駒組みや間合いの取り方など気を使う将棋です」と広瀬七段。 *13時に対局が再開されたが、羽生は指さない。青野九段、矢内女流四段が盤側で進行を見守っている。 38 8三銀(72) *13時10分、羽生が△8三銀を着手。羽生は眼鏡を外してうつむく。 *ニコニコ生放送では13時から飯島栄治七段による解説が始まっている。聞き手の安食総子女流初段は青野九段門下だ。 *飯島七段は「僕は引き角戦法を得意にしているので、波長が合わないんです」とジョークをまじえて解説している。飯島七段と安食女流初段は▲9八香からの穴熊を指摘している。 *「渡辺王座がどこで▲3七桂と跳ねるかがポイント」と飯島七段。 39 9八香(99) *これは、穴熊だ。 *玉を深く囲うのが現代感覚で、矢倉は対振り飛車にはあまり見かけない形。穴熊へ組み替えられるなら、居飛車対振り飛車で見かける形に合流できそうだ。 *穴熊を阻止しようと△8五桂は、▲6八銀左から▲8六歩で桂を捕獲されてしまう。これはさすがに無理筋だ。 *「やっぱり、そっちですか」と青野九段。青野九段は▲5六銀や▲6八銀左〜▲5六銀〜▲5七銀などを指摘していた。「▲7七桂から▲6五歩と突くようにすれば先手の作戦勝ちになるかと思ったんだけどね」。 40 7二金(61) 41 9九玉(88) *「後手が仕掛けるのは難しいのではないか」と飯島七段。△1三香▲8八銀に△1五歩▲同歩△1二飛は▲4三角と打ち込まれてしまう。この角打ちは△4四歩と突いたから生じたもので、後手は飛車を横に動かしにくい。 *「羽生二冠が常に待つ作戦は珍しいです。相居飛車の後手番に自信がなかったのかもしれません」と飯島七段。 42 9二玉(82) *「なるほど、それで待つんですね。これは方針を決めたと思いますね」と飯島七段。△6二金寄を指摘していたが、羽生は金銀の形をキープした。飯島七段は△8二玉〜△9二玉の一人千日手で手待ちするだろうとみている。 *※感想戦 *「やる手がないですね」と羽生。 43 8八銀(77) *13時50分、穴熊に組み替えられた。 44 8二玉(92) *後手は2手パス。先手が局面を打開できるかどうか。5筋の位を軸に考えたいところ。 *羽生が席を立つ。扇子をあおぐ渡辺は棋譜用紙をのぞき込んだ。渡辺の考慮中に14時を過ぎた。 *青野九段は本局以外にも第51期第4局、第59期第1局で立会人を務め、二人の対局を見守ってきた。 *「最初は挑戦者としてどこまで届くかという感じで見ていました。ところが、渡辺さんが2勝1敗になったときにいままでの人と違うなと思いましたね。 *羽生さんは自分よりも若い世代にタイトルを取られるプレッシャーを感じたのではないか。手が震えたことはその表れでしょう。余裕を持って勝つときはそんなことないですから。 *羽生さんは渡辺さんと他の棋士とでは雰囲気が違いますね。年代を意識しているように思います。タイトルを取られてしまうと、取り返せないのではないかと意識しているかもしれませんが、それが強くなり過ぎるとかえってやられてしまうことがあります。もちろん、渡辺さんの強さでもあるんですけどね」 45 7九金(78) *14時5分、渡辺は穴熊の連結をよくした。ここまでの消費時間は双方1時間50分。 *ニコニコ生放送では飯島七段が自身の引き角戦法の著書を宣伝している。飯島七段は対振り飛車の引き角戦法で升田幸三賞を受賞している。 *ここで加藤桃子女流王座が控室へ。10月20日から第2期女流王座戦の防衛戦を戦う。挑戦者は本田小百合女流二段。 *午後のおやつ情報が入る。渡辺がショートケーキ、アイスコーヒー。羽生がモンブラン、アイスレモンティー。 46 9二玉(82) 47 6八銀(57) *ガチガチの穴熊へ。現代的だ。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>これは攻撃力がないので、▲5六金と上がることになるのでしょうか。ただし金を上がったあとで▲4六歩と突けば、△4七角と打たれてしまいます。 48 8二玉(92) 49 3七桂(29) *対する渡辺は陣形を固めながら攻め駒を前に出している。打開する気満々だ。 *「これは相手に好きなように組ませてどうするのということなんだね。われわれの世代は固めた後が難しいからこうは指さないんだけど、若い世代はうまく手を作るんですよね」と青野九段。 50 9二玉(82) *14時20分、羽生がしきりに扇子をあおぐ。 *「私の世代は『玉の囲いは金銀3枚』、『攻めの理想は飛角銀桂』なんだけど、いまの人は『玉の囲いは金銀4枚』、『攻めは飛角桂でさばこう』という発想なんですよね。手になると、先手が良くなりますよ。なにせ4枚で囲っていますから。でも、打開できなかったらオジサン世代が正しいってことになりますね。ふふふ」と青野九段。 *どちらがいい悪いということではなく、世代間で将棋観が変わってくるところが面白い。そして、いま20代を代表する渡辺と40代を代表する羽生が戦っている。 *控室では▲2四歩△同歩▲1五歩△同歩▲3五歩△同歩▲1五香△同香▲3四歩という攻めが検討されている。歩を手にして飛車のさばきを狙う。部分的には定跡化された手順。それでどれだけポイントを挙げられるか。△9二玉の瞬間に攻めれば、後手から端攻めされる心配がない。 *14時30分ごろ、伊藤真吾四段が控室へ。継ぎ盤に加わる。伊藤四段は第51期第4局で記録係を務めた。 *「もう行くでしょうね。待ってもいい形にならないでしょう。▲7七金なら△4五歩がきそうですよ」と青野九段。 51 4六歩(47) *14時50分過ぎ、32分考えた渡辺は4筋に手を伸ばした。ここで△4七角は▲2七角から▲5七金で角を捕獲できる。 *▲2四歩の仕掛けはやや無理と見たか、より有力な攻め筋を見つけたか。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>△8二玉と寄ったときに、攻めの仕掛けの具体性があるかは分かりません。▲1五歩△同歩▲3五歩△同歩▲2四歩△同銀▲3四角で馬は作れますが、△3六歩▲2五桂△3七歩成でと金が出来ます。このと金攻めが間に合う可能性もあります。 52 8二玉(92) 53 4八飛(28) *後手陣は40手目△7二金から何も変わっていない。玉が3往復したので6手損している。 *飛車を4筋に転じた渡辺は▲4五歩△同歩▲同飛を狙っている。飛車交換になれば玉形差が生きる。飛車交換を避ければ、歩を手持ちにできる。渡辺は少しずつポイントを挙げようとしている。15時になり、対局室に午後のおやつが運ばれた。消費時間は渡辺2時間27分、羽生2時間2分。 *控室では広瀬七段、伊藤四段、加藤女流王座が△1五歩▲同歩△3五歩▲同歩△1五香▲同香△3六歩を調べている。ゆっくりできないと見た打開。他に△3五歩▲同歩△3六角ともたれる指し方もある。 *15時30分前、河口俊彦七段が控室へ。河口七段は五番勝負第4局の観戦記を担当する。5手目コメントで紹介した第51期第5局の観戦記を担当した。 *15時40分ごろ、村山慈明六段、上野裕和五段が控室へ。棋士が増えてきた。 *羽生は40分以上考えている。 *【Twitter解説】 *飯島栄治七段>なるほど。次に▲4五歩△同歩▲同飛を狙っているんですね。渡辺王座はちょっとずつ攻めを前進させようとしているんですね。千日手はありませんね。 *※感想戦 *「全然角打ちの筋がない。困り果てました」と羽生。 54 1二香(11) *15時46分、羽生は48分の長考の末に、香上がりで1手待った。▲4五歩が見えているので、今度は△9二玉と寄りにくかったようだ。 *控室に高見泰地四段。横浜出身の棋士だ。横浜は広いこともあり、出身の棋士は多い。現役では、森内俊之名人、富岡英作八段、高野秀行六段、西尾明六段、戸辺誠六段、瀬川晶司五段、永瀬拓矢五段、高見四段と8人もいる。 *「先手の模様がいいです。△2六角は▲4七飛で角が狭いので打ちにくいです。△1二香と上がったので、▲4五歩に用意があるはずですが、現状はハテナです」と広瀬七段。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>私はいま、ひらめきました。▲4五歩には△2六角でどうでしょうか?▲4四歩△同銀▲4七飛△4六歩▲5七飛△3三銀▲4八歩。これは歩を謝らせて受けさせているので後手が良いですね。この時に△9二玉より△1二香の方が囲いが堅いです。 55 2八飛(48) *▲2八飛が示されると、継ぎ盤を囲む棋士から一様に「えっ」と声が上がった。△9二玉の往復運動が始まったとき、どのように打開するのか。 *▲4五歩は△同歩▲同飛△4四銀で▲4八飛△2六角があったか。しかし、△2六角に▲4三歩△同飛▲5二角の反撃がある。 *羽生は前傾姿勢になって考えている。 *☆天井カメラ不調のため、対局者が着手したら担当記者が対局室に入って着手確認します。夕食休憩中に復旧作業を行います。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>ここで後手の指す手が難しいという意味でしょうか。しかしまた怪しい雰囲気が…。先ほど千日手は無いと断言してしまったのですが。▲4五歩には△2六角が嫌だったんでしょう。 *※感想戦 *▲4五歩は有力だった。羽生は自信がなかったという。△2六角は▲4七飛△4五歩▲同桂。△4五同歩は▲同飛△4四銀▲4八飛△2六角▲4三歩△同飛▲5二角。渡辺は「攻めても、後で端攻めされて大変かなと」という。 56 9二玉(82) *25分の長考で指された。消費時間は渡辺2時間38分、羽生3時間15分。 *※感想戦 *「何かやると▲4八飛で手がない。△9二玉はすごく損だと分かっていた。パスしたいけど、パスがない」と羽生。 57 2四歩(25) *渡辺がついに局面を打開した。検討では、△同歩▲1五歩△同歩▲3五歩が調べられている。 *16時30分過ぎ、瀬川晶司五段が控室へ。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>ここで△同銀は▲6一角がありますから△同歩と取りますね。 58 同 歩(23) *夕食は渡辺が天ぷらうどん、羽生はおにぎりセット(お新香、小鉢、みそ汁付き)、温かいお茶。 *控室に勝又清和六段が訪れた。 59 1五歩(16) 60 同 歩(14) 61 3五歩(36) *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>これは△同歩と取れば▲1五香△同香▲3四歩△同銀▲2四飛と飛車をさばく狙いですね。 62 5二角打 *△同歩では前にも触れた▲1五香△同香▲3四歩の筋がある。△1五同香で△3四角の頑張りも▲5一角が厳しいようだ。 *そこで羽生は先に△5二角と受けた。▲5一角△2二飛なら、先手の香がさばけていない分だけ、△3五同歩よりも受けやすい。▲3四歩△同角▲2六飛が示されている。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>これは見たことがないですね。私にはこの角は打てません。しかし角を手放してしまったので、少し後手が苦しい形勢だと思います。△9二玉の形で仕掛けた渡辺王座が鋭かったですね。プロ棋士が10人居たら、10人とも先手を持ちたいと言うでしょう。 *※感想戦 *「しょうがなくなって攻めたんですけど」と渡辺。攻めて簡単に先手良しというニュアンスではなかった。 *△5二角で△3五同歩は▲1五香△同香▲3四歩△2二銀▲2四飛△2三歩▲2五飛で△1七香成は▲1五飛、△1四歩は「なんとかなりますかね」と渡辺。「ですよね」と羽生。しかし、△5二角も「つらい手」と羽生は言う。 63 3四歩(35) 64 同 角(52) 65 2六飛(28) *桂頭を受けて軽い形。 66 8二玉(92) *17時前の局面。消費時間は渡辺2時間55分、羽生3時間22分。 *控室では継ぎ盤を3つ使って検討されている。示されているのは▲2五歩の継ぎ歩、▲3六飛のポジション変更、▲4五歩の攻め。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>これはちょっと意外でしたね。かなり渡辺王座の方が楽な展開になっていると思います。次に▲3六飛と寄ってから▲5一角と打ちたいですね。▲3六飛に△2三角は▲2五歩があります。 67 4五歩(46) *▲4五歩は青野九段が示していた手。3四角の利きを止めながら桂を使いやすくしている。△同歩には▲4三歩。これで△同飛は▲3二角、△同角は▲4五桂なので歩を取れない。 *勝又六段が「こうであってほしいなぁ」とぼやきながら、9筋の歩を▲9七歩・△9五歩に動かす。本譜の形では端攻めをしても反動がきついという(▲9四桂の王手が生じるなど)。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>飛車を寄りませんでしたか。△同歩には▲4三歩ではないですかね。▲4三歩に(1)△同飛は▲3二角、(2)△同角にも▲4五桂で攻めが続きます。飛車寄りが80点の手だとしたら、85点や90点の手を探して上を目指す姿勢はさすがです。 68 9五歩(94) *「そこしかないということか」の声が上がる。居飛車穴熊へ端攻めは振り飛車の切り札だ。 *戦線は飛車側だけでなく、玉側にも広がりそうだ。 69 同 歩(96) 70 9七歩打 *▲同銀が予想されている。形を乱さない受けだ。以下△8五桂に▲8八銀△9七歩▲同桂が進展例。後手の持ち歩が減っていくこと、桂交換になれば▲9四桂の反撃が生じることの2点が先手の楽しみとなる。 *さかのぼってみると、渡辺が仕掛ける前に▲4六歩と突いたことで67手目▲4五歩を突けた。渡辺の指し手は線でつながっている。その間、羽生は玉の往復と△1二香しか指していないので、部分的には渡辺に利がある。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>このタイミングというか、この間合いというか。羽生二冠は端攻めをしました。ここで攻めないと一方的に悪くなるから、少しでも形を乱しておきたいということでしょう。 71 同 銀(88) *「このような受けなら気分は悪くないね」と河口七段。前手コメントで示したような、▲9四桂などが生じておつりが返ってくるので目くじらが立たない。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>ここで△8五桂と跳ねてもうまく行かないと思うので、単に△4五歩と取っておく手を指すと思います。 72 4五歩(44) *17時30分ごろ、△4五歩が指された。アヤをつけてから手を戻す。曲線的な指し回し。▲4三歩は△同角と取ってどうか。角が7六や8七をにらんでいる。 *夕食休憩は18時から19時の1時間。 *【Twitter解説】 *飯島栄治七段>先ほどはかなり先手が優勢と話しましたが、若干差が縮まったと思います。△8五桂を含みにしています。面白くなってきました。△9五歩▲同歩△9七歩の端攻めを入れたのはさすがです。 73 4三歩打 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>(1)△3二飛は▲3五歩△2三角▲4一角△2二飛▲2三角成△同飛▲4二歩成△同銀▲4一角で先手良しでしょう。(2)△同飛は▲3二角、(3)△同角も▲4五桂ですので、(4)△2二飛と逃げると思います。 *※感想戦 *△4六歩と伸ばされると、▲4三歩に△同飛とされるので、先に利かす。しかし、△同角とされて「かえって好位置に行った」と渡辺。「こちらはやる手が…。仕方ないですね」と羽生。 74 同 角(34) *青野九段は▲8八金を示す。「これがプロの間合いですね」と勝又六段が感心。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>これは▲4五桂と跳ねると思います。 75 8八金(79) *「囲いが1枚分違う上に、後手は飛車側の方が1枚多いのに強くないんだよな」と青野九段。後手は3三銀や4三角の働きが悪い。飛車の上に角が載っているので飛車の働きもイマイチだ。 *この▲8八金は評判がいい。▲4五桂と攻めるのではなく、自玉を固めながら手を渡している。後手は端を攻める気にならないところだが、他のところでの手作りもなかなか難しい。ここまでの消費時間は渡辺3時間23分、羽生3時間34分。羽生の考慮中に17時45分を過ぎた。控室には遠山雄亮五段も訪れている。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>いやぁ〜、この金上がりは技量が高いですね。 76 8五桂(73) *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>ここは▲8六銀と逃げますが△9七歩▲同桂△同桂成▲同香と進むと逆に先手から端を逆襲する攻めが厳しくなります。 77 8六銀(97) *※感想戦 *▲9六銀も示されたが、△9七歩▲同桂△同桂成▲同香△8五桂▲同銀△同歩▲7七銀△7五歩で先手自信がないようだ。以下▲同歩には△5八銀と絡むと羽生。 78 9七歩打 *夕食休憩前に指し手が進む。▲同桂に△9六歩が手掛かりを残す手筋。以下▲8五桂△同歩▲同銀△9五香と走れる。継ぎ盤ではそこでどう指すのかが調べられている。形勢は後手が苦しいといわれており、羽生はアヤをつけている。 *渡辺が8分考えて18時になり、夕食休憩に入った。消費時間は渡辺3時間33分、羽生3時間44分。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>(1)▲同香と取ると△同桂成▲同銀△9二香打として、次に△9五香と走る手を狙えます。ですので(2)▲同桂と取ると思います。先手が優勢だと思います。守りが金銀4枚で堅いですし、渡辺王座が読み切ればこのまま勝つのではないでしょうか。 79 同 桂(89) *19時対局再開。渡辺はバシッとした手つきで▲9七同桂を指した。羽生はまだ対局室に戻っていない。 *19時1分、羽生が対局室に戻る。 *「△9六歩▲8五桂△同歩▲同銀△9五香と進めば終盤ですね」と瀬川五段。 *※感想戦 *▲同香は「△同桂成▲同銀△9二香打で分からなかった。攻めるとカウンターがくるけど、手の入れ方が分からなかった」と渡辺。 80 9六歩打 81 8五桂(97) *ノータイムで。 82 同 歩(84) 83 同 銀(86) *河口七段、村山六段、上野五段、遠山五段、瀬川五段、高見四段、加藤女流王座が継ぎ盤を囲む。△9五香に▲4四歩が示されている。△同銀に▲2四飛や▲5一角が生じる。△9五香には▲9四桂△8一玉▲4五桂も有力だ。 84 9五香(91) *控室の本線は▲4四歩。以下△3四角▲3五歩△2三角に▲9四桂や▲5一角を組み合わせる。角を追いながら拠点を作って大きな利かしだ。渡辺は腰を落として15分以上考えている。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>ここで▲9四歩ならば、△9七歩成▲同香△同香成▲同金△8四歩▲9六銀△9四銀といった順で後手は勝負するのではないでしょうか。 85 9六香(98) *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>これは堂々とした手ですね。△同香▲同銀で後手に手番を渡しますから。 *※感想戦 *ここが勝負どころだった。50分程度の感想戦で一番検討された。その結果、単に▲5一角がよいとされた。以下(1)△9七歩成は▲9五角成△9四歩▲5一馬△8八と▲同玉で先手が手厚い。(2)△7三桂は▲9六銀△同香▲同香△9五歩▲同香△9四歩▲3四歩△同角▲4二角成△同銀▲2四飛でこう進めば先手が指せていたようだ。「角では、先手玉にいかない。困っているような」と羽生。 *なお、▲4四歩△同銀▲5一角は△6二飛とされて先手大変だった。後で▲2四飛とさばいても△3三銀で弾かれてしまう。 86 同 香(95) 87 同 銀(85) 88 9五歩打 *渡辺は自然に応じて、5筋から右の駒に触らない。「後手の主力が遊んでいますからね」という意見も。 *6筋から9筋だけが戦場になるなら、先手の方が働いている駒が多い。 *※感想戦 *「(85手目)▲9六香がよくなかった。△9五歩と打たれて…。4三角のにらみがあるんで、△8六歩から△7五桂があって受けにくかったです」と渡辺。 89 同 銀(96) 90 9一香打 *▲9四歩△同香▲同銀△同銀で後手は銀香交換の駒得。ただし、手番は先手に移る。 91 9六歩打 *「下から打った!」。勝又六段が驚きの声を上げた。後手を引いて銀香交換の駒損になるからだ。 *その後、「経済封鎖ということか」と続ける。歩を渡さなければ後手の手駒が少ないということのようだ。 *△9五香▲同歩の後、先手は▲9八香が楽しみ。後手は▲9五同歩に△8六歩が△8七歩成▲同金△7五桂を見た手筋だ。 *※感想戦 *▲9四歩は△同香▲同銀△同銀▲8九玉に△8六歩が厳しい。次いで▲7八玉には△8五銀で7六を狙う。4三角が働いている。 *「本譜は相手の歩をけずって辛抱するしかないかと。でも、攻め味がなくなって…」と渡辺。 *以降は深く検討されなかった。 92 9五香(91) 93 同 歩(96) 94 8四桂打 *狭いところの攻防だが、検討に出ていない指し手が続いている。 *「桂は控えて打て」と格言にある。△7六桂や△9七歩を見ている。△7六桂と跳ねられれば、4三角が使えてくる。▲7七銀には△9七歩が予想される。▲8六香は強い手だが、△7六桂が見えている。 *「ここ数手、検討に出ていない手で感心するものもありますが、精査してみないとどうだったかをはっきりは言えないですね」と広瀬七段。 *「もうちょっと先手が良くなりそうに思ったけど」と遠山五段。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>4三角の利きを生かして△7六桂で金銀両取りの筋を狙っています。すぐに後手玉へ先手からの厳しい攻めがないですし、夕食休憩時の局面より差が詰まっていると思います。次の手は▲8六香でしょうか。それでも△7六桂と跳ねてくるかもしれませんが。 95 7九香打 *19時52分、渡辺はお茶をつぎながら首を傾げた。羽生は前傾姿勢で考えている。 *渡辺は受けに回っている。後手の攻めが息切れすれば、▲8五桂や▲4四歩などの反撃が楽しみ。 *△9七歩が検討されている。ただし、▲同金△9六歩▲9八金△9七銀▲8九桂の展開は後手の攻めが続くかどうか。 *※感想戦 *▲6五歩は△同角で、△4七角成と△9七歩があって後手の攻めが切れない。 96 2五歩(24) *20時前、ゆったりした手つきで歩を突きだした。この20手ほど8筋と9筋の攻防が続いていた。そこで突然飛車側に手が伸びる。盤面全体を見ていることがわかる。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>▲同桂の時に(1)△2二飛は▲3三桂成△2六飛▲4三成桂で、この取り合いは先手の方が良いでしょう。ですので(2)△4四銀とかわして、次に△2四歩から桂馬を取りに行く狙いでしょうか。 97 2九飛(26) *あまり時間を使わずに逃げた。 *▲同桂は△2二飛が予想された。▲3三桂成△2六飛▲4三成桂は後手駒損だが、飛車が入れば先手陣を攻められる。「その変化もよく分かりませんでしたが、▲2九飛は受けの方針通りですね」と言われている。 98 4四銀(33) *20時ごろの局面。残り時間は渡辺54分、羽生59分。両者残り1時間を切った。遊び駒を使って、相手に指させる。△2五歩が入ったため、銀が使えた(▲2四飛のさばきがない)。渡辺は手番が来たが、△9七歩が嫌みなので荒っぽいことはできない。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>次に△3二飛から△3七飛成を狙っています。これは逆転したかもしれませんね。△2五歩〜△4四銀は堂々とした手順でしたね。 99 9四歩(95) *△同銀なら▲5一角が飛桂両取り。そこで△3二飛▲3三歩△同飛▲3八歩が予想されていた。 *▲9四歩に△9七歩は▲9五香が厳しくなる。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>△同銀は▲5一角が飛桂両取りです。しかし、あえて△同銀と取って角を打たせて△6二飛▲同角成△同金引▲4二飛△3二角打の手順も考えられます。 100 3二飛(42) *▲3八歩なら△9四銀と急所の垂れ歩を払える。そこで▲3三歩△同飛と▲5一角の利きに入れておくものと予想されている。 *形勢はかなり接近しているようだ。 101 3三歩打 102 同 飛(32) *矢内女流四段はほとんど席を立たずに盤側で観戦している。 103 3八歩打 *ここで後手がどう指すのか。△3六飛と飛車を使う手が示されている。次に△9四銀と取れればいいが、先に▲9五香△9二歩▲8五桂でやや重いが一応9筋は破れる。 *△3六飛に▲6九角や▲6五歩も示されている。▲6九角は飛車が逃げたときに▲2五角からさばく狙い。▲6五歩は△同角なら▲2五飛、△同歩は▲6四歩とたたける。 104 9四銀(83) 105 5一角打 106 6二金(63) *△9六桂かと言われていた。▲5一角を作るための▲3三歩〜▲3八歩に角を打ってみろと△9四銀から△6二金引は予想しにくい指し方だ。「ちょっと飛車は取りにくいな。あまり働いていないからね」と河口七段。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>この手に代えて△8三歩と受けては攻め(△8六歩など)で歩が使えないので良くないです。金引きは指し手が早かったですが、羽生二冠らしい手ですね。渡辺王座が「攻めさせられている」という感じがします。 *※感想戦 *羽生は自信がなかったという。しかし、渡辺は「困りました」。 107 8九玉(99) *時刻は20時45分ごろ、双方辛抱強く指している。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>なるほど。やはり△9七歩が気になりましたね。 108 3二飛(33) *渋い。これは青野九段が指摘していた。「双方決め手を与えないようにしています。これは難しくなっていますね。前は先手がよさそうに思ったけど」と青野九段。 *▲5四歩が示されている。 109 5四歩(55) *△同角なら▲2五飛、△同歩は角が使えなくなる。筋だ。 110 9六桂(84) *▲9九香が示されている。攻防手だ。ただし、△8八桂成▲同玉△9七歩のときに手が難しい。 *高見四段が▲9七金を指摘する。△8八銀▲9八玉△9七銀成▲同玉△3七飛成(▲同歩なら△8五桂で頓死)に▲8六香が攻防の王手。これは竜を取れて大丈夫そうだ。後手は△3七飛成に代わる手を指すことになる。△3六歩と落ち着いて桂を取りに行くのがよいようだ。 *他に▲7七金上も考えられる。これには△9七銀▲7八玉△8八桂成▲6九玉△3六歩。この変化も△3六歩が落ち着いている。 *21時前、渡辺が右の袖をまくった。「難解ですね」と上野五段。▲9七金は渡辺の棋風ではないと言われている。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>(1)▲7七銀△8八桂成▲同玉で桂馬をもう一枚手に入れて頑張るか、(2)▲7七金上と金をかわすか。まさか穴熊がこのような形に変わるとは思いませんでしたが。 111 7七銀(68) *飯島七段が指摘していた受け。残り時間は渡辺23分、羽生36分。渡辺は14分使って▲7七銀を指した。 *「だいぶ後手が指せたね」と勝又六段。87手目▲9六同銀のあたりから比べてみると、後手の桂香が金銀との交換になった。そして、3三銀と4二飛を使った。後手の主張が通っている。 *「▲7七銀はいい手ですね。守りをはがされていますが、渡辺王座の玉は堅いんです」と遠山五段。△8八桂成▲同銀△8六歩▲7七金が示されている。単に△8六歩も有力だ。 *羽生は考慮中に残り25分を切った。残り時間が渡辺とほとんど並んだ。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>ここを当てますか、ボク。困ったんで感性で「こんなもんか?」と示した▲7七銀でした。ここでは△4六歩が感触の良い手です。▲4五歩△4七歩成▲4四歩と進んだときに、△3四角が逃げながらの金取りで味が良いです。 112 8八桂成(96) 113 同 玉(89) *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>次に▲8六桂△8五銀▲7五歩の攻め筋があります。ここでも△4六歩が考えられます。 114 5四角(43) *△8六歩▲同銀に△3六歩や△8五歩が検討されていた。 *羽生は攻めずに△5四角。本局の両者は、直接的な手よりも力をためる指し方が目立つ。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>これは▲8六桂を打ちにくくさせた手ですね。先ほどの手順に進むと角が8七の地点まで直射しますので、▲7五歩には△9七金▲同玉△9六銀打▲8八玉△8七銀成で後手が良くなります。 115 9三歩打 *角を使う△5四角に渡辺も▲9三歩と力をためる。 *「雰囲気は△8三銀打ですかね」と勝又六段。 *△8三銀打で「後手が少しよくなった感じですね。まだ先は長いですが」と遠山五段。 116 3六歩打 *厚く指すと思われたが、ここでスパート。△3七歩成が△9六桂を見て早い攻め。しかし、▲9二歩成にどう応じるのだろうか。 *「△5四角▲9三歩を入れてからの△3六歩は気付かないですね」と勝又六段。▲9二歩成△同玉▲8四桂△8三玉▲2五飛が調べられている。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>勝ちに行きましたね。受けても良い局面で攻めに行っていますので、これは間違いなく一手勝ちを目指しています。私ならばノータイムで△8四歩と打っていました。 117 2五飛(29) *ここで△5二飛が▲2一飛成を防ぎつつ角取りで一挙両得。これには▲9二歩成から攻めてどうか。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>渡辺王座は飛車をさばかなくては勝てないと見ました。しかし△3七歩成の一手が大きいです。もう1枚桂馬が後手に入れば、△9六桂▲7八玉△5五桂で先手玉は詰めろになっていると思います。 118 3七歩成(36) *▲9二歩成に△7三玉のつもりだ。 *後手からは△8六歩が厳しい。△8七歩成▲同玉△7五桂の狙いで、5四角が利いてくる。 119 9二歩成(93) *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>大熱戦です。逆転して羽生二冠が良くなりましたが、渡辺王座も食らいつきますね。 120 7三玉(82) *△5二飛を見せていたにもかかわらず、▲2五飛に手抜いて△3七歩成に感心する声が多い。ただし、▲2五飛の前に▲9二歩成を利かしていたらどうだったか。別の展開に進んだ可能性は低くない。 121 9三と(92) *ここで△8五銀▲8六香△7五桂があるようだ。▲同歩なら△9七金▲同玉△9六銀打で一気に寄せる筋がある。△7五桂に▲8五香△9六銀も受けが難しい。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>△9六歩が第一感ですね。▲9四とには△9七銀▲7八玉△5五桂で先手玉は寄りそうです。羽生二冠が優勢な局面ですが、渡辺王座が複雑で決め手を与えない指し方をしています。いつもと逆のパターンですね。 122 9五銀(94) *しばらく考えていた羽生はまっすぐに銀を出した。 *検討されていた△8五銀は▲8六香△7五桂に▲8三とでどうか。以下△同金▲8五香△9六銀に▲8三香成で先手は金銀を持てる。△9五銀は冷静のようだ。 *手番の渡辺は水を飲んで、盤をのぞき込む。▲9四との催促が検討されている。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>▲2一飛成には△9六桂▲9八玉△8八歩で先手玉が寄っていますか。 123 8五桂打 124 6三玉(73) *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>△8四玉と逃げれば▲6二角成△同飛▲9四金△8五玉▲8六銀△同銀▲同歩△9六玉▲9七歩△8六玉▲8七香で詰みます。したがって△6三玉と寄る一手でした。 125 7三香打 *21時50分、香をねじ込み、渡辺は席を立った。△8六歩は手筋だが、「それには▲7五桂の犠打もあります」と広瀬七段。▲8五桂を利かしたことで、▲7五桂が王手になる。また、▲7三香は次に▲7二香成△同金▲9五角成がある。 126 6一金(62) *金を引く羽生の手が震えていた。 127 7二香成(73) 128 5一金(61) *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>これは羽生二冠がハッキリ勝ちになりました。 129 7三桂成(85) *△5二玉に▲5六桂を狙っている。 130 5二玉(63) *▲5六桂や▲2一飛成は詰めろではないようだ。なので、後手は先手玉を受けなしにできればいい。 *具体的には△8六歩が△8七歩成▲同玉△9六角からの詰めろ。 *渡辺の考慮中に22時を回った。渡辺は7分以上考えている。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>▲2三飛成△9六桂▲7八玉△5八銀が進行の一例です。 131 4六桂打 *検討陣が予想していない鬼手が飛び出した。「ひねり出すもんだねぇ。よくこんなところに目が行くな」と河口七段。時間がないと慌てそうなところ。 *△同歩は▲9五飛。しかし、広瀬七段によると、後手玉は詰めろではないとのこと。ならば△6九角が詰めろ飛車取りなので後手が残している。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>解説していない手が飛んで来ましたよ。△同歩は▲9五飛で逆転します。狙っていますね、ミラクルを。 132 8六歩打 *これも△8七歩成▲同玉△9六角以下の詰めろ。 *▲同歩なら△8七歩▲7八玉△5五桂が詰めろだし、▲同銀なら△9六桂▲7八玉△8九角で寄り筋。 133 6二成香(72) *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>これは全部取った方が良いです。△4二玉は▲5四桂と王手で角を取られてしまいます。 134 同 金(51) 135 同 成桂(73) 136 同 玉(52) *羽生は慎重に時間を使って考えて取った。 137 5四桂(46) *22時15分、検討が打ち切られた。「どこで逆転したのだろう。夕食休憩のあたりは先手がよかったのに」の声も出た。 *その謎は感想戦で解明されることだろう。 138 同 歩(53) 139 7一角打 *渡辺、▲4六桂に次いで鬼手をひねり出してきた。後手の守りは飛車と4四銀くらい。正確に応じないと頓死する。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>怖い手が来ました。△同玉▲2一飛成△3一金▲6三桂△6二玉で詰まないと思います。△3一金のところで△3一歩と歩合いをすれば後手玉は頓死します。 140 同 玉(62) *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>これは数ある渡辺−羽生戦のなかでも相当の名局だと思います。 141 2一飛成(25) *後手は正確に受けないと頓死する。 142 3一金打 *これで後手玉は詰まない。△3一歩は▲6三桂△6二玉▲3二竜△同歩▲4二飛△5二金▲7二金△5三玉▲4三金△同金▲6二飛成という詰み筋がある。この△3一金は▲4二飛を消している。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>金合いでした。紙一重で詰まないです。不動駒は1九の香と8七の歩の2枚だけです。 143 3二龍(21) *渡辺は1分将棋になるまで時間を使って飛車を取った。 144 8七歩成(86) *不動駒は1九香の1枚だけに。ここで渡辺が投了した。渡辺が投了すると、二人はコップの水を飲んだ。 *終局時刻は22時22分。消費時間は渡辺4時間59分、羽生4時間57分。羽生が勝ち、五番勝負は1勝1敗に。第3局は9月19日(水)に岩手県盛岡市「ホテル大観」で行われる。 *※感想戦 *感想戦は23時15分ごろに終了した。85手目▲9六香で▲5一角と打てば先手がやれていたようだ。 *【ニコニコ生解説】 *飯島栄治七段>▲8七同玉△9六角▲9七玉△8五桂▲8八玉△8七銀▲8九玉△9七桂不成▲9九玉△9八香までで即詰みです。 *夕食休憩の局面までは、振り飛車の羽生二冠が角を手放して守勢になり、渡辺王座が勝勢になりました。しかし△8四桂のあたりでは優劣不明になっていて、最後は打った角が働いて羽生二冠が勝ちきりました。素晴らしい一戦でした。名局です。最後までご覧頂きまして、ありがとうございました。それでは失礼いたします。 145 投了 まで144手で後手の勝ち