# --- Kifu for Windows (Pro) V6.65.64 棋譜ファイル --- 対局ID:15531 記録ID:64b649525d29616b1686ff45 開始日時:2023/07/25 09:00 終了日時:2023/07/26 19:01 棋戦:伊藤園お〜いお茶杯第64期王位戦七番勝負第3局 戦型:角換わりその他 持ち時間:8時間 秒読み:60秒 消費時間:131▲469△475 場所:北海道小樽市「料亭湯宿 銀鱗荘」 備考:昼休前54手目19分\n2日目昼休前67手目28分\n封じ手時刻:18:00<61手目>\n 振り駒:なし 先手消費時間加算:0 後手消費時間加算:0 昼食休憩:12:30〜13:30 昼休前消費時間:54手19分 手合割:平手   先手:藤井聡太王位 後手:佐々木大地七段 先手省略名:藤井聡 後手省略名:佐々大 手数----指手---------消費時間-- *藤井聡太王位に佐々木大地七段が挑戦する伊藤園お〜いお茶杯第64期王位戦七番勝負第3局は、7月25・26日に北海道小樽市「料亭湯宿 銀鱗荘」で指される。ここまで藤井が2連勝。 *対局は7月25日9時開始。持ち時間は各8時間。両日とも、昼食休憩は12時30分から13時30分、おやつは10時と15時に出される。本局の先手番は藤井。 *立会人は木村一基九段。副立会人は飯島栄治八段。記録係は福田晴紀三段(中川大輔八段門下)。観戦記は池田将之指導棋士五段が担当する。26日15時からのオンライン大盤解説会は、飯島八段と久津知子女流三段が務める。 *25日朝、8時46分ごろに佐々木が対局室入りする。信玄袋から小ぶりの扇子と懐中時計を取り出す。8時49分に藤井が入室。扇子、フェイシャルペーパー、電波時計、ハンカチを信玄袋から順に取り出した。藤井は駒箱を開ける前に一礼。そして、王将を据える前にもう1回礼をする。 *【北海道新聞デジタル】 *https://www.hokkaido-np.co.jp/ *【第64期王位戦第3局 26日にオンライン解説を生配信:北海道新聞デジタル】 *https://www.hokkaido-np.co.jp/article/881182/ * *(棋譜・コメント入力=銀杏) *[棋譜表示の*はコメント付きの指し手。#は局後の感想が追記された指し手。【】はブログやリンクのタイトル] 1 2六歩(27) ( 0:00/00:00:00) *藤井は湯飲みについだお茶を飲み、ハンカチで手をぬぐってから初手を指した。 * *◆藤井 聡太(ふじい そうた)王位(竜王・名人・叡王・棋王・王将・棋聖)◆ *2002年7月19日生まれ、愛知県瀬戸市出身。杉本昌隆八段門下。2016年、四段。2021年、九段。棋士番号は307。 *タイトル戦登場は17回。獲得は王位3期、竜王2期、名人1期、叡王3期、棋王1期、王将2期、棋聖4期の計16期。棋戦優勝は9回。 2 8四歩(83) ( 0:00/00:00:00) *◆佐々木 大地(ささき だいち)七段◆ *1995年5月30日生まれ、長崎県対馬市出身。深浦康市九段門下。2016年、四段。2022年、七段。棋士番号は306。 *タイトル戦登場は2回。 3 2五歩(26) ( 0:00/00:00:00) *藤井の本年度の成績は15勝3敗(0.833)。 *勝数ランキング1位、対局数ランキング3位、勝率ランキング10位。 *昨年度の成績は53勝11敗(0.828)。 *通算成績は333勝66敗(0.835)。 *きれいに数字が並んでいる。本局が通算400局目。 4 8五歩(84) ( 0:00/00:00:00) *佐々木が指したところで関係者が席を立った。 * *佐々木の本年度の成績は15勝7敗(0.682)。 *対局数、勝数、連勝のランキングで1位。 *昨年度の成績は32勝14敗(0.696)。 *通算成績は270勝115敗(0.701)。 5 7六歩(77) ( 0:00/00:00:00) *本局はABEMAでライブ配信される。 *1日目の解説・聞き手は遠山雄亮六段、伊藤真吾六段、島井咲緒里女流二段、飯野愛女流初段。 *2日目の解説・聞き手は行方尚史九段、井出隼平五段、山口恵梨子女流二段、小高佐季子女流初段。 *【伊藤園お〜いお茶杯第64期王位戦 七番勝負第3局1日目】 *https://abema.tv/channels/shogi/slots/DLeoJ6SuFbPg47 *【伊藤園お〜いお茶杯第64期王位戦 七番勝負第3局2日目】 *https://abema.tv/channels/shogi/slots/DLeoFf1q8yA5Pm 6 3二金(41) ( 1:00/00:01:00) *ここで△3四歩とすれば第1局のように横歩取りが予想された。本局は佐々木が藤井得意の角換わりを受けると思われる。 * *本局は対局2日目の7月26日15時からオンライン解説が行われる。解説・聞き手は飯島栄治八段、久津知子女流三段。 *【第64期王位戦第3局 26日にオンライン解説を生配信:北海道新聞デジタル】 *https://www.hokkaido-np.co.jp/article/881182 7 7七角(88) ( 0:00/00:00:00) *銀鱗荘では急に強い雨が降ってきた。雨雲の動きを見ると、にわか雨のようだ。 * *藤井は王位戦に第59期から出場。王位戦の成績は27勝4敗(0.871)。現在、王位3連覇中。王位戦七番勝負では14勝2敗(0.875)。 8 3四歩(33) ( 1:00/00:02:00) *佐々木は王位戦に第58期から出場。王位戦の成績は36勝15敗(0.706)。王位リーグ入りは連続6期。 *今期は紅白リーグ白組で5戦全勝。挑戦者決定戦で羽生善治九段に勝って王位戦で初の挑戦者となった。 9 8八銀(79) ( 0:00/00:00:00) *過去の対戦成績は藤井7勝、佐々木3勝。 *佐々木は王位戦の前に第94期棋聖戦でも挑戦者になり、ダブルタイトル戦で藤井に挑んでいる。 *本局の1週間前、7月18日に棋聖戦五番勝負第4局が新潟市で行われて藤井勝利。棋聖戦は3勝1敗で藤井が防衛を果たした。 *王位戦は藤井が2連勝中。棋聖戦と同様に藤井が押し切るか、佐々木が流れを変えるか、本局は重要な一戦である。 10 7七角成(22) ( 0:00/00:02:00) *伊藤園お〜いお茶杯第64期王位戦は、新聞三社連合(北海道新聞・東京新聞・中日新聞・神戸新聞・徳島新聞・西日本新聞)が主催している棋戦。 *第62期以降、伊藤園が特別協賛となり、棋戦名が第62期と第63期は「お〜いお茶杯王位戦」、第64期からは「伊藤園お〜いお茶杯王位戦」となった。 *王位戦は予選を8ブロックにわけてリーグ進出を争う。前期リーグ残留者と予選通過者の計12人が紅白のリーグにわかれて優勝を競い、各組の優勝者同士による挑戦者決定戦で王位への挑戦者を決める。現在のタイトルホルダーは藤井聡太王位。 *【王位戦の冠名 第64期から「伊藤園お〜いお茶杯」に変更|日本将棋連盟】 *https://www.shogi.or.jp/news/2022/07/_64_2.html *【伊藤園 商品情報サイト | ITO EN】 *https://www.itoen.jp/ *【新聞三社連合の概要:王位戦中継サイト】 *http://live.shogi.or.jp/oui/sansha.html 11 同 銀(88) ( 0:00/00:00:00) *今期七番勝負初の角換わりになった。佐々木は棋聖戦では、藤井の角換わり腰掛け銀に屈した。王位戦は第1局では横歩取りの変化球を投げていた。 * *■ABEMA■ *伊藤真吾六段>角換わりになりました。50手くらいサクサクと進むかもしれません。 12 2二銀(31) ( 0:00/00:02:00) *本日の主催各紙(北海道新聞・東京新聞・中日新聞・神戸新聞・徳島新聞・西日本新聞)には、石蔵朗大さんによる第34期女流王位戦五番勝負第3局▲伊藤沙恵女流四段−里見香奈女流王位戦の観戦記が掲載されている。 *【2023年7月 観戦記情報】 *https://www.shogi.or.jp/news/2023/07/7_36.html 13 4八銀(39) ( 0:00/00:00:00) *藤井は▲1六歩と▲4八銀を使い分けている。▲1六歩は△1四歩なら、▲3八銀〜▲3六歩〜▲3七桂といった形にして、▲4五桂と跳ねる含みで指す。▲3七桂で▲3七銀とする早繰り銀を採用することも。▲4八銀は速攻を狙わずに腰掛け銀を目指す指し方だ。 14 3三銀(22) ( 0:00/00:02:00) *北海道小樽市は道央にある都市で、人口は約10万7千人。石狩湾の港湾都市として古くから栄えてきた。2022年に市制100周年を迎えた。 *寿司屋が多く、ガラス細工やオルゴールの工芸品で知られる。また、夜にガス灯がライトアップされる小樽運河や小樽天狗山ロープウエイ、鰊御殿など観光スポットも多数。北海道内の中でも観光都市として人気が高い。 *【小樽市】 *https://www.city.otaru.lg.jp/ *【小樽観光協会公式サイト「おたるぽーたる」】 *https://otaru.gr.jp/ 15 4六歩(47) ( 0:00/00:00:00) *小樽市ではこれまでに王位戦七番勝負の対局が3局行われている(肩書・段位はすべて当時。左の棋士が先手)。 *1966年8月 第7期第2局 有吉道夫八段●−○大山康晴王位 *1994年7月 第35期第2局 郷田真隆五段●−○羽生善治王位 *2011年8月 第52期第3局 羽生善治王座・棋聖○−●広瀬章人王位 *本局は12年ぶりの小樽対局だ。 16 6二銀(71) ( 0:00/00:02:00) *対局場の「料亭湯宿 銀鱗荘」は、1900年にニシン漁で財を成した大網元である猪俣安之丞氏が余市町で築造した個人邸宅が始まり。とど松、せん、たも、栗などの高級木材を用いて建てられた「鰊御殿」(明治や大正にニシン漁で財を成した網元たちによって建てられた建造物)である。1938年、実業家の野口喜一郎氏によって現在の小樽市に移築された。平磯岬の上にあり、小樽市街や石狩湾を一望できる。2018年にニトリが銀鱗荘を所有し、グループ会社が運営している。 *2023年2月27日付で、銀鱗荘旧本館(旧猪俣家住宅)と隣接するグリル銀鱗荘(旧北海道水産記念館)が、登録有形文化財(建造物)に登録された。 *同地では11月に第36期竜王戦七番勝負第4局も指される。 *【銀鱗荘】 *https://www.ginrinsou.com/ *【銀鱗荘本館及びグリル銀鱗荘建物の登録有形文化財(建造物)登録について】 *https://www.ginrinsou.com/2023/02/27/12488/ *【国指定文化財等データベース】 *https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/index 17 7八金(69) ( 0:00/00:00:00) *本局を主催する北海道新聞は1942年創刊。ルーツの一つである北海新聞は1887年創刊。発行部数は朝刊が82万部、夕刊は約24万部。夕刊には札幌市出身の野月浩貴八段が講座を執筆している。 *王位戦は第1期から主催。第1期七番勝負第1局の▲塚田正夫九段−△大山康晴名人(肩書はいずれも当時)戦が札幌市の定山渓温泉で指された。 *【北海道新聞デジタル】 *https://www.hokkaido-np.co.jp/ *【第64期王位戦:北海道新聞デジタル】 *https://www.hokkaido-np.co.jp/tags/shogi/64oui/ 18 6四歩(63) ( 1:00/00:03:00) *対局開始から15分でここまで進んだ。 * *王位戦中継サイトに七番勝負開幕事前特集がアップされている。佐々木の師匠である深浦康市九段と広瀬章人八段による対談と、新聞三社連合の森本孝高さんによる七番勝負展望記事。 *【伊藤園お〜いお茶杯第64期王位戦七番勝負開幕事前特集|王位戦中継サイト】 *http://live.shogi.or.jp/oui/feature.html 19 3六歩(37) ( 0:00/00:00:00) *藤井の先手番勝率の高さはよく話題になるところ。2020年11月からは80勝5敗で勝率は(0.941)。3月の第48期棋王戦五番勝負第3局で敗れてからは10連勝中だ(途中、千日手1局あり)。 *佐々木も対局前日に「藤井王位は先手番の勝率が高く、牙城をどう崩すかが課題となっている」と話していた。 *【記念撮影】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-0c05-1.html *【夕食会】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-fcca.html 20 4二玉(51) ( 1:00/00:04:00) *対局前日に検分が行われた。用意された駒は、いずれも日本将棋連盟北海道支部連合会所有のもの。北海道将棋連盟初代理事長の佐々木治夫さんが第1回大山康晴賞を受賞した記念の駒と、北海道将棋連盟常務理事・事務局長の新井田基信さんが寄贈した駒。 *藤井が「いかがですか」と佐々木に問うと、笑顔で藤井に任せる旨を答えた。藤井は少し考えて新井田さんの如水師作関根名人書の駒を選んだ。また、藤井はエアコンの設定を25度に要望した。 *【検分】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-42ac-2.html 21 1六歩(17) ( 0:00/00:00:00) *本日のスケジュールは以下の通り。18時時点で手番の棋士が封じ手を行う。 * *9時 対局開始 *10時 午前のおやつ *12時30分 昼食休憩 *13時30分 対局再開 *15時 午後のおやつ *18時以降 封じ手 22 1四歩(13) ( 0:00/00:04:00) *10分くらい前に降っていた雨がやんで、日が差してきた。 23 6八玉(59) ( 0:00/00:00:00) *藤井は浅縹(あさはなだ)色の羽織。着物は藍白色。 *佐々木は白地に青の段ぼかしの羽織。着物は薄柿色。 24 6三銀(62) ( 0:00/00:04:00) 25 9六歩(97) ( 0:00/00:00:00) 26 9四歩(93) ( 0:00/00:04:00) *後手は9筋の歩を突くかどうかの分岐点。佐々木は1分使わずに△9四歩と応じた。調べてみると、佐々木は角換わり腰掛け銀で9筋の位を取らせる作戦を四段時代に2回用いただけだった。 27 3七桂(29) ( 0:00/00:00:00) *【対局開始前の様子】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-1bd0-2.html *【対局開始 角換わり腰掛け銀に】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-5c89.html 28 7四歩(73) ( 0:00/00:04:00) 29 4七銀(48) ( 0:00/00:00:00) 30 7三桂(81) ( 0:00/00:04:00) 31 4八金(49) ( 0:00/00:00:00) *▲4八金から▲2九飛とするのが2016年ごろから主流になった駒組み。 32 8一飛(82) ( 2:00/00:06:00) 33 5六銀(47) ( 0:00/00:00:00) 34 6二金(61) ( 0:00/00:06:00) 35 6六歩(67) ( 0:00/00:00:00) 36 5四銀(63) ( 1:00/00:07:00) 37 2九飛(28) ( 0:00/00:00:00) *ここ数年の角換わり腰掛け銀の重要なテーマ図。二人の棋聖戦五番勝負では、藤井の先手番の第1局と第3局でも指された。後手は分岐点で手が広い。佐々木は棋聖戦第1局では△4一飛、第3局では△5二玉としていた。 *佐々木は腕を組んで身動きしない。藤井はやや前傾姿勢。 38 5二玉(42) ( 4:00/00:11:00) 39 6九玉(68) ( 1:00/00:01:00) *常務理事として現地を訪れている森下卓九段は「最初に(▲6九玉を)見たときは指し間違えたんじゃないかと思いましたよ」。 *この▲6九玉は前期七番勝負第4局の▲藤井−△豊島将之九段戦で現れている。1手ずらすための手待ちで、△4二玉▲7九玉△5二玉▲8八玉△4二玉の局面で先手番にしたいという意図がある。 *▲藤井−△豊島戦は▲6九玉に△4一玉▲5八玉△4二玉▲4五銀と、5八玉型で仕掛ける珍しい将棋になった。手順中の△4一玉は後手も1手ずらそうとしており、▲7九玉ならそこで△4二玉とするつもり。このあたりから双方が少しでもいい条件を得るための駆け引きが行われているのだ。 40 6三金(62) ( 6:00/00:17:00) *9時44分の局面。棋聖戦第3局は佐々木が△6三玉から△7二玉として右玉に組み替えた。しかし、藤井が▲9七桂と異筋の端桂から8筋逆襲を狙う目新しい指し方に出て勝っている。△6三金なら後手玉を7二まで移すとは限らない。インパクトのある手が出て、それをめぐる駆け引きが生じる。 *ここで▲7二角は△8二飛で角が1手頓死する。しかし、次に△4二玉とすると、▲7二角△8二飛▲6一角成と馬を作られてしまう。角を打たれても大丈夫な駒組みが要求されるのが角換わり戦の難しさだ。 41 7九玉(69) ( 2:00/00:03:00) 42 4四歩(43) (13:00/00:30:00) *後手の4筋の歩が4三か4四で様相が変わる。△4三歩型だと、先手は▲4五桂と跳ねるか▲4五銀と銀をぶつけるかで仕掛けることになる。△4四歩型は4筋が争点で、▲4五歩と歩をぶつけることになる。 43 8八玉(79) ( 1:00/00:04:00) *佐々木が工夫しているが、藤井はあまり時間を使っていない。現局面は昨年12月の棋王戦▲羽生善治九段−△藤井戦と合流している。藤井は自身の前例の逆側を持っている。何を用意しているのだろう。 *10時になり、対局者に1日目午前のおやつが出された。藤井は「白桃の水羊羹と抹茶ロールケーキ」と「アイスコーヒー」。佐々木は「ニトリ観光果樹園ぶどうジュース」。 *10時5分ごろ、ABEMAに木村一基九段がゲスト出演している。 *【1日目午前のおやつ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-62f1-2.html 44 6二玉(52) ( 8:00/00:38:00) *後手は右玉に変化した。4筋の争点から遠ざかった意味がある。控室では飯島八段が▲6七銀〜▲5九飛〜▲5六歩〜▲5五歩△4三銀▲5六銀と5筋の位を取ってじっくり指す順を示す。 45 6七銀(56) ( 5:00/00:09:00) *飯島八段が示していた手。後手の指し方次第だが、腰掛け銀にこだわらずによりよい形を求めるのが近年よく見かける着想だ。 46 4三銀(54) ( 4:00/00:42:00) *後手も銀矢倉に組み替える。玉の位置が大きな違いだ。後手は2筋から4筋の攻めを阻むのが主眼なので、玉の守りは薄くても構わない。 *手順の駆け引きは異なるが、7月のB級1組順位戦▲千田翔太七段−△木村一基九段戦と合流していた(結果は先手勝ち)。木村九段は本局の立会人だ。「何か似た将棋があったなと思ったら自分だった」とおどけた。 *木村九段は「▲5六歩を決めずに▲5八銀として、手をずらして▲5六歩〜▲5七銀の形を作ったのが千田七段の工夫でした。後手は相手の出方をうかがう指し方なのですが、▲5八銀は先手のほうが、後手が△5四歩とするか△5四銀とするか出方を見ようとしています。佐々木さんに対策ができているのでしょう。私は大差になってしまいました。小さな差が大きくなりやすい将棋です」と解説する。 47 5九飛(29) (10:00/00:19:00) *藤井は千田七段と違うパターンで手待ちした。▲5九飛は▲5六歩から▲5五歩を見せて△5四銀を牽制している。 * *■ABEMA■ *遠山雄亮六段>▲5九飛は意外というか、深く研究されていない手だと思います。私は見たことのない手でした。佐々木七段は長考されるのではないでしょうか。 *先手は5筋の位を取りたいんです。ただ、△4三銀に▲5六歩だと△5四歩と受けられます。▲5九飛に△5四歩としたら▲2九飛と戻るのではないかと思います。 48 4二金(32) (16:00/00:58:00) *二人の指し手からは5筋の形を決めたくない意識がうかがえる。合法的な後出しじゃんけんをするのがこうした将棋のコツ。将棋類はターン制なので、相手がグーを出したのを見て、パーを出せればうまい。実際はもっと複雑だが、うまく相手の後ろを取りたいのだ。 *△4二金は▲5六歩なら△5四歩と受ける手を残しつつ玉に近づける含みもある手待ちだ。 49 6九飛(59) ( 3:00/00:22:00) *39手目で▲6九玉から▲7九玉と手をずらした藤井は、今度は▲5九飛から▲6九飛と飛車で手番をずらす。39手目のコメントでも記したが、いい条件を得ようとするための駆け引きが続いている。地味だが、地味ゆえに対局者が神経をすり減らすところだ。 *右玉の後手は条件がよくないと△6五歩と突っかけられない。先手にいい形を作らせない待機術が求められている。そのためなのか、佐々木のほうが時間を多く使っている。というより、ある程度考えたことがある展開なのか、藤井の消費時間が少ない印象だ。まだ22分しか使っていない。 *【駒組みをめぐる駆け引き】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-e2c2.html 50 4一金(42) (21:00/01:19:00) *11時13分の着手。△4一金までの消費時間は▲藤井22分、△佐々木1時間19分。 *先手は▲5九飛〜▲6九飛〜▲2九飛と、3手で飛車を2筋に戻すことができる。後手は△4二金〜△3二金を往復させると偶数手(2手)なので1手ずれてしまう。そこで佐々木は△4一金と工夫した。△4二金〜△4一金〜△3二金なら3手なので、先手と歩調を合わせて待機できる。具体的には、ここで▲2九飛なら△3二金で46手目と同じ局面になる。こうした待機術を三角法と呼ばれ、チェスでも見られる。 51 5六銀(67) ( 3:00/00:25:00) *佐々木が席を外しているところで指された。後手の金が一段目に下がって戦場になりそうな場所から遠ざかっているとみたか。▲5六銀として藤井も席を外す。 *佐々木は戻ってきて棋譜を確認する。 52 3二金(41) (12:00/01:31:00) *佐々木はここ数手、10分以上の考慮が続く。代えて△5四銀だと、▲4五歩△同歩▲同桂の筋が嫌らしいとABEMAで遠山六段が解説していた。△4一金型で戦場から離れているために、▲4五同桂に△4四銀だと▲2二角のキズがある。 *先手は▲2九飛とすると△5四銀で、44手目△6二玉と同じ局面に戻ってしまう。よって、別の手で揺さぶることが予想される。▲5九飛とすると、47手目▲5九飛の局面で銀を5六に動かしている分だけ手得している。なお、▲4五歩△同歩▲同銀△4四歩▲5六銀と無事に歩交換できれば先手十分。なので、後手は▲4五歩に△5四銀など反発することになる。 *小樽の天気は雨が降ったりやんだり落ち着かない。午後にはやむようだが。11時44分、雨脚が強くなって、佐々木が後ろを向いて外を見る。 *※局後の感想※ *藤井は△5四銀を予想し、▲4七銀から駒を繰り替えるつもりだったという。 53 4五歩(46) (42:00/01:07:00) *12時10分の着手。藤井は▲4五歩と突っかけた。局面が動き始めそうだ。「もう少し待つ展開も考えられました。定跡になる一局ですね」と木村九段。後手はやすやすと歩交換を許しては覇気がない。△5四銀や△4五同歩▲同銀△4四銀左のように好戦的に指したい。 *12時28分ごろ、藤井が席を外す。佐々木が指したら昼食休憩にする旨を福田三段にあらかじめ伝えたのだろう。佐々木はここで19分使って昼食休憩に入った。消費時間は▲藤井1時間7分、△佐々木1時間50分。対局は13時30分再開。1日目の昼食は、藤井が「海鮮ちらし」と「緑茶」。佐々木は「小樽産鰊そば(冷)」と「緑茶」。 *鰊(ニシン)そばは身欠きニシンの甘露煮を具材にした北海道西部の名物だ。身欠きニシンはニシンの頭部や内臓を取り除き、乾燥させて干物にしたもの。冷凍技術が発達していなかった時代に日持ちさせるための方法だった。 *佐々木は13時25分ごろ、藤井は13時28分ごろ対局室に戻った。13時30分に対局は再開されたが、佐々木は指す気配がない。13時50分過ぎ、佐々木は棋譜用紙を借りてしばらく眺める。14時12分、佐々木の長考が1時間を超えた。木村九段は「後手は先手の動きをとがめたいと思うでしょうね。その手段は△5四銀も△4五同歩▲同銀△4四銀左も有力なので、迷っているのではないかと思います。2時間差くらいなら許容かと思います」という。 *【12時11分 藤井王位が仕掛ける】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/1211-2a83.html *【1日目昼食休憩】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-70fe-1.html *【休憩中の対局室】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-eb76.html *【ニシン蕎麦 北海道 | うちの郷土料理:農林水産省】 *https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/nishinsoba_hokkaido.html 54 同 歩(44) (82:00/02:53:00) *14時33分の着手。昼食休憩を挟む1時間22分の長考で△4五同歩だった。 *先手は(1)▲4五同銀△4四銀左と(2)▲4五同桂△4四銀左▲4六歩△5四歩▲2九飛△3三桂の進行の分岐点。(2)は飯島八段が示していた。控室では木村九段と飯島八段が(2)を検討している。手順中の▲4六歩に△5四銀も有力。いずれも桂交換後の▲5五桂を避けて、次に△3三桂とぶつける意味だ。 *藤井は30分以上考えている。飯島八段は「△5四銀をメインに考えていたのかもしれません」と話す。読みの中心でなかったうえに上記の分岐があるため再長考しているのかもしれない。 *藤井の考慮中に15時となり、1日目午後のおやつが出された。1日目午後のおやつは、藤井が「ニトリ観光果樹園 特製アップルパイ バニラのアイスクリーム添え」と「アイスレモンティー」。佐々木は「黒糖風味の豆乳プリン コーヒーゼリー ほうじ茶のアイスクリーム添え」と「ほうじ茶」。佐々木は席を外す。おやつを食べにいったようだ。しばらくして、今度は藤井が席を外す。戻ってきた藤井は考え続けている。15時55分、藤井は1時間22分使っているが指す気配はない。「2日制らしいですね」と木村九段。 *【銀鱗荘】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-68e3.html 55 同 桂(37) (83:00/02:30:00) *15時57分ごろ、1時間23分の長考で藤井は▲4五同桂と取る。左手で口元を押さえる。佐々木は脇息にもたれている。 *後手は△4四銀左が自然。「桂の高跳び、歩のえじき」を狙う△4二銀なら、先手は▲6五歩△同歩▲5五銀で▲6四歩を狙って攻めが続く。相腰掛け銀で銀が向かい合っていると双方の銀は5五に出られないが、本局のような形だと注意しないといけない。 *【大長考合戦】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-4c66.html *※局後の感想※ *藤井は▲4五同銀のつもりだったが、△4四銀左が手強いとみた。しかし、「▲4五同桂では駒が進んでいない」と藤井。「△4五同歩に考えているのでは」と反省していた。 56 4四銀(33) (17:00/03:10:00) *時折、外から汽笛が聞こえる。銀鱗荘の近くを函館本線が走っており、小樽築港駅があるのだ。また、銀鱗荘は平磯岬の高台にあり、函館本線や国道5号はトンネルで岬を越す。 *※局後の感想※ *△4二銀には▲6五歩△同桂▲6六歩が藤井の予定。△7七桂成▲同桂で6筋攻めを狙う。佐々木は△6五同桂に▲6六銀で自信がなかったという。「△4四銀左は仕方ない」と佐々木。 57 4六歩打 ( 4:00/02:34:00) *飯島八段の検討通りの進行だ。「栄ちゃんやるじゃん」と木村九段。二人は20年以上の研究仲間で、飯島八段の自宅には木村九段の掛け軸がかけられていることで知られる。 *▲4六歩と打った先手は▲2九飛と戻って歩交換を目指す。後手は△5四歩が「歩越し銀に歩で対抗」の格言通り。控室でも本命視されている。時刻は17時を回った。18時の時点で手番の棋士が封じ手を行う。どちらが封じるか。 *■ABEMA■ *伊藤真吾六段>後手は△5四歩として▲2九飛にすぐ△3三桂か△5五歩▲6七銀として△3三桂、いまの局面で△5四銀もあります。どれも有力です。どれもやってみたいです。苦しんでいる長考という感じはしませんが、悩ましいです。 58 1五歩(14) (48:00/03:58:00) *17時7分、「ほぉー」と森下九段が驚く。△5四歩▲2九飛△3三桂のジックリした進行と正反対。端歩を突き捨てたらまったりできない。控室ではまったく予想されていなかった決断の一手だ。 *△1五歩は▲同歩に△1八歩▲同香△2七角の狙い。森下九段は△1八歩の局面で▲6五歩△同歩▲6六歩の継ぎ歩攻めもあるという。次いで△6六同歩▲同銀△1九歩成▲5五銀左といった進行は、後手は玉頭直撃の攻めを対処せねばならず危ない。後手は▲6五歩に△同桂と応じるほうがいいようだ。 *木村九段は両者の消費時間を聞いて、「ここで封じるんじゃないですか」という。現局面ならほぼ▲1五同歩の1択だし、藤井が50分以上考えて封じ手にしても、1日目の消費時間は佐々木よりも短いためだ。森下九段説のように、△1五歩▲同歩△1八歩▲同香△2七角という手順は必然ではないため、封じ手で重要な決断をくだすことはしないほうがいい。 *【予想外の一手】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-522e.html *※局後の感想※ *「△1五歩は感覚的にはやってはいけないと思ったが」と佐々木。代えて、△5四歩▲2九飛△3三桂の変化が調べられた。▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2九飛△4五桂▲同歩△5三銀▲3五歩△同歩▲4四桂△2二金▲3三歩でどうか。そこで後手が△8六歩▲同歩△8五歩と反撃するのは▲同歩△7五歩▲同歩△8五桂▲7六銀で手を作るのが難しい。 59 同 歩(16) (31:00/03:05:00) *そろそろ17時40分、ここが封じ手だろうというところで藤井の手が動いた。控室では木村九段や飯島八段の両立会人が封じ手のために対局室に向かう。 60 1八歩打 ( 0:00/03:58:00) *佐々木は予定通りとばかりにすぐ△1八歩と打つ。17時43分ごろに飯島八段が、17時45分に木村九段が対局室へ。藤井は17時47分ごろに、福田三段に全体の消費時間を尋ね、そのあとに「封じ手の図面を全部お願いします」と告げた。藤井は次の手を封じるつもりだ。 *18時の数分前、対局室の近くで待機すべく関係者が移動する。 *18時になり、木村九段が「定刻となりました。藤井王位の封じ手となります」と告げる。数秒の間があり、藤井が「封じます」と意思表示をした。用紙やペンなどを受け取って席を外す。戻ってきた藤井は佐々木に封筒とペンを渡し、佐々木が署名して藤井に戻す。藤井は木村九段に封筒を渡して1日目が終了した。1日目の消費時間は▲藤井3時間25分、△佐々木3時間58分。封じ手は26日9時ごろに開封されて対局再開となる。木村九段、飯島八段、森下九段は58手目△1五歩に1日目のうちに▲同歩と応じたため、流れから▲1八同香と予想していた。以下△2七角▲1九飛△3六角成▲4七銀△2六馬▲3八金△2五馬が進展例。 *【封じ手〜1日目終了】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-b882.html *【封じ手予想】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-7809-2.html 61 同 香(19) (20:00/03:25:00) *26日、8時41分、佐々木が入室。藤井は8時49分に入室。扇子などを置いたあと両者とも大橋流で駒を並べる。並べ終えたタイミングで木村九段が「それでは1日目の指し手を再現していただきます」と告げた。 *福田三段の読み上げで二人は指し手を再現していく。再現し終えたのは8時59分ごろ。木村九段が対局者の横に移動して封じ手の入った封筒を開ける。そして、「封じ手は▲1八同香」と告げて、佐々木にも封じ手用紙を見せた。佐々木は小さくうなずき、藤井が▲1八同香を指す。木村九段は席に戻って「定刻になっておりますので対局を再開してください」。2日目の戦いが始まった。 *※局後の感想※ *▲6五歩は有力だった。△同桂に▲6六歩△7七桂成▲同桂として、6筋に狙いをつける。以下(1)△5四銀は▲6五歩△同歩▲同銀△同銀▲6四歩△同金▲6五桂△5五角▲7七角で先手よし。(2)△5四銀打は▲6五歩△同歩▲同銀△同銀▲6四歩△同金▲6五桂△同金▲同飛△6四歩▲同飛△6三歩▲7三銀(△同玉なら▲6五桂△6四玉▲7三角の詰み筋がある)となると先手よし。 62 2七角打 ( 0:00/03:58:00) *封じ手の▲1八同香は両立会人の木村九段、飯島八段、常務理事の森下九段の全員が本命にしていた。佐々木も予想していたからだろう、△2七角をすぐに打った。藤井はうつむいている。木村九段がタイミングをみて促し、関係者が退室した。それを見て、藤井は羽織を脱ぐ。天気予報を見ると、今日の小樽の最高気温は30度に達するようだ。 *飯島八段はここで藤井が考えているため、▲2四歩もあるかもしれないという。1日目のうちに59手目▲1五同歩としたから封じ手は▲1八同香と予想できたように、時間の使い方で思考を推測できる。対局者が棋譜を見るのも、単純に消費時間を確認するだけではないのだ。 *△2四同歩なら▲2二歩、△1八角成も▲2三歩成△同金といずれも後手陣が乱れるため、そのあとに▲6五歩△同歩▲6六歩の筋を行使する。 * *ここで2日目の大盤解説やライブ配信の情報を再掲する。 *北海道新聞のサイトでは、26日15時からオンライン大盤解説会を行う。解説・聞き手は副立会人の飯島八段と久津知子女流三段が務める。 *ABEMAの解説・聞き手は行方尚史九段、井出隼平五段、山口恵梨子女流二段、小高佐季子女流初段。 *【第64期王位戦第3局 26日にオンライン解説を生配信:北海道新聞デジタル】 *https://www.hokkaido-np.co.jp/article/881182/ *【伊藤園お〜いお茶杯第64期王位戦 七番勝負第3局2日目】 *https://abema.tv/channels/shogi/slots/DLeoFf1q8yA5Pm 63 1九飛(69) (26:00/03:51:00) *▲1九飛は香を守って普通だが、藤井は26分費やした。あとの変化を読んだのだろう。 *【2日目朝の様子】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-4dc4.html *【封じ手開封〜対局再開】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-9c57.html 64 3六角成(27) ( 0:00/03:58:00) *今日は大山康晴十五世名人(永世王位)の命日(1923年3月13日〜1992年7月26日)。今年は生誕100周年でもある。 *王位戦では第1期から第12期にかけて王位12連覇した。1981年の第22期七番勝負にも登場。当時58歳で、しかも王将のタイトルも保持していた。 *なお、第22期王位戦の挑戦者決定戦は、58歳の大山と49歳の二上達也棋聖の戦い。ベテランといわれる年代の棋士同士で二冠王を目指していた。信じられますか? *藤井や佐々木は58歳のころ、どういう棋士になっているだろうか。30年以上先の話である。 *【大山康晴|棋士データベース|日本将棋連盟】 *https://www.shogi.or.jp/player/pro/26.html 65 3三歩打 ( 0:00/03:51:00) *9時28分の局面。1日目の控室では▲4七銀△2六馬▲3八金の進行が示されていたが、藤井は△4六馬を防ぐ前に▲3三歩を利かした。▲5五桂の筋があり、後手は△3三同桂は取りにくい。△4二金は2筋を軽くしたか薄くなるとみるか。△3一金なら2筋はしっかりするが今度は4三銀が浮く。金の逃げ方に一長一短ある。10時前、佐々木も羽織を脱ぐ。 *10時になり、2日目午前のおやつが出された。藤井は「黒糖風味の豆乳プリン コーヒーゼリー ほうじ茶のアイスクリーム添え」、「アイスコーヒー」。佐々木は「ニトリ観光果樹園りんごジュース」。10時3分ごろ、藤井は席を外す。対局室は飲み物だけ運ばれるので、おやつを食べにいったようだ。 *ABEMAでは飯島八段がゲスト出演。銀鱗荘から小樽の様子などを伝えている。10時30分、佐々木の長考が1時間を超えた。控室では木村九段と飯島八段が、△4二金▲4七金△2七馬▲2四歩△同歩▲2九飛△1八馬▲2四飛△3三桂の進行を調べている。先手の飛車がさばけるけれど、後手の香得も大きい。難解だ。11時、佐々木は残り2時間30分になった。 *今期七番勝負での最長考は、第2局に佐々木が指した35手目▲4五銀の1時間57分。その記録を更新した。対局室の佐々木は大きく息をついて悩ましそう。まだ考えそうだ。佐々木は2018年12月の第77期順位戦C級2組の対井出隼平四段(現五段)戦で、昼食休憩を挟んで1手に3時間9分使った記録がある。井出五段は今日のABEMAの解説者だ。 *11時50分、佐々木の長考が依然と続いている。「30分以上の長考は悩んでいることが多い」ともいわれる。本局の佐々木の場合はどうだろうか。今日は東西の将棋会館で叡王戦や朝日杯、加古川青流戦という早指し戦が行われている。佐々木の長考中に対局開始から終局を迎えてもおかしくない。 *■ABEMA■ *井出隼平五段>△4二金に▲4七金としてみたいです。△2七馬で△2八馬▲6九飛△1八馬の香取りを狙われたときにどう攻めるかが焦点。▲2四歩△2八馬▲6九飛△2四歩▲6五歩といった攻めが考えられます。 *【2日目午前のおやつ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-ee89-2.html *【挑戦者の大長考】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-7fe1.html 66 3一金(32) (152:00/06:30:00) *12時1分、残り1時間30分を告げられた佐々木は2時間32分考えた末に△3一金を指した。佐々木は指したあとに棋譜用紙をのぞき込む。 *対藤井戦では、持ち時間を多く残そうと作戦を立てたり、序中盤を早めに指したりする棋士も多い。佐々木も知っているだろうが、それを度外視して納得いくまで考えたことにはすごみもある。とはいえ、残り時間差は2時間39分ある。藤井も長考派なので、これだけ自分のほうが持ち時間が多いのは珍しいだろう。 *ちなみに、53手目▲4五歩が指されたのが1日目の12時10分だった。昼食休憩や指し掛けを含むとはいえ、1日かけて13手しか進まなかった。あまりにも濃密。 *控室で検討されていた一例は▲4七金△2七馬に▲1四歩△2八馬▲6九飛△1八馬▲6五歩というもの。▲3三歩に△4二金のときも似たような指し方が出たが、先手は1筋〜4筋で小競り合いながら、反動で玉頭も絡めて攻めるのが一つの考え方になる。12時21分ごろ、木村九段が対局室に入る。藤井が28分使ったところで12時30分となり、昼食休憩に入った。消費時間は▲藤井4時間19分、△佐々木6時間30分。2日目の昼食は、藤井が「小樽産鰊そば(冷)」、「緑茶」。佐々木は「海鮮ちらし」、「緑茶」。昨日と逆の注文になった。13時20分ごろ、佐々木が戻ってきた。少しして藤井が対局室へ。すぐに前傾姿勢で熟考して休憩中の雰囲気には見えない。 *【2日目昼食休憩】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-7583-2.html *※局後の感想※ *△4二金なら▲4七金△2七馬▲2四歩△同歩▲2三歩が藤井の予定。以下、△3三桂▲同桂成(▲2二歩成は△2五桂の跳ね違いがある)△同銀▲5五桂△5四銀▲6三桂成△同銀▲2二歩成△同銀▲4五角△同馬▲同歩と進む。「▲4五同歩の局面は歩切れで手番を渡している」と藤井は自信がなさそうだった。ただ、▲4五同歩の局面で、△9五歩▲同歩△9八歩▲同玉△9七歩▲同玉△8六歩▲同銀△8四桂▲6五歩△8五桂打▲9八玉と進めるのは「あんまり攻めている感じがしない」と佐々木は話していた。 *なお、△2四同歩に▲2九飛△1八馬▲2四飛とさばくのは△3三桂で耐えていそうと佐々木。藤井も「(▲2二飛成と)竜を作るだけでは」と同調していた。 67 4七銀(56) (29:00/04:20:00) *13時30分対局再開。そこから1分ほどして藤井は▲4七銀とした。△2七馬に▲3八金を用意している。ただし、駒が下がるため▲4七金よりは穏やかな進行になりそうだ。 *■ABEMA■ *行方尚史九段>▲4七金との2択でしたが、▲4七銀が藤井調かなと思っていました。少しずつ模様をよくしていって、最後はいっぺんに寄せを狙う。 *【休憩中の対局室】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-eb76-1.html *【対局再開】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-2985-1.html *※局後の感想※ *佐々木は△3一金に▲4七金△2七馬▲6五歩△同桂▲6六銀の進行も読んでいた。△5四銀なら▲2四歩△同歩▲2九飛△1八馬▲2四飛の変化で4四銀が浮いているし、次に▲2二角もある。 68 2五馬(36) ( 3:00/06:33:00) *△2七馬▲3八金に△同馬▲同銀△2八金は飛車銀両取りでも、▲6九飛△3八金▲7五歩と転戦されて後手が悪い。角と金銀の2枚換えといっても、▲7五歩で▲7四歩△同金▲4七角の金の両取りを狙われて、3八の金が働かないばかりか攻撃目標にされてしまう。 69 1四歩(15) ( 0:00/04:20:00) *記録係の福田三段は1日目の朝からずっと対局室にいるが、ほとんど動かずじっといている。それでも、すぐに残り時間を告げるなどはしっかりこなす。気配を感じさせず、それでいて存在感がある。 *▲1四歩は58手目△1五歩からの動きを逆用する意図がある。 70 1五歩打 ( 0:00/06:33:00) *控室の窓からは小樽市の東側の様子が見える。函館本線は平磯岬を越えると、銭函駅まで石狩湾を沿うようにして線路が続く。「乗り鉄」で知られる藤井でなくとも、車窓を楽しみたくなる。 71 1三歩成(14) ( 6:00/04:26:00) *▲1三歩成はABEMAで行方尚史九段が示していた。△1三同香なら▲1二歩を狙える。△1三同桂なら△3三桂がなくなるため、4五桂や3三歩が安定する。後手からすると、厄介な駒を除去できない悔しさがある。 72 同 桂(21) ( 5:00/06:38:00) *△1三同香だと▲1二歩のほかに▲2九飛も有力だ。△4七馬▲同金△3八銀の飛車金両取りは、▲2三飛成△2二歩▲1二竜△4七銀成▲2三歩と反撃できる。▲1三歩成△同香とする効果で、▲1二竜と潜り込めたわけだ。 *しかし、△1三同桂だと3三歩を除去できない。それは、先手が4五桂と1三桂の差を主張しやすいというころでもある。 *※局後の感想※ *藤井は△1三同香でも自信はなかったという。ただ、以下▲1二歩△4二金▲1一歩成△3三桂▲1二との進行は後手が大変だった。 73 5六銀(47) (12:00/04:38:00) *出たり引いたり細かい応酬だ。66手目△3一金の局面と現局面の大きな違いは、後手の左桂が1三に動いたこと。71手目のコメントでも触れたが、佐々木は△3三桂と桂交換することができない。 74 5四銀(43) ( 4:00/06:42:00) *14時4分の着手。46手目△4三銀と銀が下がったことで、先手からは▲6五歩の玉頭攻めが切り札だった。△5四銀は▲6五歩に備えている。 *木村九段は「▲1五香でよければ指す手はわかりやすいですが。ほかに▲4七金や▲1四歩も考えられます。4五桂と3三歩の形が残って、先手は2五馬の圧迫感が薄れている気がします」という。先手は▲1五香や▲1四歩で桂を取れる格好なので、桂をうまく使えれば有利になりそうだ。 *14時40分ごろ、木村九段がABEMAにゲスト出演。ABEMA解説の行方九段とは1973年生まれの同学年の間柄だ。木村九段は「(66手目の長考は)△3一金と△4二金で迷ったのでしょうね。行方さんは昔に『長考に無駄な長考はない』という名言を残したことがあって、長考できない私にとって、とても格好いいなと思いましたよ。後手から攻めているのに押さえ込めていないので、佐々木さんのほうが指し手がわかりにくいだろうと予測できます。それが先々で苦しさになるかもしれません」と話している。行方九段も「バランスを保つのが難しそうですよね、時間がほしいなというところです」と同調する。 *【小樽の街(1)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-4613.html *【小樽の街(2)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-1f73.html 75 4七金(48) (58:00/05:36:00) *飯島八段と久津女流三段のオンライン大盤解説会が始まったころ、15時2分、藤井は58分の長考で▲4七金と前進する。2五馬の利きに入って味の悪さもあるが、金と銀を連結させるのが大事と判断した。これで△2六馬や(▲1五香と走ったあとの)△1五馬が金取りにならない。 *2日目午後のおやつは藤井が「ニトリ観光果樹園りんごジュース」、「ニトリ観光果樹園ぶどうジュース」。ジュース二つは、2日制対局の2日目午後における藤井の「定跡」。佐々木は「ココナッツのブランマンジェ」、「ホットコーヒー」。 *15時20分ごろ、佐々木は残り1時間となった。先手から▲1五香が権利だ。後手はいつ攻められても戦えるように、いい態勢を保たないといけないので、盤面的にも精神的にも負担が先手よりも大きい。それが残り時間の差に反映されている。佐々木は右手で扇子をギュッと握りしめる。 *■ABEMA■ *井出隼平五段>△2四馬は▲1五香が利きますね。△1八歩▲同飛△1七歩で、▲同飛なら△2五桂のつもりでしたが、▲2八飛△1五馬▲2三飛成と飛車を成り込めます。 *【第64期王位戦第3局 オンライン解説を配信中:北海道新聞デジタル】 *https://www.hokkaido-np.co.jp/article/881182/ *【2日目午後のおやつ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-4a35-2.html *【オンライン解説まもなく配信開始】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-1847.html *【勝負どころ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-75b7.html *※局後の感想※ *▲1五香も考えられた。(1)△1八歩▲同飛△1七歩なら▲同飛△2六馬▲1八飛△2七馬▲1九飛△2八馬▲4九飛△4六馬▲4七金△2四馬▲1三香不成△同馬▲4六歩の進行は先手十分。(2)△1七歩と控えて打つのは▲1三香不成△同香▲2九飛△2四歩が予想される。藤井は「ここで指す手がわからなかった」と述懐する。 76 2四馬(25) (39:00/07:21:00) *15時41分の着手。 *残り40分を切った佐々木は△2四馬。「▲3六桂のキズはありますが、やってみろということですね」と木村九段がいう。 *木村九段は継ぎ盤に▲1五香を並べている。以下、△1七歩に(1)▲1三香不成△同香▲3六桂と打てるが、簡単には決まらないという。そこで、△1七歩に(2)▲2九飛△1八歩成▲2四飛△同歩▲2三角を示す。▲3二歩成と▲3四角成の両狙いだ。ただし、先手は飛車を渡すと、後手から△6九飛〜△8六歩のように飛車を使った反撃がある。それを考慮して組み立てなければならない。相矢倉戦と違って角換わりは金銀2枚の囲いで戦うことが多く、反動が大きくなりやすいのだ。 77 1五香(18) (50:00/06:26:00) *▲1五香は最有力の手、というより、これ以上力をためる手も難しかった。50分の長考は先を読んでのものだろう。 78 1七歩打 ( 0:00/07:21:00) 79 1三香(15) ( 1:00/06:27:00) *席を外していた藤井は戻ってきて▲1三香不成。▲3六桂を狙うルートを選んだ。後手は△1三同馬だと△1八歩成が利かないし馬が使いにくい。 80 同 香(11) ( 0:00/07:21:00) *※局後の感想※ *△1三同馬は▲6七桂で▲7五歩を狙う。▲6七桂に△8六歩▲同歩△8五歩とするのは▲同歩と応じられて後手は反動が大きそうだ。 81 3六桂打 ( 2:00/06:29:00) *△3五馬▲4四桂△同馬と進むと、先手は香を桂と交換し、その桂を銀と交換する。わらしべ長者だ。最終的に1九香と銀を交換したことになるから効率はいい。ただし、後手もパンチを打たれながら手駒をたくわえつつ馬を好位置に移動できる。後手にも主張がある。 82 3五馬(24) ( 2:00/07:23:00) *△1八歩成も一考の余地があった。(1)▲6九飛ならそこで△3五馬。(2)▲2四桂なら△1八歩成▲3二桂成に△8六歩▲同銀△8三香といった要領だ。(3)▲4四桂△1九と▲3二歩成も考えられる。 *※局後の感想※ *△1八歩成は▲2四桂△1九と▲3二歩成△8六歩▲同銀△8三香▲3一と△8六香▲同歩△2四歩▲4一角が検討された。そこで、△8四桂(▲8四香△同飛▲5一角を防ぐ攻防手)は▲6七銀の味がいい。佐々木は「△1八歩成は▲4四桂もわからなかった」と話していた。 83 2九飛(19) ( 0:00/06:29:00) *後手が△3五馬だったので△1八歩成の直前に▲2九飛を際どく利かす。 84 2二金(31) ( 1:00/07:24:00) 85 4四桂(36) ( 2:00/06:31:00) 86 同 馬(35) ( 0:00/07:24:00) 87 4二銀打 ( 0:00/06:31:00) *△2二金によってできた空間に銀を打った。歩の支えがある3二を除けば、4二は後手陣で唯一駒を打ち込める場所だった。わずかな隙を突いた。 *▲4二銀の次に▲3一角が厳しいようだ。金取りだけでなく、▲5三銀成△同金▲同角成△同馬▲同桂成△同玉▲7二角と急所をえぐれる。 *死角を突いたことで後手に押さえ込まれる可能性はだいぶ減った。 *【ペースアップ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-e62d.html 88 8六歩(85) ( 3:00/07:27:00) *53手目▲4五歩で歩がぶつかってから、ほとんどの指し手は1筋から4筋のものだった。△8六歩は本局で初めて指された玉に直接響く攻めだ。つまり、流れが急になってきた現れである。 89 同 歩(87) ( 0:00/06:31:00) *△8六歩への対応は難しいもの。▲8六同銀だと、4四馬のラインが気になるとはいえ、藤井はためらいなく▲8六同歩と応じた。 *木村九段は△8五歩だと▲3一角△8六歩に▲8二歩があるという。△同飛は▲5三銀不成△同金▲同角成△同馬▲同桂成△同玉▲7一角となると王手飛車取りだ。佐々木は残り30分を切った。 90 1八歩成(17) ( 6:00/07:33:00) 91 6九飛(29) ( 2:00/06:33:00) 92 4一香打 ( 0:00/07:33:00) *△4一歩と打てるところで△4一香はひねった受け方だ。△8五歩を楽しみに残している。先手は▲6五歩と攻める手は有力。△同歩だと▲6四歩△同金▲5三銀不成の筋があり、後手は6四の歩を動かしにくい。 *藤井の手が止まった。77手目▲1五香に50分考えたあとは、最長の考慮が2分だった。直前の▲6九飛までは読み筋通りだったと思われる。 93 5一角打 (11:00/06:44:00) *藤井は▲6五歩以上に直接的に攻めていく。△5一同飛▲同銀不成△同玉の進行は、飛車と角銀の交換で先手が駒損なので意外性がある。 *■YouTube解説■ *飯島栄治八段>▲5一角に△5二玉は▲5三桂成△同馬▲同銀成△同玉▲3一角で攻めが続きます。以下、△4二歩▲7三角成△同金▲2二角成で先手よしです。 *※局後の感想※ *木村九段が▲6五歩を示すと、藤井は「あっ」と声を上げた。▲5一角や▲3一角を読んでいて、ここでの▲6五歩は気づかなかったようだ。 *▲6五歩に△4二香は▲6四歩△同金▲同飛とし、(1)△6三銀打は▲同飛成から攻めが続く。 *(2)△6三歩も▲7四飛△8三銀▲7三飛成△同玉▲5二金で、「後手がきつそうに見えます」と佐々木。 94 同 飛(81) ( 1:00/07:34:00) 95 同 銀(42) ( 0:00/06:44:00) 96 同 玉(62) ( 0:00/07:34:00) 97 8一飛打 ( 0:00/06:44:00) *ここ数手、王手攻撃が続く。先手陣は無傷で、玉の堅さにかなり差がある。また、後手は歩を温存したのに、強引に飛車を取られて△8五歩の攻めを封じられてしまった。佐々木は入玉含みに頑張りたい。 98 4二玉(51) ( 0:00/07:34:00) 99 9一飛成(81) ( 0:00/06:44:00) 100 5二銀打 ( 0:00/07:34:00) *この手で100手に達した。△5二銀までの消費時間は▲藤井6時間44分、△佐々木7時間34分。 *4一香を補強して佐々木は徹底抗戦の構えだ。後手は△7五歩▲同歩△7六歩▲同銀△5八角の飛車銀両取りが楽しみ。先手だけ調子よく攻めているようでも、持ち駒が香と歩だけでは簡単には決まらない。 101 8二竜(91) ( 8:00/06:52:00) *後手玉に狙いをつける。3三歩と連携して、▲2四歩△同歩▲2三歩△同金▲3二歩成△同玉▲5二竜の攻め筋もできた。 *※局後の感想※ *佐々木は「△5二銀で先手の手も見えにくいと思ったが、▲8二竜で▲2四歩や▲8四香を見せられて忙しくしたと思う。できれば△4三銀引や△3五歩を指したかった」という。藤井はこのあたりの攻め方について、後手玉が上に逃げ出した場合に1八のと金が働きそうなことを懸念していた。 102 7五歩(74) ( 6:00/07:40:00) *「▲5一角(93手目)は意外でした。後手の金銀の連携がもろいということでしょうか」と木村九段。△7六歩▲同銀△5八角の飛車銀両取りが見えている。受けるなら▲4八金だろうか。 *17時38分ごろ、藤井も残り1時間になった。左手で口元を押さえている。藤井の長考が続いて18時を回った。小樽はまだ明るい。日の入りは19時5分。「ずいぶん考えていますね。▲4八金とするでしょうか」と木村九段がいう。 *■ABEMA■ *行方尚史九段>佐々木七段はもともと強いですが、AI研究を深めて相掛かりのスペシャリストという印象です。AIを使っていますが独自の指し方も大事にしています。対振り飛車で袖飛車や天守閣美濃とかを指しているのが面白いなと思います。最終的には自分の力で勝負したいという若者だとみています。 *【好手と粘り強さ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-b20d.html 103 同 歩(76) (39:00/07:31:00) *堂々としたものだ。あえて△7六歩と攻めさせるとは。相手を歩切れにさせるのも大きいとみたようだ。後手からすると、前手コメントの狙いを実現できるので本命手ではないだろう。 *※局後の感想※ *佐々木は「△7五歩に▲9七玉が本命だった」という。藤井は「▲9八玉は考えたけれどいい感触ではなかった。ただ、本譜はやってはいけない順かなとも思ったので玉を動かしたほうがよかったかもしれない」と話していた。 104 7六歩打 ( 0:00/07:40:00) 105 同 銀(77) ( 0:00/07:31:00) 106 5八角打 ( 0:00/07:40:00) 107 6七飛(69) ( 0:00/07:31:00) *これで両取りは受かるが、後手の攻めが止まったわけではない。103手目▲7五同歩は攻めを引っ張り込むにしても、かなり大胆だった 108 6五歩(64) ( 0:00/07:40:00) *4四馬も攻めに連動させる。次に△6四桂もある。 *※局後の感想※ *△5五桂は▲同銀△同銀▲5六金のように局面をさっぱりされてしまう。 109 8七玉(88) ( 0:00/07:31:00) *藤井は馬の利きを避けつつ7六銀を支えて、△6六歩に▲6八飛と引けるようにしている。 110 6六歩(65) ( 5:00/07:45:00) *※局後の感想※ *自然な取り込みに見えるが、△6四桂も検討された。以下、▲4八金△6七角成▲同銀右△6六歩▲3一角と進み、(1)△5一玉は▲5三桂成△同馬▲同角成△同金▲3一角となると先手がよさそう。 *(2)△3一同玉は▲5二竜△4二飛に▲3二香△2一玉▲4二竜△同香▲4一飛△1二玉▲1一銀△1四香▲4二飛成で先手がよさそう。佐々木は「先手玉に詰めろもかからないので余されているか」と話していた。 111 6八飛(67) ( 0:00/07:31:00) *控室では△7六角成▲同玉△6四桂▲8七玉に△7六銀▲9七玉△5六桂▲同金△6七歩成や△5六桂▲同歩△6七銀が調べられている。 112 7六角成(58) ( 0:00/07:45:00) 113 同 玉(87) ( 0:00/07:31:00) 114 4三馬(44) ( 0:00/07:45:00) *△6四桂からの攻めが検討されていたが、佐々木は△4三馬。次に△6五銀▲同銀△同馬や△4五銀と桂を取りながらの王手が厳しい。4四でも働いていた馬のラインが変わるのは意外性があって受けにくい。また、馬を受けに利かして▲3一角△同玉▲5二竜の寄せを防いだ意味もある。 *佐々木が席を外すと、藤井は左手を口に当てて、大きく息を吐いた。103手目▲7五同歩からノータイムだった藤井の手が止まる。 *※局後の感想※ *佐々木は▲7六同玉の局面をしばらく考えて、「だめですね。何かありましたか」と藤井に尋ねた。「わかってなかったですけど」と藤井は答えていた。 115 4四香打 ( 6:00/07:37:00) *鋭い捨て駒の切り返しが出た。▲4四香は馬をしばりつけて△6五銀▲同銀△同馬を阻んでいる。相手の駒が動いた場所に駒を打つのは終盤で時折出てくる一つの手筋。駒を捨てて呼び戻すことで1手稼ぐ。とはいえ、角香歩の潤沢ではない持ち駒から香を捨てるのだから、寄せの構図を明確に描けていないと打てない手でもある。 *佐々木がうつむいている。そして、天を仰ぐしぐさ。 116 同 馬(43) ( 0:00/07:45:00) *ここで▲3一角が送りの手筋だが、△同玉▲5二竜△4三角が攻防手で△6五銀が厳しくなる。ここで後手玉への寄せがないと▲4四香は一時しのぎで終わってしまう。藤井の継続手は何か。 117 1一角打 ( 0:00/07:37:00) *盤の隅に打つのは気づきにくいが、金取りを受けて△2一金は▲3二歩成が王手馬取りで激痛だ。△3二同玉は▲5二竜と銀を取られてしまう。△2一香でも▲3二歩成で同じ要領でいい。 *▲1一角と打たれてみると、後手は金銀4枚に馬がいるのにいきなり受けにくくなってしまった。藤井が▲4四香から▲1一角のコンビネーションで攻守を入れ替えただけでなく、急所をえぐっているのだ。あっという間の出来事だった。 *18時33分、佐々木は残り10分になった。厳しさを理解してか苦しそうに身をよじる。 118 4五銀(54) (10:00/07:55:00) *△4三馬の攻防の王手を狙って粘り強い。 119 2二角成(11) ( 2:00/07:39:00) 120 3三馬(44) ( 0:00/07:55:00) *佐々木は△4三馬ではなく△3三馬を選ぶ。上部脱出を含みにした頑張りだ。しかし、▲3三同馬△同玉に▲4五歩や▲5二竜と駒を取られてしまう。後手玉が上に逃げようとしても、実際は4七金や6八飛というストッパーが強力で難しい。 *後手は△6四桂▲8七玉△7六銀と迫っても先手玉はまだ遠い。 121 同 馬(22) ( 2:00/07:41:00) 122 同 玉(42) ( 0:00/07:55:00) *佐々木は肩を落としてうつむく。 *控室は関係者がモニターを見守っている。 123 4五歩(46) ( 3:00/07:44:00) 124 6七銀打 ( 0:00/07:55:00) *対局室と控室が離れた場所にある。関係者が対局室近くの部屋に移動する。終局近しの雰囲気だ。 *とはいえ、それは外野の話。藤井は読み抜けがないように1手ごとに時間を使って慎重に考えている。最後までわからないのが将棋。 125 同 金(78) ( 3:00/07:47:00) 126 同 歩成(66) ( 0:00/07:55:00) 127 3二金打 ( 2:00/07:49:00) *十数手前は後手がどう先手玉に迫るかという局面だったのに、藤井が後手玉を詰ましに出ている。なんという変わり身の早さ。△2四玉は▲3三角△2五玉▲3六銀△2六玉▲2七銀打△1七玉▲1八飛の筋で詰む。4七金と6八飛がよく働いている。 *なお、▲2二銀だと△同玉▲5二竜に△3二角が逆王手でおかしくなる。▲3二金なら、△同玉▲5二竜のときに△4二角なら逆王手ではない。 128 同 玉(33) ( 0:00/07:55:00) 129 5二竜(82) ( 0:00/07:49:00) 130 4二歩打 ( 0:00/07:55:00) *(1)△4二角は▲4三銀△2二玉(△3三玉は▲4四角以下詰み)▲3一銀△同玉▲4二銀成△同香▲2二銀と豊富な持ち駒を使っていけば詰む。 *(2)△4二金は金の質駒が大きく▲4三銀から詰み。 *また、(3)△4二香打だと、▲4三銀△2二玉▲4二竜△同香▲3一角△同玉▲3三香△2二玉▲3二香成から2枚の銀を打っていけば詰み。 *本譜の(4)△4二歩は(3)の香を取られての詰みを避けたものだが。 131 3三銀打 ( 0:00/07:49:00) *藤井は鋭く攻めつける。身動きせず20秒ほど銀を打たれた局面を見つめていた佐々木は「負けました」とはっきり告げて頭を下げた。終局時刻は19時1分。消費時間は▲藤井7時間49分、△佐々木7時間55分。藤井が3連勝で防衛にあと1勝とした。第4局は8月15・16日に佐賀県嬉野市「和多屋別荘」で行われる。 *投了以下は△3三同玉に▲4四角△2四玉▲2五歩△1四玉▲1五歩△2五玉▲2六銀△1六玉▲2五銀打△2七玉▲3七金という筋で詰んでいる。 *※局後の感想※ *感想戦は20時30分に終了。佐々木は58手目△1五歩から動いたが、「馬が働いていない」と振り返っていた。代えて、△5四歩から△3三桂と桂をぶつけるほうが有力だったようだ。藤井は55手目▲4五同桂が予定変更だったこともあり、「自信がない気がする」と話した。 *109手目▲8七玉に△6四桂の変化も調べられたが、感想戦では後手が勝ちになる順は出てこなかった。佐々木は北海道新聞のオンライン大盤解説会に出演した際「△4三馬(114手目)の形にしたのはよくなかったが、先手の守りを削りにいくと▲3一角の筋も厳しいので△8一歩の犠打なども考えないといけなかったかもしれない。先手に角を渡すと▲3一角、桂を渡すと▲3六桂があって制約が多いと思った。実戦は▲4四香(115手目)から的確に応対された」と振り返っていた。 *【終局直後の様子】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-97fc-1.html *【感想戦の様子】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2023/07/post-a867.html 132 投了 ( 0:00/07:55:00) まで131手で先手の勝ち