# --- Kifu for Windows (Pro) V6.65.52 棋譜ファイル --- 対局ID:10814 記録ID:5f02c74de4ffac000452cdf8 開始日時:2020/07/13 09:00 終了日時:2020/07/14 19:40 表題:王位戦 棋戦:第61期王位戦七番勝負 第2局 戦型:相掛かり 持ち時間:各8時間 消費時間:144▲479△479 場所:北海道・ホテルエミシア札幌 備考:昼休前28手目27分\n2日目昼休前53手目56分\n封じ手時刻:18:00<40手目>\n 振り駒:なし 先手消費時間加算:0 後手消費時間加算:0 昼食休憩:12:30〜13:30 昼休前消費時間:28手27分 手合割:平手   先手:木村一基王位 後手:藤井聡太七段 先手省略名:木村 後手省略名:藤井聡 手数----指手---------消費時間-- *木村一基王位に藤井聡太七段が挑戦する第61期王位戦七番勝負は、挑戦者の先勝で幕を開けた。木村が勝ってタイにするか、藤井が連勝でリードを広げるか。第2局は7月13・14日(月・火)、北海道札幌市「ホテルエミシア札幌」で行われる。 *立会人は深浦康市九段、副立会人は野月浩貴八段、記録係は広森航汰三段(中座真七段門下)。2日目に開催されるオンライン解説会の聞き手は久津知子女流二段が担当する。 *対局開始は9時。持ち時間は各8時間。先手は木村。1日目18時の時点で手番の対局者が封じ手を行い、2日目に指し継がれる。 *13日、札幌市は雨の降る朝になった。8時43分、藤井入室。8時51分、木村入室。両者一礼し、木村が駒箱を開ける。駒を並べ終えると、藤井はグラスのお茶を飲んだ。 * *【お知らせ】 *本局は将棋連盟LIVE中継において動画配信を行います。Menuから「動画実験」を選択してご視聴ください。動画を消すにはMenuから「動画を消す」を選択してください。 * *※局後の感想※ *43手目、52手目、61手目、68手目、87手目、108手目、120手目、122手目、130手目、144手目に記載。 * *(棋譜・コメント入力=文) *[棋譜表示の*はコメント付きの指し手。#は局後の感想が追記された指し手] 1 2六歩(27) ( 0:00/00:00:00) *9時、深浦九段が「定刻になりました。木村王位の先手番で始めてください」と告げた。両対局者が頭を下げる。木村は盤上に手を伸ばすと、力強い手つきで歩を前に進めた。 2 8四歩(83) ( 0:00/00:00:00) *藤井はいつも通り、お茶を飲んでから盤上に手を伸ばした。関係者が対局室から退室する。控室では日本将棋連盟常務理事の鈴木大介九段が「木村さんは最近何を指しているんですか」。6月に指された順位戦B級1組の阿久津主税八段戦では相掛かりを指している。 * *【対局開始】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-75cb-1.html 3 2五歩(26) ( 1:00/00:01:00) *◆木村 一基(きむら かずき)王位◆ *1973年6月23日生まれ、千葉県四街道市出身。(故)佐瀬勇次名誉九段門下。1997年、四段。2017年、九段。棋士番号は222。 *タイトル戦登場は8回。獲得は王位1期。棋戦優勝は2回。 4 8五歩(84) ( 0:00/00:00:00) *◆藤井 聡太(ふじい そうた)七段◆ *2002年7月19日生まれ、愛知県瀬戸市出身。杉本昌隆八段門下。2016年、四段。2018年、七段。棋士番号は307。 *タイトル戦登場は2回。棋戦優勝は3回。 5 7八金(69) ( 1:00/00:02:00) *相掛かり志向の立ち上がり。2人の初手合いとなった第1局は角換わりだった。藤井が攻め、木村が受ける展開になり、藤井が細い攻めをつなげて押し切った一局である。流れとしては藤井が一方的に攻めて勝ったわけだが、攻めが切れたらそれまでという紙一重の勝負だった。 * *【第61期王位戦七番勝負第1局 ▲藤井聡太七段−△木村一基王位】 *http://live.shogi.or.jp/oui/kifu/61/oui202007010101.html 6 3二金(41) ( 0:00/00:00:00) *王位戦は新聞三社連合が主催する棋戦。予選の勝ち上がり者とシード棋士4人の計12人が紅白2つのリーグに分かれて戦い、各リーグの優勝者が挑戦者決定戦に進出する。王位と挑戦者は七番勝負でタイトルを争う。 *新聞三社連合は1950年に設立された団体で、中日新聞(東京新聞)、北海道新聞、西日本新聞のブロック紙3社が記事の相互利用などで連携している。現在は神戸新聞、徳島新聞が加わった5社で王位戦、女流王位戦、囲碁の天元戦を主催。タイトル戦では各主催新聞社の地元を転戦する。 7 3八銀(39) ( 1:00/00:03:00) *第2局は北海道新聞社が主催する。「どうしん電子版」では特設ページから王位戦に関する記事を読むことができる。本局の観戦記を担当するのは大川慎太郎さん。昨日の北海道新聞朝刊には、内田晶さんが執筆した佐々木大地五段−本田奎五段戦の観戦記が掲載されている。挑戦者決定リーグ紅組、若手対決の一局だ。 * *【第61期王位戦:北海道新聞 どうしん電子版】 *https://www.hokkaido-np.co.jp/61oui 8 7二銀(71) ( 1:00/00:01:00) *最近の相掛かりは飛車先交換を保留する順が主流になっている。現代相掛かりの基本図である現局面、木村は先手を持って10勝9敗、藤井は後手を持って15勝7敗の戦績を残している。 * *【開始直前の対局室】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-86dd.html 9 6八玉(59) ( 2:00/00:05:00) *モニターから高い駒音が響いた。藤井が腕組みをしてうつむく。玉の位置を決める▲6八玉。中住まいの▲5八玉に比べて、左金にヒモがついている点、堅い玉形を目指しやすい点が長所だ。反面、左辺を攻められたときに戦場が近い点が短所になる。 10 1四歩(13) ( 3:00/00:04:00) *相掛かりにおける端歩は角や桂が動ける場所を作って価値が高い。どこかで▲2四歩△同歩▲同飛と飛車先を交換されたときに、△2三歩と受ける一手にならないことがポイントだ。 11 9六歩(97) ( 5:00/00:10:00) *札幌市は北海道の道庁所在地であり政令指定都市。アイヌの人々が住んでいた蝦夷地が北海道と改称されて開拓使が置かれ、計画都市として整備された。札幌の名の由来は、アイヌ語の「サリ・ポロ・ペッ」(その葦原が・広大な・川)や、「サッ・ポロ・ペッ」(乾いた・大きな・川)とする説などがある。現在の人口は190万人を超え、名実ともに北海道の中心都市となっている。 * *【札幌市公式ホームページ - City of Sapporo】 *https://www.city.sapporo.jp/ 12 9四歩(93) ( 5:00/00:09:00) *対局場のホテルエミシア札幌は札幌副都心にある地上32階の高層ホテル。高層階にあるレストランからは街並みだけでなく豊かな自然を望むことができる。王位戦の開催は第59期七番勝負第3局以来。菅井竜也王位に豊島将之棋聖(肩書はいずれも当時)が挑戦し、豊島新王位が誕生したシリーズだ。 * *【ホテルエミシア札幌】 *http://www.hotel-emisia.com/ 13 3六歩(37) (18:00/00:28:00) *9時44分の着手。攻めを見据えるうえで欠かせない準備だ。次に▲3七桂と跳ねれば速攻向きの構えになる。手元のデータベース上で見つかる実戦例は1局。2020年3月に行われた▲永瀬拓矢二冠−△豊島将之竜王・名人戦(ヒューリック杯棋聖戦決勝トーナメント)だ。ここから△8六歩▲同歩△同飛▲3七桂△5二玉▲7六歩△同飛▲8二歩△8六飛▲8一歩成△同飛と進み、桂と歩2枚の交換になった。結果は先手勝ち。 14 8六歩(85) ( 0:00/00:09:00) *王位戦中継サイトには七番勝負の開幕事前特集として、両対局者の意気込みと観戦記者の藤本裕行さんによるシリーズの展望が掲載されている。木村は「挑戦者の気持ちで一生懸命やります」、藤井は「挑戦手合を自分自身が成長できる機会にしたい」と語っている。 * *【第61期王位戦七番勝負開幕事前特集|王位戦中継サイト】 *http://live.shogi.or.jp/oui/feature.html 15 同 歩(87) ( 1:00/00:29:00) *本局の模様はABEMAで中継される。1日目の解説は中川大輔八段と八代弥七段、聞き手は本田小百合女流三段と飯野愛女流初段。2日目の解説は郷田真隆九段と戸辺誠七段、聞き手は伊藤沙恵女流三段と和田あき女流初段。郷田九段は第33期の王位。四段で谷川浩司王位(当時)に挑戦し、王位を奪取した。和田女流初段は札幌市出身だ。 * *【ABEMA】 *https://abema.tv/now-on-air/shogi 16 同 飛(82) ( 0:00/00:09:00) *浮いた歩を狙えるタイミングで飛車先交換に出た。ここから▲8七歩△3六飛とかすめ取ることができれば成功だ。先手も8筋に歩を打たなければ△3六飛に▲8二歩の反撃が生じるので、できるだけ▲8七歩は保留したい。 *10時、午前のおやつが出された。木村はアイスコーヒー、藤井はフルーツ盛り合わせとアイスコーヒー。飲み物は対局室に、フルーツ盛り合わせは隣の和室に運ばれている。また両対局者の注文とは別に、地元北海道の和洋菓子店「北菓楼」から提供されたおやつが隣室に用意されている。 * *【1日目 午前のおやつ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-48ae.html * *【「北菓楼」のお菓子】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-cf68.html 17 2四歩(25) (29:00/00:58:00) *10時17分、木村が着手。前例から離れた。「難しい手順ですね」と野月八段。先に▲3六歩と突いた意図がはっきりしないという。ここから△同歩▲同飛△2三歩▲2六飛はオーソドックスな順だが、野月八段は「このタイミングで交換したということは▲2五飛もあるのかな。そもそも後手も△2三歩とは打たないかもしれないですね」と話す。 18 同 歩(23) ( 1:00/00:10:00) *対局前日の12日、両対局者は飛行機で北海道に向かい、新千歳空港から車で対局場のホテルエミシア札幌に移動。16時から予定されていた検分は両対局者がそろったことで早めに始まった。何度もタイトル戦を経験してきた木村だが、上位者として検分に臨むのはこの七番勝負が初めてになる。 *本局で使われる盤と駒は北海道支部連合会所蔵のもの。2組用意された駒を確認する段では、木村が駒を何度か盤に打ちつけて感触を確かめながら「うん、迷う」とつぶやく場面もあった。悩んだ末に木村が選んだのは竹風師作、錦旗書の盛上駒。2年前の第59期における北海道対局でも使われた。 *対局室の照明については木村から「やや暗い感じがする」と意見があり、追加したスタンドの間接光で明るさを調整することになった。光が駒に反射しないかどうか入念に確認が行われ、検分は15分ほどの時間を要した。 19 同 飛(28) ( 0:00/00:58:00) *検分終了後は木村と藤井にそれぞれ個別に記者会見が行われた。第2局の抱負について、木村は「第1局は負けてしまいましたが、スコアにかかわらず自分の力を出しきりたい」、藤井は「目の前の一局、一手一手に集中して、いい将棋をお見せできるように頑張りたい」と語った。 * *【前日記者会見(木村王位)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-40e2.html * *【前日記者会見(藤井七段)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-b0c4.html 20 2三歩打 ( 4:00/00:14:00) *6月24日、木村の王位獲得までの道のりを描いた『受け師の道 百折不撓の棋士・木村一基』が東京新聞から刊行された。著者は東京新聞文化部記者の樋口薫さん。連載「百折不撓の心」は北海道新聞にも掲載された。日本将棋連盟ウェブサイトのコラムでは樋口さんによる木村のインタビューを読むことができる。 * *【『受け師の道 百折不撓の棋士・木村一基』刊行記念 木村一基王位インタビュー 自粛期間をどう過ごしたか? 書籍の感想は?|将棋コラム|日本将棋連盟】 *https://www.shogi.or.jp/column/2020/07/tokyo-newspaper.html 21 2六飛(24) ( 0:00/00:58:00) *木村の今年度成績は4勝1敗(0.800)。 *通算成績は659勝381敗(0.634)。 *王位戦成績は89勝45敗(0.664)。初参加は第39期。第50期、第55期、第57期、第60期に挑戦権を獲得。豊島将之王位(当時)に挑戦した第60期はフルセットの末に王位奪取を決め、悲願の初タイトルとなった。46歳3ヵ月での初タイトル獲得は最年長記録。 22 8二飛(86) ( 7:00/00:21:00) *藤井の今年度成績は12勝2敗(0.857)。 *対局数はランキング1位、勝数は1位、勝率は7位タイ。 *通算成績は181勝34敗(0.842)。 *王位戦成績は14勝2敗(0.875)。初参加は第59期。今期は予選で竹内雄悟五段、西川和宏六段、出口若武四段、斎藤慎太郎七段(現八段)に勝って初の挑戦者決定リーグ進出。リーグ白組では羽生善治九段、上村亘五段、稲葉陽八段、菅井竜也八段、阿部健治郎七段に勝って全勝優勝。挑戦者決定戦で永瀬拓矢二冠を破り、王位挑戦を決めた。 23 8七歩打 ( 2:00/01:00:00) *先手の浮き飛車と後手の引き飛車という構図になった。部分的には飛車先交換保留の思想が出てくる前によく指されていた形だ。引き飛車は持久戦向きの構えなので、△6四歩〜△6三銀からじっくり駒組みを進める方針と相性がいい。 24 3四歩(33) ( 3:00/00:24:00) *立会人の深浦九段は王位3期の実績を持つ。第50期には木村の挑戦を受け、開幕3連敗からカド番を4連続でしのいで逆転防衛を果たした。副立会人の野月八段、解説会聞き手の久津女流二段、記録係の広森三段は北海道出身で今回の北海道対局とは縁がある。 * *【控室での深浦九段】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-e88e.html 25 3七銀(38) (21:00/01:21:00) *10時59分の着手。桂ではなく銀を活用して攻勢を目指す。角道を開ける▲7六歩を保留している点が珍しく感じられる。野月八段は「▲4六銀〜▲3五歩と早く動くか、▲4六銀〜▲3七桂〜▲4八金と組むか、相手の出方次第ですね。端歩を見ると先手だけ▲1六歩と突いていない分、銀の出足は早いんですけど、それでつぶれるかというとそうでもない。中原流は5八玉型ですが、本局は6八玉型なので違いがどう出るか。恐らく2人とも細かく計算しているはずです」と話す。中原流は中原誠十六世名人が得意にしていた相掛かりにおける急戦策。浮き飛車で中住まいに構え、▲3七銀〜▲4六銀と繰り出して積極的に攻める指し方だ。玉が薄いので指しこなすには力がいる。 *11時30分、対局室では藤井が脇息にもたれながら盤面を見つめている。序盤から一手一手が難しい相掛かりらしく、互いに時間を使う展開になった。 26 4四角(22) (47:00/01:11:00) *飛車取りに角を出た。先手が角道を開けていないことをとがめているともいえる。主張の強い手だ。当たりが強く目標にされる恐れもあるので、怖い面もある。野月八段は「▲3五歩か▲2八飛か▲2七飛か、3択ですね。▲2七飛は▲4六銀〜▲4五銀と角を追う方針なら、△5五角のときに▲3七桂を用意できます。角交換を視野に入れて指すなら▲2八飛です」と予想している。 *11時59分、木村は棋譜用紙を受け取って目を通す。「うーん」とうなる。 27 2七飛(26) (16:00/01:37:00) *三段目に引く。飛車が窮屈で働きが悪く見えるが、▲4六銀〜▲4五銀と角を追ったときに△5五角のラインを▲3七桂で受ける用意がある。「しかし昔の人が見たら『破門じゃ』といいそうですね」と野月八段。直感に反する手というわけだ。しかし、そうした選択肢を深い読みで支えるという戦い方は最近のトレンドでもある。深浦九段と野月八段は口頭で△8三銀▲4六銀△7四銀▲4五銀、△6四歩▲4六銀△6三銀▲4五銀といった順を検討している。「けっこう切羽詰まってますよね」と深浦九段。先手から角を攻めるという明確な狙いがあるので、後手もしっかりと対策を立てなければならない。野月八段は「今後の命運を握る局面かもしれません」と話す。先の△4四角で時間を使った藤井だが、ここでも長考になりそうだ。 *12時25分ごろ、藤井に続いて木村が席を立った。早めに休憩に入れたようだ。定刻までの時間は藤井の消費時間に加算される。12時30分、藤井が27分使って昼食休憩に入った。消費時間は▲木村1時間37分、△藤井1時間38分。昼食は木村が天丼とそばセット、藤井が中華セットランチ。対局は13時30分に再開される。 *13時30分、対局再開。藤井は脇息にもたれ、左手に持った閉じた扇子をくるりと回す。集中している様子がうかがえる。13時52分、「藤井七段、2時間使われました」の声。藤井はハンカチを取り出して目元を押さえてうつむく。目を休めているのだろうか。控室では深浦九段が封じ手用の封筒に対局場所などを書いて準備を進めている。14時3分、藤井の考慮時間が1時間になった。前日の記者会見で、木村が藤井の印象について「よく考える人」と話していたことを思い出す。 * *【1日目 両対局者の昼食】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-d2ad.html * *【1日目 対局再開】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-8ab6.html 28 6四歩(63) (85:00/02:36:00) *14時28分、藤井の手が動いた。じっくり構える方針である。先手からの攻めが見えているだけに、堂々とした手という印象だ。深浦九段は「(△6三銀〜)△5四銀までいけば」、野月八段は「△6五歩と伸ばすつもりなのかも」と話している。次は△6三銀と上がる一手、というわけでもないようだ。 29 4六銀(37) ( 5:00/01:42:00) *木村、初志貫徹で銀を繰り出す。藤井はどのように迎え撃つのだろう。深浦九段は「△6三銀▲4五銀△5五角▲3七桂に強く指すなら△3三桂ですが、▲3四銀△8六歩▲同歩△同飛▲7六歩のときにうまい返し技がないように見えます。バランスを取るなら▲3七桂のときに△2二銀▲3四銀△5四銀という順でしょうか。ここで△6三銀のほかに△6五歩もあります。どっちでしょうかね」と話す。 30 6三銀(72) ( 6:00/02:42:00) *自然な駒組み。角が狙われている状況だけに大胆でもある。次に△5四銀と腰掛け銀に組めれば角頭をカバーできて大きい。先手はここまでの方針に沿うなら▲4五銀だ。以下△5五角▲3七桂のとき、後手にどのような手段があるかが問題になる。 *14時57分、木村は天井を見上げて「そっか……」とつぶやく。 31 4五銀(46) (17:00/01:59:00) *「出た。そうでしょう」と野月八段の声。木村は昨日の宣言通りに積極性を出している。 *15時、午後のおやつが出された。木村は「あじさいゼリー」、オレンジジュース。藤井はショートケーキ、アイスティー。あじさいゼリーは北海道産の生クリームを使ったミルクプリンの上に、色鮮やかな紫色のゼリーがのった見た目もさわやかなスイーツだ。 * *【1日目 午後のおやつ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-d241.html 32 5五角(44) ( 9:00/02:51:00) *角をのぞいて切り返す。この角が負担になるようだと、ポイントを稼ごうと出た△4四角の構想が失敗だったということになる。2人の主張がぶつかっている。 33 3七桂(29) ( 4:00/02:03:00) *野月八段は「ここは4択でしょうか。△2二銀、△4二銀、△3五歩、△5四銀、どれも有力です」と話す。前の2つは▲3四銀に△3三銀とぶつけて反発する狙い。後ろの2つは五段目でいばる銀を消しにかかる意味だ。どれも激しい戦いになることが予想される。 34 3五歩(34) (18:00/03:09:00) *15時31分、藤井の手が盤上に伸びた。勢いをつける意味で、野月八段が挙げていた4択の中でも激しい選択肢である。狙いは桂頭に空間を作り、銀交換に持ち込んで△3六銀と打つような筋だ。先手は素直に▲3五同歩と応じれば、△5四銀▲3六銀△8六歩▲同歩△同飛▲7六歩△8八角成▲同銀△7六飛▲6六角が戦いの一例になる。「歩を取ればかなり激しくなります」と野月八段。これは一直線なので相当に先まで読めそうな変化だ。バランスを取るなら、▲5六歩で角を追ってから▲3五歩と手を戻す順も有力になる。こちらは▲5六歩△2二角▲3五歩△5四銀という進行がどうか。手順中△2二角では△3三角と引き、△2四角や△1五角の切り返しを見る選択もある。わずかな違いでその後の展開がガラリと変わる可能性があり、比較検討に神経を使いそうな順といえる。野月八段は「相掛かりは変化が一直線で深くなりやすい戦型ですが、1手進むと読むべき内容が大きく変わることも多い。それが延々と続いていくので大変です」と語る。 *16時20分、木村が長考に沈んでいる。扇子をぱたん、ぱたんと小さく開閉しながら盤面に集中している。時折、首をかしげる。「いやー」とぼやき、腕組みをして天井を見上げた。 35 5六歩(57) (63:00/03:06:00) *16時34分、木村が着手。選んだのは好位置の角を追う▲5六歩だった。圧力を緩和することはできるが、玉のコビンが開くので一長一短がある。後手は自陣の三段目と二段目、どちらに角を引くべきか悩ましい。 *控室には北海道新聞の夕刊が届いた。1面で大々的に今回の北海道対局を取り上げている。 36 2二角(55) (17:00/03:26:00) *相手の攻め駒から距離を取って深く引く。後手は大きな手損になっているが、手得が必ずしもプラスになるとは限らない。例えば、5筋の歩は突いていないほうが先手玉は安定している。 * *【羊ケ丘展望台(1)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-8eb0.html * *【羊ケ丘展望台(2)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-18f9.html * *【羊ケ丘展望台(3)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-1b6b.html 37 3五歩(36) ( 1:00/03:07:00) *角を追い払ってから手を戻しておく。ここで△5四銀のぶつけには交換を避けて▲3六銀と引くのがよい。銀交換になると△3六銀のキズが残ってしまう。 38 5四銀(63) ( 7:00/03:33:00) *ゴツンとぶつけた。いばっている銀に働きかける。交換を避ける▲3六銀には△8六歩▲同歩△同飛で△5六飛のさばきを狙う要領だろうか。後手は居玉のまま反撃に移ることになるが、玉が1手で動ける場所はどこも安全とはいいがたい。現状は居玉が安定した位置取りになっている。 *17時8分、木村が「いやー……」と大きなため息をついた。封じ手の時刻が近づいている。第1局は木村が封じた。本局はどちらが封じるのだろう。 39 3六銀(45) (25:00/03:32:00) *駒がぶつかったと思えばサッと離れる。第1局は封じ手で一気に終盤戦へと突入した。本局はじりじりとした展開になっている。ただ、ここから△8六歩▲同歩△同飛と動いてきたときに▲7六歩と角道を開けて決戦に入る可能性もある。野月八段は「▲7六歩か▲4六歩か……。▲7六歩は決戦になるのでお互い怖いです。▲4六歩は△5六飛▲4七銀△8六飛でどちらが得をしているのか難しい。先手としても5筋の歩が切れるのは悪い取り引きではないように思います。歩が残ったままのほうが嫌な形ですから」と話している。 *17時42分、記録係の広森三段が封じ手用の図面を作り始めた。藤井が広森三段に話しかけて何かを確認している。藤井にとって初めての封じ手になりそうだ。控室のモニターで藤井の様子を見た深浦九段は「手慣れてますねえ」と感心している。17時51分、深浦九段が封筒を持って対局室に入った。18時、封じ手の定刻になったことを深浦九段が告げる。藤井はうつむき、顔を上げて盤面を少しの間見つめてから、封じる意思を示した。封じ手に使った時間は33分。1日目の消費時間は▲木村3時間32分、△藤井4時間6分。18時7分、対局室に戻った藤井が封筒を木村に差し出したが、自分の署名を入れていなかったようだ。その場で藤井が署名する。改めて木村に封筒を渡し、木村が署名を入れる。木村から返された封筒を藤井が深浦九段に預けて、1日目が終了した。対局は14日の9時から指し継がれる。封じ手について、深浦九段と野月八段は△8六歩、久津女流二段は△7四歩、広森三段は△9五歩と予想した。 * *【18時すぎの対局室】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/18-ba30.html 40 8六歩打 (33:00/04:06:00) *14日、2日目の朝を迎えた。札幌市は晴れているが、空には雲が多い。8時43分、藤井入室。下座に着き、グラスに緑茶を注ぐ。8時51分、木村入室。駒を並べ終えると、広森三段が棋譜を読み上げて両対局者が1日目の指し手を再現していく。8時59分、深浦九段が「封じ手を開封します」と立ち上がった。盤の横に移動して封筒にはさみを入れ、図面を広げる。「封じ手は△8六歩です」と読み上げると、藤井が盤上に手を伸ばした。長机に戻った深浦九段が「それでは2日目、よろしくお願いします」と告げて、対局が再開された。 * *【封じ手開封】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-91fc.html 41 同 歩(87) ( 1:00/03:33:00) *本局では封じ手が3通作成されている。通常は2通だが、木村がチャリティー販売用にもう1通作ることを提案し、藤井も同意した。売り上げは豪雨の被災地に贈ることを想定しているという。封じ手がチャリティー販売されたケースは、竜王戦と名人戦でも例がある。 * *【開封された封じ手】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-0255.html 42 同 飛(82) ( 0:00/04:06:00) *2日目は15時から「どうしん電子版」でオンライン解説会が行われる。解説は野月八段、聞き手は久津女流二段。勝浦修九段門下の同門だ。 * *【第61期王位戦第2局 オンライン解説会:北海道新聞 どうしん電子版】 *https://www.hokkaido-np.co.jp/61oui/kaisetsukai 43 2六飛(27) ( 6:00/03:39:00) *9時9分の着手。飛車を浮いて銀にヒモをつけ、△5六飛に備えている。前日の検討では出ていなかった。藤井は棋譜用紙を受け取って目を通す。 *控室に戻ってきた深浦九段に、昨日の封じ手の場面について尋ねた。「慣例では封じ手をした側が封筒にサインしておいて相手に渡すのですが、藤井さんは上位者から先にサインを入れると思っていたようです。サインがないことに気づいた木村さんが、藤井さんに教えていました。対局相手ではありますけど、先輩として作法を教えるのは将棋界らしいですよね」 * *※局後の感想※ *ここで△5六飛は▲9七角△3四歩▲5七歩△9六飛▲8七金△5五角▲4八金△9七飛成▲同桂△1五角▲2七飛で後手自信なし。「それで端を入れたのね。私は単に取られる順を気にしていたので」と木村。 44 9五歩(94) (12:00/04:18:00) *藤井、端に手をつけた。すぐ本格的な攻勢に出なくても、突き捨てておけばあとで手が作りやすい。流れが急になってからでは手抜かれる恐れもある。昨日、封じ手の予想を聞いたときに記録係の広森三段が候補として挙げていた筋だ。「逆用される心配はあまりなさそうなので、あとで軌道修正もしやすいかなと思いました」とは広森三段の見解である。 45 同 歩(96) ( 8:00/03:47:00) 46 5六飛(86) ( 4:00/04:22:00) *歩を補充。端を絡めた手作りは歩の枚数が重要だ。ここから▲5七歩△8六飛▲8七歩△8五飛と進んだあとは△9六歩が手筋の端攻めで、▲同香は△8六歩▲同歩△同飛で香取りが受からず後手成功となる。 *9時45分、木村は口をへの字に曲げて盤面を見つめている。グラスから緑茶を飲む。脇息にもたれ、額を押さえてうつむいた。10時、午前のおやつが出された。木村はアイスコーヒー、藤井はミニクリームどら焼きとアイスコーヒー。 * *【2日目 午前のおやつ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-66ed.html 47 8七歩打 (26:00/04:13:00) *10時1分、木村が着手。5筋にいる飛車は追わず、△8六飛を消した。これで後手の飛車が8筋に戻るには△5五飛〜△8五飛のルートになるため、△8六飛を許す場合に比べて飛車の引き場所を限定している意味がある。細かい。野月八段は「収まるから長くなりそうですね」と話している。 48 9六歩打 (21:00/04:43:00) *9筋を押さえる。現状は飛車が利いているが、横利きがそれても香が浮き駒になると格好の目標になってしまうため、▲5七歩△5五飛のときに▲9六香とは取りにくい。先手は△5五飛〜△9五飛を甘受して、別方面で主張していくことになりそうだ。深浦九段は「指された手に対応するという、木村さんの得意なペースではありそうですよね」と話す。 * *【プレミアム】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-e5c4.html 49 5七歩打 (12:00/04:25:00) 50 5五飛(56) ( 0:00/04:43:00) 51 9六香(99) ( 4:00/04:29:00) *10時40分、木村は力強い手つきで歩を取った。「しなってるねえ」と野月八段の声。香が標的になる恐れもあるが、堂々としている。ここで△8五飛には▲9七角で狙い筋の△8六歩を受けるのが一案だが、「そこで時間差で△9五香もあるかもしれませんね」と深浦九段。後手は香をさばけそうだが、香の使い道は▲5六香など先手に楽しみが多い点をどう見るか。いずれにせよ、このまま収まると先手にだけ2歩得という主張が残るので、後手は動いて成果を求めたい。野月八段は「動いているのか、動かされているのか」、深浦九段は「現状は木村さんのペースだと思います」と話している。 *11時30分、藤井は扇子を小さく開閉しながら盤面に集中している。ハンカチを顔に当ててうつむく。 52 8五飛(55) (53:00/05:36:00) *11時33分の着手。53分の長考だった。次に△8六歩▲同歩△同飛を許してはまずいので、どう受けるか。直接受ける▲9七角のほか、▲7六歩も考えられる。以下△8六歩には▲2二角成△同銀▲7七桂△8二飛▲8八銀と8筋を受けてどうか。「こっちを収めてしまえばという順ですけど、怖いですね」と深浦九段。後手は△7四角や△8七歩成から猛攻に出てくる可能性がある。攻めを呼び込んで迎え撃つ順は木村らしいが、失敗すれば目も当てられない結果が待っている。しっかりと読みの裏づけを取らねばならない。 *12時5分、木村は顔を上げて「うーん」とうなる。進んだ手数は短いが、読むべき変化が多い。相掛かりの特徴ともいえるが、濃密な戦いである。12時25分、木村が記録係に話しかけてから席を立った。早めに休憩に入れたようだ。12時30分、木村が56分使って昼食休憩に入った。消費時間は▲木村5時間25分、△藤井5時間36分。昼食は木村がビーフシチューセットランチ、藤井がビーフステーキカレーセットランチ。対局は13時30分に再開される。 * *【2日目 両対局者の昼食】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-a5bb.html * *※局後の感想※ *深浦九段が「▲7六歩はないですか」と話しかけると、木村は「よほど突きたかった」。以下△8六歩▲2二角成△同銀▲7七桂△8二飛▲8八銀△8七歩成▲同金△8六歩▲9七金△5五角がどうか。木村は手順中△8七歩成に代えて△7四角のラインで香を取られる順で自信が持てなかったという。 53 9七角(88) (62:00/05:31:00) *13時30分、対局再開。木村は口元に手を当てて険しい表情でうつむいている。この▲9七角は13時36分の着手だった。後手の狙い筋に対応した受けだ。 * *【2日目 対局再開】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-f312.html 54 4二銀(31) ( 3:00/05:39:00) *じっと自陣に手を入れる。玉頭を補強して大きな手だ。次に△9五香を楽しみにする。深浦九段は「▲8六角と上がる手はありそうですね。あとは▲4八金と上がって△9五香▲同香△同飛▲2九飛ですか。これもありそうです」と話す。前者は9筋に数を足して動きを封じようという受け。後者はじっくり態勢を整える方針で、好機に▲2六香を狙う。 55 4八金(49) (12:00/05:43:00) *じっくり路線の金上がり。桂にヒモをつけて△5五角の飛び出しに備えている。「これは長いですね」と深浦九段。 56 9五香(91) ( 5:00/05:44:00) 57 同 香(96) ( 3:00/05:46:00) *藤井が席を立っている間に指された。少しして藤井が対局室に戻ってくる。「指されました」の声にうなずく。 58 同 飛(85) ( 1:00/05:45:00) *ひとまず後手は香をさばくことに成功した。攻め駒と守り駒の交換は攻撃側が有利とされるが、現局面は後手有利ともいいきれない。先手玉は端から遠い位置にいるし、▲5六香や▲2九飛〜▲2六香と使い方を考える楽しみが多いのは先手である。 59 8八銀(79) (10:00/05:56:00) *渋い陣形整備が続く。残り時間は両者とも2時間ほど。約4分の3を使ってまだ本格的な戦いが始まっていない。序盤から一手一手が難しい相掛かりではよくあることだが、研究範囲で時間を使わないスタイルが増えてきた最近では珍しいスローペースだ。6月に行われた名人戦七番勝負第2局は、2日制の対局で相掛かりかつ前例のない戦いと本局とは共通点が多いが、1日目から戦いに入っていた。対局者の棋風が影響しているのかもしれない。 *深浦九段は「角を動きやすくしたということですかねえ」とモニターを見ている。角が動いて9筋が素通しになっても、△9八飛成には▲9九香△8九竜▲7九金で竜を捕獲することができる。 *14時35分、藤井が盤側の広森三段に話しかけた。空調の温度を下げてほしいという要望だったそうだ。 60 9六飛(95) (41:00/06:26:00) *14時54分、藤井の手が動いた。じりっと1マス動いて横利きで3筋の銀をにらむ。興味深い着想だ。すんなり▲2九飛と引けないようにしている。先手は攻めの主役である飛車の動きが制限されたままでは窮屈だが、▲8六角は飛車先が素通しになるし、▲8六歩は△9四飛と引かれて角が使いにくい。横利きの止め方が難しい。 *15時、午後のおやつが出された。木村はフルーツ盛り合わせとコーラ、藤井はオレンジジュース。藤井はさっそくジュースを飲む。15時13分、藤井が席を立つと、木村が「いやー」とぼやいた。 * *【2日目 午後のおやつ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-b560.html 61 8六角(97) (28:00/06:24:00) *飛車と角の接近戦。次に▲9七香で飛車を捕獲する狙いがあり、飛車を近づけた手をとがめにかかっている。「攻める受け」と評される木村の持ち味が出た一着といえる。道をどうぞと開けるだけにぎょっとするが、△9八飛成には▲9七桂と閉じ込めて▲9九歩△8九竜▲7九金で竜の捕獲を狙える。手順中▲9七桂ではなく▲9九香△8九竜▲7九金で捕獲するのは、△7六桂▲同歩△8八竜▲同金△同角成と攻め込まれる筋があった。「飛車を成れないとちょっと嫌ですね」と深浦九段。ここで△9二飛と引くのでは、先の△9六飛が1手パスになってしまう。 *15時55分、藤井が30分ほど使っている。まもなく残り1時間を切る。 * *※局後の感想※ *「これくらいかと思った。評判悪かった?」(木村) *「評判よかったです」(深浦九段) *「よかったですか」(木村) 62 9八飛成(96) (37:00/07:03:00) *敢然と飛び込んだ。手の流れとしては成れないとおかしい。だが、竜を捕獲する筋があるので怖い。ここ数手の応酬は2人の読みがぶつかっているのか、それともかみ合っているのか。木村は眉間にしわを寄せ、険しい表情で盤面を見つめている。 63 2九飛(26) ( 1:00/06:25:00) *竜を閉じ込める▲9七桂ではなかった。が、この飛車引きも厳しい狙いを秘めている。横利きで桂を守りながら敵陣と距離を取って、次に▲9九香と▲2六香が狙える形になっている。後手は竜を取られるわけにはいかないが、△9二竜は▲2六香のときに受け方が難しい。深浦九段は「木村王位がペースを握りました」ときっぱり。後手にピンチをしのぐうまい手順はあるか。 *16時15分、広森三段が残り時間を示す早見表の数字を消すと、藤井がハッとそちらを向いた。盤に向き直ってうつむく。木村は閉じた扇子を太ももの上に立てて、その上で頬杖を突いている。藤井はうつむくことが多くなった。時折、顔をしかめる。 64 9二竜(98) (34:00/07:37:00) *16時36分、藤井が着手。残り時間は23分になった。木村はまだ1時間半以上残している。 65 2八香打 ( 4:00/06:29:00) *単刀直入に数の攻め。単純だが、後手は2筋を守る手段がない。 66 3三銀(42) ( 3:00/07:40:00) *銀を上がって竜の横利きを通したが、▲2三香成で2筋が破れている。後手は飛車取りに打つ△2四香で切り返してどうか。以下▲同成香△同銀▲同飛△2三香▲3四飛△3三歩で飛車を捕獲できる。深浦九段は「先手がいいと思いますが、飛車を渡すので嫌なところもあります。後手は竜の守備力に期待ですね」と話す。 *17時1分、木村が「この手は何分ですか」と尋ねる。「17分です」と広森三段。 67 2三香成(28) (18:00/06:47:00) 68 2四香打 ( 0:00/07:40:00) *藤井は指して肩を落とすようにしてうつむく。必死の防戦。タダのようでも、▲2四同成香△同銀▲同飛△2三香は飛車が手に入る形になる。手番を得て△2八飛や△2九飛と打てば先手玉に嫌みをつけやすい。 * *※局後の感想※ *ここで▲2四同成香△同銀▲同飛△2三香▲3四飛△3三歩▲5四飛△同歩の変化について、木村は「どう寄せるかわからなかった。理論上いいのかな、チャンスはあるかなと思ったけど難しいですよね」と話した。 69 2五歩打 (21:00/07:08:00) *17時25分、木村の手が駒台に伸びた。香を取らない。これは△2三金▲2四歩△同銀で後手も形は歪むものの、2筋突破を受けることができる。先手も飛車を渡さないので、リスクを抑えて攻めを組み立てられるという利点はある。 70 2三金(32) ( 0:00/07:40:00) 71 2四歩(25) ( 0:00/07:08:00) *一度は後手陣を食い破ったインパクトに比べるとおとなしい攻めになったが、△2四同銀に▲2八香や▲5六香が有力な攻め筋になる。 72 同 金(23) ( 8:00/07:48:00) *金で応じた。形でいえば△2四同銀だったが、▲2五歩と押さえられたときに当たりが強くなることを嫌ったのだろう。 73 2五歩打 ( 4:00/07:12:00) *構わず▲2五歩と打つ。先手の攻めはわかりやすく確実だ。後手は勝負に持ち込む順を探したい。 *17時41分、藤井は残り10分になった。「50秒、残り10分です。55秒」と秒読みが始まっている。 74 2八歩打 ( 2:00/07:50:00) 75 同 飛(29) ( 1:00/07:13:00) 76 2七歩打 ( 0:00/07:50:00) 77 同 飛(28) ( 0:00/07:13:00) 78 1五金(24) ( 0:00/07:50:00) *連打で飛車を近づけてから金を逃げる。次に△2六香と打てば飛車を取れる形だが、▲1六歩と突けば金取りかつ飛車の逃げ場所も確保できる。以下△2六香▲1七飛△2八香成▲1五歩△同歩▲4五桂△4四銀▲4六歩△2七歩でどうか。深浦九段は「2通りですね。▲2九飛と引いて△2六香に▲2七香と受けるか、▲1六歩か」と話す。すぐ金が取れるのは▲1六歩だが、後手も飛車を包囲して嫌みをつけてくる。 79 1六歩(17) ( 9:00/07:22:00) *17時56分、モニターからバチッという駒音が響いた。強く金を取りにいく方針だ。 80 2六香打 ( 0:00/07:50:00) 81 1七飛(27) ( 0:00/07:22:00) *金を取りきって後手の手段を見切ってしまえば早い勝ちにつながる。木村はあごを引いて盤面をにらむ。藤井が天井を見上げる。 82 2八香成(26) ( 0:00/07:50:00) 83 1五歩(16) ( 0:00/07:22:00) *これで先手の金得。木村はグラスから緑茶を飲む。 84 同 歩(14) ( 0:00/07:50:00) *じっと歩を取って、飛車に「詰めろ」がかかった。後手は先手を焦らせてアヤを求めたい。 85 4五桂(37) ( 0:00/07:22:00) *飛車の逃げ道を作りながら後手陣に迫って一石二鳥。木村は席を立つ。 86 4四銀(33) ( 0:00/07:50:00) *後手は苦しいが、△2七歩〜△1六歩を夢見て頑張る。藤井が席を立つ。入れ替わりに木村が戻ってくる。「指されました」の声に「はい」と答えた。 87 6四角(86) ( 4:00/07:26:00) *18時6分の着手。急所の玉頭に数を足しながら、成香取りにもなっている。 * *※局後の感想※ *代えて▲4六歩と突き、△2七歩▲同銀も有力だった。木村は「こうかー、なるほどね。本譜もなんとかなってるかと思ったけど」と話した。 88 4五銀(54) ( 0:00/07:50:00) 89 同 銀(36) ( 0:00/07:26:00) *木村は指して顔をしかめ、首をかしげる。銀を取る△4五同銀に▲5三角成と馬を作れるが、△5二金のときに一気に決める順があるかどうか。 90 同 銀(44) ( 0:00/07:50:00) 91 5三角成(64) ( 1:00/07:27:00) *力のこもった手つきだった。藤井は頭を押さえ、天井を見上げる。 92 5二金(61) ( 1:00/07:51:00) *「焦らずにいくなら▲5四香、寄せありと見れば▲6三金ですね」と深浦九段。前者は△5四同銀▲同馬△5三歩▲4五馬で少しずつリードを広げる方針、後者は△5三金▲同金で一気に追い込む。後手は持ち駒から金がなくなると受けにくい。いずれも形勢は先手優勢と見られている。 *18時15分、「木村先生、残り30分です」の声。木村は「はい」とはっきりした声で答えた。 93 9三歩打 ( 6:00/07:33:00) *技を使う。居玉の後手は馬との取り合いにはできない。竜の横利きがそれると自玉が危ない。かわす手が本命だが、△8二竜は▲7一銀、△7二竜は▲5四香△同銀▲同馬で竜に当たってくる。好タイミングという印象だ。 *18時22分、藤井の手が止まっている。うつむいて首を振る。 94 同 桂(81) ( 4:00/07:55:00) *竜の働きが弱まり、桂が受けに利かなくなった。先手が細かくポイントを稼いでいる。木村は「いやあ」とぼやき、扇子で後頭部をポンとたたく。 95 6四馬(53) ( 5:00/07:38:00) *落ち着いて当たりをかわす。次は攻めるなら▲5三香や▲7三馬、受けるなら▲2八馬がある。 96 6二竜(92) ( 1:00/07:56:00) *竜を活用して受ける。馬に当てて余裕を与えない。 97 6五香打 ( 2:00/07:40:00) *馬にヒモをつけながら▲6三銀の数の攻めを狙う。木村が席を立つと、藤井は天を仰いで膝をパシンとたたいた。 98 6三歩打 ( 0:00/07:56:00) *「敵の打ちたいところに打て」で必要な受け。ここで▲2八馬と引けばいったん仕切り直しになる。木村が戻ってくる。「指されました」に「はい」と低い声で答えた。しばらくして「そうか」とぼやいてうつむく。控室では深浦九段が「ひょっとして決めようとしてますか。▲4二銀△同金▲6三馬で。ちょっと渡しすぎのような気もしますけど」と話している。 99 4二銀打 ( 5:00/07:45:00) *木村は「そっか」とつぶやき、ふっと天井を見上げてから銀を手に取った。「いった」と深浦九段の声。決めにいっている。 100 同 金(52) ( 0:00/07:56:00) 101 6三馬(64) ( 0:00/07:45:00) *金を引き離して薄くなった地点に突っ込む。先手の攻め駒は△6三同竜▲同香成で3枚。挟撃を目指せる形だが、寄せきれるかどうかはギリギリの線だ。 102 同 竜(62) ( 0:00/07:56:00) 103 同 香成(65) ( 0:00/07:45:00) *後手玉は▲6一飛以下の詰めろ。ここで△6一歩なら▲3二飛が厳しい寄せになる。 104 4四角(22) ( 0:00/07:56:00) *角を利かせて▲6一飛△同玉のときに▲6二金の詰みを防いだ。「ただ、▲3一飛と打てるようになっていますね」と深浦九段。「先手玉に詰めろがこないので、手勝ちのような気がします」と話す。 105 3一飛打 ( 3:00/07:48:00) *木村は指してグラスの緑茶を飲む。角が動いたことで生じた飛車打ち。何を合駒しても▲2一飛成〜▲3三桂がきつい。藤井がうつむく。 106 4一銀打 ( 0:00/07:56:00) *銀合いを選択。18時51分、木村は残り10分になった。秒読みについて尋ねられ、「50秒だけ読んでください」と答える。 107 2一飛成(31) ( 3:00/07:51:00) *桂を補充。戦力を増やしながらの寄せなので、攻めが切れる心配がない。 108 6二歩打 ( 0:00/07:56:00) *攻め駒に当ててプレッシャーをかける。「▲7二成香と入るんですかね。なかなかほどけません」と深浦九段。先手は自玉に余裕があるので、確実な攻めを心がけたい。どこかで▲4六歩が飛車の横利きを通しながらの攻めで味がいい。 *18時59分、木村も残り4分になった。 * *※局後の感想※ *ここで▲7二成香が有力だった。「成香。桂馬(▲6四桂)がきついのか。そうですか。なるほどね。(本譜は)成香が消えてますからね。そっかあ」(木村) 109 4六歩(47) ( 5:00/07:56:00) *成香の態度を決めずに歩を突き出した。応手を見て成香の処置を考えるつもりだろう。「55秒」の声に藤井の手が出ない。しばらく1分未満で指し続けてきた藤井だが、残り少ない時間を使った。 110 同 銀(45) ( 1:00/07:57:00) *藤井の着手を見た木村は「30秒から読んでください」と広森三段にいう。 111 5四桂打 ( 2:00/07:58:00) *銀を引きつけて生じた隙に桂を打つ。後手は成香を外すしかない。 112 6三歩(62) ( 0:00/07:57:00) *金をはがせるのは大きいが、盤上から攻め駒が減ることは不安要素でもある。 113 4二桂成(54) ( 0:00/07:58:00) 114 同 玉(51) ( 0:00/07:57:00) *深浦九段は▲4五金を予想している。「角を外そうということでしょうね」。現状は角が攻防に利く大きな駒だ。 115 3四金打 ( 0:00/07:58:00) *後手玉に近い位置で押さえた。次は角を取る▲4四金だけでなく、▲4三金と迫る手もある。 116 3二銀打 ( 0:00/07:57:00) 117 4四金(34) ( 0:00/07:58:00) 118 同 歩(43) ( 0:00/07:57:00) *後手玉に▲3一角△5一玉▲4二金から寄せがあるようだ。 119 3一角打 ( 0:00/07:58:00) 120 5二玉(42) ( 0:00/07:57:00) *藤井、滑らせるようにして玉を寄せた。あえて角の利きに近い位置に逃げるのでハッとする。 * *※局後の感想※ *ここで▲4二金と打つのだった。以下△6二玉▲3二金△2六角▲4一金△4八角成▲7九玉△5七銀不成▲9七銀△9八金▲3二竜△5二歩▲5一銀△6一玉▲7二銀△同玉▲5二竜△8三玉▲5七飛は先手が残している。後手玉に迫りながら先手玉が安全になることが大きい。 121 1一竜(21) ( 0:00/07:58:00) *大きなくさびを入れてから冷静に竜を逃げておく。 122 5三香打 ( 0:00/07:57:00) *「敵の打ちたいところに打て」で玉頭を守りつつ、先手玉をにらんでいる。迫力のある攻防手だ。 *19時16分、木村は一分将棋に入った。 * *※局後の感想※ *「香車がぴったりで。わけわかりませんでした」(木村) 123 7九玉(68) ( 1:00/07:59:00) *早逃げで王手がかかる形を避ける。後手に再び手番が回った。 124 2六角打 ( 0:00/07:57:00) *飛車と金の両取り。玉を引いて飛車で王手がかかりやすくなった直後なので、嫌みな手だ。 125 4二歩打 ( 0:00/07:59:00) *木村、やや慌てたような手つきで歩を打った。次に▲4一歩成と銀を取っても王手にならないので怖い形だ。 *19時21分、藤井も一分将棋に入った。グラスの緑茶をグイッと飲み、盤に向かう。 126 4八角成(26) ( 2:00/07:59:00) *金を取って迫った。先手玉が詰めろになっているかどうか、後手玉が▲4一歩成で詰めろになるかどうか。際どい終盤戦になった。 127 4一歩成(42) ( 0:00/07:59:00) *後手玉はすぐ詰むようで、竜を働かせる手段が難しいので意外に詰み筋が見えない。 128 5七銀(46) ( 0:00/07:59:00) *先手玉は△6八金からの詰めろ。後手玉を詰ますか、それとも受けるか。 129 9七銀(88) ( 0:00/07:59:00) *銀を上がって退路を開く。「後手玉を詰ますための駒になる可能性もありますね」と深浦九段。木村はハンカチを口元に当てている。 130 9八金打 ( 0:00/07:59:00) *挟撃して先手玉を追い込む。先手は受けるなら▲6九香だろうか。 * *※局後の感想※ *ここで▲5六香は、△同香▲5一と△6二玉▲6一と△7二玉▲7一と△6二玉で連続王手の千日手の筋があり、後手は際どくしのいでいる。木村は「負けかあ。……負けか。そうですか」とぼやいた。 131 5一と(41) ( 0:00/07:59:00) *「△4三玉には▲4二角成がありますね。△同玉は▲3三金があるので△5四玉ですが、▲3二馬でボロッと1枚取れます」と深浦九段。後手玉は右辺に逃げるのがいいようだ。 132 6二玉(52) ( 0:00/07:59:00) 133 5二と(51) ( 0:00/07:59:00) *と金を引く。ここで△5二同玉は▲5六香が攻防になる。「玉が5二にいるうちに▲5六香と打ちたかった」と深浦九段の声。 134 7二玉(62) ( 0:00/07:59:00) *大駒から遠ざかっていく。木村は口を押さえ、頭に手をやる。 135 6二と(52) ( 0:00/07:59:00) *と金の押し売り。先手は竜が使える形にしたい。 136 8三玉(72) ( 0:00/07:59:00) *どんどん逃げ出す。後手玉は上部が広い。 137 6九香打 ( 0:00/07:59:00) *後手玉を追ってから自陣に手を戻した。 138 5六桂打 ( 0:00/07:59:00) *数の受けには数の攻め。先手玉は受けが難しい。木村が頭を抱えた。深浦九段は「△5二玉(120手目)がすごい手でしたね」とつぶやいてモニターを見つめている。 139 7二銀打 ( 0:00/07:59:00) *「後手玉は詰まないですね」と深浦九段。木村は銀を打ち、腕組みをしてうつむく。 140 8四玉(83) ( 0:00/07:59:00) 141 7五金打 ( 0:00/07:59:00) *狙いは△7五同玉に▲5三角成。王手で角が使えれば、竜も攻めに参加できそうだ。 142 同 玉(84) ( 0:00/07:59:00) *木村はため息をつく。藤井はじっと盤面を見つめている。 143 5三角成(31) ( 0:00/07:59:00) *木村は着手して緑茶を飲んだ。表情が硬い。 144 6五玉(75) ( 0:00/07:59:00) *横にかわして広い場所を目指す。木村は秒を読まれ、「負けました」と頭を下げた。後手玉に詰みはなく、先手玉は適当な受けがない。投了した木村は遠くに目をやる。重い沈黙が2人を包む。終局時刻は19時40分。消費時間は両者7時間59分。藤井が土俵際で体を入れ替え、際どい終盤戦を制した。七番勝負は挑戦者が2連勝。第3局は8月4・5日(火・水)、兵庫県神戸市「中の坊瑞苑」で行われる。 * *【お知らせ】 *本局は北海道新聞・東京新聞・中日新聞・神戸新聞・徳島新聞・西日本新聞の各紙上において、大川慎太郎さんによる観戦記が掲載されます(9月16日〜9月27日)。詳しくはそちらも合わせてご覧ください。 * *【終局直後】 *https://kifulog.shogi.or.jp/oui/2020/07/post-bb10.html * *※局後の感想※ *木村の▲8六角(61手目)が好手。藤井は▲2九飛(63手目)で「収拾がつかなくなってしまった」と振り返る。木村優勢で迎えた終盤、▲5四桂(111手目)は明快な寄せとはいえなかったが、△5二玉(120手目)に▲4二金から追い込んでいれば先手が残していた。本譜は△5三香(122手目)の攻防手が入って先手の指し手が難しくなり、藤井の逆転につながった。 145 投了 ( 0:00/07:59:00) まで144手で後手の勝ち