# --- Kifu for Windows (Pro) V6.60 棋譜ファイル --- 対局ID:2821 記録ID: 開始日時:2014/05/26 10:00 終了日時:2014/05/26 18:51 表題:王位戦 棋戦:第55期王位戦挑戦者決定戦 持ち時間:各4時間 消費時間:78▲221△213 場所:東京・将棋会館 手合割:平手   先手:千田翔太 後手:木村一基 先手省略名:千田 後手省略名:木村 手数----指手---------消費時間-- *羽生善治王位への挑戦を目指す第55期王位戦は、いよいよ挑戦者決定戦を迎える。挑戦者決定リーグを勝ち抜き挑戦者決定戦へ駒を進めたのは、木村一基八段(白組)と千田翔太四段(紅組)。木村が勝てば第50期(2009年)以来2度目の王位挑戦、千田が勝てば初挑戦となる。 *両者は本局が初手合い。居飛車党同士の対戦だが、定跡通りの進行になるかどうか。独特の序盤思想を持つ千田の作戦に注目だ。 *本局の記録係は古田龍生初段(17歳、宮田利男七段門下)。9時43分、特別対局室に木村入室。上座に着くと鞄から扇子などを取り出し、腕時計を外して手元に置いた。9時55分、千田入室。座布団を引き、盤から遠めの位置に腰を下ろした。その後でずっと少しにじり寄る。9時59分、振り駒。と金が3枚出て、千田の先手に決まった。 * *※局後の感想※ *9手目、33〜34手目、40〜41手目、44手目、47手目、53手目、56手目、63手目、78手目に記載。 * *(棋譜・コメント入力=文) *[棋譜表示の*はコメント付きの指し手。#は局後の感想が追記された指し手] 1 7六歩(77) ( 0:00/00:00:00) *千田は湯のみのほうじ茶を一口飲み、ゆったりと歩を突き出した。 * *【朝の様子】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/post-b35b.html 2 3四歩(33) ( 0:00/00:00:00) *木村、ぐっと力を込めて歩を突く。 * *【対局開始】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/post-75cb.html 3 6六歩(67) ( 0:00/00:00:00) *角道を止めた。現在では少なくなっている立ち上がりだ。クラシカルな振り飛車が穴熊に苦戦していることもそうだし、相振り飛車にされると主導権を奪われやすいとされる。 *千田がこのオープニングを公式戦で指すのは4局目。直近では4月に行われた挑戦者決定リーグ紅組の豊島将之七段戦で指している。結果は千田勝ち。 4 6二銀(71) ( 0:00/00:00:00) *木村は居飛車党。データベースに当たると、相振り飛車を指している対局が1局見つかった。この銀上がりは居飛車志向だ。 5 6八銀(79) ( 0:00/00:00:00) *◆千田 翔太(ちだ しょうた)四段◆ *1994年4月10日生まれ、大阪府箕面市出身。森信雄七段門下。2013年、四段。棋士番号は291。 6 5二金(61) ( 0:00/00:00:00) *◆木村 一基(きむら かずき)八段◆ *1973年6月23日生まれ、千葉県四街道市出身。(故)佐瀬勇次名誉九段門下。1997年、四段。2007年、八段。棋士番号は222。 *タイトル戦登場は4回。棋戦優勝は2回。 7 5六歩(57) ( 0:00/00:00:00) *千田の今年度成績は6勝0敗(1.000)。 *勝数、勝率はランキング1位タイ。7連勝中。 *通算成績は42勝13敗(0.764)。 8 3二銀(31) ( 0:00/00:00:00) *木村の今年度成績は3勝2敗(0.600)。 *通算成績は518勝276敗(0.652)。 9 2六歩(27) ( 0:00/00:00:00) *10時11分の着手。今日の千駄ヶ谷は曇り。少し風が出ていた。降水確率は40パーセントと予想されている。 * *※局後の感想※ *「藤井矢倉にしようと思っていました」(千田) 10 5四歩(53) ( 0:00/00:00:00) *戦いは矢倉模様で進んでいる。後手は飛車先を突かずにいる点がポイント。ほかの部分に先に手をかけられる。 11 4八銀(39) ( 0:00/00:00:00) *千田は今期の第55期から王位戦に参加。初の挑戦者決定リーグでプレーオフを勝ち抜き、挑戦者決定戦に名乗りを上げた。本棋戦での成績は10勝1敗(0.909)。敗れた1局はリーグ戦1回戦での広瀬章人八段との対局だ。 12 4四歩(43) ( 0:00/00:00:00) *木村は第39期(1997年)から王位戦に参加。同年予選を突破し、翌年に挑戦者決定リーグを戦った(結果は3勝2敗)。本棋戦での成績は54勝26敗(0.675)。リーグ入りは計6回、挑戦者決定戦進出は本局を含め2回。 *ちなみに第39期は羽生王位に佐藤康光八段(当時)が挑戦したシリーズ。4勝2敗で羽生王位が防衛した。 13 5八金(49) ( 0:00/00:00:00) *本局の観戦記を担当するのは内田晶さん。控室には数人の関係者の姿がある。対局室で千田が席を立った。 14 3一角(22) ( 0:00/00:00:00) *木村は第50期、挑戦者決定リーグ紅組で4勝1敗の成績をあげ挑戦者決定戦に進出した。下表はそのときの対戦者(肩書、段位は当時のもの)。 * *○ 渡辺明竜王 *○ 丸山忠久九段 *○ 羽生善治名人 *○ 先崎学八段 *● 郷田真隆九段 * *挑戦者決定戦では白組から勝ち上がった橋本崇載七段(当時)を破り挑戦を決めた。 15 7七銀(68) ( 0:00/00:00:00) *10時20分、千田が着手。先手は▲6八玉〜▲7八玉と囲う早囲いの含みがある。後手も美濃囲いの形を作って、早い動きに対応できる構えだ。 16 7四歩(73) ( 0:00/00:00:00) *木村は第50期の七番勝負で深浦康市王位(当時)と対戦した。第3局まで3連勝したが、続く4局を4連敗し初のタイトル奪取はならず。本局に勝てば、このときの王位戦七番勝負以来のタイトル戦登場となる。当然期するものがあるだろう。 17 7九角(88) ( 0:00/00:00:00) *千田、ノータイムで角を引く。木村は湯のみのほうじ茶を一口。 18 4三金(52) ( 0:00/00:00:00) *木村、右手を頬に当てて盤面を見つめる。千田も同じ姿勢だ。 * *【戦型は矢倉】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/post-c25d.html 19 3六歩(37) ( 0:00/00:00:00) *千田は本局に勝てば、タイトル戦挑戦により五段に昇段する。プロ入り後1年と2か月弱での挑戦となれば歴史的な早さ。タイトル挑戦の最年少記録を持つ屋敷伸之九段(四段で棋聖挑戦)よりもわずかだが早い。 * *・四段昇段(左)と挑戦者決定戦(右)の日付 *屋敷 1988年10月1日 1989年11月27日 *千田 2013年4月1日 2014年5月26日 * *【新記録に挑む】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/post-2229.html 20 7三銀(62) ( 0:00/00:00:00) *10時33分の着手。攻勢を見せた。次に△7五歩▲同歩△同角と歩交換しつつ角を動かせれば後手満足。 21 4六角(79) ( 0:00/00:00:00) *角を出て7筋の歩交換を牽制。好位置だが、当たりが強いため攻めに専念するには不都合でもある。後手が矢倉で守勢に回るときによく出る形で、本局の後手の飛車先不突きといい、よく見る矢倉とは先後逆にしたような格好になった。 22 3三銀(32) ( 0:00/00:00:00) *10時39分、木村が着手。木村は上着を脱ぎ、ワイシャツ姿になっている。 23 2五歩(26) ( 0:00/00:00:00) *飛車先を伸ばす。矢倉は飛車先の歩を動かさないことで定跡が進歩してきたが、それが関係しない戦法もある。早囲いや脇システムはそうした戦法の代表だ。先手は角の位置や飛車先などずいぶん形を決めているようだが、後手も右銀の態度を決めている。残る駆け引きの材料は、早囲いの含みをどこまで残すか。ただし、先手のほうが飛車先など攻撃的な布陣を敷いているので、後手は早囲いに出た瞬間に先攻されるかもしれない。 *現局面までの消費時間は▲千田13分、△木村17分。10時48分、木村は閉じた扇子を右のももに立て、その上に右ひじを載せている。右手で口元を覆い、盤面を見つめる。10時50分、職員が昼食の注文を取りに対局室に入ったが、木村はすぐに手で「不要」のサインを出した。千田は何か注文したようだ。11時2分、他棋戦対局中の森内俊之竜王が控室を訪れた。 24 4二玉(51) ( 0:00/00:00:00) *11時3分、木村の手が盤上に伸びた。着手して長机をのぞき込む。先手が攻勢をかけてくるかもしれない中、妥協を排除した一手だ。 25 6八玉(59) ( 0:00/00:00:00) *11時4分、千田も玉を上がる。 26 3二玉(42) ( 0:00/00:00:00) *木村、すっと玉を寄る。ここまで指せればひと安心。木村は記録係に棋譜用紙を求め、目を通して返した。 27 7八玉(68) ( 0:00/00:00:00) *千田、淡々と指し進める。先後同型になれば、先手の利が生きやすい。後手は角の動きを1手で留めている点を生かしたいが、先手の角のにらみが強力だ。この角をとがめるなら△4五歩が考えられるが、7筋に上がった銀とのバランスが悪い。 *控室では低段位のタイトル挑戦が話題に上がっている。四段でのタイトル挑戦、奪取といえば王位戦の郷田四段が有名だ。1992年の第33期七番勝負で谷川浩司王位(当時)に挑戦し、4勝2敗で奪取した。現在は規定が変わっている(タイトル挑戦時に五段に昇段)ため、四段の棋士がタイトル戦の番勝負を戦うことはなくなった。11時12分、千田が席を立つ。 28 6四銀(73) ( 0:00/00:00:00) *11時14分の着手。木村は席を立つ。対局室から二人の姿が消えた。11時18分、二人が対局室に戻っている。千田は扇子ではたはたとあおぐ。扇子には「大局観」と揮毫がある。村山聖九段の手によるものだ。 *次に△7三桂と跳ねれば攻撃陣が安定する。4六銀・3七桂型を先後逆にした構えで攻撃力は申し分なし、早囲いの得も十分に生かせる形だ。先手がその駒組みを阻止するならこのタイミングで▲6五歩だが、6筋から反発を受けることは必至。玉が当たりの強い位置にいるため、相当に突きにくい。 *現局面と同一の実戦例はゼロ。「互いに早囲い」、「先手の早い▲4六角」は単体でも珍しい要素だ。 29 8八玉(78) ( 0:00/00:00:00) *11時36分、千田が着手。後手の動きに我関せず。後手に十分に組まれてしまう未来が見えるが、千田はそれほど関心がないのかもしれない。紅組プレーオフの広瀬八段との将棋も、相手に十分に組ませるという点では似ていた。 * *【第55期王位戦挑戦者決定リーグ紅組プレーオフ ▲広瀬章人八段−△千田翔太四段】 *http://live.shogi.or.jp/oui/kifu/55/oui201405160101.html 30 7三桂(81) ( 0:00/00:00:00) *11時39分の着手。これで▲6五歩と突かれる心配は当面なくなった。3七銀戦法から派生した4六銀・3七桂型の先後逆バージョンだが、このまま駒組みが進めば後手は早囲いで1手得しているため、通常の定跡と同じように仕掛けることができる。 *最近の4六銀・3七桂型事情を振り返ると、9五歩型が主戦場。タイトル戦でも3局登場して定跡の見直しが進んでいる。一方で8五歩型は減少傾向。矢倉穴熊への組み替えに加え、早めに玉側の端を突く対策も多く指され、後手が苦戦している印象がある。本局はその8五歩型(の先後逆)と同じになる可能性がある。 31 6七金(58) ( 0:00/00:00:00) *11時48分、千田が盤上に手を伸ばす。着手してちらりと長机のほうを見た。木村が棋譜用紙を求め、一瞥して返す。閉じた扇子をとんとんと畳の上で弾ませる。 * *【棋書】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/post-2325.html 32 2二玉(32) ( 0:00/00:00:00) *11時54分、木村が着手。駒の位置を丁寧に整え、ピンと背筋を伸ばした。11時57分、木村が席を立つ。すぐに戻ってくる。12時6分、千田が席を立った。木村が上着を着る。早めに休憩に入れたのかもしれない。 *この局面で昼食休憩に入った。12時10分までの消費時間は▲千田1時間1分、△木村52分。昼食の注文は千田が茶そば(みろく庵)、木村は注文なし。対局は13時に再開される。12時41分、千田が控室に現れた。部屋をぐるりと見て退室。対局室に入り、駒にちょんちょんと触れて位置を直した。 *13時、対局再開。千田は腕を組み、じっと盤面を見つめている。13時6分、千田が盤の下に手を伸ばす。埃か何かがあったのだろう、つまんでくずかごに入れた。扇子を広げてまじまじと眺め、開いたまま盤の前に置く。「大局観」の文字。しばらくして扇子を拾い、閉じた。 * *【昼食休憩】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/post-bc24-1.html * *【休憩中の対局室】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/post-eb76-1.html * *【対局再開】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/post-2985-1.html 33 3七銀(48) ( 0:00/00:00:00) *13時19分、ぐっと力をためるようにして着手。先後逆にした形では、この銀を守りに使うのがオーソドックスな指し方。攻めに使う例は珍しい。 *控室には高橋道雄九段、飯塚祐紀七段、岡崎洋六段が訪れている。高橋九段は王位3期の実績を持つ。初戴冠は1983年、千田が生まれる前のことだ。岡崎六段は東京の対局立会人を務める。「▲3七角と引く展開にしてはつまらなくなるので、攻めようということですね。若手らしく」と高橋九段。 * *【鳩森神社】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/post-9046.html * *※局後の感想※ *「6九金を置きながら指すってのは考えてなかったね」と木村。千田は「ゆっくりしてられないので」とポツリ。木村は頭を押さえてうつむき、「結果的に角を上がらされたからうまくやられたような気がするなあ」とつぶやいていた。 34 3二金(41) ( 0:00/00:00:00) *13時38分、木村が着手。何はなくとも締まっておきたいところ。これで心置きなく戦える。13時40分、木村が、続いて千田が席を立った。ほどなく二人とも対局室に戻る。 *ここから▲7八金と上がり、後手の角を4二に動かした局面を先後逆に反転すると実戦例がある。中には▲高橋道雄六段−△加藤一二三王位戦(1985年7月、王位戦第2局、肩書・段位は当時)という対局も。 *千田の考慮中に14時をまわった。この局面をパッと見れば▲7八金が自然に思えるが、長考しているということはこの金上がりを保留する順を探しているのかもしれない。 * *【13時40分ごろの控室】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/1340-f6ba.html * *【29年前の王位戦】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/19-0965.html * *※局後の感想※ *「△5二飛は▲3五歩や▲2六銀で先に攻められると思った。こっちは銀桂が使えてないからなあ」(木村) 35 3五歩(36) ( 0:00/00:00:00) *14時9分、千田が着手。玉の囲いも完成しないまま敵陣に手をかけた。△3五同歩に(1)▲2六銀と銀を素早く活用する順が控室で話題になっている。2013年に行われた第2回電王戦で将棋プログラム「GPS将棋」が指して、棋士を驚かせた攻め方だ。以下△3六歩と突き出されると歩の入手が難しくなるが、▲3五銀と出てスピードを最優先する。歩の価値が高い局面で突き捨てを先にする発想が斬新で、その後公式戦でも何度か現れて定跡に大きな影響を及ぼした。玉頭で銀交換が実現すれば、後手の3一角型をとがめている意味もある。「世の中スピード化の時代です。負けないようにしないと」と岡崎六段。 *継ぎ盤では△3五同歩に(2)▲同角も調べられている。以下△5五歩▲同歩△5二飛が手筋の反撃だが、▲4六銀△5五銀▲同銀△同飛のとき下段の金が守りに利いているので▲4六角と引ける。金を締まっていない形がプラスになる、面白い変化だ。 *現局面までの消費時間は▲千田1時間49分、△木村1時間21分。14時10分、本田小百合女流三段が差し入れを持って控室に。佐瀬勇次名誉九段門の同門だ。 * *【スピード化の時代】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/post-8418.html 36 同 歩(34) ( 0:00/00:00:00) *14時31分の着手。後手は堅陣に収まって銀桂も活用できているが、力を発揮するまでには時間がかかる。先手はその前に先攻することで主導権を握ろうとしている。 37 2六銀(37) ( 0:00/00:00:00) *千田、しばらくして銀を上がる。「GPS、GPS」と岡崎六段が身を乗り出す。電王戦の対局は脇システムで本局とは形が違うが、部分的な手筋としては同じだ。電王戦は角を追ってから角を出られる形だっただけに(本局でいえば△4五歩〜△6四角)衝撃的だった。戦法の枠を越えて応用されるところに、可能性の大きさを感じさせる。 *ここから△3六歩▲3五銀と進んだときに後手がどうするか。次に▲2四歩△同歩▲同銀△同銀▲同角の攻めがあり、ここまで進むと後手は3一角型をとがめられてしまう。 38 3六歩(35) ( 0:00/00:00:00) *14時52分、木村が着手。力強い手つきだった。千田が棋譜用紙を求めて目を通す。 39 3五銀(26) ( 0:00/00:00:00) *14時56分の着手。ぐいっと力強く前に出る。木村はグラスのお茶をぐいっと飲み干し、腰に手を当てて盤面を見下ろす。 *穏やかに受けるなら(1)△4二角。先手も離れ駒があるので、すぐ▲2四歩から総交換に移れるかどうかは検討を要する。ただ、▲7八金との交換になると後手が指し手に悩むかもしれない。(2)△4五歩と突いて好位置の角を追う手も考えられる。ただ、伸ばした歩がキズにもなるので一長一短だ。以下▲6八角に△5三角と上がって、▲2四歩△同歩▲同銀に△2六歩を用意する構想もあるだろうか。 *現局面までの消費時間は両者とも1時間52分。木村の表情が険しい。 40 5三角(31) ( 0:00/00:00:00) *15時16分、ふわりとした手つきで着手。△4五歩の反発をにらんだ位置だ。▲2四歩△同歩▲同銀には△2三歩と受ければ、先手の角をさばかせずに受け止められる。形を乱されても、歩得のうえ3筋に拠点を作っているので一方的に攻められているわけではない。ここまでの指し手を振り返ると、先手は▲7八金を保留したまま進めている。現代将棋の考え方のひとつに、「優先度の低い手は後回しにする」というものがある。藤井システムの居玉はこれを追究した結果だ。本局の6九金型は現代的な思想の表れと捉えることができるかもしれない。 *15時22分、木村が席を立つ。千田は扇子ではたはたとあおぐ。脇息にもたれ、額を押さえた。15時40分、千田が席を立つ。木村は前傾姿勢になって盤に向かう。15時54分、千田は扇子を広げて盤の前に置く。「大局観」の文字を前に千田は考える。控室に伊藤真吾五段が訪れた。続いて佐々木勇気五段が現れ、二人で継ぎ盤を挟む。15時57分、森内竜王が控室に。モニタを見て退室した。16時16分、千田はグラスの飲み物を一口、二口と飲む。口元を押さえて盤に向かう。体がゆらゆらと小さく揺れている。 *伊藤真五段は「早く▲7八金と上がりたいんですけど」と言い、変化のひとつとして△3七歩成▲同角△4五歩▲2六銀に触れる。駒を下がらされる点は不満かもしれない。先手が立て直しに時間をかけると、後手の攻撃陣も力を出してくる。佐々木勇五段は、「先に歩を渡しているので、何かされるかもしれない不安はありますね」とうなずく。二人の本命は▲2四歩。以下△同歩▲同銀△2三歩▲3三銀成△同金上がどうか、と言われている。「いい勝負ですね」と佐々木勇五段。受けるのを苦にしない木村好みの展開だろうか。 *16時26分、長机の千田側に残り1時間を示す紙が出た。「秒読みに自信を持っているんだなあ」と佐々木勇五段。棋界の長考派は秒読みで戦う場面も多くなることから、秒読みにも強いというのが定説だ。 * *【16時ごろの控室】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/16-860b.html * *【千田四段、残り1時間を切る】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/post-c599.html * *※局後の感想※ *「▲7八金が本線だった」と千田。当初は以下(A)△4五歩▲6八角△3四銀▲同銀△同金▲5五歩△同銀▲2四歩△同歩▲3五銀で「やれると思った」が、▲7八金には(B)△3七歩成▲同角△4五歩▲2六角△3四歩▲2四銀△4四銀▲3七桂△2四歩▲同歩△3五歩で「攻めが続かない」ことに気づいた。手順中の▲2四銀が歩頭に出る強手で、△同歩なら▲5三角成から攻めが続くが、△4四銀のかわしが冷静だ。 41 2四歩(25) ( 0:00/00:00:00) *16時34分、千田の手が動いた。「本命だ」と佐々木勇五段の声。 * *※局後の感想※ *40手目コメントに記した歩頭銀の変化について、「未練たらたらで(本譜を)指していた」と千田。 42 同 歩(23) ( 0:00/00:00:00) *木村、歩を取る。千田は扇子を広げてあおぐ。 43 同 銀(35) ( 0:00/00:00:00) *千田、すぐに歩を取り返す。 *現局面までの消費時間は▲千田3時間9分、△木村2時間11分。 44 2三歩打 ( 0:00/00:00:00) *16時37分、木村が着手。「木村先生も一番考えやすい順だから、▲3三銀成のときにどっちで取るか決めてるんだろうな」と佐々木勇五段。先の千田の長考は、木村にとっても先の展開を予想する時間になっていた。 * *※局後の感想※ *▲3三銀成には(A)△同金上▲7八金△4五歩▲6八角△3四金直、(B)△同桂▲3五銀△4五歩▲6八角△3七歩成▲同桂△3六歩▲2五桂△3七歩成が調べられた。木村は(B)の変化を見て「お互い怖いね」と一言。千田は「自信なかったです」と話した。 45 3五銀(24) ( 0:00/00:00:00) *押し殺した悲鳴のような声が伊藤真五段から上がった。さばける銀をさばかず、後退。2筋の歩交換という結果になった。対局室では木村が身を乗り出している。「ここで手番を渡すのはどういうことなんだろう」と佐々木勇五段。それがわからない。▲3三銀成の変化に自信は持てなかったが、▲7八金よりは得と見た、ということだろうか。佐々木勇五段は「これは感想戦じゃないとわからないですね」と話す。 *16時50分、佐々木勇五段と伊藤真五段が退室。継ぎ盤では△4五歩と突いてどうかと言われていたが、はっきりした結論は出ていなかった。 *16時54分、木村はグラスのお茶を一口。ふと動きを止めて窓のほうを見る。すぐに前に向き直り、首をかしげてじっと盤を見つめる。千田が席を立つ。17時8分、木村の考慮時間が30分を超えた。お茶のペットボトルを開け、グラスに注ぐ。背を伸ばして盤面を見下ろす。 * *【意表の銀引き】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/post-f1f9.html 46 8四歩(83) ( 0:00/00:00:00) *17時15分の着手。じっと攻撃態勢を整える。36分の考慮だった。互いに時間を使って一手一手慎重に駒組みを進めている。次は△7二飛〜△8五桂が定番の形だが、飛車を寄ると銀交換から▲8三銀と打たれるキズができるので指し手が難しい。先攻の権利が確保されている4六銀・3七桂型と違い、いつでも仕掛けられる状況下では駒組みの難度も上がる。「先手は歩損ですが、▲7八金と上がってから、余裕があれば▲1六歩〜▲1五歩と手がわかりやすいですね」と岡崎六段。 *現局面までの消費時間は▲千田3時間10分、△木村2時間48分。木村は腕組みをし、背筋を伸ばして盤面を見つめる。千田ははたはたと扇子であおぎながら前傾姿勢で盤に向かう。 47 7八金(69) ( 0:00/00:00:00) *17時23分、千田が着手。ようやく先手の矢倉が完成した。木村が席を立つ。千田は右手の指を動かして読みを入れる。扇子であおぐ。 * *【岡崎六段は先手持ち】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/post-50e3.html * *※局後の感想※ *「歩を持ってるし後手番でこれならまあまあと思った。けどよくするのは大変だね」(木村) 48 4五歩(44) ( 0:00/00:00:00) *17時31分の着手。モニタから「ピシリ」と駒音が聞こえてきそうな手つきだった。角を追うことで、後手の攻め駒が動きやすくなる。 49 6八角(46) ( 0:00/00:00:00) *17時35分、千田、角を引く。 50 7五歩(74) ( 0:00/00:00:00) *いよいよ後手の攻めが始まった。▲7五同歩に△8五桂と跳ね出せば全軍躍動。歩を渡すデメリットもあるが、怖がってばかりもいられない。 51 同 歩(76) ( 0:00/00:00:00) 52 8五桂(73) ( 0:00/00:00:00) 53 8六銀(77) ( 0:00/00:00:00) *17時40分の着手。後手は△7五銀から攻めの銀をさばくことになるが、端の絡みがないので直接先手陣を攻めるのはハードルが高い。△6四角から逆サイド攻撃も視野に入れることになるだろう。 * *※局後の感想※ *「桂馬使えてるからと思ったけど、端が絡まないからなあ」(木村) 54 7五銀(64) ( 0:00/00:00:00) *互いの攻めの銀が五段目に進出。じりじりとした序盤戦から一転、華々しい攻め合いになった。 55 同 銀(86) ( 0:00/00:00:00) *17時50分、千田が着手。席を立っていた木村が戻ってくる。ちらと長机のほうを見た。 56 同 角(53) ( 0:00/00:00:00) *先に銀をさばいたのは後手。ここで▲7六歩は△6四角で後手を引くので、攻めに手をかけたい。ただ具体的にどう手をつけるかは難しい。(1)▲2四歩△同歩▲同銀は△2三歩の局面で継続手があるか。(2)▲3四歩は△同銀▲同銀△同金でどれくらい利いているか。もう一枚銀を渡すと△6九銀〜△5八銀打という手筋の攻めがある。当然ながら後手の反撃も考えに入れる必要がある局面だ。 * *※局後の感想※ *「この局面で何か手があると思ったから(後手の)攻めはやりにくいと思っていたんですが、実際手がなかったですね」と千田。何かのときに△6四角が絶好の一手になる。「△6四角を防いで▲6五銀も考えましたが、攻めに利いてないので」(千田) 57 2四歩打 ( 0:00/00:00:00) *18時6分の着手。13分の考慮で、千田の残り時間は19分。一度交換した歩を再び合わせて攻める。結果的に手損になり、その間に後手は桂の足場を作って駒をさばく下地を作った。部分的に見れば先手の損だが、後手に攻めさせたことで駒を増やしたという見方もできる。 *現局面までの消費時間は▲千田3時間41分、△木村2時間59分。消費時間はかなりの差がついている。 * *【消費時間の差】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/post-19de.html 58 同 歩(23) ( 0:00/00:00:00) 59 3四歩打 ( 0:00/00:00:00) *18時10分、鈴木大介八段が控室に。「どう受けるんだろう。結構うるさくないですか。先手がいいような気がします」と話す。 60 同 銀(33) ( 0:00/00:00:00) 61 同 銀(35) ( 0:00/00:00:00) *「取ったんですか。▲2四飛も自然だったように見えますが」(鈴木八段) *▲3四同銀に代えて▲2四飛と走り、△2三銀には▲2六飛(▲2七飛)と引いておく。後手の味が悪いだろうということだ。 62 同 金(43) ( 0:00/00:00:00) 63 3五銀打 ( 0:00/00:00:00) *かぶせる攻め。残り時間の少ない千田は素早く指し進める。「これは△3五同金▲同角の局面が勝負どころという気がします」と鈴木八段。以下(1)△2三銀と受けるのは▲7一角成で先手が指せそうなので、(2)△7二飛と寄ってどうかと検討している。次に△6九銀〜△6六角が強烈な攻めで、▲2四角△2三歩▲5一角成は△6四角▲7三歩△7一飛で先手自信なし。鈴木八段は「20分くらい考えて(2)の順を選ぶんじゃないでしょうか」と話す。 *18時30分、木村の考慮時間は18分ほど。木村は右手で左肩をつかみ、体をぐっと盤に近づけている。千田は正座で、両手を組んでひざの上に置いている。上体がゆらゆらと揺れている。 * *※局後の感想※ *木村は△3五同金▲同角△7二飛には、▲8三銀か▲6一銀と打たれると読んでいた。「怖くてできなかった。読みきれなかった」と木村。また△3五同金▲同角△2三銀は、▲6五金〜▲7一角成ではっきりしない。 64 3三銀打 ( 0:00/00:00:00) *18時40分、木村が着手。▲3四銀△同銀▲3五銀△3三銀……と進めば千日手模様になる。鈴木八段は「桂香が動いていないので、金銀だけの攻めになると切った張ったの千日手になる可能性も高いですよね」と話していた。 65 3四銀(35) ( 0:00/00:00:00) 66 同 銀(33) ( 0:00/00:00:00) *木村、すぐに銀を取り返す。「木村さんは手を変えるでしょう。相手の出方をうかがって、時間を削りにいっているんだと思います」と鈴木八段。 67 3五銀打 ( 0:00/00:00:00) *18時43分、千田、銀を打つ。木村は額を押さえて盤面を見つめる。18時45分、木村が記録係のほうを見た。すかさず「時間を確認しましたね」と関係者の声。 68 2三銀打 ( 0:00/00:00:00) *18時46分、木村、銀を打つ。 69 3四銀(35) ( 0:00/00:00:00) 70 同 銀(23) ( 0:00/00:00:00) *同一局面2回目。66手目と同じ局面だ。 71 3五銀打 ( 0:00/00:00:00) 72 2三銀打 ( 0:00/00:00:00) *控室でどよめきの声が上がる。「これは千日手だ」と鈴木八段。 73 3四銀(35) ( 0:00/00:00:00) *千田、すぐに銀を取る。関係者が慌ただしく控室で動く。 74 同 銀(23) ( 0:00/00:00:00) *同一局面3回目。 75 3五銀打 ( 0:00/00:00:00) 76 2三銀打 ( 0:00/00:00:00) 77 3四銀(35) ( 0:00/00:00:00) 78 同 銀(23) ( 0:00/00:00:00) *18時51分、木村が着手。同一局面4回となり千日手が成立した。消費時間は▲千田3時間41分、△木村3時間33分。指し直し局は千田の持ち時間が1時間になるように41分を互いの持ち時間に足し、先後を入れ替えて30分後に指し直される。 * *【千日手成立】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/post-f93e.html * *【指し直し局の棋譜中継】 *http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2014/05/post-b651.html * *※局後の感想※ *本譜の千日手について、木村は「実戦的に仕方なかった」と語った。 79 千日手 ( 0:00/00:00:00) まで78手で千日手