# --- Kifu for Windows (Pro) V6.65.64 棋譜ファイル --- 対局ID:15286 記録ID:644716c8efd40f34fe55da39 開始日時:2023/06/05 09:00 終了日時:2023/06/05 18:56 棋戦:第94期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局 戦型:角換わり腰掛け銀 持ち時間:4時間 秒読み:60秒 消費時間:113▲229△239 場所:ベトナム「ダナン三日月」 備考:昼休前66手目33分\n 図:投了 振り駒:4,0,藤 先手消費時間加算:0 後手消費時間加算:0 昼食休憩:12:00〜13:00 昼休前消費時間:66手33分 手合割:平手   先手:藤井聡太棋聖 後手:佐々木大地七段 先手省略名:藤井聡 後手省略名:佐々大 手数----指手---------消費時間-- *藤井聡太棋聖に佐々木大地七段が挑戦する第94期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負が開幕する。七冠を成し遂げた藤井は棋聖4連覇を、タイトル初挑戦の佐々木は初戴冠を目指す。第1局は6月5日(月)、ベトナム・ダナン「ダナン三日月」で行われる。棋聖戦では1985年以来となる海外対局が実現した。 *立会人は小林健二九段、記録係は小山直希四段。現地イベントには木村一基九段、加藤桃子女流三段、野原未蘭女流初段が出演する。 *対局開始は9時、昼食休憩は12時から13時まで。いずれも現地時間で日本時間の開始は11時となる。持ち時間は各4時間。第1局のため先後を振り駒で決定する。 *ダナンは晴れの朝を迎えた。8時41分頃、佐々木入室。藤井は8時48分頃に入室した。藤井が一礼して駒箱を開け、二人が駒を並べていく。振り駒は産業経済新聞社の飯塚浩彦代表取締役会長が行った。結果は歩が4枚。第1局は藤井の先手に決まった。 * *※局後の感想※ *65手目、67手目、70手目、79手目、84〜85手目、89手目、最終手に記載。 * *(棋譜・コメント入力=文) *[棋譜表示の*はコメント付きの指し手。#は局後の感想が追記された指し手] 1 2六歩(27) ( 0:00/00:00:00) *9時、小林健九段が開始を告げて対局が始まった。両対局者が「お願いします」と一礼する。少し間を置いて藤井が盤上に手を伸ばした。対局室にシャッター音が響く。 * *【対局開始】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2023/06/post-6fe6.html 2 8四歩(83) ( 0:00/00:00:00) *佐々木はしっかりとした手つきで飛車先の歩を進めた。対局室から関係者が退室する。 3 2五歩(26) ( 0:00/00:00:00) *◆藤井 聡太(ふじい そうた)棋聖(竜王・名人・王位・叡王・棋王・王将)◆ *2002年7月19日生まれ、愛知県瀬戸市出身。杉本昌隆八段門下。2016年、四段。2021年、九段。棋士番号は307。 *タイトル戦登場は16回。獲得は竜王2期、名人1期、王位3期、叡王3期、棋王1期、王将2期、棋聖3期の計15期。棋戦優勝は9回。 4 8五歩(84) ( 0:00/00:00:00) *◆佐々木 大地(ささき だいち)七段◆ *1995年5月30日生まれ、長崎県対馬市出身。深浦康市九段門下。2016年、四段。2022年、七段。棋士番号は306。タイトル戦登場は1回。 5 7六歩(77) ( 0:00/00:00:00) *角換わり志向の立ち上がり。だが、最近は角道を止めて雁木系に変化する流れも多い。小林健九段は「角換わりになるとは限りませんね」と話す。まずは戦型選択に注目だ。 6 3二金(41) ( 0:00/00:00:00) *ヒューリック杯棋聖戦は産経新聞社主催、ヒューリック株式会社が特別協賛する棋戦。1962年に始まり、1994年まで1年に前期と後期の2期が開催されていた。1995年、第66期からは1年1期の開催になる。一次予選、二次予選の勝ち上がり者とシード棋士で決勝トーナメントを行い、挑戦者を決定。棋聖と挑戦者が五番勝負でタイトルを争う。 * *【産経ニュース】 *https://www.sankei.com/ * *【ヒューリック株式会社】 *https://www.hulic.co.jp/ 7 7七角(88) ( 0:00/00:00:00) *本局の観戦記は君島俊介さんが担当する。産経新聞朝刊では5日から、勝又清和七段が執筆した観戦記の掲載が始まった。決勝トーナメントの永瀬拓矢王座と井上慶太九段による一戦だ。 8 3四歩(33) ( 0:00/00:00:00) *本局の模様はABEMAで中継される。解説は深浦康市九段と黒沢怜生六段、聞き手は山根ことみ女流二段と和田はな女流1級。深浦九段は佐々木の師匠だ。佐々木は前日のインタビューで師匠が解説することにコメントを求められると「思わぬところでプレッシャーがかかったなというところで、非常にしびれているんですけども」と苦笑して周囲の笑いを誘い、「この大舞台で少しでも成長した部分を見せられたらと思います」と頼もしい答えを返していた。 * *【ABEMA】 *https://abema.tv/channels/shogi/slots/DfrqcN1FRawZGT 9 8八銀(79) ( 0:00/00:00:00) *両者の対戦成績は藤井2勝、佐々木2勝。初手合となった2017年9月の新人王戦は佐々木が勝った。同年10月の叡王戦段位別予選四段戦では藤井が勝利。2019年の王座戦挑戦者決定トーナメントは佐々木勝ち、2021年の銀河戦決勝トーナメントは藤井勝ち。戦型はいずれも相掛かりだった。 10 7七角成(22) ( 0:00/00:00:00) *角交換。戦型は角換わりになった。藤井が直近で戦った叡王戦五番勝負は対抗形になり、名人戦七番勝負は角換わりが指されなかったため、タイトル戦での角換わりは久しぶりだ。タイトル戦で最後に指したのは棋王奪取と六冠を達成した2023年3月の棋王戦五番勝負第4局になる。 11 同 銀(88) ( 0:00/00:00:00) *ダナンはベトナム中部にある最大の都市。北部の首都ハノイ、南部のホーチミンとの中間あたりに位置する。ベトナムを代表する港湾都市であり、東は南シナ海、西は山に面し、豊かな自然と文化遺産を求めて観光客が訪れる。観光名所はロン橋、ダナン大聖堂、五行山など。名物料理は小麦麺を使ったミークアンなど。ベトナムと日本は1973年9月21日に外交関係を樹立した。2023年は50周年を迎える節目の年になる。前夜祭には両国の外交関係者が出席。ダナン外務省のフイン・ドク・チュオン局長は「日越外交関係樹立50周年記念年として、ダナン三日月での日本の将棋イベント成功を祈るとともに、日越間の有効・協力関係が発展し続けることをお祈り申し上げます」、在ダナン日本国総領事館の矢ヶ部義則総領事は「総領事館としては日本将棋連盟によるダナンでの将棋のタイトル戦の開催を高く評価しています。ダナンの知名度が今後、日本国内で確実に高まることが予想されます」、在ベトナム日本国大使館の渡邊滋次席公使は「先月、広島で行われたG7サミットにベトナムが招待されたことは、日越関係が最高の関係にあることを象徴しています。これを支えているベトナムと日本との人と人の共感、共鳴を育んでいきたいと思っています」とそれぞれあいさつ。本局は将棋のタイトル戦にとどまらない期待と注目を集める一局になる。 12 2二銀(31) ( 0:00/00:00:00) *対局場となる「ダナン三日月」は2022年6月にグランドオープンを迎えた複合リゾート施設。三日月型のカーブを描くダナン湾を一望できる。4つの区画に分かれ、ホテルやレストランはもちろん、広大な敷地でプール、温泉、ビーチを満喫できる。日本文化の情報発信基地をコンセプトとして日光東照宮の分社を中心に、日本文化を代表する展示物が多く置かれている。その中の一つに将棋堂があり、佐藤康光九段の筆による「王将」と刻まれた駒形の石碑が鎮座している。前夜祭ではホテル三日月グループの小高芳宗代表取締役社長がベトナム国歌を熱唱、「メインターゲットであるベトナム人の親子三代に愛されるホテル、日光東照宮初の世界進出となるベトナム東照宮を中心に日本文化を発信する基地を目指し、これまで49万人のお客さまにお越しいただくことができました」と歓迎の言葉を述べた。 * *【ダナン三日月】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2023/06/post-2b85.html 13 1六歩(17) ( 0:00/00:00:00) *将棋の海外対局は今回で25回目になる。ベトナムでの開催は初めて。記念すべき一局だ。前回の海外対局は2019年に台湾・台北で行われた第4期叡王戦七番勝負第1局。当時の叡王戦は七番勝負だった。棋聖戦では1985年、第46期五番勝負第2局がアメリカ合衆国・ロサンゼルスで行われて以来になる。この五番勝負は米長邦雄棋聖に勝浦修八段(肩書は当時)が挑戦、棋聖先勝で迎えた海外対局を挑戦者が勝利した。シリーズは米長棋聖が3勝1敗で防衛を果たしている。 14 1四歩(13) ( 1:00/00:01:00) 15 3八銀(39) ( 0:00/00:00:00) *藤井の今年度成績は8勝2敗(0.800)。 *対局数はランキング3位タイ、勝数は2位。現在3連勝中。 *通算成績は326勝65敗(0.834)。 16 3三銀(22) ( 0:00/00:01:00) *佐々木の今年度成績は11勝1敗(0.917)。 *対局数はランキング1位タイ、勝数は1位、勝率は17位。昨年度から15連勝を記録し、現在は5連勝中。 *通算成績は266勝109敗(0.709)。 17 3六歩(37) ( 0:00/00:00:00) *藤井の棋聖戦成績は26勝4敗(0.867)。初出場は第89期。第91期に初めて決勝トーナメントに進むと、勝ち上がった挑戦者決定戦で永瀬二冠(叡王・王座=当時)を破ってタイトル初挑戦を決める。五番勝負では渡辺明棋聖(当時)を3勝1敗で下し、自身初タイトルとなる棋聖位を奪取。タイトル挑戦、獲得の最年少記録を塗り替えた。第92期は渡辺明名人(当時)の挑戦を3勝0敗で退け、タイトル防衛の最年少記録を更新。第93期は挑戦者の永瀬王座に3勝1敗で勝ち、3連覇を達成した。 18 6二銀(71) ( 0:00/00:01:00) *佐々木の棋聖戦成績は24勝6敗(0.800)。初出場は第88期。第93期に初めて決勝トーナメントに進出するも、準決勝で永瀬王座に敗れる。今期は前期ベスト4によりシードで決勝トーナメントから出場。大橋貴洸七段、糸谷哲郎八段、渡辺明名人(当時)に勝ち、永瀬王座との挑戦者決定戦を制して自身初のタイトル挑戦を決めた。 19 7八金(69) ( 0:00/00:00:00) *現地には日本将棋連盟の常務理事として鈴木大介九段と西尾明七段が訪れている。前夜祭で西尾七段は「将棋は文献に残っているだけでも1000年の歴史を持つ古いボードゲームです。日本の文化である将棋を海外でも楽しんでもらえるよう、普及に取り組んでまいります」、鈴木九段は「この大一番が日本を飛び出してダナンで行われる意義は非常に大きい。明日は自分自身も堪能したいと思いますし、皆さんとともに盛り上げていきたいと思います」と話した。 20 6四歩(63) ( 1:00/00:02:00) *佐々木は7月から始まる王位戦七番勝負でも藤井に挑戦する。棋聖戦五番勝負と合わせて「十二番勝負」の熱い夏だ。藤井が2020年に棋聖戦でタイトル初挑戦を決めたときも、棋聖戦、王位戦と連続挑戦してのダブルタイトル戦になった。当時の藤井はいずれもタイトルを獲得して二冠を達成している。佐々木は前日のインタビューで「この夏は自分の棋士人生にとっても大きなタイミングだと思うので、悔いのないように、ただ、力みすぎないように楽しみながら戦っていきたい」と意気込みを語っていた。 21 6八玉(59) ( 0:00/00:00:00) *藤井は5月31日、6月1日に行われた名人戦七番勝負第5局で渡辺明名人(当時)に勝ち、シリーズ4勝1敗で名人獲得と七冠を達成した。佐々木にとって初のタイトル戦の相手が七冠を保持する藤井で壁は高い。佐々木の師匠、深浦九段が初めてタイトル挑戦を決めたのは1996年の第37期王位戦七番勝負で、挑戦を受けた当時の羽生王位は七冠を保持していた。師弟で初タイトル挑戦の相手が七冠という一致が興味深い。 22 6三銀(62) ( 0:00/00:02:00) *朝、控室では佐々木が着ている和服が話題になった。佐々木は師匠の深浦九段から贈られた着物で初めてのタイトル戦に臨んでいる。この着物は、深浦八段が羽生善治王位(肩書はいずれも当時)に挑戦して4勝3敗で王位を奪取した第48期王位戦七番勝負の第7局で着ていたものだという。佐々木は「気持ちもよりいっそう高まりますし、多くの方に支えられてこの舞台に立ったなと思っているので、それに恥じないような熱戦を目指したい」と話していた。 * *【対局開始の朝】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2023/06/post-6fe6.html 23 9六歩(97) ( 0:00/00:00:00) *両対局者と関係者一行は3日にベトナムに入った。ダナン三日月にチェックインした両対局者は、観光名所のロン橋(ドラゴンブリッジ)と鯉の登龍像で記念撮影。ロン橋は夜になると色とりどりにライトアップされ、龍の口から火や水を吐くパフォーマンスは迫力満点。移動のバスの車中からは道路を走る多くのバイクが見え、藤井は興味深そうに窓から街並みを眺めていた。 * *【記念撮影1】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2023/06/post-27bd.html 24 9四歩(93) ( 0:00/00:02:00) *対局前日の4日は午後からダナン三日月前のビーチを散策し、両対局者はレストラン・バー「NAMI Beach Club」に置かれたカウチでくつろいだ。強い日差しと潮風。ホテルに戻って将棋堂の前でも記念撮影を行い、インタビューに藤井は「ベトナム料理のバインミーやフォーをいただくことができてとてもおいしかった。リゾートの雰囲気を感じることができた」と話し、佐々木は一門で共有しているツイッターのアカウントで部屋からの景色の写真をアップしたことを振られて、「部屋から見る景色もとてもいいです」と笑っていた。 * *【ダナンのビーチへ1】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2023/06/post-22dd.html 25 4六歩(47) ( 0:00/00:00:00) *前日の記念撮影を終えた両対局者は対局室で検分に臨んだ。盆栽や力士の像など、日本を意識した飾りが多く、国内でタイトル戦が行われていると錯覚してしまいそうになる。盤と駒はホテル三日月のものが使われる。駒は大竹竹風作、菱湖書の盛上駒。海の見える大きな窓があるため、朝はカーテンを閉めて日差しに対応することが決まった。 * *【検分】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2023/06/16-4b7e.html 26 4二玉(51) ( 0:00/00:02:00) *前夜祭は18時から開かれ、両国の外交関係者も出席して盛大に行われた。藤井は「海外対局は初めてのことで、このように素晴らしい機会をいただけたことに感謝いたします。多くの方に楽しんでいただける一局ができるよう全力を尽くしたいと思っています。短い滞在ではありますが、ベトナムの豊かな食文化や美しいビーチや街並みをできるだけ楽しみたいと思っています」と感慨を語り、佐々木は「緊張しますね」と笑顔を見せて「初のタイトル戦がベトナム・ダナンということでとてもワクワクしています。タイトル挑戦が決まってから本当にあっという間で、和服の仕立てをして着付けの練習をしていくうちに、この大舞台への気持ちが高まってきました。この棋聖戦五番勝負では自分の力を出しきり、粘り強く戦っていきたいと思います」と意気込みを語った。 * *【前夜祭1】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2023/06/post-144f.html 27 3七桂(29) ( 0:00/00:00:00) *両者とも腰掛け銀志向の駒組みだ。角換わりでは右銀の使い方で棒銀、早繰り銀、腰掛け銀と作戦が分かれる。棒銀と早繰り銀は攻撃重視、腰掛け銀はバランス重視。特に腰掛け銀は桂を活用しやすい点が魅力になる。 28 7四歩(73) ( 0:00/00:02:00) *1985年にアメリカ合衆国・ロサンゼルスで行われた棋聖戦の海外対局では、大山康晴十五世名人が立会人を務めた。観戦記は立会人も務めた加藤治郎名誉九段が執筆、記録係は中村修六段(現九段)だった。観戦記によれば、10時から15時まで現地のファンを対局室に入れ替わりで案内して見学させたという。昔は現在に比べて中継などの映像も限られていただけに、対局中の対局室を見る機会はより貴重なものだっただろう。 29 4七銀(38) ( 1:00/00:01:00) *立会人の小林健九段は日本将棋連盟の東南アジア地区将棋大使も務めている。花粉症を和らげるために春先を海外で過ごそうと思い立ったのがきっかけだった。1990年代から香港、シンガポール、マレーシア、ミャンマーと、現地の人とのつながりで東南アジアの各地に飛ぶようになったという。今回の立会人を務めるにあたって、「2時間とはいえ時差があるので、体調が心配。お二人が普段通りに対局できるように徹したい」と話していた。 * *【小林健二九段が語る東南アジアの将棋普及】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2023/06/post-d644.html 30 7三桂(81) ( 0:00/00:02:00) *ダナン三日月では2日から4日にかけて、日本のアニメや漫画、音楽を発信する「Nippon Oi(ニッポンオイ)」が開催された。対局前日の4日は木村九段、加藤桃女流三段、野原女流初段が出演。日越外交関係樹立50周年を記念して東京の代々木公園で開催されていた「ベトナムフェスティバル2023」と中継がつながれ、木村九段らは第1局の見どころやダナンの魅力を伝えた。 * *【ジャパンフェス】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2023/06/post-a1b2.html 31 4八金(49) ( 0:00/00:01:00) *今期五番勝負の記念扇子に藤井は「奏」、佐々木は「調」と揮毫した。一局の将棋は棋士が奏でる調べ、といった連想をさせるような美しい2文字だ。佐々木は師弟扇子では深浦九段の「師」に対して「伝」という字を選んでいた。 32 8一飛(82) ( 0:00/00:02:00) 33 5六銀(47) ( 0:00/00:01:00) 34 6二金(61) ( 0:00/00:02:00) 35 6六歩(67) ( 0:00/00:01:00) 36 5四銀(63) ( 0:00/00:02:00) 37 2九飛(28) ( 0:00/00:01:00) *互いに下段飛車で隙のない構えになった。右金との位置関係がポイントで、飛車と金の死角を互いに補い合って好形を築いている。 38 4一飛(81) ( 1:00/00:03:00) *玉の下に飛車が潜り込む形は奇異に映るが、部分的な手筋。次に△4四歩〜△5二玉のように飛車の利きで4筋を支える意味合いがある。手元のデータベースには17局の実戦例があり、先手10勝、後手7勝。うち15局で▲4五桂と仕掛けている。 39 4五桂(37) ( 3:00/00:04:00) *藤井は少し手を止めていたが、桂を跳ねた。まだまだ定跡の範囲内といえる。「この二人は10秒将棋でも指せるんですよね。この先ももっと研究しているはずです。相手がこうすれば間違えやすいという形をお互いに研究しているでしょう」と小林健九段。どこで用意の研究手が出るかが最初の見どころになる。 40 2二銀(33) ( 0:00/00:03:00) 41 7五歩(76) ( 3:00/00:07:00) 42 同 歩(74) ( 1:00/00:04:00) 43 5三桂成(45) ( 0:00/00:07:00) *桂頭に空間をつくってから歩を入手。いきなり桂を捨てるのは大胆にも見えるが、▲7四歩で取り返す手段を用意している。 44 同 玉(42) ( 0:00/00:04:00) 45 7四歩打 ( 0:00/00:07:00) 46 4四歩(43) ( 0:00/00:04:00) *互いにテンポよく指し進めている。まだ前例のある進行だ。 47 8二角打 ( 0:00/00:07:00) *飛車が動いて生じた8筋の隙に角を打ち込む。7筋で数の攻めを狙っている。過去の実戦で受け方は△6三玉、△7二金、△8四角が指されている。支持を集めているのは多い順に△8四角と△7二金だ。 48 7二金(62) ( 0:00/00:04:00) *前例が多い△8四角ではなかった。控室で「金なんだ」と加藤桃女流三段の声。継ぎ盤では▲7三角成△同金▲同歩成△5五歩が並び、小林健九段が「これは僕の時代だと午前中で終わっちゃうよ」と笑う。 49 7三角成(82) ( 2:00/00:09:00) 50 同 金(72) ( 0:00/00:04:00) 51 同 歩成(74) ( 0:00/00:09:00) *9時43分の着手。まだ1時間もたっていないがと金が残った。激しい。 52 5五歩打 ( 0:00/00:04:00) 53 4七銀(56) ( 0:00/00:09:00) *前例が1局になった。2023年4月に今期棋聖戦決勝トーナメントの▲松尾歩八段−△佐々木勇気八段戦で指されている。結果は後手勝ち。 54 4五歩(44) ( 0:00/00:04:00) *4筋に回った飛車を生かした反撃。前述した前例はここから▲5八桂△4六歩▲同銀△3三銀▲4七歩△4四銀▲7九玉△9五歩と進んでいた。 55 3八桂打 ( 4:00/00:13:00) *5筋ではなく3筋に桂を打って4筋を支えた。前例の▲5八桂は6筋にも利いて玉頭を厚くしている意味がある。本譜の▲3八桂は「あとで▲2六桂と跳ねて使おうということですかね」と小林健九段がいう。 56 7一飛(41) ( 1:00/00:05:00) *桂を打つ位置は違うが、藤井が指した手の意味合いは前例と似ている。佐々木の指した△7一飛は△4六歩とは方向性が異なるため、佐々木が先に目立った工夫を施したといえそうだ。小林健九段は「と金を引かれるのが嫌ということですね」と解説する。 57 7二金打 ( 2:00/00:15:00) *早い。指し手が止まらない。「持ち時間、勘違いしてるんじゃないですかね」と鈴木九段の声。二人の研究が深い。小林健九段は「鈴木−小林戦ならすぐ終わりますね。午後から観光が始まります」と笑う。 58 4一飛(71) ( 6:00/00:11:00) *ひらりと4筋に戻る。打った金が鈍重な形になればうまい。 59 4五歩(46) ( 1:00/00:16:00) *4筋でぶつかっている歩を取って攻めを緩和した。鈴木九段が継ぎ盤で示していたのは△3三銀と立て直す手。働きの弱い駒を見つけて使うのは将棋の基本だ。 *10時、午前のおやつの時間になって対局室に飲み物が運ばれた。注文は藤井がチェーとオレンジジュース、佐々木がバンヤロンと炭酸水(ライムと砂糖添え)。チェーはフルーツと豆のベトナム風ぜんざい、バンヤロンは伝統的な餅菓子。佐々木は15分ほど手を止めている。 * *【午前のおやつ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2023/06/post-02c9.html 60 3五歩(34) (30:00/00:41:00) *10時31分、佐々木が着手。狙いとして▲3五同歩に△4五飛から△3五飛となればスムーズに飛車を活用しながら歩を蓄えることができる。藤井も手を止めた。事前の研究から外れた可能性が高い。 61 同 歩(36) (13:00/00:29:00) *自然に応じる。佐々木は棋譜用紙を受け取って目を通した。控室の継ぎ盤では△4五銀と△4五飛を比較して調べている。数を足す△4五銀は▲4六歩と打たせて4筋の歩交換で収める展開になる。飛車をさばく△4五飛は手抜きで▲7四とや▲4六桂と攻める選択があるため激しくなりやすい。 62 4五飛(41) (18:00/00:59:00) *軽快に飛車をさばいた。歩を手持ちにすることで攻めのバリエーションも増える。控室の検討では▲4六桂△4三銀▲3七金という順が出ていた。桂跳ねで銀を引かせて飛車を狭くしておき、その飛車を目標にする意味だ。次は▲3六金△4四飛▲4五歩で飛車を捕獲する狙いがある。ただ、△6五歩と突く手が飛車を四段目に引いたときに横利きを広げつつ、先手の玉頭を攻めて感触がいい。鈴木九段は「▲3七金は上がりにくいと思います」と話している。攻めとしては▲7四と〜▲7三金とじわじわ活用し、次に▲4六桂△4三銀▲6三金を狙う方針もある。 *11時10分頃、控室に屋外プールでの撮影を終えた木村九段が戻ってきた。「暑かった」とへとへとの様子だ。9時から始まっている大盤解説会には朝から来場者が入っていたという。 63 4六桂(38) (18:00/00:47:00) *11時21分、藤井が着手。受けに打った桂を攻めに活用する。先手は角を失って持ち駒も乏しい。盤上の駒をうまく使う必要がある。 64 4三銀(54) ( 1:00/01:00:00) 65 3七金(48) ( 2:00/00:49:00) *指しにくいといわれていた金上がり。飛車を圧迫して▲3六金△4四飛▲4五歩の捕獲を狙う。後手はひとまずこの筋を回避せねばならないが、逃げ道を広げる△5二銀は▲6二金で攻めを手助けしてしまうし、4筋に数を足して受ける△3三桂は▲3四歩と桂の利きを生かして攻められてしまう。鈴木九段が示していた△6五歩は攻防一体の手かつ、数少ない受けの手段でもある。 *11時57分頃、少し早めに昼食休憩に入った。佐々木が休憩に入れるように伝えたようだ。12時までの時間は佐々木の消費時間に加算される。消費時間は▲藤井49分、△佐々木1時間33分。昼食は両者ともコムガー、飲み物は藤井がマンゴースムージー、佐々木が炭酸水(ライムと砂糖添え)。コムガーはベトナム風のチキンライス。スパイスとハーブのさわやかな香り、ターメリックライスの鮮やかな見た目が食欲をそそる。暑い今日にはぴったりだ。対局は13時に再開される。 * *【昼食休憩】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2023/06/post-bc24-1.html * *※局後の感想※ *藤井が「これで飛車が取れると思って喜んでいたんですけど」と苦笑し、佐々木が「どうするんでしたか」と尋ねると藤井は「いや、△4四桂はなるほどと思って」。本譜の代案として△6五歩は▲3六金△4四飛▲4五歩△8四飛▲6二金で「素朴にやられて……」と佐々木は自信が持てない様子。藤井も「こっちがどのくらいなのか」と確信のある感じではなかった。 66 4四桂打 (47:00/01:47:00) *13時、対局再開。佐々木はすぐに指す様子はない。藤井は朝には着ていた羽織を脱いで盤に向かっている。13時13分、佐々木の手が駒台に伸びた。桂を打って▲3六金を防ぐ。意味は単純明快ながら、狭い飛車がさらに狭くなるのでぎょっとする見た目だ。西尾七段は「鈴木さんがいっていたように、棋士は△6五歩に目がいきます。ただ、▲3六金△4四飛▲4五歩△8四飛▲8二金から飛車を目標にされると後手が悪いようです。藤井さんは盤面を制圧する指し方がものすごくうまいですから。佐々木さんも長考で、自然に映る△6五歩が悪くなると読んだのでしょう」と話す。話の中で出てきた▲8二金は飛車を圧迫するためだが、敵玉を攻めるのとは逆モーションでなかなかの妙手である。 *佐々木の熟考にお返しするように藤井も時間を使っている。佐々木は窓の外に目を向ける。ダナン湾のある方向だ。昼食休憩に入ってから窓のカーテンが開けられている。13時50分頃、控室の外から音がして山側の窓の下を見ると、ホテルに近い線路をディーゼル列車が走っていた。ベトナムを南北に走る鉄道がハノイとホーチミンを結んでいる。木村九段は走る列車を眺めながら「あんまり速くないね。急ぐ必要がないのかな」と話していた。 * *【対局再開】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2023/06/post-2985.html 67 6二金(72) (68:00/01:57:00) *14時21分、藤井の手が動いた。金をにじり寄って玉に迫る。控室では鈴木九段と木村九段が継ぎ盤で検討している。桂を打ったからには「真ん中を突くのが筋というものでしょう」と鈴木九段が△5六歩を示すと、木村九段は▲7九玉と引く。思わず目を疑ってしまいそうな手だ。5筋を明け渡すのは怖いが、△5七歩成には▲6三と△4二玉▲5四歩の切り返しがある。二人はしばらく調べたあと、△4四桂と打った理由を検証し始めた。鈴木九段は「どちらかといえば後手持ちなんだけど、嫌な順があるから桂を打ったんだね。ついていけないねえ」と首をひねっていた。 * *※局後の感想※ *藤井は「▲3六銀△同桂▲同金△3三桂で飛車を取れる形なんですけど、上部が抜けてしまって(後手玉が)捕まらないかなと思ったので。本譜は予定変更でした」と振り返る。佐々木は「金寄られて……。△8六歩突くタイミングが全然ない」と嘆いた。ここで△8六歩は「と金寄って銀出ちゃうんですか」と藤井。以下▲6三と△4二玉▲3六銀は後手がまずそうだ。 68 5六歩(55) (27:00/02:14:00) *飛車の横利きを通しつつ、打った桂を生かして玉頭の急所に迫る。感触のいい手だ。「当たったよ」と鈴木九段。このまま手番が回ると△4八角が厳しいため、何かしら受ける必要がある。普通の感覚では▲6七金だが、▲7九玉という意表の応手もある。控室に戻ってきた小林健九段は「△4四桂に▲3六銀はどうなったの」と話す。本譜の△4四桂に構わず▲3六銀と出て、△同桂▲同金△4七角▲4五金△2九角成▲4四歩は後手玉が「詰めろじゃないの」と小林健九段。鈴木九段は「何かあるんでしょうね。難しすぎます」。水面下に難解な変化が潜んでいる。密度の濃い戦いだ。 *15時、午後のおやつの時間になった。注文は藤井がバンヤロン、パイナップルジュース。佐々木がチェー、アイスコーヒー。チェーにはさまざまな種類があり、佐々木はバナナとココナッツを使ったものを選んでいる。 * *【午後のおやつ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2023/06/post-ecc5.html 69 6七金(78) (14:00/02:11:00) *金を使って上部に応援を送る。小林健九段は「△4八角と打ってみたいですね」という。以下▲3八金に△5七歩成▲同金△同角成▲同玉△5六歩と猛攻が続き、先手からすると非常に怖い。「あとは7筋と8筋の歩を突くかどうか。飛車が広くなりますからね」と小林健九段は話す。後手も危険が迫っている状況で角を渡すのは勇気がいる。攻める側にも覚悟が必要になる。 70 4八角打 (27:00/02:41:00) *15時31分、佐々木が着手。浮き駒の金に狙いをつけながら5筋にも数を足して攻める。 * *※局後の感想※ *先手は▲5六銀と受ける手もあった。変化の余地を消すなら△4八角に代えて△5七歩成▲同金△4八角がよかった。以下▲5四歩△4二玉▲3四桂△3三玉は後手が指せる。佐々木は「そうか」。藤井は「うーん、どっちでもと思っていたんですが」と首をひねった。本譜について佐々木は「攻めさせられている感じがしますね。金(▲6七金)がけっこう堂々とした手で。時間がかかればかかるほどと金の価値が高まっていくので。本譜まあ動くしかないと思ったんですけど、ちょっと攻める手段が見えなくて、ダメな感じにしちゃいました」と振り返った。 71 6三と(73) (11:00/02:22:00) *王手を入れた。対局室に佐々木の姿はない。藤井は扇子を手にして小さく開閉しながら盤面を見つめている。おやつで頼んだジュースを飲む。数分して佐々木が戻ってくる。 72 4二玉(53) ( 3:00/02:44:00) 73 3八金(37) ( 1:00/02:23:00) *当たっている金を引いて受ける。怖い形だが、角が入るのも大きい。 74 5七歩成(56) ( 1:00/02:45:00) 75 同 金(67) ( 0:00/02:23:00) 76 同 角成(48) ( 0:00/02:45:00) 77 同 玉(68) ( 0:00/02:23:00) *先手玉は露出していて流れ弾に当たりやすく、後手玉はと金が近くにあって双方とも怖い形をしている。わずかなミスが致命傷につながるため、高い読みの精度が要求される展開といえる。鈴木九段は△5六歩に▲同銀と取り、△同桂のタイミングで攻め合う順を調べている。例えば▲5三角△4一玉▲4四歩はどうか。 78 5六歩打 ( 6:00/02:51:00) *鈴木九段と木村九段は▲5六同銀△同桂▲5三角△4一玉▲4四歩の変化を掘り下げている。以下△5五銀▲4三歩成△4六銀▲6七玉△4三金▲5二銀△3二玉▲4三銀成△同飛▲4二金△同飛▲同角成△同玉▲5二金△4三玉▲5三と△4四玉▲4三飛△3五玉▲3六歩△同玉▲2六飛で後手勝ちというもくろみだが、△同玉▲4六飛成△2五玉で詰まない。「あれ、これじゃやり直しだ」と木村九段。最後の不詰みに気づいたのは鈴木九段が大盤解説会に向かったあとだった。 79 6八玉(57) ( 2:00/02:25:00) *「引いたんですか。ずいぶん早いね」と木村九段の声。検討陣は▲5六同銀を本命視していた。難しい選択だったようにも思えたのだが、藤井の決断は早かった。木村九段は「論外ということなんだなあ」としげしげ継ぎ盤を見つめる。指し手の一例は△3五飛で、▲5八歩の受けには△5七歩成▲同歩△4五角と急所のラインを押さえる。飛車を攻めに活用するだけでなく、角を打つ空間を生み出す一石二鳥の手というわけだ。ほかには△5五飛と5筋を狙う攻めもあり、木村九段は「どちらもありますね」という。 *16時35分、佐々木は約36分使っている。残り時間は30分ほど。藤井とは差が開いている。記録係の小山直四段が残り時間を示す早見表の数字をペンで消すと、佐々木がそちらに目をやった。 * *※局後の感想※ *佐々木が「こっちもちょっと、ですよね」と△5五飛を示す。以下▲5八歩△4五角▲3四桂△3三玉▲4六銀△5七歩成▲同歩△6七金▲6九玉△5六歩▲4五銀△5七歩成▲7九玉△4五飛▲5一角△4二歩▲同桂成△3五飛▲3六歩△同飛▲3七歩が並べられ、藤井は「これじゃあ抜けてる可能性が高すぎておかしいですね」と局面を戻す。佐々木が「角に角打つのはおかしいですか」と手順中△4五角に▲7三角△3三玉▲6四角成を提案すると、藤井は「そっか。こういう催促なんですね」。佐々木は「角で間に合わされると悲しいですよね。これすら突破できないとちょっと。(△4五角の)ラインが生かせればと思ってたんですけど」と嘆息した。 80 3五飛(45) (45:00/03:36:00) *16時44分、佐々木の手が動いた。残り24分まで使って指されたのは検討でも出ていた飛車寄り。継ぎ盤で木村九段が▲5八歩と打って鈴木九段が△8六歩と突くと、木村九段が「好きだねえ!」と笑う。今日の検討では鈴木九段の手が何度も△8六歩に伸びる場面があった。鈴木九段も「ここ突かなきゃ将棋にならんでしょ」と笑顔。一例として調べたのは▲5八歩△1三銀▲5三角△3三玉▲3六歩△4五飛▲6四角成△8六歩▲同歩△8八歩▲9七桂△3七歩▲4八金△8九歩成▲5三とという順。後手側に座る鈴木九段が攻め、先手側に座る木村九段は受ける展開で、検討陣の持ち味が出ている。 81 5八歩打 ( 9:00/02:34:00) *鈴木九段は「少し前はいい勝負だと思ってましたけど、ぴったりした手がないですね。次に▲5三角△3三玉▲3四歩△同銀▲3六歩という順と▲5一角というAとBの両面があって、どちらかを受けるともう一方で攻められてしまう」と話す。検討で出ていた△1三銀は鈴木九段のいう2つの攻め筋の両方に効果がある受けだが、「この終盤で指す手としてはしょぼい」と鈴木九段はうなった。 *17時14分、佐々木の残り時間は5分になっている。秒読みが始まっている。 82 5七歩成(56) (19:00/03:55:00) *残り5分まで使って歩を成った。成り捨てて△4五角と打てば角のラインが玉頭に通る。だが、大事な拠点を捨てる手でもあるため、ひねった印象を受ける。佐々木はあごに手を当ててうつむく。藤井は脇息にもたれて前傾姿勢で盤に向かっている。すぐに▲5七同歩と指してもおかしくないが、藤井は20分以上時間を使っている。佐々木の目線がふっと上に向く。小林健九段は「△4五角と打たれたときの最善を読んでいるんです。プロは取る一手のところで考えますから」と話す。鈴木九段は「全部打ち歩なんですよ」とぼやいた。ここから▲5七同歩△4五角▲5三角△3三玉▲3四歩△同銀▲3六歩△6七金▲5九玉△3六角▲4八玉△5六歩▲同歩△同桂▲3七玉△4七角成▲同玉△5八銀▲5六玉と進むと、△5五歩が打ち歩詰めだ。検討が進み、手順中△5六歩では△3一銀と頑張る順がどうかといわれている。「もうひと山ないかなあ」と鈴木九段の声。 83 同 歩(58) (37:00/03:11:00) *17時51分、藤井が着手。藤井が席を立つ。佐々木の秒読みが始まる。 84 4五角打 ( 0:00/03:55:00) *急所のラインを押さえる。次は△3八飛成と切って▲同銀に頭上を押さえる△6七金が強烈。先手玉はそのまま詰んでしまう。検討では▲5三角△3三玉▲3四歩△同銀▲3六歩と後手玉に迫って形を決めてから飛車先を止めていた。詰む詰まないは藤井の得意分野だ。どのように受けるか。小林健九段は対局室を映すモニターを見ながら、「藤井さんは逃したくないから慎重になりますよね」と話す。 *18時頃、盤面に没頭している藤井に対し、佐々木は襟元を整えて遠くを見るように顔を上げる。対照的な姿。佐々木は背中を丸めてうつむく。顔をしかめる。 * *※局後の感想※ *藤井が「ここどうするんですか」と尋ねる。佐々木が▲5三角△3三玉▲3四歩△同銀▲4四角成を示して「変ですかねえ」というと、藤井は「いや、いや、いや。見えたらやるっていう手かもしれないです」と駒を動かす。以下△同玉▲5六桂△3三玉▲3四桂△5六角▲同歩△4六角▲5七銀△同角成▲同玉△4五桂▲6八玉△5七金▲7九玉まで進めて、藤井は「こうなれば、ですか」、佐々木は「ダメですよね」。藤井は「そうか……」と上を向き、何度も「そうか」とつぶやき、「なるほど」と苦笑する。佐々木は「いやー、海眺めるしかなかったです」とぼやいた。藤井は「ちょっと▲3六歩しか浮かばなかったので、△6七金に▲5九玉と引いて△3六角と出て嫌な形かなと思って。▲5三角からそんないい手順があるとは気づきませんでした」と肩を落としていた。 85 5二と(63) (25:00/03:36:00) *18時17分、藤井の手が盤上に伸びた。と金を捨てる。検討で出ていなかった手だ。「顔色が変わりましたよ」と小林健九段の声。モニターを見ると佐々木が盤に顔を近づけている。残り少ない時間で狙いを見破らねばならない。 * *※局後の感想※ *藤井は「そうか、本譜はひどいんですね」と苦笑い。佐々木は「急に難しくなったと思ったんですけど」と振り返った。 86 同 銀(43) ( 2:00/03:57:00) 87 同 金(62) ( 0:00/03:36:00) *と金に続いて金も盤上から消える攻め。自玉に詰めろがかかっているのに金を渡すのは大胆だ。 88 同 玉(42) ( 0:00/03:57:00) 89 6七銀打 ( 0:00/03:36:00) *銀を埋めて受けた。大事な攻め駒である金とと金を犠牲にして得た銀を自陣に打つのは流れがおかしい感もある。「粘っているような手だね」と小林健九段。佐々木がせわしなく扇子であおぐ。 * *※局後の感想※ *佐々木が「△8六歩はあとからでも入れるチャンスはあったので」と△4三金を示し、▲3六歩△3一飛▲7四歩△8六歩▲同歩△8八歩▲9七桂△8七金▲7三歩成まで進めて「若干厳しいですかね」。とはいえ本譜よりはアヤがある。佐々木は「金を上がる一手でしたね」と盤面を指差した。 90 8六歩(85) ( 1:00/03:58:00) *モニターに映る盤面を指差して「角を打ってみたいですね」と小林健九段は▲1七角を示す。飛車を手に入れれば▲8二飛が攻防手になる。 91 1七角打 ( 5:00/03:41:00) *小林健九段が予想していた手。飛車を手に入れれば孤立している後手玉に有効打が入りやすい。 92 3三飛(35) ( 0:00/03:58:00) *飛車を渡さないように頑張る。しかし△8七歩成が間に合わない展開になるとつらい。 93 4四角(17) ( 0:00/03:41:00) *桂を取りながら急所に躍り出て好調な駒運び。先手は駒得で玉の安定度でもまさる。 94 8七歩成(86) ( 0:00/03:58:00) *開き直って攻め合う。飛車は渡したくない駒だが、受けてばかりでは活路が開けない。だが、ここから▲3三角成△7七と▲同桂△3三銀▲5六銀右と進むと先手陣が手厚い。 95 3三角成(44) ( 5:00/03:46:00) *飛車を取る。うっかり△3三同銀は▲8二飛でせっかくのと金が抜かれてしまう。18時39分、佐々木は一分将棋に入った。 96 7八金打 ( 1:00/03:59:00) *銀を取る△7七とは▲同桂で攻めの種駒が消えてさっぱりしてしまう。不利な側は局面の複雑化を目指すのがよい。藤井が頭に手をやる。残り時間を示す早見表が置かれている盤側に目をやる。 97 5八玉(68) ( 2:00/03:48:00) *軽くかわす。王手で追って先手玉が遠くなったので、△7七とが王手にならない。 98 3三桂(21) ( 0:00/03:59:00) 99 8二飛打 ( 0:00/03:48:00) *厳しい合駒請求。後手は合駒をするなら高い駒を打つしかない。戦力を削ればそれだけ先手玉が安全になる。 100 7二金打 ( 0:00/03:59:00) 101 8七飛成(82) ( 0:00/03:48:00) *ピシリと高い駒音が響いた。と金を抜いて先手陣が堅い。攻防の△6九角は▲同飛がある。王手が途切れれば▲4四桂が痛打になる。竜と飛車が強力な守り駒だ。 102 3七歩打 ( 0:00/03:59:00) 103 同 金(38) ( 0:00/03:48:00) *形を乱して手段があるかどうか。後手は手が止まると▲7八竜と金を取られてしまうし、▲4四桂も痛い。 104 2五桂(33) ( 0:00/03:59:00) *盤上の駒を活用して攻める。飛車が利いているが、▲2五同飛なら△6九角▲4八玉△6七角成だ。佐々木は口に手を当てて首をかしげる。外は日が落ちてすっかり暗くなった。ダナンの街並みに明かりが灯っている。 105 3六金(37) ( 1:00/03:49:00) *金を逃げながら角にアタック。丁寧な対応だ。 106 6七角成(45) ( 0:00/03:59:00) 107 同 玉(58) ( 0:00/03:49:00) 108 7七金(78) ( 0:00/03:59:00) *当たりになっている駒を処理していく。 109 同 竜(87) ( 0:00/03:49:00) *玉と竜の接近形は好形ではないが、後手陣にキズが多い。「△7六銀▲同竜△同歩に▲5四角が厳しいです」と小林健九段の声。 110 7六銀打 ( 0:00/03:59:00) *佐々木は銀を打つと、少しうつむいた。 111 同 竜(77) ( 0:00/03:49:00) 112 同 歩(75) ( 0:00/03:59:00) 113 4四桂打 ( 0:00/03:49:00) *王手から入る。秒を読まれた佐々木が頭を下げた。後手玉は△6一玉▲5二角△7一玉▲7三歩で一手一手の寄り。先手玉は△8七飛に▲7六玉で詰まない。終局は18時56分。消費時間は▲藤井3時間49分、△佐々木3時間59分。自身初の海外対局を制した藤井が先勝。4連覇に向けて好スタートを切った。第2局は6月23日(金)、兵庫県洲本市「ホテルニューアワジ」で行われる。 * *【終局直後】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2023/06/post-bb10.html * *【大盤会場へ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2023/06/post-359b.html * *【感想戦】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2023/06/post-10da.html * *※局後の感想※ *両者とも想定していた展開で中盤まで早いペースで進んだ。藤井の▲3七金(65手目)、佐々木の△4四桂(66手目)は見ごたえのある応酬。ポイントは△4五角(84手目)の局面で、藤井はうまい対応が見えていなかったが、佐々木は決め手につながる順を読んでいた。本譜は先手変調といえるが、△8六歩(90手目)が急ぎすぎで、代えて△4三金と上がって▲1七角に備えたほうがアヤがあった。佐々木にとっては時間切迫のためにチャンスを十分に生かせなかったといえる。藤井も終盤で課題が残ったため、勝ったとはいえ心残りのある様子だった。 114 投了 ( 0:00/03:59:00) まで113手で先手の勝ち