# --- Kifu for Windows (Pro) V6.65.52 棋譜ファイル --- 対局ID:10796 記録ID:5f057f7c4f9d7c0004159bba 開始日時:2020/07/09 09:00 終了日時:2020/07/09 19:12 表題:ヒューリック杯棋聖戦 棋戦:第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負 第3局 戦型:角換わり腰掛け銀 持ち時間:各4時間 消費時間:142▲239△227 場所:東京・都市センターホテル 備考:昼休前77手目19分\n 振り駒:なし 先手消費時間加算:0 後手消費時間加算:0 昼食休憩:12:00〜13:00 昼休前消費時間:77手19分 手合割:平手   先手:藤井聡太七段 後手:渡辺明棋聖 先手省略名:藤井聡 後手省略名:渡辺明 手数----指手---------消費時間-- *渡辺明棋聖に藤井聡太七段が挑戦する第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負(主催:産経新聞社、特別協賛:ヒューリック株式会社)。第3局は7月9日に東京都千代田区「都市センターホテル」で指される。 *番勝負はここまで藤井が2連勝。初タイトル(史上最年少獲得)まであと1勝。渡辺はカド番であとがない。1勝ずつ返していくしかない状況だ。 *持ち時間は各4時間。第1局の振り駒により、本局の先手は藤井と決まっている。立会人は青野照市九段。記録係は高橋佑二郎三段(加瀬純一七段門下)。 *藤井は8時41分に対局室入り。渡辺は8時47分に入室した。両者、大橋流の作法で駒を並べていく。8時51分には駒を並べ終えた。黙想したり、うつむいたりして気を高めていく。 *☆終局後、宮本広志五段による解説を掲載いたします。 *記載箇所は36手目、43手目、56手目、73手目、75手目、77手目、87手目、99手目、110手目、119手目、142手目です。 *【将棋 - 産経ニュース】 *https://www.sankei.com/life/newslist/shogi-n1.html *【ヒューリック株式会社】 *https://www.hulic.co.jp/ *(棋譜・コメント入力=銀杏) *[棋譜表示の*はコメント付きの指し手。#は局後の感想が追記された指し手。【】はブログやリンクのタイトル] 1 2六歩(27) ( 0:00/00:00:00) *定刻9時、対局開始。開始直前にお茶を飲んだ藤井は、一礼後にもお茶を飲んで初手を指した。 * *◆藤井 聡太(ふじい そうた)七段◆ *2002年7月19日生まれ、愛知県瀬戸市出身。杉本昌隆八段門下。2016年、四段。2018年、七段。棋士番号は307。 *タイトル戦登場は2回。棋戦優勝は3回。 2 8四歩(83) ( 0:00/00:00:00) *渡辺が2手目を指し、関係者や報道陣が退室した。 * *◆渡辺 明(わたなべ あきら)棋聖(棋王・王将)◆ *1984年4月23日生まれ、東京都葛飾区出身。所司和晴七段門下。2000年、四段。2005年、九段。棋士番号は235。 *タイトル戦登場は35回。獲得は棋聖1期、竜王11期(永世竜王)、王座1期、棋王8期(永世棋王)、王将4期の計25期。棋戦優勝は11回。 3 7六歩(77) ( 0:00/00:00:00) *関係者が退室している間に、藤井は3手目の▲7六歩を着手する。 * *藤井の2020年度の成績は12勝1敗(0.923)。 *対局数ランキング、勝数、連勝ランキングで1位。2020年度は棋聖戦に加え、王位戦でもタイトル挑戦中で、対戦相手が強敵ぞろいの中で高い勝率を挙げている。 *2019年度の成績は53勝12敗(0.815)。 *通算成績は181勝33敗(0.846)。 *(未放映のテレビ対局を除く) 4 3二金(41) ( 0:00/00:00:00) *渡辺の2020年度の成績は3勝4敗(0.429)。 *2019年度の成績は41勝15敗(0.732)。 *通算成績は660勝335敗(0.663)。 *本局は通算996局目。通算1000局は目前である。 *(未放映のテレビ対局を除く) 5 2五歩(26) ( 0:00/00:00:00) *第1局では矢倉を採用した藤井。本局は得意の角換わりを目指す。先手が角換わりに誘導する手順の組み合わせはいくつかあるが、藤井は本局のように▲2六歩△8四歩▲7六歩△3二金▲2五歩の順で進めることが多い。右左右と覚えればいい。 * *本局はABEMAの将棋チャンネルで動画中継される。解説・聞き手は森内俊之九段、高見泰地七段、室田伊緒女流二段、中村桃子女流初段。 *【第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第3局 渡辺明棋聖 対 藤井聡太七段】 *https://abema.tv/channels/shogi/slots/Aku8KJpDpGsddh 6 8五歩(84) ( 0:00/00:00:00) *ヒューリック杯棋聖戦は産経新聞社が主催の棋戦。全プロ棋士と女流棋士枠から2人が出場する。一次予選と二次予選を行い、勝ち上がった棋士とシード棋士の計16人が決勝トーナメントで挑戦権を争う。2018年4月からヒューリック株式会社が特別協賛している。 *【棋聖戦】 *https://www.shogi.or.jp/match/kisei/ 7 7七角(88) ( 0:00/00:00:00) *棋聖戦を特別協賛しているヒューリック株式会社は、女流棋士棋戦のヒューリック杯清麗戦を主催。 *現在、里見香奈清麗に上田初美女流四段が挑戦する第2期五番勝負が行われており、第2局は10日に指される。 *【ヒューリック杯清麗戦】 *https://www.shogi.or.jp/match/seirei/ 8 3四歩(33) ( 1:00/00:01:00) *本局は松本哲平さんが産経新聞の観戦記を担当する。 *現在、産経新聞には東和男八段による準々決勝菅井竜也八段−藤井戦の観戦記が掲載されている。 9 6八銀(79) ( 0:00/00:00:00) *藤井は第1局と第2局の矢倉戦を連勝した。あと1勝すれば史上最年少でのタイトル獲得(17歳11ヵ月。従来は18歳6ヵ月の屋敷伸之九段)となる。そのため、決勝トーナメント準決勝のころから報道陣が多く取材に詰めかけている。 10 7七角成(22) ( 0:00/00:01:00) *渡辺は過去33回のタイトル戦でストレート負けを喫したことはない。特に2008年の第21期竜王戦七番勝負では、将棋界史上初の3連敗からの4連勝で逆転防衛を果たした。2連敗スタートで厳しい状況だが、逆境での強さは棋界でも最上位の棋士だ。 *渡辺は現在タイトル通算25期で、歴代5位の記録だ。27期で4位の谷川浩司九段に近づいている。 11 同 銀(68) ( 0:00/00:00:00) *指し手がスラスラ進み、戦型は角換わりとなった。角換わりとは、出だし10手程度で手の損得なしに角を交換する相居飛車戦。角を持ち合っているため、戦いが起きれば一気に局面が激しくなることも多いが、互いに相手の攻めを牽制し合って膠着状態になることもある。 * *棋聖戦の対局が都市センターホテルで指されるのは、2018年7月17日の第89期第5局以来2回目。前回は羽生善治棋聖に豊島将之八段が挑戦するシリーズ(肩書・段位はいずれも当時)。羽生棋聖はタイトル通算100期、豊島八段は初タイトルがかかっていた。この対局日は最高気温が35度の猛暑だった。暑い盛りに行われた熱戦を豊島八段が制して、念願の初タイトル獲得。それが現在の活躍につながっている。 *また、豊島八段が棋聖獲得したことで、八大タイトルを羽生善治竜王、佐藤天彦名人、高見泰地叡王、菅井竜也王位、中村太地王座、渡辺明棋王、久保利明王将、豊島将之棋聖の8人で持ち合う状況が生まれた。現在のタイトルホルダーは豊島竜王・名人、渡辺三冠(棋聖・棋王・王将)、永瀬拓矢二冠(叡王・王座)、木村一基王位の4人。顔ぶれを見比べると、2年で目まぐるしく棋界の勢力が動いたことがわかる。第89期棋聖戦から現在までで、タイトル防衛に成功した棋士は渡辺しかいない。 12 2二銀(31) ( 0:00/00:01:00) *渡辺は通算で23回目のタイトル防衛戦。過去22回の戦績は18勝4敗。8割を超える防衛率だ。渡辺からタイトルを奪取したことのある棋士は、羽生善治九段、森内俊之九段、郷田真隆九段の3人。後輩棋士に対しては防衛、挑戦どちらでも番勝負で負けたことはない。 13 4八銀(39) ( 1:00/00:01:00) *藤井は少し手を止めていたが▲4八銀を選んだ。決勝トーナメント準決勝の佐藤天彦九段戦では、▲3八銀としていた。 * *愛知県をはじめとする東海地区の出身棋士は多いが、タイトル経験者は少ない。特に東海地区在住のままでタイトルを獲得した棋士はいない。藤井がタイトルを獲得すれば初となる。豊島将之竜王・名人は愛知県一宮市出身だが、少年時代に大阪府豊中市に転居していた。 *あと1勝で「東海地区にタイトルを」という藤井の大師匠(師匠の師匠)である故・板谷進九段の悲願が成る。 14 3三銀(22) ( 0:00/00:01:00) *二人の過去の対戦は3局あり、藤井が3連勝している。 *渡辺は行方尚史九段、中座真七段、千葉幸生七段に、初手合から3連敗以上を喫しているが、いずれも20歳前のこと。藤井の場合は、渡辺が実績を十分に積んでいること、予選での対戦はなく、全局舞台が大きい。 15 3六歩(37) ( 0:00/00:01:00) *第1局と第2局を振り返ると、第1局は先手の藤井が相矢倉の脇システムを採用。中盤のねじり合いから藤井が寄せに踏み込み、最終盤は渡辺の王手攻撃を際どく逃げ切った。 *第2局は渡辺にしては珍しく急戦矢倉を採用。中盤の入り口で藤井が△5四金から△4二飛という斬新な指し方で迎え撃つ。悪形の将棋を藤井がうまくまとめて制勝した。 16 6二銀(71) ( 1:00/00:02:00) *都市センターホテルのある平河町は、千代田区の西側にある。西にいけば紀尾井町、南は永田町や赤坂、北東に皇居の半蔵門などがある。 *平河町は都心の1地域というだけではない。戦前に創立した日本将棋連盟の仮本部は、麹町区平河町6丁目にあった関根金次郎十三世名人宅に置かれたという。古い地図にあたらないと正確な場所はわからないが、都市センターホテルから徒歩数分の場所だろう。将棋界にとって縁のある地域での対局でもあるわけだ。 *【日本将棋の歴史(8)|将棋の歴史|日本将棋連盟】 *https://www.shogi.or.jp/history/story/index08.html 17 4六歩(47) ( 1:00/00:02:00) *対局開始に芥川賞作家の磯崎憲一郎さんが立ち会った。後日、産経新聞に観戦記が掲載される。第2局も観戦記を執筆した。磯崎さんは羽生善治九段と対談したこともある。 *【芥川賞作家・磯崎憲一郎のヒューリック杯棋聖戦第2局観戦記 藤井七段、邪念のなさゆえの5四金! - 産経ニュース】 *https://special.sankei.com/a/life/article/20200701/0001.html 18 6四歩(63) ( 1:00/00:03:00) *ここ1週間、各地で雨の降る天気が続いている。 *特に熊本県、鹿児島県、福岡県、佐賀県、長崎県、岐阜県、長野県はここ数日で大雨特別警報が出され、大きな被害が出ている。今日も九州から東海地方にかけて大雨に警戒するよう報じられている。 19 7八金(69) ( 0:00/00:02:00) *藤井は▲4六歩と突いたため、▲4七銀から▲5六銀とする腰掛け銀志向。渡辺も△6四歩としたため同様だ。 20 6三銀(62) ( 1:00/00:04:00) *【都市センターホテル】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-baf4.html *【検分】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-42ac.html 21 6八玉(59) ( 0:00/00:02:00) *【本日のスケジュール】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-3ea2.html *【朝の対局室】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-5cf3.html *【対局開始】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-75cb.html 22 7四歩(73) ( 0:00/00:04:00) *役員として常務理事の森下卓九段が対局開始に立ち会った。森下九段は10日が誕生日。 *なお、森下九段と渡辺の年齢差は17歳9ヵ月。渡辺と藤井の年齢差は18歳2ヵ月。 23 9六歩(97) ( 0:00/00:02:00) *9時20分ごろ、藤井は▲9六歩と突いて席を外す。 * *都市センターホテルは1959年開業。昨年に60周年を迎えた。現在の建物は1999年に新築したもの。赤坂、永田町、紀尾井町、市ヶ谷などに近い立地。少し西には清水谷公園があり、くつろぐことができる。 *【都市センターホテル】 *https://www.rihga.co.jp/toshicenter/ 24 9四歩(93) ( 0:00/00:04:00) *後手は9筋の歩を突くかどうか作戦の岐路。渡辺は6月の名人戦第1局で▲9五歩と位を取らせていた。 25 3七桂(29) ( 2:00/00:04:00) *日本将棋連盟モバイルでは、本局の様子をモバイル動画で中継している。棋譜中継のほか、迫力ある動画配信でもお楽しみいただきたい。 *【将棋連盟ライブ中継アプリ|日本将棋連盟】 *https://www.shogi.or.jp/lp/mr201704/ 26 4二玉(51) ( 0:00/00:04:00) 27 4七銀(48) ( 0:00/00:04:00) *最近は▲5八金として、▲3五歩△同歩▲4五桂の速攻を狙う手法も試みられている。▲4七銀は腰掛け銀を目指すとともに、右金の動きを保留する意味もある。 *角換わりは藤井の得意戦法だが、その中でも腰掛け銀を好む。 28 1四歩(13) ( 0:00/00:04:00) 29 1六歩(17) ( 0:00/00:04:00) 30 7三桂(81) ( 0:00/00:04:00) *2017年ごろから指されている新しい先後同型。現代の大きなテーマ図だ。多くの居飛車党が研究テーマにしている。 31 4八金(49) ( 0:00/00:04:00) 32 8一飛(82) ( 0:00/00:04:00) 33 2九飛(28) ( 0:00/00:04:00) 34 6二金(61) ( 0:00/00:04:00) *データベースで棋譜を調べると、渡辺は△7二金から△6二金と1手損する指し方が多かった。△6二金と同型を追随するほうが実戦例は多い。 35 5六銀(47) ( 0:00/00:04:00) 36 5四銀(63) ( 3:00/00:07:00) *※解説※ *宮本広志五段>ここまで矢倉が続いていたシリーズでしたが、ここで藤井七段得意の角換わりとなりました。 37 6六歩(67) ( 0:00/00:04:00) *藤井は羽織を脱いで、▲6六歩を指した。 38 6三銀(54) ( 0:00/00:07:00) *2手損になるが、好形を崩さないようにとする手待ち。△5二玉から△4二玉という指し方もある。 *【角換わり腰掛け銀の将棋に】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-caca.html 39 7九玉(68) ( 2:00/00:06:00) 40 5二玉(42) ( 1:00/00:08:00) *手待ちを繰り返す。渡辺は後手番なので千日手は歓迎。藤井としては、自ら角換わり腰掛け銀に誘導しておいて千日手では不満だ。どこで攻めるか。 41 8八玉(79) ( 2:00/00:08:00) 42 4二玉(52) ( 0:00/00:08:00) *後手は34手目△6二金と同じ形。先手だけ指し手が進んでいる。それがどのくらい得か。渡辺と藤井は先後どちらを持っても経験がある局面だ。攻めるなら▲4五桂、▲6七銀と銀矢倉にして、じっくり指した例も多数ある。 *フェイシャルペーパーで顔をぬぐった藤井は棋譜を借りて、ここまでの進行を確認した。 43 4五桂(37) ( 9:00/00:17:00) *藤井は2月のC級1組順位戦対高野秀行六段戦や昨年2月のC級1組順位戦対近藤誠也五段(現七段)戦で経験している。渡辺も2018年11月のB級1組順位戦対松尾歩八段戦で後手を持って指した。 *※解説※ *宮本広志五段>後手の一人千日手に対して積極的な攻勢に出ました。桂を跳ねると後戻りができないので、先手が攻めて後手が守勢に回る展開になります。 44 2二銀(33) ( 2:00/00:10:00) 45 3五歩(36) ( 1:00/00:18:00) 46 同 歩(34) ( 0:00/00:10:00) *△4四歩とすれば桂を取れるが、▲3四歩△4五歩▲同歩の進行は、桂と歩2枚の交換でも、3四歩や4五歩の圧力も大きく、後手大変とみる向きがある。渡辺はノータイムで△3五同歩と応じた。 47 6五歩(66) ( 1:00/00:19:00) *手元のデータベースでは実戦例は12局ある。先手から見て6勝5敗1千日手。 *6筋は先手にとって守りのエリアのはずだが、踏み込んでいく。△6五同桂は▲同銀△同歩▲3四桂が厳しい。 48 同 歩(64) ( 0:00/00:10:00) 49 5五銀(56) ( 0:00/00:19:00) *10時になった。立会人の青野照市九段は「後手は何手損しているんだろう」と指し手を確認する。後手は玉と右銀の動きで4手損だ。 *▲5五銀は角換わり腰掛け銀では、やや珍しい符号。5六と5四で向かい合うことが多く、5五に繰り出すことが少ないためだ。 50 3三桂(21) ( 1:00/00:11:00) *対局室に午前のおやつが出された。藤井は白ぶどうジュース。渡辺はチーズケーキ、アイスコーヒー。飲み物は対局室、ケーキは渡辺の自室に出される。 *△3三桂で△5四歩とすれば先手の銀を取れそうだが、▲9七角が好手。後手はレーザービームを受けられない。▲9七角に△5二玉▲6四銀と進んで、先手の駒はさばける。47手目▲6五歩はこうした変化を含みにしている。 *【午前のおやつ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-02c9.html 51 1八角打 ( 2:00/00:21:00) *▲1八角という符号は、「幕末の棋聖」と呼ばれた天野宗歩が、八代伊藤宗印との御城将棋で打った遠見の角をほうふつとさせる。ただ、この▲1八角は実戦例があり、定跡化されている。斎藤慎太郎八段著『斎藤慎太郎の角換わり腰掛け銀研究』や池永天志四段著『現代角換わりのすべて』(いずれもマイナビ出版)でも解説されている。 52 3六角打 ( 2:00/00:13:00) *4月の竜王戦2組▲佐々木勇気七段−△松尾歩八段戦で指された手。その対局は熱戦の末に終盤で千日手になった。 53 同 角(18) ( 1:00/00:22:00) 54 同 歩(35) ( 0:00/00:13:00) 55 5三桂成(45) ( 1:00/00:23:00) *自ら桂を捨てていくのが近年の傾向。以前は、こういう組み立てで攻める指し方は少なかった。 56 同 金(62) ( 0:00/00:13:00) *青野九段が控室の関係者向けに解説している「以前なら▲4五桂(43手目)のように単騎で飛び込む攻め方はなかったんです。AIの影響があるんですね」と話す。 *※解説※ *宮本広志五段>△5三同玉と取るのは▲1七角の筋があって危険で、▲2四歩と攻められる。角を打ち合って、歩を3六に呼び込んでいるのが効いている。 57 6二角打 ( 1:00/00:24:00) *依然として▲佐々木勇−△松尾戦の進行を踏襲している。 *【前例に沿ったハイペースな進行】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-5636.html 58 6一桂打 ( 0:00/00:13:00) *二人の指し手が早い。早指し棋戦と間違えてしまいそうになる。渡辺は腕を組んで、背筋を伸ばす。藤井は前傾姿勢だ。 59 6四歩打 ( 2:00/00:26:00) 60 5二銀(63) ( 5:00/00:18:00) 61 2四歩(25) ( 2:00/00:28:00) *前述の▲佐々木勇−△松尾戦から手が変わった。佐々木勇七段は▲5三角成とし、あとで▲2四歩を突いていた。 *【前例を離れる】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-f3d2.html 62 同 歩(23) ( 2:00/00:20:00) 63 5三角成(62) ( 0:00/00:28:00) 64 同 桂(61) ( 0:00/00:20:00) 65 5四銀(55) ( 2:00/00:30:00) *実戦例のない進行になっても、まだ指し手は早い。二人がどのくらい準備してきたかは注目のポイントの一つだ。 66 2五桂(33) ( 5:00/00:25:00) *▲6三歩成を受けなかった、というよりも受けが難しかったか。わずか5分での決断は研究範囲をうかがわせる。▲6三歩成を許してもいい勝負という判断をこの場でくだすには考慮時間が短い。 67 6三歩成(64) ( 5:00/00:35:00) *10時40分過ぎ、ABEMAで解説する森内九段は「私は角換わりだと後手を持つことが多いです。この展開は考えたこともありますが、このあとがとても複雑です」と話していた。水面下で研究課題だったのだろうか。本局は定跡の一局になるだろう。 68 同 銀(52) ( 0:00/00:25:00) 69 同 銀成(54) ( 0:00/00:35:00) *駒の損得は金銀と角桂の2枚換え。ただし、先手は歩切れ。角桂は攻め駒、金銀は守り駒。先手が戦果を挙げたようにも見えるが果たして。 *【平河天満宮】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-937f.html 70 3七歩成(36) ( 3:00/00:28:00) *まだ午前10時45分なのだが、もう終盤になろうとしている。持ち時間を多く持ち合って終盤戦に入るということは、深い読みが双方に求められることでもある。高い緊張状態が終局まで続くということだ。それは、われわれ観戦者も然り。終盤に時間を残すためにテンポよく指しているので、早い終局は考えにくい。 *継ぎ盤では▲3七同金△同桂成▲2四飛が示されている。 *青野九段「これで互角なのかねぇ」 *森下九段「とても互角に見えない。普通は角2枚で後手はどうするのかと思ってしまいます」 71 同 金(48) ( 4:00/00:39:00) *控室に『将棋世界』8月号が届けられた。棋聖戦第1局の観戦記が掲載されている。 72 8六歩(85) ( 3:00/00:31:00) *アマチュア視点では、「なぜ、金を取らない」と声を上げそうになる。青野九段と森下九段によると、△3七同桂成は▲2四飛と走られて、次に▲5三成銀△同玉▲4五桂の攻めが厳しいため先手優勢になるとのこと。 *後手が△3七歩成としたのは、いいタイミングで3七金を取れるようにした意味だった。それにしても、複雑な手順だ。 *※局後の感想※ *「△8六歩までは普通にやるとこうなるという順」と渡辺。公式戦での実戦例はないが、課題の一つのようだ。 73 同 歩(87) ( 4:00/00:43:00) *▲8六同銀だと、△3七桂成▲2四飛に△3三角の王手飛車取りがある。よって▲8六同歩とした。▲8六同銀の変化は重要で、先手は7七銀が動いて玉のコビンを開けてしまうと、3七金を取られて困る可能性が高い。なので、後手の8筋攻めの応じ方に制限がある。 *※解説※ *宮本広志五段>角を持たれていると、斜めのラインが開くので▲同銀とは取りにくい。▲8六同歩に△8五歩と合わせるのは手筋の攻め方だが、▲7三成銀△8六歩▲8三歩と飛車先を止めて受けることができる。 74 8七歩打 ( 1:00/00:32:00) *11時になり、ようやく対局者の手が止まった。藤井は本局で初めて10分以上時間を使っている。2時間で73手も進んだことになる。 *森下九段は「▲8七同玉に△8五歩の玉頭攻めが気になりますが、▲7三成銀と桂を取ってどうでしょうか。そこで△6四角なら、▲8五歩△7三角▲3四桂と攻めて、先手がやれそうです」という。 *11時30分ごろ、藤井は記録机に顔を向けて、タブレットを見やる。渡辺はあぐらで、時おり天をあおぐ。 *【藤井七段が手を止める】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-f7d9.html 75 同 玉(88) (40:00/01:23:00) *11時38分の着手。▲8七同玉までの消費時間は、▲藤井聡1時間23分、△渡辺明32分。▲8七同玉は40分の長考だった。藤井は歩を取って席を外す。渡辺は正座に直った。 *※解説※ *玉で取ると△8五歩の当たりが強くなりますが、大丈夫との判断だと思います。 *後手としては、▲7三成銀から飛車が押さえ込まれると苦しくなるので、それまでにどれだけ手ができるかが勝負です。 76 8五歩打 ( 2:00/00:34:00) *11時40分の着手。渡辺の指し手は依然早い。先手は▲8五同歩だけでなく、3七金を逃がす手もありそうだ。ABEMAでは、森内九段が▲2六金や▲3八金、▲7三成銀を示していた。 *11時51分ごろ、渡辺が席を外す。藤井は記録係の高橋三段に「部屋の温度を少し下げてください」と告げ、羽織を着て退室する。早めに昼食休憩入りしたようだ。この場合、手番の藤井が昼食休憩時刻の12時まで考えたことにして、消費時間に加える。昼食休憩までの消費時間は▲藤井1時間42分、△渡辺34分。対局は13時再開。対局者の昼食は、藤井は冷豚しゃぶサラダ定食、ウーロン茶。渡辺は天ぷら御膳。 *都市センターホテルには、レストランが「アイリス」と「和食処 梅林」の2ヵ所ある。冷豚しゃぶサラダ定食と天ぷら御膳は、ともに「梅林」のメニュー。 *12時50分ごろ、藤井が対局室に戻った。カメラマンがカメラを向けると、藤井はマスクを外した。控室では報道陣に配慮したのではないかという声。渡辺は12時58分に戻る。 *【レストラン・朝食 | 都市センターホテル】 *https://www.rihga.co.jp/toshicenter/restaurant/ *【昼食休憩】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-bc24.html *【昼食休憩時の対局室】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-e82f.html 77 2六金(37) (20:00/01:43:00) *13時、対局再開。青野九段が「時間になりました」と告げると、藤井は小さくうなずく。そして、数十秒後に▲2六金とかわした。玉頭の歩が気になるが、金を取らせないのが大事とみた。▲7三成銀は△3七桂不成▲2四飛△2三銀のような変化が一例だ。 *報道陣が退室すると、渡辺は棋譜用紙を確認した。それにしても、カド番なのに、こんな怖い変化に飛び込む胆力がすごい。足を踏み外した瞬間に転落という展開だ。38手目△6三銀からの手待ちは、消極的なように見えて本譜の仕掛けを誘い込んでおり、そうした意味では強気な内面もうかがえる。 *※解説※ *宮本広志五段>玉頭に手がついて怖いが、取られそうな金を逃げるのも自然な一手。△8六歩▲同銀△8五歩で拠点ができるが、後手は頭の丸い角しか持っていないので継続手が難しい。 *【対局再開】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-2985.html 78 4四角打 (11:00/00:45:00) *渡辺の着手はまだ早い。第2局とは違い、事前研究においては渡辺の土俵で戦う進行と考えられる。 *ABEMAでは、森内九段が一例として▲8五歩△同桂▲8六歩△7七桂成▲同桂の進行を示している。銀桂交換になるが、玉頭のキズを解消できる。 79 8五歩(86) ( 8:00/01:51:00) *「▲8五歩はそう指されるかなと思っていました。△8五同桂▲8六歩なら先手やれるかなと思うのですが、△8六歩のときにどうするのか」と森下九段。 *控室では△8六歩▲同銀△9九角成に、▲9八金△5五馬▲6四銀と馬を追い払う手順が示されている。手厚い指し回しの森下流だ。 80 8六歩打 ( 7:00/00:52:00) 81 同 銀(77) ( 1:00/01:52:00) 82 9九角成(44) ( 0:00/00:52:00) *13時30分ごろ、杉本昌隆八段が控室を訪れた。藤井の師匠だ。 *先手が後手の攻めを引っ張り込むなら▲7七桂△9八角▲9七玉△8九角成▲8八金打だが、受け間違えた瞬間に先手は即敗勢の指し方だ。 83 7七桂(89) ( 2:00/01:54:00) *「跳ねたんだ!」とモニターを見ていた森下九段の声が裏返った。「これをやると決着がつきます。藤井さんに自信があるということですね。研究会なら、こう指すかもしれませんけど」と続ける。 *「昔からそうですけど、大事にいこうみたいに考えないんですよね」と杉本昌八段。 *【強気な呼び込み】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-f055.html *【清水谷公園】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-4823.html 84 9八角打 ( 7:00/00:59:00) *渡辺は9九馬を助けながら攻める形を作りたい。 85 9七玉(87) ( 0:00/01:54:00) 86 8九角成(98) ( 0:00/00:59:00) *これが△9八馬右までの詰めろと7八金取り。 87 同 飛(29) ( 2:00/01:56:00) *※解説※ *宮本広志五段>飛車と角をあっさり交換しました。▲8八金打としっかり受けるのは、△9五歩と突く手が厳しかったかもしれません。 88 同 馬(99) ( 0:00/00:59:00) *一見すると、先手陣は死角を突かれたようにも見えるが。 89 8八金(78) ( 0:00/01:56:00) *渡辺は考慮中に累計の消費時間が1時間を超えた。あぐらになっており、しばらく考えそうだ。 *弾丸が玉の近くをかすめる展開なのに、藤井もさほど時間を使わず指している。怖くないのだろうか。後手は攻めるなら△9九飛や△8八同馬▲同玉△2八飛などが予想される。 90 9九飛打 (28:00/01:27:00) *14時13分の着手。△9九飛までの消費時間は、▲藤井聡1時間56分、△渡辺明1時間27分。28分の長考だった。 *青野九段は「▲9八銀と受けられたら、△同飛成▲同金△9五歩と攻め続けるつもりかな」という。ただ、後手は駒を渡しすぎると▲5三成銀の反撃が危ない。 *14時20分ごろ、勝又清和七段が控室を訪れた。勝又七段は産経新聞の観戦記執筆陣の一人。挑戦者決定戦や決勝トーナメント準決勝で観戦記を担当した。勝又七段は上記の△9五歩までの進行は、▲同銀△同香に▲5三成銀と攻めて、先手がやれるのではという。後手は工夫しないといけないようだ。 *15時前、青野九段と勝又七段が継ぎ盤を動かし、森下九段、杉本昌八段が見守っている。15時になり、午後のおやつが出された。藤井はアイスティー。渡辺はアイスコーヒー。飲み物が出され、藤井は残り時間を尋ねる。その時点で残り時間は1時間17分。急所の場面では、持ち時間を惜しみなく使うのが藤井の時間の使い方だ。 *15時過ぎ、検討では▲9八銀に後手は△6七馬▲6四角△3一玉として、玉を安全にしていくのがいいとみられている。15時17分、藤井は残り1時間になった。記録机に残り時間早見表が出される。「この長考は重みがありますね」と森内九段。15時36分、藤井はアイスティーを飲み干す。 *【終盤戦】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-734b.html *【午後のおやつ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-ecc5.html 91 9八銀打 (83:00/03:19:00) *15時37分、藤井は1時間23分の大長考で▲9八銀と受ける。藤井は残り41分だ。▲9八銀を打つための長考、席を外す以外は息抜きをしていた様子はなかった。盤の裏まで読んでいそうな集中力だった。 *控室では、「ああ、打った」の声のほかに、局面が進んだことで緊張感が少し解けて「いやいやいやいや」というつぶやきも聞かれた。 *控室では、▲9八銀に△6七馬が有力視されている。後手は△9五歩▲同歩△9二香打で攻めていける。そのため、△6七馬に▲8九金打と飛車を取りにいくのは効果がいまひとつ。 *【藤井七段、残り1時間を切る】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-4acf.html *【15時50分ごろの控室】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/1550-2d49.html *※局後の感想※ *▲9八金打は△同飛成▲同金△9五歩のときに、先手は金を持っていないため本譜よりも損。 *▲8七玉も考えられた。△9五歩▲8九金△同飛成▲8八金という変化が考えられる。 92 6七馬(89) (10:00/01:37:00) *控室に常務理事の鈴木大介九段が訪れた。 93 6四角打 ( 6:00/03:25:00) *攻防の角打ち。5三桂取りはもちろん、▲7三角成も9五まで利いて、上部が厚くなる。 94 9五歩(94) ( 9:00/01:46:00) *16時2分、渡辺は眼鏡をティッシュペーパーでふいてから△9五歩と突きだした。「端玉に端攻め」は急所。香の応援があるため、玉頭攻めの中でも厳しい。 95 同 歩(96) ( 3:00/03:28:00) *控室では△9二香打▲5三成銀△3一玉に先手がどう指すかが調べられている。後手玉に詰めろがかかるかどうか。 *16時7分、ABEMAでは杉本昌八段がゲスト出演している。「まだ、結論は出ていませんが、藤井七段側を持ちたいという棋士は多いです。その前に△9九角成(82手目)を許すのはすごい指し回しだと思いました」と話す。 *【皇居外苑】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-3514.html *【和田倉噴水公園】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-2d43.html 96 9二香打 ( 3:00/01:49:00) *△9五香だけでなく、△8五桂の筋もあり、先手玉は金銀に守られているようでも結構危ない。なので、▲5三成銀△3一玉に(1)▲4三成銀と開き王手をかけるのは、△4二歩で後手に銀を渡すことになり、先手はリスクが高い。 *よって、△3一玉に(2)▲7三角成も考えられるが、やはり△9五香で後手の攻勢は続きそうだ。調べていくうちに、難解なのではないかといわれている。 *藤井はまた時間を使っており、残り20分を切った。藤井の対局ではよく見かける光景だが、渡辺相手に大丈夫だろうか。渡辺は2時間11分も残している。ここぞというときに長考できる。 *【形勢難解】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-8e15.html 97 5三成銀(63) (15:00/03:43:00) *藤井はスッと桂を取って席を外した。渡辺は玉を3一と3三のどちらに逃がすか。△3三玉は▲3四歩が王手になるのが気になる。控室では△3一玉が本命視されている。 *渡辺はあぐらになり、うつむく。 *△3一玉に先手が▲4三成銀から銀を渡すのは危ない。代替案として▲3五桂と力をためる手も示されているが、△9五香▲同銀△同香の攻めが厳しいようだ。 98 3一玉(42) (13:00/02:02:00) *ここで▲4三成銀は△4二歩▲3二成銀△同玉▲3五桂の詰めろに、△9五香▲同銀△8五桂▲同桂△9五香という攻めで、先手玉に詰み筋がある。 *現在は、先手が攻めて勝つのは難しい。いったんは受ける必要がありそうだ。例えば、▲7三角成や▲9四桂、▲8七桂など。藤井は左手に扇子を持って前かがみ。まばたきが多いように見受けられる。16時40分、藤井は残り15分になった。渡辺は腕を組んで、目を閉じる。 *16時45分、藤井は残り10分になった。控室では、▲7三角成はすぐ指せるので、考えているのはほかの手を読んでいるためだろうといわれている。鈴木九段は▲7三角成だと、△7六馬のときに指す手が難しいのではないかと指摘する。 99 9四桂打 ( 9:00/03:52:00) *渡辺は眼鏡を外し、おしぼりで顔を押さえる。厳しい表情を浮かべ、先手玉の周辺を見ている。 *16時50分現在、検討陣の形勢判断は先手持ちの棋士と後手持ちの棋士で割れている。ということは、まだまだ難しいのだろう。先手は▲7三角成や▲8九金打を見せて、後手を焦らせている。 *ABEMAでは高見七段が△9四同香▲同歩△9六歩▲同玉△7六馬を示している。 *控室は△9四同香▲同歩△7六馬。いずれにしても、後手は馬を使うのが大事という判断だ。 *※解説※ *宮本広志五段>受けと攻めどちらか岐路となる局面でしたが、▲4三成銀を切り札に▲9四桂と受けに回りました。どちらの玉も危ないので読むことが多く、複雑な局面です。 *【藤井七段、残り8分】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-d2e4.html 100 同 香(92) (15:00/02:17:00) *△9四同香までの消費時間は▲藤井聡3時間52分、△渡辺明2時間17分。渡辺はもっと時間を投入することもできたが、15分の考慮で桂を取った。決断がいい。 101 同 歩(95) ( 0:00/03:52:00) 102 同 香(91) ( 1:00/02:18:00) *後手の攻め駒は飛車、馬、桂香。飛び道具が藤井玉に襲い掛かる。 103 9五歩打 ( 0:00/03:52:00) *検討されていた進行。ここですぐ△7六馬とするか、△9六歩と王手をして、▲同玉のときに△7六馬とするか。 104 8五桂(73) ( 6:00/02:24:00) *▲8五同桂△9六歩▲同玉△8四桂の筋を狙っている。 105 同 銀(86) ( 1:00/03:53:00) *藤井は残り8分から貴重な1分を使って▲8五同銀。勝又七段は「いやー、難しすぎて」とぼやく。 106 9三桂打 ( 1:00/02:25:00) *△9三桂を見た鈴木九段が「見えない手だなぁ」とうなる。8五銀は8一飛の利きを止めつつ、△7六馬を防いでいる。その駒に働きかけている。 *▲8二歩が検討されている。△8五桂に▲8六玉から入玉含みに指す。考慮中の藤井は残り3分になった。右手で扇子を開閉させてリズムを取っている。 107 8二歩打 ( 4:00/03:57:00) *残り3分まで考えて▲8二歩と打った。入玉も視野に入れた指し方だ。藤井は公式戦を200局以上指しているが、入玉したのは昨年7月の銀河戦対久保利明九段戦のみ。入玉率は低いようだ。 *手番の渡辺は顔を突き出す。藤井はお茶をコップにつぐ。そして、席を外した。17時28分、渡辺は残り1時間30分になった。急所の場面とみて、腰を落として考えている。 *控室で調べられているのは、△8五桂▲8六玉△7七桂成▲同金のときに先手玉が寄るかどうか。 *※局後の感想※ *後手に銀が入ると、△8五桂▲同桂△9六歩からの詰み筋があった。 108 8五桂(93) (11:00/02:36:00) *△8五桂が指されると、藤井は「金桂香」「歩歩歩歩」の2列に並べていた駒台を「金桂」「歩歩歩歩香」と並べ替えた。もとの香の位置に、取った桂を置くつもりだろうか。 109 同 桂(77) ( 0:00/03:57:00) *控室は▲8六玉を調べていたが、藤井は▲8五同桂だった。この手は普通なのだが、玉がまだ三段目なのと、五段目が詰まって安全度は低い。そこで△7七銀のように迫られたときに大丈夫なのかどうか。森下九段は「大丈夫と思えないけどなぁ」とつぶやく。渡辺はまた手を止めた。しばらく考えてお茶を飲む。 *△7七銀に(1)▲8七金打は△8八銀不成▲同金△9六歩▲同玉△8四金のように進むと、先手玉は上部脱出ができず、受けにくい。△7七銀に(2)▲4三成銀があるようだ。△4二歩▲3二成銀△同玉▲4四桂と迫る。そこで△2三玉▲7七金△同馬となると、▲3二銀から詰むことがわかった。△7七銀自体は厳しいが、先手にいいタイミングで取られる恐れもある。簡単には決まらない。「△7七銀は取られる恐れがありますし、相手の意表を突く意味では△7九銀もありそうです」と鈴木九段。 *杉本昌八段は無言のまま、モニターを見つめている。 *【まだまだ激戦】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-f137.html *※局後の感想※ *▲8六玉は△7七桂成▲同金△同馬▲同玉△2一玉が渡辺の読み筋。最後の△2一玉は▲4三成銀の詰み筋を避ける意味。「飛車取りのままで△2一玉と指すのもだいぶ不安だった」と渡辺。 110 7九銀打 (12:00/02:48:00) *鈴木九段説の△7九銀。下から追う攻めなのでやりにくいが、この手の受け方が難しいようだ。▲8七金打なら、△8八銀不成▲同金△9六歩▲同玉△8四金のように進んだときに、8四の駒が金なので攻めやすい。 *※解説※ *宮本広志五段>急所の8八金に狙いをつける厳しい一手で、△8八銀不成からの詰めろになっている。 111 8七金(88) ( 1:00/03:58:00) *スッと金を動かした。藤井は何とかして、玉を上部に逃げ出したい。 *ABEMAで森内九段は△8六歩を示す。厳しい手筋だ。▲同玉は△9八飛成と銀を取られるし、▲同角や▲同金だと上部が詰まる。「渡辺さんは、自玉を気にせず寄せ切りたい状況です」と森内九段は解説する。控室でも「この歩(△8六歩)は痛いです」といわれている。直前の△7九銀が好手の評判だ。 *18時になった。渡辺は3手連続で10分以上考えている。気迫の指し回しを見せているが、実際はカド番だ。絶対に落とせない。残り時間を活用して、勝ちを読み切ろうとしている。18時2分ごろ、残り1時間になった。 *先手も簡単に諦めるわけにいかない。△8六歩に▲同玉△9八飛成▲9七金打と粘ったときに、先手玉がすっきり寄るかどうかを調べている。▲9七金打の局面は、後手に竜取りと飛車取りがかかっており、先手も頑張りがいがあるかもしれない。 *18時15分、渡辺は25分以上考えている。その間、藤井も考え続けている。 112 7八馬(67) (33:00/03:21:00) *手筋の△8六歩や△9六歩ではなく、違う手が指された。「凝っているねぇ」と青野九段。33分の長考で指された△7八馬は、△9八飛成▲同玉△9五香以下の詰めろ。 *「藤井さんもこの手を読んでいたと思えないので焦りますね」と森内九段。18時25分ごろ、藤井は一分将棋に入った。 *【渡辺棋聖が優位に立つ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-8ada.html 113 9四歩(95) ( 1:00/03:59:00) 114 8六歩打 ( 1:00/03:22:00) *「うーん、気がつかないなぁ。▲9四歩と上を開かせてから△8六歩ですか」と鈴木九段。 *▲8六同金は△8八銀不成まで、▲8六同角は△9六歩、▲8六同玉は△9八飛成が厳しい。 115 4三成銀(53) ( 0:00/03:59:00) *攻防のアヤを求めた王手だ。王手をかけているうちに、7八馬を後手陣に移動させられれば、先手玉は楽になる。 116 4二歩打 ( 2:00/03:24:00) *渡辺が△4二歩を打とうとする直前、藤井はうなだれた。その様子は苦し気だ。 117 3二成銀(43) ( 0:00/03:59:00) *藤井はおしぼりで顔をぬぐう。 118 同 玉(31) ( 0:00/03:24:00) *渡辺は△3二同玉と成銀を取って、コップに少しだけお茶をついだ。 *▲3四香が示されている。 119 3四香打 ( 0:00/03:59:00) *7八馬の利きを止める犠打。△3三歩なら▲4四桂△2三玉▲3五桂のような攻めのときに、後手玉に嫌みがある。ただし、正確に応じれば後手が残しているが控室の結論。ここで△3四同馬は先手玉が楽になるため、▲3六香で逆転しかねない。藤井は最善を尽くして相手を楽にさせない。 *再度おしぼりで顔をぬぐった藤井は、腕を組んでうつむく。渡辺は険しい表情のまま盤面を見つめている。18時40分、渡辺は指さずに手洗いに立つ。 *※解説※ *宮本広志五段>△3四同馬で取るのは危ないが、合駒をされてわずかに詰まない。 120 3三歩打 (10:00/03:34:00) *慎重に考えて△3三歩と受ける。一歩千金だ。見切りのよさで知られる渡辺にして、終盤でこれだけ時間を使う将棋は珍しい。本局の重みを感じさせる。 121 4四桂打 ( 0:00/03:59:00) 122 2三玉(32) ( 0:00/03:34:00) *遠くに逃げようと△2一玉は、▲3二金△1二玉▲2二金から頓死する。控室などの検討で後手勝勢と結論が出ていても、1手間違えるだけですぐに逆転するのが将棋だ。 123 3三香成(34) ( 0:00/03:59:00) *ABEMAで森内九段は「△3三同銀▲3五桂△3四玉▲4五金△同馬▲同歩として、先手は詰まされたら仕方ないところです」という。 124 同 銀(22) ( 2:00/03:36:00) 125 3五桂打 ( 0:00/03:59:00) 126 3四玉(23) ( 0:00/03:36:00) *これで後手玉は詰まないが、▲4五金△同馬▲同歩で馬をはがすことができる。その局面は▲2三角の詰めろだ。 127 4五金打 ( 0:00/03:59:00) 128 同 馬(78) ( 0:00/03:36:00) *△4五同馬の着手は早かった。渡辺は読み切っているようだ。 129 同 歩(46) ( 0:00/03:59:00) *後手玉に詰めろをかけたが、藤井の肩は落ちている。渡辺は前傾姿勢になり、体を小さく揺らす。相手の肩が落ちていようと、ここできっちり詰まさないといけない。 *△8七歩成がよいようだ。▲同玉なら△9八飛成▲同玉△9五香から詰む。▲4五同歩に△9八飛成▲同玉と下段に落としたくなるが、これは詰まないようだ。藤井のワナは幾重にも張り巡らされている。 130 8七歩成(86) ( 6:00/03:42:00) *しっかりした手つきで金を取る。 131 9六玉(97) ( 0:00/03:59:00) *▲8七同玉は△9八飛成▲同玉△9五香と下段に落とされて詰まされる。上部脱出を目指すのが粘りある指し方だ。 132 9八飛成(99) ( 0:00/03:42:00) *19時になった。渡辺の着手は早い。 133 9七香打 ( 0:00/03:59:00) *控室では、△9七同竜▲同角△同と▲9五玉△8六角という順が示されている。 134 同 竜(98) ( 3:00/03:45:00) 135 同 角(64) ( 0:00/03:59:00) 136 同 と(87) ( 0:00/03:45:00) 137 9五玉(96) ( 0:00/03:59:00) *敵陣に逃げ込めるか。渡辺の駒台には潤沢な戦力がある。控室で示されているのは「玉は下段に落とせ」の△8六角。遠く、6四や5三にも利かしている。△8六角に▲同玉は△9六金▲7七玉△6六銀と攻めて詰む。 138 8六角打 ( 1:00/03:46:00) *角を打たれると、藤井ががっくりとうなだれた。 139 8四玉(95) ( 0:00/03:59:00) 140 8三香打 ( 0:00/03:46:00) 141 同 玉(84) ( 0:00/03:59:00) 142 9二銀打 ( 1:00/03:47:00) *107手目▲8二歩から後手は飛車取りがかかったままだった。その飛車が最後の最後になって働いてきた。▲9二同玉に△9一金▲8三玉△8二金▲7四玉△6四金▲8四玉△8三金で詰んでいる。 *この局面で藤井が投了した。終局時刻は19時12分。消費時間は▲藤井3時間59分、△渡辺3時間47分。 *渡辺が熱戦を制してカド番をしのいで1勝返した。藤井が先手角換わりで敗れたのは、昨年7月の竜王戦対豊島名人(肩書は当時)戦以来。初タイトル獲得は次局以降に持ち越された。第4局は7月16日に大阪市「関西将棋会館」で指される。 *※局後の感想※ *「△8五桂から△9三桂(106手目)と攻めていったが、すぐ寄るわけではないから、よくわかっていなかった」と渡辺。藤井は「こちらからは後手の攻め筋が多いので、どういう形が受かっているか判断できなかった」と振り返った。 *※総括※ *宮本広志五段>序盤からハイペースで進み両者の深い研究がぶつかり合いました。 *82手目△9九角成と玉近くの香を取らせるなど、藤井七段の危ない変化にも躊躇なく踏み込んでいくのは迫力がありましたが、渡辺棋聖が端から猛攻を仕掛けて優勢になると、最後は藤井七段の追い上げにもしっかりと読み切って勝ち切りました。 *【渡辺棋聖インタビュー】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-5ebf.html *【藤井七段インタビュー】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-6e7e.html *【感想戦】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2020/07/post-10da.html 143 投了 ( 0:00/03:59:00) まで142手で後手の勝ち