# --- Kifu for Windows (Pro) V6.65.41 棋譜ファイル --- 対局ID:8977 記録ID:5cb42c2198be310004045958 開始日時:2019/04/26 10:00 終了日時:2019/04/26 19:16 表題:ヒューリック杯棋聖戦 棋戦:第90期ヒューリック杯棋聖戦挑戦者決定戦 戦型:角換わり腰掛け銀 持ち時間:各4時間 消費時間:123▲222△238 場所:東京・将棋会館 備考:昼休前47手目10分\n 振り駒:2,2,渡 先手消費時間加算:0 後手消費時間加算:0 昼食休憩:12:00〜12:40 昼休前消費時間:47手10分 手合割:平手   先手:渡辺明二冠 後手:郷田真隆九段 先手省略名:渡辺明 後手省略名:郷田 手数----指手---------消費時間-- *第90期ヒューリック杯棋聖戦は、豊島将之棋聖への挑戦を目指す戦いが佳境を迎える。挑戦者決定戦に勝ち上がったのは渡辺明二冠と郷田真隆九段。渡辺が三冠復帰に向けて邁進するか、郷田が17期ぶりの五番勝負登場となるか。対戦成績は渡辺23勝、郷田14勝。本棋戦では第84期挑戦者決定戦以来の顔合わせになる。当時は渡辺が挑戦権を獲得した。 *対局は4月26日(金)、東京・将棋会館「特別対局室」で10時開始。持ち時間は各4時間。 *9時45分、渡辺入室。バッグから扇子などの手荷物を取り出す。9時48分、郷田入室。両者一礼して、渡辺が駒箱を開けた。9時52分、振り駒が行われた。2枚が重なって無効になり、歩が2枚。渡辺の先手に決まった。 * *※局後の感想※ *53手目、58手目、72手目、79手目、88〜89手目、91手目、99〜100手目、123手目に記載。 * *(棋譜・コメント入力=文) *[棋譜表示の*はコメント付きの指し手。#は局後の感想が追記された指し手] 1 2六歩(27) ( 1:00/00:01:00) *定刻の10時、対局開始。2人が礼を交わす。渡辺は天を仰ぎ、お茶をひと口飲む。記録係の手元をちらりと見てから、盤上に手を伸ばした。 * *【対局前の様子】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2019/04/post-a814.html 2 8四歩(83) ( 0:00/00:00:00) *郷田は膝の上に組んだ手を置き、ややうつむいて開始を待っていた。渡辺の着手を見て、静かに飛車先の歩を手に取る。着手してハンカチを取り出し、脇息の上に置いた。 * *【対局開始】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2019/04/post-75cb.html 3 2五歩(26) ( 1:00/00:02:00) *◆渡辺 明(わたなべ あきら)二冠(棋王・王将)◆ *1984年4月23日生まれ、東京都葛飾区出身。所司和晴七段門下。2000年、四段。2005年、九段。棋士番号は235。 *タイトル戦登場は30回。獲得は竜王11期(永世竜王)、王座1期、棋王7期(永世棋王)、王将3期の計22期。棋戦優勝は10回。 4 8五歩(84) ( 0:00/00:00:00) *◆郷田 真隆(ごうだ まさたか)九段◆ *1971年3月17日生まれ、東京都出身。(故)大友昇九段門下。1990年、四段。2001年、九段。棋士番号は195。 *タイトル戦登場は18回。獲得は棋聖2期、王位1期、棋王1期、王将2期の計6期。棋戦優勝は7回。 5 7六歩(77) ( 0:00/00:02:00) *角道を開ける▲7六歩は角換わり志向。代えて▲7八金なら相掛かりを目指す立ち上がりだった。 6 3二金(41) ( 0:00/00:00:00) *ヒューリック杯棋聖戦は産経新聞社主催、ヒューリック株式会社が特別協賛する棋戦。1962年に始まり、1994年まで1年に前期と後期の2期が開催されていた。1995年、第66期からは1年1期の開催になる。一次予選、二次予選の勝ち上がり者とシード棋士で決勝トーナメントを行い、挑戦者を決める。棋聖と挑戦者は五番勝負でタイトルを争う。 * *【将棋 - 産経ニュース】 *http://www.sankei.com/life/newslist/shogi-n1.html * *【ヒューリック株式会社】 *https://www.hulic.co.jp/ 7 7七角(88) ( 0:00/00:02:00) *本局の観戦記を担当するのは宮本橘さん。今日の産経新聞朝刊に掲載されている観戦記は、二次予選の久保利明九段ー藤井聡太七段戦。東和男八段が執筆した。 8 3四歩(33) ( 0:00/00:00:00) *今期決勝トーナメントは3月13日に開幕した。渡辺は橋本崇載八段、稲葉陽八段、菅井竜也七段に勝って挑戦者決定戦に進出。郷田は阿部光瑠六段、中村太地七段、久保利明九段を破って本局に臨んでいる。 * *【第90期棋聖戦決勝トーナメント】 *https://www.shogi.or.jp/match/kisei/90/hon.html 9 6八銀(79) ( 0:00/00:02:00) *渡辺の今年度成績は2勝0敗(1.000)。 *現在6連勝中。 *通算成績は618勝316敗(0.662)。 *2018年度は日本シリーズ優勝、棋王防衛、王将奪取と大きく活躍。第46回将棋大賞で優秀棋士賞、連勝賞(15連勝)を受賞した。 10 7七角成(22) ( 0:00/00:00:00) *郷田の今年度成績は2勝1敗(0.667)。 *通算成績は880勝540敗(0.620)。 *2018年度はNHK杯戦で決勝に進出したが、羽生善治九段に敗れて準優勝に終わった。 11 同 銀(68) ( 0:00/00:02:00) *渡辺のヒューリック杯棋聖戦成績は37勝27敗(0.578)。初参加は第72期、決勝トーナメント出場は10期連続13回目。挑戦者決定戦進出は4回目。第78期、第84期に棋聖挑戦を決めたが、タイトル獲得はならず。 12 2二銀(31) ( 0:00/00:00:00) *郷田のヒューリック杯棋聖戦成績は101勝46敗(0.687)。初参加は第57期、決勝トーナメント出場は12期連続20回目。挑戦者決定戦進出は10回目。第69期、3回目の挑戦にして棋聖奪取。棋聖獲得は通算2期。 13 4八銀(39) ( 0:00/00:02:00) *両者の対戦では先手23勝、後手14勝と先手を持った側が6割以上の勝率を記録している。戦型を角換わりに絞ると、先手11勝、後手1勝とさらに差が開く。本局はどうなるか。 14 6二銀(71) ( 0:00/00:00:00) 15 7八金(69) ( 0:00/00:02:00) *渡辺が本局に勝てば、6期ぶりの棋聖挑戦となる。第84期五番勝負は、当時の羽生善治棋聖(王位・王座と合わせて三冠を保持)に渡辺(竜王・棋王・王将の三冠)が挑戦、三冠同士による決戦になった。結果は羽生棋聖が3勝1敗で防衛、6連覇を達成した。 16 3三銀(22) ( 0:00/00:00:00) *郷田が本局に勝つと、防衛戦として臨んだ第73期以来の五番勝負登場となる。第73期五番勝負の挑戦者は佐藤康光王将(当時)。シリーズは郷田が2勝3敗で失冠、棋聖交代となった。 17 4六歩(47) ( 0:00/00:02:00) *角換わりは右銀の使い方で大まかな作戦が決まる。棒銀と早繰り銀は攻撃重視、腰掛け銀はバランス重視だ。現在の主流は腰掛け銀で、棒銀と早繰り銀が指されることは少ない。 18 6四歩(63) ( 0:00/00:00:00) 19 4七銀(48) ( 0:00/00:02:00) *郷田は眼鏡を外し、目頭を指で揉む。渡辺は窓のほうに目をやる。今日の東京は小雨の降る肌寒い天気。灰色の空が広がっている。 20 4二玉(51) ( 3:00/00:03:00) 21 3六歩(37) ( 1:00/00:03:00) 22 7四歩(73) ( 0:00/00:03:00) 23 6八玉(59) ( 0:00/00:03:00) 24 6三銀(62) ( 0:00/00:03:00) 25 3七桂(29) ( 2:00/00:05:00) 26 7三桂(81) ( 0:00/00:03:00) *先後同型の駒組みが続く。2人が6年前に挑戦権を争った第84期挑戦者決定戦も戦型は角換わりだった。ただ、その駒組みはいまとは大きく異なる。先手は飛車先保留から▲4八飛で仕掛けを目指し、後手は△7三桂を保留して玉を固めて反撃を狙う。当時の主流だった指し方だ。いまは先手が飛車先を保留することは少なく、後手は当然のように△7三桂と跳ねる。より積極的な駒組みが好まれているといえる。 * *【第84期棋聖戦挑戦者決定戦 ▲渡辺明竜王ー△郷田真隆九段(肩書は当時)】 *http://live.shogi.or.jp/kisei/kifu/84/kisei201304260101.html 27 2九飛(28) ( 0:00/00:05:00) 28 8一飛(82) ( 8:00/00:11:00) 29 4八金(49) ( 0:00/00:05:00) *下段飛車と相性のいい金上がり。角を打ち込む隙がないことが特徴で、ここ数年で角換わりの主流になった構えだ。以前は角換わり腰掛け銀の同型といえば、飛車は初期位置のまま▲5八金とこちらに上がる形のことだった。いまは後手も△6二金と同じように下段飛車に構える形が、新しい同型定跡になっている。 30 7二金(61) ( 8:00/00:19:00) *10時38分の着手。先手と同じ形ではなく、△7二金とこちらに上がった。手待ちを視野に入れた駒組みだ。あとで△6二金とわざと手損することで、理想形を作りながら先手に手を渡す狙いがある。高度な戦術である。 31 9六歩(97) ( 3:00/00:08:00) 32 9四歩(93) ( 0:00/00:19:00) 33 1六歩(17) ( 1:00/00:09:00) 34 1四歩(13) ( 0:00/00:19:00) *今月9日に行われた決勝トーナメントの▲渡辺明二冠ー△稲葉陽八段戦と合流した。ここから▲5六銀△6二金▲6六歩△5二玉▲7九玉△4二玉▲8八玉△5四銀▲6七銀△4四歩▲5六歩△3一玉▲4五歩と進んでいる。後手は待機戦術を選び、先手は銀矢倉に組み替えてから仕掛けた。結果は先手勝ちだが、渡辺は自身のブログで「中盤で対応を間違えた気がして自信を持てずに進めていました」と振り返っている。 35 6六歩(67) ( 2:00/00:11:00) *1手前の局面は、今期二次予選の▲糸谷哲郎八段ー△郷田真隆九段戦で郷田も経験していた。その一局は▲5六銀△6五歩と進み、6筋の位を取る構想で郷田が勝利を収めた。本局は渡辺が▲6六歩と突き、別の道を選んでいる。郷田の実戦を意識しての選択だろうか。興味深い。 36 6五歩(64) (10:00/00:29:00) *10分の少考で突っかけた。データベース上に同一局面の実戦例はない。過去の実戦例では△5四銀と△6二金が指されていた。腰掛け銀に構えない形での仕掛けは珍しい。渡辺は脇息にもたれてうつむく。 37 5六銀(47) ( 7:00/00:18:00) *右銀を応援に繰り出して受ける。素直に応じる▲6五同歩は、△同桂で攻め駒が前に出てくることを嫌ったのだろう。 * *【将棋会館探検】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2019/04/post-2281.html 38 6六歩(65) ( 0:00/00:29:00) 39 同 銀(77) ( 0:00/00:18:00) 40 5四銀(63) ( 0:00/00:29:00) *6筋を取り込んでから△5四銀と圧力をかけた。手待ちの一環に思えた△7二金だが、こうなると△6一飛の転回を見て攻めにも含みを持たせた駒組みだったとわかる。先手は攻めるか受けるか、方針を立てて手を決めたい。積極的に攻めるなら▲3五歩、間合いを測るなら▲5八玉が一案だろうか。 41 4五銀(56) (15:00/00:33:00) *11時21分、渡辺の手が動いた。ゴツンと銀をぶつける激しい攻めだ。渡辺は着手して天井を見上げる。郷田が体を盤に近づける。 *先手は銀を渡すと△4七銀▲同金△3八角の筋がある。後手は△4五同銀▲同桂と進めると、右金が離れて弱くなっている5筋を狙われる。強気に応じるとどちらも怖い。後手が穏やかに対応するなら△6三銀のバックステップだが、先手から猛攻をかけられる恐れもある。 42 6三銀(54) (12:00/00:41:00) *11時34分、郷田が着手。銀を引いて柔らかく対応した。次に△4四歩と突けば銀を追い払える。先手は得た手番をどう使うか。直接攻めかかるなら▲3五歩や▲2四歩だ。 43 7七桂(89) ( 2:00/00:35:00) *守りの桂を跳ねて全軍前進。ここで△4四歩なら▲5六銀と引いておき、4筋はあとで争点にできる。慌てずに力をためる指し方だ。後手は無難に進めるなら△4四歩▲5六銀△5四銀と、銀を追い払ってディフェンスラインを上げておく順が考えられる。先手陣の左辺は駒が活用できていると見るか、形が乱れていると見るか。 44 8六歩(85) (12:00/00:53:00) *11時48分、郷田の手は8筋に伸びた。飛車先交換を見て自然なようだが、▲8六同歩△同飛には一発▲6四歩が利く。以下△同銀は▲9七角が飛車と銀の串刺しだ。 45 同 歩(87) ( 1:00/00:36:00) 46 同 飛(81) ( 0:00/00:53:00) *堂々と飛車を走った。しかし、▲6四歩にはどう対応するのだろう。(1)△6四同銀は▲9七角でしびれてしまう。以下△7六飛で暴れようとしても、▲6七金で御用となっていけない。(2)△5二銀と引けば▲9七角はないが、駒が後退して嫌な形だ。 *11時55分、対局室から2人の姿が消えた。渡辺が休憩に入れるよう記録係に話しかけたようだ。12時、渡辺が10分使って昼食休憩に入った。消費時間は▲渡辺46分、△郷田53分。昼食の注文は渡辺が鶏せいろそば(ほそ島や)、郷田が中華そば(ほそ島や)。対局は12時40分に再開される。 * *【昼食休憩時の対局室】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2019/04/post-e82f.html 47 6四歩打 (10:00/00:46:00) *12時40分、対局再開。渡辺はすぐに歩を打った。 48 5二銀(63) ( 0:00/00:53:00) *郷田も読み筋だったか、すぐに銀を引く。常識的には拠点を作りながら駒を後退させて先手の気分がいいとしたものだが、この交換が今後にどう影響するか。 * *【対局再開】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2019/04/post-2985.html 49 8七歩打 ( 0:00/00:46:00) *ポイントを稼いでから飛車先を受けておく。渡辺は着手してお茶を飲む。郷田は腕組みをして首をひねる。うつむいたり、首を振ったり。 50 8一飛(86) (12:00/01:05:00) 51 5六銀(45) ( 1:00/00:47:00) *柔らかい活用。せっかく前に出た銀を引いてもったいないようだが、陣形を引き締めながら▲4五桂の攻めが視野に入った。 52 6一飛(81) ( 0:00/01:05:00) *6筋の歩を狙って転回する。このまま△6四飛と歩得できれば、先手の指し手をとがめることができそうだ。先手は歩を守るなら▲5五銀直と立つ手はある。以下△5四歩と後手が技を狙うのは、▲同銀△6四飛▲8六角で逆にしびれてしまう。5筋は玉のコビンだけに細心の注意がいる。 53 4五桂(37) (34:00/01:21:00) *13時30分、渡辺が着手。銀を引いて生じた桂跳ねで攻勢をかけた。6筋の歩を取らせても、その間に別の場所でポイントを稼げればうまい。 * *※局後の感想※ *渡辺は「手順前後。単に▲6五桂と跳ねるべきだった」と悔やんだ。理由は58手目の感想戦コメントで後述する。代えて▲6五桂と左の桂を先に跳ね、△6四飛ならそこで▲4五桂がまさったようだ。 54 4四銀(33) ( 3:00/01:08:00) 55 6五桂(77) ( 2:00/01:23:00) *右桂に続いて左桂の跳躍。2枚の桂が中央に跳ね出す形はひとつの理想形だ。それにしてもなんという駒の勢いだろう。反動も無視できないはずだが、渡辺はどんどん前に進んでいく。 *控室では塚田泰明九段が継ぎ盤を見つめている。「どうするんでしょう。△6四飛は普通ですけどね」と話す。歩を払いつつ、浮き駒の銀をにらんで動きを牽制する意味だ。ただ、△6四飛に▲5三桂右成△同銀引▲同桂成△同銀▲5五角△6一飛▲1一角成と、銀を取る余裕を与えないで桂をさばく順もある。以下△3三桂と飛車の横利きを通しての馬取りには、▲2二銀とつないでどうか。 *14時10分、郷田が時間を使っている。グラスの水を飲み、首をかしげる。眼鏡を外して丁寧に拭く。 56 同 桂(73) (36:00/01:44:00) *14時13分、郷田の手が動いた。桂を取る自然な応手だが、▲6五同銀右で手順に歩を支える形になる。 57 同 銀(56) ( 5:00/01:28:00) 58 7三桂打 ( 0:00/01:44:00) *郷田はすぐに桂を打った。銀が逃げるなら△6四飛と飛車をさばく。例えば▲5六銀△6四飛▲6七金△6一飛と進むと、先手は次の△6五歩が嫌な形だ。歩切れの先手は△6四飛の単純な銀取りが悩ましい。単調な桂打ちにも映るが、先手の弱みを突いているとわかる。 * *※局後の感想※ *渡辺が「非凡な好手」と称賛した一着。ここで▲5六銀は△6四飛のときにぴったりした銀取りの受け方がない。もし▲4五桂と△4四銀の交換が入っていなければ、△6四飛に▲5五銀直で切り返すことができた。渡辺が本譜を「手順前後」と嘆いたのはこのためである。 59 2六桂打 (14:00/01:42:00) *14時33分の着手。銀は逃げづらかったようだ。渡辺は攻め合いで応じた。次は▲3四桂〜▲2四歩が厳しい攻めになりそうだ。2枚の桂が急所に利いている。 60 6五桂(73) ( 1:00/01:45:00) *ひとまず銀を取っておく。駒得が確定して後手は一定の戦果を得た。渡辺はすぐには桂を取らない。先に▲3四桂の王手を利かす順も検討しているのだろうか。 61 3四桂(26) ( 9:00/01:51:00) 62 5一玉(42) ( 0:00/01:45:00) *ひらりと5筋に落ちる。先手からは▲2四歩の攻めが見えているので、2筋に近づくのは危険だ。その意味で△5一玉は最も合理的だが、▲8四角などの角のラインには気をつける必要がある。 63 6五銀(66) ( 2:00/01:53:00) 64 3三歩打 ( 1:00/01:46:00) *歩で桂を外しにかかった。堂々としているが、次に△3四歩と桂を取って初めて一人前という手なので、ここで何かされる怖さもある。逆に、有効打がないようだと先手が苦しくなる。先手は忙しい。 *具体的にどこから迫るべきか。厳しい筋として映る▲8四角は、すぐ打つと△7三銀で継続手が難しそうだ。確実な順として▲2四歩△同歩▲2二歩はあるが、後手玉から遠い場所を攻めるのでいかにもやりにくい。直接手で迫る▲6三桂は、△6二玉▲5一角△同飛▲同桂成△同玉▲8一飛△6一歩で、飛車を取っても後手玉がしっかりしている。 *渡辺はふっと天井を見上げた。しばらくして席を立つ。郷田は前傾姿勢で体を前後に揺らしている。渡辺は戻ってくると上着を脱いでワイシャツ姿になった。勝負どころという雰囲気が漂う。15時、渡辺は再び上着を羽織って盤に向かっている。頭に手をやり,首をかしげる。郷田は時折、眼鏡を外して目を休めている。 65 2四歩(25) (27:00/02:20:00) *15時15分の着手。一本▲2四歩と突く。本格的な攻勢に出る前の味つけだ。 66 同 歩(23) ( 0:00/01:46:00) 67 6三桂打 ( 0:00/02:20:00) *2筋の突き捨てを入れてから、桂の王手を放った。「桂頭の玉寄せにくし」を実践する△6二玉には、▲7四銀と力をためてどうか。次の▲5一角や▲8四角が威力を増すので、後手も怖い形だ。 68 4一玉(51) ( 8:00/01:54:00) *少考で4筋にかわした。これなら▲7四銀は心配ないが、危険地帯の2筋に近づくことになる。一利一害である。 69 2二角打 ( 2:00/02:22:00) *金の利きに角を打つ強手。駒は取られる瞬間が最も働く、という。先手は3枚の桂が生きている間に猛攻をかけて、後手玉を追い込みたい。桂を外す△3四歩には、▲1一角成〜▲2一馬で挟撃を目指す。後手は△6七歩や△5五桂を軸に攻めを組み立てることになりそうだ。どこかで△6三銀と急所の桂を取る手が攻防になればうまい。 *15時59分、郷田の考慮時間は33分に達した。郷田は肩を落とし、お茶を飲んで首を振った。うつむいて手にした扇子を見つめる。何度も首をかしげる。悩ましそうな様子だ。 70 3四歩(33) (47:00/02:41:00) *16時14分、郷田の手が盤上に伸びる。47分の熟考で出した結論やいかに。 71 1一角成(22) ( 0:00/02:22:00) *後手が桂を外せば、先手が香を取るまではワンセットの手順。問題はここでどう指すかだ。後手は手が広い。 72 4二玉(41) ( 0:00/02:41:00) *郷田はノータイムで玉を上がった。選んだのは攻めではなく受け。先手玉に迫る手段はいろいろと考えられただけに、意外な印象を受ける。狙いは先手の楽しみである▲2一馬を受けたことがひとつ。次はより万全な状態で攻めを考えることができる。手番を得た先手はできるだけ効果の高い手を指したい。もちろん、郷田も先ほどの長考でさまざまな変化を検討したはず。ここは渡辺にとって難しい場面になりそうだ。 * *※局後の感想※ *「仕方ない」と郷田。代えて△6七歩は▲5九玉で「指しすぎになる」と渡辺。 73 2三歩打 (18:00/02:40:00) *命の1歩を投入。垂れ歩でと金攻めを狙う。このまま▲2二歩成を喫してはたまらないので△2三同金だろうが、そこで▲1二馬が金取りの継続手になる。 74 同 金(32) ( 2:00/02:43:00) 75 1二馬(11) ( 0:00/02:40:00) *馬を活用して金取り。後手は受け方が悩ましい。逃げるなら△1三金だが、▲2二馬とかわされて金の働きに不満が残る。 76 3二銀打 ( 4:00/02:47:00) *がっちりと銀を投入した。堅い受けだが、攻めに回せる戦力が減る点は一長一短。控室で検討する塚田九段は「形勢はわかりませんが、後手に苦労の多い展開です」と話す。後手は銀香交換の駒得だが、しばらく受けに回る必要がありそうだ。一方、先手も歩切れで手駒の少なさは不安要素ではある。「先手が忙しい面はあります。△6六歩〜△5五桂が間に合ってくると、後手が面白くなりそうですね」と塚田九段。パッと映る攻めとして▲2七香はあるが、△2五桂と受け止められてなかなか急所に届かない。 77 2七香打 (13:00/02:53:00) 78 2五桂打 ( 0:00/02:47:00) 79 3五歩(36) ( 4:00/02:57:00) *桂を質駒にしておき、3筋に手をつけて攻めの継続を図る。狙い筋は△3五同歩に▲2五香△同歩▲3四桂で、こうなれば手が続く。とはいえ、放置すれば▲3四歩の取り込みが大きい。 * *※局後の感想※ *「攻めがひと息つくので失敗でしたね。ここで▲3五歩では……」(渡辺) 80 6三金(72) ( 7:00/02:54:00) *自玉の退路を押さえていた桂を食いちぎった。駒損の取り引きだが、▲6三同歩成に△同飛で銀取りの受け方が悩ましい。先手の持ち駒がなくなったタイミングを突いている。受け一方に見えた後手だが、虎視眈々と反撃の機会を狙っていた。 81 同 歩成(64) ( 3:00/03:00:00) 82 同 銀(52) ( 0:00/02:54:00) *飛車ではなく銀を進めた。力をためた取り方で、次は△5四銀が強烈だ。先手は持ち駒の乏しさが泣きどころ。 83 2五香(27) ( 3:00/03:03:00) *先手は質駒にした桂を取る。ここで△5四銀なら、▲6四桂がうまい切り返し。以下△6五銀には▲5二金の王手飛車取りがある。 84 同 歩(24) ( 0:00/02:54:00) 85 3四歩(35) ( 4:00/03:07:00) *待望の取り込み。後手は狙いの△5四銀が封じられている。どこに目を向けるか。先手からは▲2四歩△同金▲3六桂という確実な攻め筋があるので、あまり悠長に構えてはいられない。ただ、先手も桂を手放すと△5四銀に切り返す手段がなくなる。どちらも不安を抱えながらの戦いになっている。 86 6七歩打 ( 9:00/03:03:00) *急所のたたきで応手を尋ねた。先手はどう応じても形が乱れる。例えば▲6七同金は△5五桂が当たってくる。しかし、この歩を残して逃げるのも味が悪い。 *17時34分、渡辺の残り時間は45分ほど。モニターに両手で頭を抱える渡辺の姿が映った。 87 同 金(78) ( 9:00/03:16:00) 88 5五桂打 ( 0:00/03:03:00) *急所の桂打ち。6筋に歩が立つので金を逃げられても追撃が利く。 * *※局後の感想※ *郷田は▲5六金を警戒していたという。後手は△8一飛〜△8七飛成としても際どく詰めろにならない。渡辺は「ひえーっ、▲6六金でも詰まないかどうかギリギリと思ったんですが」と目をみはった。手筋は▲5六金に△6六歩だが、▲同金で本譜に比べて後手が1歩損することになる。「1歩違ったら全然違いますね」と渡辺。郷田も「勝てない気がします」。ところが調べてみると、▲5六金△6六歩▲同金△8八角▲6七歩△8一飛▲8六桂△4五銀▲同歩△4六香▲3七金△6六角成▲同歩△6七金で後手有望とわかった。これは91手目の感想戦コメントに記した検討のあとで出てきた変化である。 89 6六金(67) ( 1:00/03:17:00) *上にかわして耐える。6筋で縦の防壁を厚くして、△5四銀の緩和にもなっている。先手の手番なら、今度こそ▲2四歩△同金▲3六桂が成立しそうだ。以下△5四銀には▲4四桂が詰めろで入り、このときに王手で△6五飛と銀を取られることがない。よって後手は緩まずに迫りたい。直接手のひとつは△6七歩だが、先手は▲7八玉と寄って耐えるのだろうか。後手も持ち駒の角香だけですぐに厳しい攻めはなさそうだ。駒を入手する手段には△4五銀や△5四銀があるが、当然ながら反動がきつい。 *郷田の考慮中に18時になった。残り時間は35分ほど。郷田は額に手をやり、窓のほうに目をやる。何度か駒台の駒に触れたが、手が引っ込んだ。 * *※局後の感想※ *郷田の当初の予定は△6四香だったが、▲同銀△同銀▲3三香で「これで勝てないのではおかしいと思った」と話した。また、「ここで△8一飛は考えたんですが、▲6四歩と打たれちゃうと思って……」とため息をつく。後手は△8一飛〜△8七飛成としても詰めろにならないので、▲6四歩〜▲6三歩成で速度負けになる。この変化から郷田は△8一飛と回れないと思っていたが、実はうまい手順の組み合わせがあった。 90 8八角打 (37:00/03:40:00) *18時16分、郷田の手が動いた。金取りの角。先手は▲6七歩と受けるよりなさそうだ。 91 6七歩打 ( 6:00/03:23:00) *※局後の感想※ *渡辺の気にしていた手が△8一飛で、後手はこれが有力だった。以下(A)▲7八金は、△6六角成▲同歩△4五銀▲同歩△6七歩▲7七玉△8五桂▲8六玉△6八歩成▲7三桂△8三香▲8一桂成△7七桂成で後手の勝ち筋。渡辺は「△8一飛のときにどうするかわかっていなかった。▲7八金と受けるつもりでしたけど、寄っちゃうんですね。見えてなかったです」と話した。 *先手は頑張るなら△8一飛に(B)▲8六桂だが、△4五銀▲同歩△6六角成▲同歩△6七金▲5九玉△4六香▲5六銀△3五桂▲5五銀△4八香成▲同玉△4七金▲3九玉△3七歩▲4九銀△5八金右と後手の猛攻を受けることになる。郷田は「▲8六桂ならすごい利かしですね。そうか、△8一飛だったら勝ちだったかもしれない。飛車を活用するのが本筋でした。そうか、角から飛車か。そうか……」と顔をしかめた。 92 4五銀(44) ( 0:00/03:40:00) *郷田、すぐに桂を取った。質駒を取る切り札。後手が寄せに出ている流れだが、決まっているのかどうか。決め手になりそうな筋は△6六角成▲同歩△6七金だが、金銀の補充が難しい形で際どい。 93 同 歩(46) ( 4:00/03:27:00) *手順に後手の玉頭に歩が伸びる。先手は▲4四歩△同歩▲4三歩△同玉▲3五桂とわかりやすい攻めが見えている。後手はあと戻りできない。 94 6六角成(88) ( 2:00/03:42:00) 95 同 歩(67) ( 0:00/03:27:00) *対局室では両者とも前傾姿勢。郷田が頭をかく。 96 6七金打 ( 2:00/03:44:00) *頭を押さえて厳しい金打ち。先手は▲7九玉と左に落ちるか、▲5九玉と右に落ちるか悩ましい。守り駒に近づくセオリーからは▲5九玉だが、歩の裏を突く△4六香が見えている。 *18時35分、渡辺は頭を押さえてうつむく。 97 5九玉(68) ( 2:00/03:29:00) *守りの金を頼った。ただ、△4六香の当たりも厳しくなる。 98 4六香打 ( 2:00/03:46:00) *詰めろではないが、確実な攻め。後手は自玉にまだ余裕があるので、じりじりと距離を詰めていけばいい。 99 5六銀(65) ( 0:00/03:29:00) *香は読み筋だったのか、渡辺はすぐに指した。銀を引いて守りを固める。次に▲5五銀と桂を外すことができれば上部が広くなる。後手は金を狙うセオリーに従うなら△3六桂だ。 *18時43分、郷田は残り10分を切っている。対する渡辺の残り時間は31分。郷田の残り時間が1分、また1分と減っていく。郷田はしきりに頭に手をやる。 * *※局後の感想※ *郷田は「(攻めが)切れてしまった。寄りがなかったのでひどかったです」と嘆いた。 100 3六桂打 (10:00/03:56:00) *18時49分、郷田が着手。残り時間は4分になった。ついに先手玉に詰めろがかかった。先手は攻め駒に囲まれて厳しい状況だが、▲3八金と踏ん張ってどうか。 * *※局後の感想※ *代えて△3五桂は▲3九桂で「受かっていると思った」と渡辺。 101 5八金(48) ( 2:00/03:31:00) *力強い手つき。攻めの金にぶつけた。強い受けだ。 102 同 金(67) ( 0:00/03:56:00) 103 同 玉(59) ( 0:00/03:31:00) 104 6七歩打 ( 0:00/03:56:00) *垂れ歩で挟撃態勢を維持。詰めろになっている。ただ、後手も持ち駒は金1枚。先手に▲7八金と受けられたときに攻めが続くかどうか。 105 7八金打 ( 1:00/03:32:00) *渡辺は着手してごくりとお茶を飲んだ。先手は左辺への逃げ道が確保できれば広い。 106 4七香成(46) ( 0:00/03:56:00) 107 同 銀(56) ( 0:00/03:32:00) 108 6八金打 ( 0:00/03:56:00) *後手は手を尽くして先手玉に迫る。 109 同 金(78) ( 0:00/03:32:00) 110 同 歩成(67) ( 0:00/03:56:00) 111 同 玉(58) ( 0:00/03:32:00) *後手は△6七金▲7九玉△4七桂成と追い込めるが、そこで▲8八玉と早逃げされてうまい追撃がない。 112 6七金打 ( 0:00/03:56:00) 113 7九玉(68) ( 0:00/03:32:00) 114 4七桂成(55) ( 1:00/03:57:00) *後手の手番であれば△7七銀が寄せの手筋になる。それを見越して▲8八玉の早逃げが好手だ。 115 8八玉(79) ( 3:00/03:35:00) *この一手の玉上がり。ここで△7七銀は▲9七玉で思わしい手段がない。 116 5七成桂(47) ( 1:00/03:58:00) *持ち駒の銀を温存して圧力をかける。ただ、次に△6八成桂と入っても先手玉は詰めろにならない。後手の猛攻をしのいだ先手には豊富な持ち駒がある。反撃のチャンスだ。渡す駒には注意したい。リスクの低い攻めは▲4四歩だろうか。 *19時9分、渡辺は天井を見上げ、お茶を飲んでひと息つく。残り時間は20分ほどある。この余裕は大きい。 117 7三桂打 ( 5:00/03:40:00) *挟み撃ちが寄せの基本。飛車を目標にして攻めの拠点を築く。 118 6二飛(61) ( 0:00/03:58:00) 119 6一金打 ( 1:00/03:41:00) *ベタッと金打ち。高い駒を使うので怖い寄せだが、金を渡しても先手玉は詰まない。よって△6一同飛▲同桂成となればわかりやすい。 120 8二飛(62) ( 0:00/03:58:00) *急所に飛車が回ってきたが、先手玉は依然として詰めろになっていない。郷田はがっくりとうなだれた。 121 5一銀打 ( 1:00/03:42:00) 122 3一玉(42) ( 0:00/03:58:00) 123 7一角打 ( 0:00/03:42:00) *この手を見て郷田がすぐに頭を下げた。5筋を守って△5二飛と逃げても▲5三角成が厳しく、後手玉は一手一手の寄りとなる。終局時刻は19時16分。消費時間は▲渡辺3時間42分、△郷田3時間58分。挑戦者決定戦を制したのは渡辺。棋聖戦では第84期以来の五番勝負登場となる。第1局は6月4日(火)、兵庫県洲本市「ホテルニューアワジ」で行われる。 * *【終局直後】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2019/04/post-bb10.html * *【感想戦】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2019/04/post-10da.html * *※局後の感想※ *渡辺は「▲6四歩(47手目)と押さえて模様よしと思っていたけど、手順前後で吹き飛んでしまった」と嘆く。先手は▲4五桂(53手目)に代えて▲6五桂がまさった。本譜は△7三桂(58手目)が好着想で郷田がリードを奪った。終盤は△4五銀(92手目)ではなく△8一飛ならば後手が指せていたようだ。本譜は郷田が攻め方を誤り、渡辺が紙一重でしのいで逃げ切った。感想戦は20時ごろに終了。対局室では金井恒太六段が最後まで検討の様子を見守っていた。 124 投了 ( 0:00/03:58:00) まで123手で先手の勝ち