# --- Kifu for Windows (Pro) V6.60 棋譜ファイル --- 対局ID:2840 記録ID: 開始日時:2014/06/02 09:00 終了日時:2014/06/02 19:18 表題:棋聖戦 棋戦:第85期棋聖戦五番勝負 第1局 持ち時間:各4時間 消費時間:106▲239△237 場所:兵庫・ホテルニューアワジ 手合割:平手   先手:森内俊之 後手:羽生善治 先手省略名:森内 後手省略名:羽生 手数----指手---------消費時間-- *夏の訪れは棋聖戦の訪れ。第85期棋聖戦五番勝負が今年も淡路の地で開幕する。7連覇を目指す羽生善治棋聖の前に立ちはだかったのは「宿命のライバル」森内俊之竜王。棋界の歴史を彩ってきた平成の名勝負が、この棋聖戦の舞台でも見られることとなった。対戦成績は羽生70勝、森内57勝。128回目の顔合わせである。 *第1局は2014年6月2日(月)、兵庫県洲本市「ホテルニューアワジ」で行われる。立会人を務めるのは小林健二九段、副立会人は豊島将之七段、記録係は福間健太三段(25歳、伊藤博文六段門下)。観戦記者は本間博六段が担当する。対局の開始時刻は9時。持ち時間は各4時間で、第1局の先後は振り駒によって決定される。 * *【主催社ページ】 *MSN産経ニュース *http://sankei.jp.msn.com/ *MSN産経ニュース 将棋サイト *http://sankei.jp.msn.com/life/newslist/shogi-shg-n1.htm * *【現地大盤解説会情報】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-3406.html * *【ニコニコ生放送のお知らせ】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-143f.html *佐藤天彦七段>おはようございます。棋聖戦五番勝負第1局の解説を担当します佐藤天彦です。今日はよろしくお願いします。戦型は角換わりか横歩取りを予想します。相掛かりは名人戦で結構指されましたから。ただ1局目は振り駒なので、戦型が絞りにくいですね。 * *【オフィシャルスイーツ】 *第85期棋聖戦五番勝負では、フランス菓子ブランド「ブールミッシュ」が対局者にオフィシャルスイーツを提供しています。オンラインショップでは対局開始から終了まで限定で発売されるオリジナルパッケージも用意されています。そちらもぜひご覧ください。 *http://www.boulmich-shop.jp/products/detail.php?product_id=238 *(ブールミッシュオンラインショップ) *http://item.rakuten.co.jp/boulmich/m3-309027/ *(楽天市場・ブールミッシュオンラインショップ) * *(棋譜・コメント入力=若葉) * *[棋譜表示の*はコメント付きの指し手。#は局後の感想が追記された指し手] 1 7六歩(77) ( 0:00/00:00:00) *「定刻となりました。森内竜王の先手でお願いします」 *立会人の小林健九段の声に両対局者が深々と頭を下げた。第1局の始まりである。 *羽生と森内の対戦では、先手番の勝率が非常に高いことが知られている。手元の資料によるとその勝率は0.643。3回のうち2回は先手側が勝っている計算だ。「1手先に指す」という、全ての先手番に与えられている普遍的な利益。羽生と森内はその利を終局まで保ち続ける技術に優れている、ということをこの数字は示している。 *注目の振り駒はと金が3枚。先手番を握ったのは森内だった。 * *【森内竜王の先手で対局開始】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-38c6.html 2 3四歩(33) ( 0:00/00:00:00) *タイトル戦の番勝負はよくテニスの試合に例えられる。サーブ権(=先手番)を持っている側は主導権を握りやすく、ゲームの流れを自分の得意な形に、さらには有利な状況に持ちこみやすい。サービス側はいかにゲームを「キープ」するか、そしてレシーブ側は相手のサービスゲームをいかに「ブレイク」するかが1試合(=番勝負)の趨勢を決める。 *羽生と森内が対戦した昨年の第71期名人戦七番勝負では、第1局で森内が早々にブレイクに成功。七番勝負の流れを掴み、4勝1敗で名人のタイトルを防衛した。今春に行われた第72期名人戦七番勝負では逆に羽生が後手番の第1局を勝利。その勢いのまま4連勝で名人を奪取している。 *振り駒の結果を受けて、両者がどのような戦い方を見せるのか。一局の流れとともに、番勝負全体を通しての戦略にも注目が集まるところだ。 * *【対局開始(1)】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-308a.html 3 2六歩(27) ( 0:00/00:00:00) *昨晩の前夜祭では、対局者が退場した後に第1局の展望が述べられた。豊島七段の戦型予想は羽生先手なら角換わり、森内先手なら横歩取り。本格派居飛車党の村田智穂女流二段はがっぷり四つの矢倉が見てみたいと相矢倉を予想し、小林健九段は「九分九厘ないと思うけど」と前置きした上で振り飛車を挙げていた。森内は居飛車が主戦場だが、挑戦者決定戦では向かい飛車を採用して関係者を驚かせていた。 *本譜は▲2六歩と突いてまず居飛車を明示。先手番ならこう、と決めていたのだろう。後手番なら何を用意していたのか……第2局以降のお楽しみだ。 * *【第85期棋聖戦挑戦者決定戦 ▲村山慈明七段−△森内】 *http://live.shogi.or.jp/kisei/kifu/85/kisei201404300101.html * *【前夜祭(6)】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-249a.html 4 8四歩(83) ( 0:00/00:00:00) *◆羽生 善治(はぶ よしはる)棋聖(名人・王位・王座)◆ *1970年9月27日生まれ、埼玉県所沢市出身。二上達也九段門下。1985年、四段。1994年、九段。棋士番号は175。 *タイトル戦登場は117回。獲得は竜王6期、名人8期(十九世名人)、王位15期(永世王位)、王座21期(名誉王座)、棋王13期(永世棋王)、王将12期(永世王将)、棋聖12期(永世棋聖)の計87期。棋戦優勝は42回。 5 2五歩(26) ( 0:00/00:00:00) *◆森内 俊之(もりうち としゆき)竜王◆ *1970年10月10日生まれ、神奈川県横浜市出身。勝浦修九段門下。1987年、四段。2002年、九段。棋士番号は183。 *タイトル戦登場は24回。獲得は竜王2期、名人8期(十八世名人)、棋王1期、王将1期の計12期。棋戦優勝は12回。 6 8五歩(84) ( 0:00/00:00:00) *【対局開始(2)】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-3413.html 7 7八金(69) ( 0:00/00:00:00) *控室に続々と関係者が戻ってきた。盤上はすでに7手進んでいる。両者の指し手は早い。関係者の間では、序盤は比較的進行が早いのではないかと予想されている。 8 3二金(41) ( 0:00/00:00:00) *横歩取りに進みそうだ。お互いに飛車先の歩を切った後、先手が▲3四飛と歩を取るかどうかが最初の分かれ道になる。 9 2四歩(25) ( 0:00/00:00:00) *羽生の通算成績は1276勝489敗(0.723)。 *2013年度は42勝20敗(0.677)。 *2014年度は6勝0敗。 * *羽生は4月に入ってからまだ1度も負けていない。 10 同 歩(23) ( 0:00/00:00:00) *森内の通算成績は853勝481敗(0.639)。 *2013年度は28勝12敗(0.700)。 *2014年度は4勝6敗(0.400)。 * *各棋戦で活躍が続く森内はこの2ヶ月ですでに10局をこなしている。対局数10は広瀬章人八段、澤田真吾五段と並んで1位タイの成績だ。今年度は負けが先行しているものの、敗戦のほとんどがタイトル戦の番勝負や挑戦者決定リーグといった勝負将棋である。数字だけを見て不調説を唱えることは早急といえるだろう。 11 同 飛(28) ( 0:00/00:00:00) *羽生と森内がタイトル戦の番勝負を戦うのは春に行われた名人戦に引き続いて今回が16回目となる。両者の対戦はこれまで2日制のタイトル戦が多かった。1日制で戦うのは今回の棋聖戦が4回目である。1日制のタイトル戦では羽生2勝、森内1勝という結果が残っている。「棋聖」を争うのは第85期が初めてだ。 12 8六歩(85) ( 0:00/00:00:00) *2日制のタイトル戦に比べて、1日制は当然のことながら持ち時間が大きく異なる。名人戦の各9時間に対し、棋聖戦は各4時間。思考のスピードと決断力がより求められる対局環境だ。 13 同 歩(87) ( 0:00/00:00:00) *開幕前の主催紙インタビューでは、両者ともに時間の使い方を課題として挙げていた。「どのあたりで時間を使い、どのあたりで早く指すか、緩急の付け方が大事になってくるのかなと思います」と羽生が述べれば、森内も「1日制の短期戦ですし、指し手に悩んでいる暇はないでしょう。テンポよく進めていき、チャンスを見いだす展開になれば、と思います」と2日制との違いを意識するコメントを残している。 14 同 飛(82) ( 0:00/00:00:00) *羽生は棋聖12期の実績が示すように、1日制の戦い方を熟知している。一方の森内も同じ持ち時間の本戦で若手棋士を相手に勝ち抜いてきた。対応する準備は十分できていることだろう。 15 3四飛(24) ( 0:00/00:00:00) *森内は横歩を取った。豊島七段の事前予想がぴたりと当たった。第72期名人戦では相掛かりが3局、矢倉が1局指されていた。季節が春から夏に移り、持ち時間も変わったので気分新たに、というところか。本局ではスピーディな戦いが見られそうだ。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>ここは△3三角だと思いますが、まさかの△8八角成からの相横歩取りもあるかもしれません。この局面で少考されたら「ん?」という感じです。 16 3三角(22) ( 0:00/00:00:00) *本局は淡路島の洲本温泉内にある「ホテルニューアワジ」で行われている。ホテルニューアワジは第67期(1996年)から毎年棋聖戦の対局場に選ばれていて、今年で18回目となる。ファンにとっては棋聖戦で、関西の人間にとってはほのぼのとしたテーマソングのCMでおなじみの温泉旅館である。 * *【ホテルニューアワジCM(Youtubeより)】 *http://www.youtube.com/watch?v=QmPnwKEe4DI 17 3六飛(34) ( 0:00/00:00:00) *館内には「淡路棚田の湯」「くにうみの湯」「夢風泉」の3つの浴場があり、浴槽からは大阪湾の美しい風景を一望できる。お湯は療養泉として知られる「洲本温泉」と自家源泉のにごり湯「古茂江(こもえ)温泉」の2つから引かれていて、様々な泉質の温泉をいろいろな形で楽しむことができる。 *後者は特に「赤湯」と呼ばれていて、海から流れ込んだミネラル分を多く含有しており、お湯は赤褐色に濁っている。有馬温泉の金泉をもう少し濃くしたようなイメージだ。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>これで青野流はなくなりました。ここで△8四飛と引くのが最近の主流になっています。以下▲2六飛△2二銀▲8七歩に、後手がどこに玉を動かすかに注目したいです。 18 8四飛(86) ( 0:00/00:00:00) *「最近は△8五飛が減ったね」(小林健九段) *「そうですね、△8四飛が多いですね」(豊島七段) *8五飛の形は「中座飛車」と呼ばれ、横歩取り流行のきっかけとなった戦型である。最近△8五飛ではなく△8四飛が指されている理由を豊島七段に聞いたところ、(1)△8五飛は▲7七角と上がる変化があって、△7七角成▲同桂が飛車当たりになるのを避けた意味、(2)△7四歩を突かずに△2四飛とぶつける指し方が流行していて、その含みを持たせた意味の2つがあるとのことだ。 19 2六飛(36) ( 0:00/00:00:00) *▲2一飛成を見せつつ△2四飛を消す。横歩取りでは定跡となっている進行である。実戦例も数多く残されている。ここで△8八角成▲同銀△4四角は▲2一飛成△8八角成▲同金△同飛成に▲3一竜(王手)△同金▲3三角と王手竜取りで切り返す手がある。 20 2二銀(31) ( 0:00/00:00:00) *そこで後手は▲2一飛成を受けて△2二銀。次に△8八角成▲同銀△4四角を狙う。 21 8七歩打 ( 0:00/00:00:00) *先手も歩を打って飛車の利きを遮断する。定番の応酬だ。 * *「ここで△6二玉がコンピュータが指した将棋だったっけ?」(小林健九段) *「そうですね」(豊島七段) * *2014年3月29日に行われた第3回電王戦の第3局で、後手番のコンピュータ将棋ソフトのYSSは▲8七歩に△6二玉と指し、棋界の話題をさらった。プロの実戦では△5二玉と中住まいに構える手や△4一玉から中原囲いを目指す手が多く指されており、当時△6二玉は「常識外の一手」とみる向きが多かった。しかし電王戦を境にプロの実戦でも試されるようになり、いまでは横歩取りの最新課題として研究対象になっている。コンピュータの指し手が人間のプロに影響を与えた出来事の1つだ。 *ちなみにその第3局で人類代表として戦っていたのがご存知の通り、豊島七段である。第3回電王戦はプロ側が1勝4敗と残念な結果に終わったが、唯一の1勝を挙げたのが豊島七段であった。 22 5二玉(51) ( 0:00/00:00:00) *YSS流の△6二玉ではなく、羽生は中住まいを選んだ。前例は1034局で、よく指されている形だ。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>オーソドックスに5二玉型に構えましたね。 23 4八銀(39) ( 0:00/00:00:00) *先手の玉形は(1)▲5八玉と(2)▲6八玉、2つの選択肢がある。先手は▲3六歩と突いていって3筋から戦いを起こすことが多いので(2)▲6八玉と構えたいところだが、すぐに上がるのは△7四歩〜△7五歩と玉の近くで戦いを起こされる可能性がある。本譜の▲4八銀は玉の位置を後回しにして、後手の指し手を見てから玉形を決める狙いだ。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>▲4八銀に代えて、▲5八玉〜▲4八銀〜▲3八金と中住まいに構える作戦や、▲6八玉〜▲4八銀〜▲3六歩〜▲3七桂と積極的に駒を前に出していく作戦もあります。▲4八銀は相手の手によって▲6八玉か▲5八玉か決めたい意味があります。 *ただ▲4八銀と様子を見たつもりが、いきなり△2四飛とぶつけられるような手もあるかもしれません。また▲4八銀と上がったことで2八の地点が手薄になったので、△2三銀▲6八玉△2四飛▲同飛△同銀と飛車交換になると先手は2八の地点をカバーしなくてはなりません。そう考えると「▲4八銀と上がると後手は飛車をぶつけやすくなる」とみることもできるかもしれません。 24 6二銀(71) ( 0:00/00:00:00) *玉形を巡る駆け引きが盤上では繰り広げられている。△6二銀は▲6八玉を牽制したもの。△7四歩〜△7五歩といつでも仕掛けられるように駒組みを進めている、と豊島七段は解説する。ここでは△5一金もよく指されているが、本譜との違いは7筋が手厚いこと。△5一金▲6八玉△7四歩▲4六歩△7五歩▲4五歩△7六歩▲同飛と進めたときに銀取りにならないのが△6二銀の意味だそうだ。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>この局面は△2三銀とか△1四歩、△7二銀が現代的な候補手といえます。今日は▲4八銀に対して△6二銀とやってみたかったということなんだと思います。 * *※局後の感想※ *ここで△5一金は「やりづらい」と羽生。豊島七段の解説にあるように、▲6八玉と上がられたときに7筋から仕掛けづらいのがその理由だ。 25 4六歩(47) ( 0:00/00:00:00) *ぎりぎりまで玉の位置を先延ばしにしようとする先手。後手に態度を決めさせようとしている。▲4六歩の局面で前例は5局。過去には△2三銀や△5一金が指されている。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>▲4六歩はこの形の筋で、後手玉の急所である4三の地点を狙われていくと後手は嫌なんです。▲4五歩から場合によっては▲4四歩とどんどん突いていって、△同角なら▲同角△同歩▲3四角に玉を逃げると▲4三角成△同金▲2二飛成で後手まずいです。 *6二銀には▲4六歩と突く作戦が優秀で、データベース上では先手の勝率の方が高いと思います。後手は△5一金と囲うくらいなんですが、玉の逃げ道が限定されてしまうのが少し気になるところです。 26 7二金(61) ( 0:00/00:00:00) *羽生が先に態度を決めた。△7二金は珍しい一手だ、と控室。データベースを調べてたところ、すでに前例はないようだ。ここからは未知の将棋である。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>なるほどなるほど、△7二金でしたか。ここで▲4五歩なら「早く突きすぎでしょう」と△2三歩と穏やかに打っておいて、▲6八玉△8八角成▲同銀△3三銀のような感じの進行が予想されます。 *また△7二金とあがったことで8筋がカバーされ、飛車の動きが自由になった点がポイントです。後手の形はあまり見たことがありません。ここは時間を使って考えるのではないでしょうか。 * *【戦型は横歩取り】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-d9a2.html * *※局後の感想※ *「昔風の、普通の手ですね」(羽生) *「内藤先生(國雄九段)の初期の頃はこの形があったかもしれないですね」(小林健九段) *データベースには残されていないが、昔の将棋で同じ形が現れていた可能性はあるとのこと。 27 2八飛(26) ( 0:00/00:00:00) *「この局面は前例があるんですか?」(本間六段) *「ないですね。ゼロです」(小林健九段) *「そうですよね。見たことがない形だなーと思って」(本間六段) * *本譜は横歩取りの最新形であるが、すでに力戦の形になりつつある。両者手探りの序盤戦だ。△7二金に▲6八玉も自然だが、森内はじっと飛車を自陣に引きあげた。飛車が責められるのを未然に避けた手だ。次に▲4七銀と上がると飛車の横利きが自陣にスッと通ってくる。駒組みの感覚は相掛かりに近い。 * *「ここで△8六歩はどうするんでしょうね」(小林健九段) * *△8六歩は横歩取りの後手番の常套手段である。△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△7六飛が狙いの仕掛けだ。先手にとっても怖い変化で、常に注意を払っておく必要がある攻め筋である。継ぎ盤で調べたところ、△8六歩には▲同歩△同飛▲4五歩△7六飛▲3三角成△同桂▲4四歩で先手も戦えるという結論になった。最後の▲4四歩が後手陣の急所を突くコビン攻めで、△同歩は▲9八角の飛金両取りがある。この変化は「こっちが嫌ですね」と豊島七段。継ぎ盤には小林健九段が先手側、豊島七段が後手側に座り、序盤から早速検討を行っている。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>この戦型は▲2八飛と引くことが多いです。というのは、後手から△8六歩▲同歩△同飛と定番の仕掛けがありまして、次に△8八角成▲同銀△4四角と両取りに打たれる筋があるからです。 *現局面、先手はまだまだ指したい手がいっぱいありますが、後手は動かす駒が難しいです。例えば△7四歩〜△7三桂という指し方もありますが、それは飛車の横利きが止まるので▲4五歩と突かれる手が気になります。 28 7四歩(73) ( 0:00/00:00:00) *20分の考慮で△7四歩と突いた。△7三桂や△7五歩をみた攻めを目指す一手である。 *控室に吉田正和五段が姿を見せた。はるばる淡路島までの遠征。吉田五段は第3局で記録係を務める予定である。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>本田さんの予想した△7四歩が当たりましたね。後手は△7三桂ではなく△7三銀もありそうです。ここで▲4五歩と突かれた場合には△2三歩と打つつもりかもしれません。 29 4七銀(48) ( 0:00/00:00:00) *▲4七銀に羽生の手が止まった。 *序盤の何気ない局面なのだが、豊島七段はすでに先手を持って指してみたいという。ゆっくりしていると3三角の形をとがめられそうなので、後手は動いていく形を模索したい形。ところが後手は見た目以上に駒組みの制約が多いのだそうだ。(1)△7三桂は▲5六銀と腰掛け銀に構える形が手順に△6五桂を消していて味がいい。△6五桂を消されると逆に桂頭がキズになってしまう可能性がある。次に、(2)△6四歩などと飛車の横利きを二重に止めるような手は▲4五歩の筋があるという。飛車の横利きが消えると▲4四歩のコビン攻めが厳しいようだ。また、(3)△7五歩▲同歩△8五飛の仕掛けも同じ理由で▲4五歩がある。「▲4六歩と突かれているだけで後手はいろいろと制約を受けてしまっています」と豊島七段。後手はどう駒を動かすかが難しいようだ。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>これは△7三桂でも△7三銀でも▲5六銀と上がるということですね。低い陣形のまま金銀で押さえ込みを狙うのは森内竜王好みの展開に思えます。ちなみに私は先手を持ちたいです。 *理由は後手が攻めないといけない展開なんですが、少し後手の負担が大きいと思います。具体的には▲3三角成△同桂と進んだ形が薄いです。6二銀・5一金型に比べて後手玉は逃げにくい形なんですね。 30 7五歩(74) ( 0:00/00:00:00) *16分の考慮で羽生が選んだのは(3)△7五歩だった。陣形を組み合う流れは先手の模様がどんどんよくなっていく。局面を動かしにいった。△7五歩▲同歩△8五飛は豊島七段解説の▲4五歩があるので、▲同歩のところで別の手段を用意しているのだろう。 31 同 歩(76) ( 0:00/00:00:00) *▲7五歩までの消費時間は▲森内23分、△羽生58分。 *10時30分、両対局者におやつが出された。中継ブログでもすでにお伝えしているように、第85期棋聖戦五番勝負ではフランス菓子ブランド「ブールミッシュ」からオフィシャルスイーツが提供されている。ブールミッシュは銀座に本店を構え、創業者・吉田菊次郎がパリで研鑽した伝統的技法を基本に、正統でありながら創作意欲を大切にした菓子作りを続けている。午前のおやつとして出されたのは羽生がフィナンシェとホットコーヒー、森内がマドレーヌとお茶だった。 *マドレーヌとフィナンシェはともにフランスの定番焼き菓子で、ブールミッシュの人気メニューである。厳選された北海道バターを使って、じっくり丁寧に焼き上げられた一品である。ブールミッシュのオンラインショップでは本日限定のオリジナルパッケージが用意されている。両対局者が頼んだフィナンシェとマドレーヌもパッケージの中に含まれている。 * *【10時半のおやつ】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/10-36cb.html * *【マドレーヌとフィナンシェ】 *オンラインショップ *http://www.boulmich-shop.jp/products/list.php?category_id=10 *楽天 *http://item.rakuten.co.jp/boulmich/c/0000000165/ * *【再掲: ブールミッシュオンラインショップ】 *http://www.boulmich-shop.jp/products/detail.php?product_id=238 32 7三銀(62) ( 0:00/00:00:00) *羽生の継続手は△7三銀。歩を突き捨ててから銀を上がる仕掛けは中原流と呼ばれる攻め筋で、相掛かりでみられる形である。YSS流の△6二玉といい、本譜の△7五歩〜△7三銀といい、現代の将棋は様々な戦型の要素が織り交ぜられて一局を成している。序・中盤は非常に複雑だ。 *控室に香川愛生女流王将が姿を見せた。「今日は学校は?」と小林健九段が声を掛ける。「あ、もともとないです。さぼってないです」と笑顔で答える香川女流王将。 *対局者におやつが出されたのにあわせて、控室でもブールミッシュ特製の「鳴門オレンジゼリー」が振る舞われた。昨晩の前夜祭で参加者に提供されたものと同じもので、ブールミッシュ専属シェフの中西昭生さんが第1局のために開発した創作スイーツだ。地元淡路島の特産品が使われている。ほどよい酸味の、夏らしい爽やかなお菓子である。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>7筋を突き捨ててから銀を使って攻めていこうという思想です。後手の形は実は中原流相掛かりの先手の形に似ているんですね。この局面はようやく後手の狙いがはっきり見えてきたので、先手は時間を使って考えたいところです。 * *【特製 鳴門オレンジゼリー】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-1d89.html 33 3三角成(88) ( 0:00/00:00:00) *モニターから「カラッ」と乾いた木の音が響いてきた。駒台には角が置かれている。 *「角を換えましたか。難しいね」(小林健九段) *「難しいですね」(豊島七段) *控室では▲5六銀が予想されていた。銀の位置を決めなかったのは中央だけでなく右側でも使える余地を残している意味があるようだ。例えば▲3三角成△同桂の後△2五歩〜△2四飛という展開に進んだときに▲3六銀と受けに使うことができる。 * *※局後の感想※ *ここで▲5六銀も一局の将棋。「全然違う将棋」(森内)になる。 34 同 桂(21) ( 0:00/00:00:00) *香川女流王将に続いて、千田翔太四段も控室を来訪。現地取材本部が段々賑やかになってきた。羽生−森内の頂上決戦が関西で見られるということで、控室を訪れる関係者が多い。千田四段は第55期王位戦で挑戦者決定戦まで勝ち進み、タイトル戦出場にあと一歩のところまで迫った関西期待の新鋭。王位リーグでは森内も破っている。 * *【千田四段、香川女流王将が控室へ】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-e14f.html 35 8八銀(79) ( 0:00/00:00:00) *銀を上がって相手が攻めてくる筋に備える。頭の丸い角をさばいたことで、銀の突進を受けやすくなっている。森内陣は相掛かりの後手番のような形だ。相掛かりの将棋だと(1)△6四銀と上がる手や(2)△7六歩と打つ手がよくみられる筋だが、豊島七段は(3)△2五歩と飛車先を押さえる手を継ぎ盤に示している。ひねり飛車風に△2四飛と転回する構想だ。 36 7六歩打 ( 0:00/00:00:00) *小林健九段が継ぎ盤を離れ、現在は豊島七段が1人盤に座っている。千田四段が対面に座るようにうながされたが「豊島先生に逆に座っていただかないと……」と固辞の構えを見せた。よく見ると、豊島七段が座っているのは入り口に近い側。つまり下座。先輩を差し置いて上座には座れないということだ。周りからのぞき込むようにして検討に参加している。 *(2)△7六歩には▲2一角の切り込みが気になる筋だ。以下△3一金に▲2三歩△2五歩▲2二歩成△同金に▲3二銀とつなげた局面がどうか。現在は検討が進んで、▲3二銀に△6二玉や△2一金で後手が余しているとみられている。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>手筋の垂れ歩で、先手は▲7七銀と上がれなくなっています。玉も7七に逃げ出せなくなったので、仮にどこかで△4七角成などと銀を取られたりするとすぐに先手玉に詰めろがかかるようになっています。 * *※局後の感想※ *「△7六歩と打たないと、あまり作戦として主張がないのかなと思いました」(羽生) 37 6八玉(59) ( 0:00/00:00:00) *そこで森内は▲2一角の筋を見送って▲6八玉と上がった。居玉を避けつつ守りの駒に近づく、先手が指したかった一手である。 *▲6八玉に△6四銀は今度こそ▲2一角があるのではと言われている。先ほどとの違いは飛車の横利きが止まっていることで、▲2一角△3一金▲2三歩△2五歩▲2二歩成△同金と進めたときに▲2四歩と垂らす手がある。この変化は▲6八玉と△6四銀の交換が先手の得になっており、先手の攻めがつながっているようだ。 *しばらくして糸谷哲郎六段が控室に姿を見せた。糸谷六段は関西本部所属の棋士で、豊島七段とは年齢で2歳違い、奨励会入会では1年違いの同年代の棋士である。千田四段とは森信雄七段門下の同門で、兄弟子にあたる。お菓子に詳しい、関西のスイーツ男子として有名だ。早速継ぎ盤の検討に参加している。候補手としては△2五歩などが示されているが後手にとって怖い変化が多い局面のため、指し手が難しいようだ。後手陣はすぐに潰されてしまうような危うさをはらんでいる。 * *羽生が考慮に沈んで盤面がぴたりと止まった。時刻は12時。1時間の昼食休憩となった。対局は13時に再開される。▲6八玉までの消費時間は▲森内1時間8分、△羽生1時間33分。昼食の注文は羽生がきつねうどん、森内が牛丼だった。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>自然に玉を固めました。後手は△6四銀と出たいんですが、▲2一角にどう対応するか考えておかないといけません。一例は▲2一角△3一金▲2三歩△2一金▲2二歩成で、これは後手失敗です。 * *【糸谷哲郎六段が来訪】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-a0a5.html * *【昼食休憩】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-bc24.html 38 2五歩打 ( 0:00/00:00:00) *13時、対局再開。 *「歩打ちですか」(千田四段) *モニターに目をやると、盤上に歩が置かれている。羽生の着手は△2五歩だった。先手の飛車の利きを遮断することで▲2一角の筋を消したものだ。また、次に△2四飛と飛車を転じる含みもある。控室でも挙げられていた一手だ。 *継ぎ盤では吉田五段と千田四段が盤を挟んでいる。候補として挙げられたのは(1)▲3六歩△2四飛▲2七歩△8四銀▲3五歩△2三銀の順と、(2)▲5八金△2四歩▲3六銀の順。局面の印象を尋ねたところ、後手は駒をまとめ切るのに苦労が多く、先手も動かす駒がそれほど多くないので難しい、とのことだった。 * *【対局再開(1)】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-90ed.html 39 3六歩(37) ( 0:00/00:00:00) *森内は(1)▲3六歩を選んだ。桂頭のキズを目指す。この変化は△2四飛と回られたときに歩を打って受ける必要があるが、森内は損にならないとみているのだろう。 * *【対局再開(2)】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-cc4e.html * *【対局再開(3)】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-7c03.html 40 2四飛(84) ( 0:00/00:00:00) *控室では対局者より一足早く午後のおやつタイムが始まった。豊島七段や糸谷六段、香川女流王将は検討を一時中断してコーヒーを入れている。お目当ては対局者のお茶菓子として盤側に置かれていたヌーヴェルガレット。こちらもブールミッシュのオフィシャルスイーツだ。スイーツ男子の糸谷六段がコメントを求められる。 *「糸谷くん、お菓子ソムリエみたいやねー。あー、いい笑顔やね」 *小林健九段は自身のタブレットに試食をしている糸谷六段の姿を収めている。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>歩を打たずに▲3七桂は△2六歩▲2五歩△同桂▲2六飛に△3七桂不成で先手まずいです。▲2四飛には△4九桂成で次に△1五角が厳しいです。 * *【糸谷哲郎六段のスイーツ解説(1)】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-a102.html 41 2七歩打 ( 0:00/00:00:00) *対局再開の仕事を終えた小林健九段が継ぎ盤の前に戻っている。対面には千田四段が座った。 42 6四銀(73) ( 0:00/00:00:00) *【糸谷哲郎六段のスイーツ解説(2)】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-9327.html 43 7四歩(75) ( 0:00/00:00:00) *△7五銀と取られないように歩を突き出した。「この手は得かどうかわからなかったんだけど」と小林健九段。一度逃がした歩だが、手順に味よく取られてしまうと逆に損になってしまう可能性もあるようだ。 * *※局後の感想※ *「構想がよくわからなかったですね。取らせたほうがよかったですかね?」(森内) *「控室でも指し手がわかっていなかったです」(小林健九段) 44 5五銀(64) ( 0:00/00:00:00) *控室の予想になかった手が盤上に指された。「ちらっと考えはしたんですが……」と千田四段。飛車の横利きを通して△7四飛で歩を払う狙いだ。「ここで歩を突くと?」と小林健九段。▲5六歩で銀を追い返されると△6四銀と元の位置に戻るしかないようだが、▲5六歩と突かせることで先手陣を乱すことができる。1つは▲5六銀の腰掛け銀がなくなるということ、もう1つは4九金が動いたときに△3九角と打つ手が生じる。 *△5五銀の局面で、控室のモニターに異常が現れ始めた。盤面を映している映像が点いたり消えたりしている。どうやら天井に吊っているカメラに不具合があるようだ。映像が点滅するたびにカメラからビープ音が鳴っているようで、森内と福間三段がしきりに天井を気にしている。羽生は席を外している。立会人の小林健九段、関係者が慌ただしく動き始めた。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>先手の壁銀を相手にせず4六の地点を攻めていく狙いです。次に△8二角〜△4六銀▲同銀△同角と攻められればかなり厳しいです。 * *※局後の感想※ *「△6五銀と真っ直ぐ立つのかと思ったんですが」(小林健九段) *「そうか。▲5六歩を突かせたほうが得かと思ったんですが。本譜は逆に5筋をどんどん伸ばされましたね」(羽生) 45 5六歩(57) ( 0:00/00:00:00) *カメラの具合が技術的にすぐ直る類のものなのか、関係者の間では調整が続けられている。もし直らないようなら、対局環境を優先してカメラを撤去することも検討されているようだ。機械に完璧なものはない。故障してしまうことももちろん、あり得ることだ。 *小林健九段が対局室に向かった。両対局者に現状を説明しにいくようだ。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>やはり次に△8二角と打たれてしまうと4六の地点が受けにくいので、素直に銀を追い返しました。しかし先手は▲5六歩と突いたことで▲5六銀と出られなくなりました。 *また角交換には5筋を突くなという格言があるように、▲5八金と固めようとすると△3九角▲3八飛△7五角成と馬を作られます。少し前は先手を持ちたかったんですが、現局面は先手が動きにくく、後手がおもしろい将棋になっていると思います。 46 6四銀(55) ( 0:00/00:00:00) 47 7三歩成(74) ( 0:00/00:00:00) *関係者が対応に追われる中、盤上の指し手は徐々に進んでいる。▲7四歩(43手目)からの継続手。森内が狙っていたのはこの成り捨てだった。継ぎ盤の検討内容を糸谷六段が解説してくれた。▲7三歩成を(1)△同桂は、▲7四歩(A)△6五桂▲6六歩△5七角に▲6七玉と立つの強い手で、以下△7五銀▲6五歩△6六角成と進んだ局面は後手の攻めが空回りしている印象だという。従って上記変化の▲7四歩には(B)△8五桂と逆側に跳ねることになるが、この変化も▲8六歩△7七歩成▲同桂△同桂成▲同銀△6五銀▲7三歩成△同金▲5七桂△5四銀▲8二角と進んで先手が十分になるようだ。先手の攻めは最後の▲8二角を含みに組み立てられている。 *そこで本譜の▲7三歩成には(2)△同銀が本筋、と糸谷六段。 * *小林健九段の立ち会いの元、▲7三歩成の局面で対局は一時中断されることになった。席を立つ両対局者。盤は一時脇に移動され、テクニカルスタッフが脚立を置いて作業をしている。「秒読みのときじゃなくてよかったですね」と控室の声。両者とも考慮時間を残しているので、中断の影響はまだ少なくてすみそうだ。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>歩を成り捨てました。△7三同銀なら▲7七歩として壁形を解消したいということです。ただ△7三同桂に▲7七歩△6五桂▲7六歩△5七角▲5八玉△7五角成は普通に考えると先手はやりたくないです。 *では△7三同桂に▲7四歩はどうか。△6五桂▲6六歩に△5七角と打つのは▲6七玉と仁王立ちして、後手は歩しか持っていないので何とか耐えていそうです。△7三同桂には▲7四歩で大丈夫と互いの読みが一致すれば△7三同銀と取ると思います。 48 同 銀(64) ( 0:00/00:00:00) *14時20分、対局が再開された。不具合の原因はすぐに特定されたようで、カメラは再調整の上、引き続き使用されることとなった。 * *再開後の羽生の着手は(2)△7三同銀。控室でも本命に挙げられていた手だ。急流のような忙しい流れではなく、対局室から見える海のようなゆっくりとした流れで戦おうとしている。 *△7三同銀に対する先手の狙いは、▲7七歩から壁銀を解消することにある、と糸谷六段。▲7七歩△同歩成▲同銀と形を整えることができれば、後手の2〜3筋の形(2四飛、2二銀、3二金)との違いで差を付けられるという大局感だ。 *△7三同銀までの消費時間は▲森内1時間40分、△羽生2時間1分。 49 7七歩打 ( 0:00/00:00:00) *壁銀をほぐしにいった。▲7四歩〜▲7三歩成と成り捨てたことで可能になった手である。玉の懐を広げる大きな一手だ。 50 同 歩成(76) ( 0:00/00:00:00) *現地では14時から棋士による大盤解説会が行われている。解説を行うのは豊島七段、聞き手を村田女流二段が務める予定だ。現地には他にも棋士が詰めかけているので、ゲスト出演することもあるということだ。 * *【大盤解説会】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-693c.html 51 同 銀(88) ( 0:00/00:00:00) 52 7四銀(73) ( 0:00/00:00:00) *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>次に△7三桂と援軍を送るつもりです。後手は駒の効率が非常に良いです。先手は壁銀が解消されましたが、自分からポイントをあげるところがなかなかありません。じわりじわりと自陣を整備するか、▲6六銀〜▲5五歩のような感じでしょうか。 53 6六銀(77) ( 0:00/00:00:00) *「検討通りですね」(吉田五段) *継ぎ盤では予想されていた順だとのこと。先手は次に▲5五歩と突く狙いがある。▲5八飛の転回を目指したもので、2〜3筋の駒を遊び駒にしつつ後手の玉頭を戦場にする意味だ。5七に空間があるため、先手は▲7九玉などとさらに固める手は指しづらい。6六銀が動くと△5七角が生じてしまう。そこで玉は6八に置いたまま、中央から攻めていく順が控室では考えられているようだ。 54 7三桂(81) ( 0:00/00:00:00) *ここで桂を跳ねた。銀を7四に繰り替えていることで▲7四歩と打つ筋がない。次に△6五銀とぶつけるのが狙いだ。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>▲7五歩は△6五銀▲同銀△同桂で、△5七銀が残るので先手はやりにくいです。やはり▲5五歩と突いておいて、のちの玉頭攻めを含みにしたいです。 55 5五歩(56) ( 0:00/00:00:00) *玉頭に歩を進めた。中住まいは▲5四歩が常に急所の一着となる。 *ここで後手は(1)△4二金や(2)△6四歩、(3)△6五銀のような手が考えられる。糸谷六段によると(1)△4二金には▲3五歩、(2)6四歩には▲5四歩があって、この変化は先手十分だという。そこで糸谷六段は(3)△6五銀を候補に挙げている。 *(3)△6五銀は5七のキズを突く攻めだ。△6五銀を(A)▲同銀と取ると、△同桂▲6六銀△7七歩▲8八金△5七銀▲同銀△同桂成▲同玉△7九角▲5六玉△6八銀で攻めが続く。銀を取らずに(B)▲5八飛と回るのも△8八歩▲同金△6六銀▲同歩△9四角と遠見に角を据える手があって、これも後手の攻めを振りほどくのが容易ではないようだ。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>後手側から見ると自玉の頭が薄いように見えますね。ただ玉頭を厚くするなら△7四銀ではなく△6四銀と上がる手もあったので、後手はこれで悪くないと見ているのだと思います。形勢は後手指しやすいぐらいだと思います。 56 7六歩打 ( 0:00/00:00:00) *「そこで千田くんが(C)▲7七歩と打つ手を指摘してくれまして……」 *糸谷六段が△6五銀に対する第3の応手を解説しようとしたところで羽生の手が動いた。モニターに映し出されたのは△7六歩。△6五銀を含みにして、(C)▲7七歩の受けを先に消した手である。千田四段指摘の▲7七歩は△7七歩のタタキや△7六歩を消しておく手。羽生はその手が手強いとみて、「敵の打ちたいところに打て」で歩を先着させた。森内の手が止まる。「これは難しいな……」と千田四段。 *「この局面はどっちがいいの?」(本間六段) *「いやあ、わからないですね」(豊島七段) *「先手がちょっとまとめづらいように見えるなあ」(本間六段) * *15時、両対局者におやつが出された。羽生の注文はモンブランとレモンティ、森内は果実めぐり(いよかん、ぶどう)と緑茶だった。 *「モンブラン」はブールミッシュの定番メニュー。スポンジを土台に、カスタードクリームとホイップクリームを合わせた中に荒く刻んだ栗を入れ、栗のペースト、ピューレ、バターを加えたリッチなマロンクリームをドーム型に絞ったものだ。 *「果実めぐり」は日本各地のフルーツを使用したゼリー。森内が注文したいよかんは愛媛産、ぶどうは岡山産の果肉がそれぞれ使用されている。洋酒を使わずに作っているので、果実そのもののみずみずしさを楽しむことができる。 * *【モンブラン】 *http://www.boulmich.co.jp/entremets/ *(モンブランはネット販売はありません) * *【果実めぐり】 *オンラインショップ *http://www.boulmich-shop.jp/products/list.php?category_id=79 *楽天 *http://item.rakuten.co.jp/boulmich/c/0000000251/ * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>じっと歩を垂らしました。大きい狙いというほどではありませんが、次に△6五銀▲同銀△同桂▲6六銀に△7七銀と打つ狙いがあります。 * *【15時のおやつ】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/15-43b0.html * *※局後の感想※ *「▲7七歩と打たれるのを嫌ったのでは、と控室では言っていたんですが」(小林健九段) *「△7七歩ですか!?いやー、感覚が違いますね」(羽生) *羽生が対局中に気にしていたのは△6五銀に▲同銀△同桂▲6六銀とあっさり取ってしまう変化だったようだ。▲6六銀以下、△7七歩▲同桂△同桂成▲同銀の局面でいい手がないと「困るのではと思った」と羽生。だが本譜も苦労が多かったようで、「▲5八飛と回られるくらいなら、成算がなくても△6五銀の変化を考えるべきでしたか」(羽生)との感想を残している。 57 5八飛(28) ( 0:00/00:00:00) *△6五銀に▲5八飛は△8八歩からの攻めがあった。本譜は△7六歩だったため、得られた1手の余裕を使って▲5八飛と中央に転じた。ここで△6五銀には▲5四歩と攻めを先着させる狙いか。玉を直撃しているだけに後手は手抜くことができなさそうだ。 *以下は中継ブログに掲載されている千田四段の解説。 *「(1)△6五銀が自然ですが、▲5四歩があります。△同銀ならば▲7四歩のキズがあるので△同歩ですが、▲5三歩△4二玉(△5三同玉は▲3五角の王手飛車取り)と利かされると、果たして銀をぶつけた意味があったのか?ということになります。それなら単に(2)△4二金と受けに回っておく手が優るのではないかとも言われていて、今はこの2つが検討されています。形勢は気づいたら差がついていたということはありえるのですが、現時点ではわかりません」(千田四段) *▲5八飛までの消費時間は▲森内2時間19分、△羽生2時間34分。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>使えていなかった飛車を中央に使っていこうということですね。こう進んでみると△2六歩は遅いように見えます。一例は△2六歩▲5四歩△同歩▲5三歩△6二玉に▲2六歩と手を戻しておいて、△同飛なら▲5四飛と走る手が痛いです。 *△2六歩と突いている余裕がないとすれば、先手は良いタイミングで飛車をまわれたということになります。先手は壁銀だったころと比べて、見た目的にも駒が使えるようになってきました。 * *【控室の検討】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-b785.html 58 4二金(32) ( 0:00/00:00:00) *羽生の着手は自陣に手を入れる(2)△4二金。金を寄せて中央の利きを増やした。自分の攻めのスピードと相手の攻めのスピード、そして自玉の耐久度と相手玉の耐久度を計算しながら、局面の流れをコントロールしている。 *時刻は15時40分。△4二金までの消費時間は▲森内2時間19分、△羽生2時間34分。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>▲5四歩△同歩▲5三歩の攻めがうるさいと見ました。しかし4二金と2二銀のバランスが悪くキズになっています。飛車交換から▲2一飛と打たれた時に、3二金型なら△3一金と引けば受かりますが、4二金型だと△3一角と使わなくてはいけません。 59 5四歩(55) ( 0:00/00:00:00) *それでも森内は切り込んでいった。5八飛の利きに▲3五角の筋を絡めて、攻め切る成算があるとみたか。 *控室では▲5四歩△同歩▲5三歩に△5三同金と強く応じた場合、後手玉に寄せがあるかが調べられている。一番激しい変化から調べるのが検討陣の常だ。 60 同 歩(53) ( 0:00/00:00:00) *▲5三歩△同金以下、▲3五角△3四飛▲5五歩△同歩▲同銀△5七歩▲同飛△6五桂▲5三角成△同玉▲4四銀が継ぎ盤に並ぶ。▲4四銀は両王手で、△同玉▲5四金まで詰んでしまう。▲4四銀に△6二玉▲5三飛成△7一玉と逃げ出すと後続手が難しい。「この変化はこっちが自信ないなあ」と先手側を持つ安用寺孝功六段。わずかに足りないようだ。 61 5三歩打 ( 0:00/00:00:00) *そこで糸谷六段は▲5三歩△同金▲3五角△3四飛に▲5三角成△同玉▲3五金△1四飛▲1六歩を示した。角を犠牲に飛車を詰ましにいく順だ。後手陣は薄く、飛車打ちに弱い形をしている。飛車を手にするのが一番早いとみている。 62 同 金(42) ( 0:00/00:00:00) *△5三同金は最も激しい変化。羽生が強く応じた。控室の検討順に進みそうだ。これはどちらが読み勝っているのか。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>代えて△6二玉はすぐに何かあるわけではなさそうですが、さすがに利かされ過ぎと見ましたか。ここで▲5五歩には筋が悪いですが△3五歩と打つ手がありますか。▲3五角とは打たせないぞ、と。 * *※局後の感想※ *▲5三歩に△6二玉とかわすのは▲3五歩ぐらいで自信がないとのこと。 63 3五角打 ( 0:00/00:00:00) *飛車取りに角を据える。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>先に▲3五角を打ちましたか。△3四飛と逃げるか、邪魔にならないように△1四飛もあるかもしれません。そこで▲5五歩にどう対応するか。後手も不安定な形なので受け方が難しいです。先に▲5三角成と切ってから△同玉▲5五歩もありますか。 64 1四飛(24) ( 0:00/00:00:00) *端に逃がした。 65 5三角成(35) ( 0:00/00:00:00) *単刀直入に切った。渋い応酬から一転、森内は直接手で迫っていく。 66 同 玉(52) ( 0:00/00:00:00) *【15時半頃の大盤解説会場】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/15-14a9.html 67 1六歩(17) ( 0:00/00:00:00) *金を入手して、じっと端歩。飛車を圧迫する。手順は異なるものの、狙いは糸谷六段の解説と同じものだ。次に▲1五歩△2四飛▲3五金△2三飛▲3四金で飛車が詰む。 *▲1六歩を指して森内が席を立った。対局室に1人残された羽生。右手を額にやって首を傾げる。▲1六歩に羽生の手が止まっている。 *現局面から先手が飛車を取り切るまでは▲1五歩〜▲1四歩の2手が必要。控室ではここで△8八歩から攻め合う順が検討されている。△8八歩は矢倉崩しの手筋で、この手裏剣は手抜きにくいとのこと。継ぎ盤には△8八歩▲同金△8三角が並べられた。△8八歩を利かせたことで先手玉がかなり狭くなっている。小林健九段は△8三角の局面を後手持ちとの見解を示した。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>▲9六歩と突いてあれば△9五角の反撃がないのではっきり先手を持ちたいと言えるのですが、先手は駒をたくさん渡しそうなのでカウンターがこわいです。ただそれでも攻めていったので少し驚きました。もうどちらかが良い局面だと思います。 68 8八歩打 ( 0:00/00:00:00) *手元の時計で20分ほど考えて、羽生は△8八歩。控室の検討が当たりだすと終局が近いと言われることが多いが、本局はどうだろうか。 *△8八歩▲同金△8三角が継ぎ盤で示された順だが、1つの問題は△8八歩が本当に利くかどうかだ。△8八歩を手抜いて▲1五歩と飛車を取りにいった場合はどうなるのか。小林健九段が示したのは△8八歩に▲1五歩なら△3四飛と逃げ、あえて▲3五金と打たせる順。千田四段は以下△8九歩成▲3四金△9五角▲7七歩△同歩成▲同銀△6五桂と並べて、「次に△5七銀と打てばすぐに必至がかかりそうです」と述べた。この変化は後手の攻めが筋に入っているようだ。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>△8八歩に▲同金△8三角▲1五歩△2四飛▲3五金△2三飛▲3四金△7五銀▲2三金△6六銀▲5一飛に△5二銀と合駒して、▲6六歩に△4七角成と銀を取られるとこれは相当迫力のある攻めです。 * *※局後の感想※ *手筋の歩だが、「△8八歩は余計な一手でしたね」と羽生。本譜のように△7七歩成を利かせる組み立てなら、△8八歩で1歩を渡す必要はなかったようだ。 69 同 金(78) ( 0:00/00:00:00) *通った。森内は▲8八同金。手抜きはできなかったようだ。大きな利かしだ。▲7九玉〜▲8八玉のルートを封鎖されたことで、後手は寄せに必要な駒が1〜2枚は少なくてもすむ計算になるようだ。 *では現局面をどう見るか。千田四段は少し後手がよさそうだとみている。先手の手段は▲1五歩から飛車を取りにいく手に限られているのに対し、後手は△9五角や△7七歩成など何かいい手段がありそうだ、とのことだ。ただ、すぐに△9五角は▲6九玉△6五銀▲9六歩で追い返されてしまうため簡単ではない。いい組み合わせがあれば後手が勝ちそうだが、手段がなければ確実な手が残っている先手がむしろ有望なのだそうだ。 *時刻はあと10分で17時を迎える。▲8八同金までの消費時間は▲森内2時間39分、△羽生3時間11分。羽生の持ち時間は1時間を切っている。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>手の流れから言えばここは(1)△8三角が本線です。△8八歩を入れておきながら(2)△3五歩▲同歩△2三銀など攻めない手もあるかもしれません。 70 7七歩成(76) ( 0:00/00:00:00) *羽生の着手は軽快な成り捨てだった。(1)▲7七同桂は△7六歩▲1五歩△2四飛▲3五金△7七歩成▲同金△6五桂▲2四金△7七桂成が継ぎ盤で検討されている順。ぎりぎりの寄せ合いだ。(2)▲7七同銀には△5五歩と飛車の逃げ場所を作るのが候補手で、▲同飛には△6二玉と軽く逃げておいて先手は後続の攻めが難しいようだ。 *どちらの変化も難解な上、終局の見通しが立つまで読み切らなければならないため、桂でも銀でも応じにくい局面だ。「ただ、そうも言ってられないですけどね」と苦笑いする千田四段。本局は佳境を迎えている。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>これは予想しにくい手がきました。▲7七同金なら△8八歩と打つということですか。いやあでも普通は金で取りたいです。 * *※局後の感想※ *代えて△8三角は▲1五歩△2四飛▲3五金△2三飛▲3四金△6五銀▲5六歩で自信なし、と羽生。 71 同 金(88) ( 0:00/00:00:00) *森内は金で応じた。△8八歩〜△8九歩成〜△7九角の筋が見えているので、控室では指しにくいと言われていた応手だ。当初は△8八歩▲1五歩△2四飛▲3五金△8九歩成の変化は後手が勝ちそうだと判断されていたものの、検討を進めてみると▲2四金と飛車を取る手が思った以上に厳しく、この変化はむしろ先手が勝ちなのではないかと言われるようになった。 *控室に大盤解説を終えた安用寺六段と糸谷六段の森門下コンビが返ってきた。吉田五段と千田四段(2人の弟弟子)の検討に加わる。 *「大盤解説はもしかして先手よしで解説していましたか?」(千田四段) *「そうやね。大盤ではごちゃごちゃやってたら先手勝ちになる変化ばっかりで」(安用寺六段) *控室では後手よしで進められていた検討だが、現在はやり直しになっている。 72 3一銀(22) ( 0:00/00:00:00) *△8八歩は打たず。△3一銀と我慢した。▲1五歩△2四飛▲3五金に△2二飛と逃げるルートを作った手だ。直線的な切り合いから一転、曲線的な手順である。 *継ぎ盤では▲3五金と飛車の逃げ道に先回りする変化が調べられている。候補手は△5五歩。以下▲1五歩△6四飛▲5五銀△5七歩▲同飛△6五桂▲6四銀△同玉▲5二飛成に△6二金が検討手順で、この変化は先手が困っているのではないか、ということだ。飛車を取れないようでは打った金が空振りになってしまう。最後の△6二金が▲5四飛以下の詰めろを消しながら竜の利きをそらす攻防の妙手。△6二金を▲同竜は△5七銀から先手玉は詰んでしまう。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>決めるだけ決めてから△3一銀と戻すのはなかなか見ない組み合わせです。代えて△8八歩と打つ展開は先に後手玉の方が危険になると。曲線的な順ですね。 73 3五金打 ( 0:00/00:00:00) *手元の時計で約20分考えて森内は▲3五金。決断の一着だ。控室の検討では後手よしの変化が並んでいた。森内自身の読みはどうか。 * *【桐箱】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-9bf9.html 74 5五歩(54) ( 0:00/00:00:00) *羽生の着手が早い。△5五歩で飛車が動けるルートが再び広くなった。▲1五歩に△6四飛と逃げることができる。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>飛車の横利きを通して▲1五歩△6四飛▲5五銀△5七歩▲同飛に△6五桂と跳ねる手を用意しています。▲6四銀△同玉▲5二飛成までは進みそうで、そこで△6二金みたいな手が利けばすごいですけどね。▲同竜と取ると△5七銀から詰みます。 75 1五歩(16) ( 0:00/00:00:00) *飛車を追う。▲3五金と打ったからには飛車を取りにいくよりない。 76 6四飛(14) ( 0:00/00:00:00) *次に▲5五銀で飛車が取られそうだが、3五に打った金が働いていないのが後手の主張だ。プロの感覚ではこの金を「ひどい」とみる、とのこと。目的が果たせない上に遊んでしまっているからだ。 * *【指導対局】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-cc07.html 77 5五銀(66) ( 0:00/00:00:00) *ここで△5七歩▲同飛△6五桂が継ぎ盤の検討。その順は後手よしと言われていた。 *検討はさらに進んで、△5七歩を▲同飛と取らずに▲同玉と取る変化が継ぎ盤で調べられた。違いは玉を右辺に逃げ出せること。▲同玉△6五桂▲4八玉△5七銀から飛車を取られてしまうが、以下▲同飛△同桂成▲同玉△8八飛▲5八銀と進めた変化は非常に難解。まだまだ勝負はわからない局面のようだ。 78 6五桂(73) ( 0:00/00:00:00) *△5七歩▲同玉の順が掘り下げられていたところでモニターに羽生の着手が映った。羽生が選んだのは単に跳ねる△6五桂だった。△5七歩を打たないことで、▲同玉と玉で取る変化を消している。読みの入った一着だ。 *控室では△6五桂に▲6六金とかわして「難解」だと言われている。揺れる形勢判断。一手指したほうがよく見える、僅差の中盤戦になっている。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>△5七歩を入れずに△6五桂と跳ねました。▲6四銀△同玉▲5二飛成と進めば先述の変化に比べて1歩の節約になります。 * *※局後の感想※ *本局のポイントとなった局面。形勢はほぼ互角で、難解な中盤戦が繰り広げられている。ここで△6五桂が羽生らしい勝負術だった。先手には(1)▲5四歩△6二玉▲6四銀の順と(2)▲6四銀△同玉▲5二飛成があるのだが、どちらも非常に難しい。本譜は選択権を相手に与えることで、悩ましい局面を生み出している。「ギリギリの将棋だとそういう手が求められることがあります」と豊島七段は局後に語っている。 *△5七歩▲同飛を入れてから△6五桂と跳ねるのは、一直線の変化に局面が限定されてしまい、逆にすっきりしてしまうようだ。感想戦では△5七歩▲同飛△6五桂▲6四銀△同玉▲5二飛成△5七銀▲同竜△同桂成▲同玉△6九飛が並べられたが、「負けそうな気がしました」と羽生は自信がないようだった。森内も「これで来られたら変化のしようがないので」と結論は別にしてこう進めるより仕方がないと覚悟していたようだ。 79 5四歩打 ( 0:00/00:00:00) *18時5分、森内の右手が動く。手に持っているのは歩。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>銀を渡すことになるので強い手です。△6二玉▲6四銀△同歩▲5三歩成△7三玉に何を指すかもう決めているのでしょう。 * *【勝ちに行った手】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-8326.html * *※局後の感想※ *森内の選択は(1)▲5四歩だったが、▲6四銀との比較は非常に難しい。感想戦で結論は出されなかった。 80 6二玉(53) ( 0:00/00:00:00) 81 6四銀(55) ( 0:00/00:00:00) *飛車を取って銀をさばき、▲5三歩成から攻めていくのが先手の狙いだ。しかしこの順は手順に玉を逃がしてしまうだけに、あまり気が進まないということで継ぎ盤では検討されていなかったそうだ。 82 同 歩(63) ( 0:00/00:00:00) 83 5三歩成(54) ( 0:00/00:00:00) *5筋を突破。だが、△7三玉と上がった形が広い。先手の持ち駒は飛車1枚。うまく迫る手段はあるだろうか。6五桂が自玉に迫っているので、先手はかなり忙しい。 84 7三玉(62) ( 0:00/00:00:00) 85 8一飛打 ( 0:00/00:00:00) *ここで一段目に飛車を下ろすのが森内の継続手だった。「指されてみればなるほどですね」と千田四段。すぐの狙いがあるわけではないが、後手が駒を渡すと自玉が詰まされてしまう。後手の攻めに制約を与えた手だ。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>なるほど、これが狙いだったんですね。例えば△7七桂成▲同桂に△7六歩などとしていると▲8五桂打から後手玉が詰みます。 86 8八角打 ( 0:00/00:00:00) *羽生の着手は早かった。敵陣深くに角を打ち込む。駒を渡せないリスクを恐れない、踏み込んだ一手だ。 *継ぎ盤では▲7六金を調べている。金を逃がしながら上部を押さえる攻防手だ。(1)△7五歩には▲6三とと捨てる手があって、この変化は先手の勝ち。(2)△5七銀の王手飛車取りも▲7八玉△5八銀成▲8八玉で先手玉が詰まず、後手は逆に詰めろなのでやはり先手の勝ち。(3)△7九角の王手も▲6九玉と引くのがぴったりで、△5七桂成に▲8八飛が詰めろ逃れの詰めろでやはり先手が勝つようだ。 *そこで千田四段と吉田五段は▲8六金に△5七歩と飛車の頭を押さえる手を調べている。飛車をどかして▲6三との筋を消す狙いだ。 *18時15分頃の局面。△8八角までの消費時間は▲森内3時間38分、△羽生3時間32分。森内の残り時間は22分、羽生は28分。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>低いリスクで攻めようという角打ちです。金にプレッシャーをかけながら香取りになっていて、場合によっては△5七歩▲同飛△7九角打として、△5七角成とできれば8四の地点に馬が利いてきます。 *しかし△8八角には▲5九玉が味の良い手に見えます。△7九角成▲7五歩△8三銀に▲6三とと寄って。▲5九玉で先手が少し良い気がします。 87 8六金(77) ( 0:00/00:00:00) *森内の着手は▲8六金だった。金を逃がしながら上部に利かせた意味は▲7六金と同じ。次に▲7五歩と打つ手が詰めろで、▲8六金は2手スキである。 *ただし、7六ではなく8六に上がったことで、先ほど検討していた変化に違いが生じているようだ。▲7六金のときは△5七銀▲7八玉△5八銀成▲8八玉と角を取りながら逃げていけば先手玉に詰みがなかったのだが、本譜は8六に上がったことで△5七銀▲7八玉△5八銀「不」成▲8八玉と進めた局面は詰めろが解除されていないとのこと。△6八飛から先手玉は詰んでしまうようだ。 *そこで継ぎ盤では△5七銀▲7八玉△5八銀不成に▲同銀と取る変化を調べている。有力な手段が多く変化は多岐に渡るが、▲同銀に△7七歩▲6八玉△8二歩と一度詰めろを受ける手が冷静で、これで後手が勝っているのでは、というのが吉田五段と千田四段の検討である。 *モニターから「残り5分」の声。羽生の残り時間が刻一刻と減っていく。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>何かありそうなんですが、色々な手がありすぎて何が正解かわかりません。ひとつおもしろい変化は、△5七銀▲7八玉△5八銀不成▲8八玉△5五角には▲6六角の合駒があります。△6七銀成には▲8四飛から後手玉が詰みます。 * *※局後の感想※ *本局で2つ目のポイントとなった局面だ。先手に勝ちがありそうな局面なのだが、実際にどう指すかが難しい。 *感想戦ではまず▲8六金に代えて(1)▲7六金が調べられた。▲7六金に△7五歩は▲6五金△同歩▲5四飛が詰めろ(次に▲8五桂△同銀▲8四竜まで)でこの変化は勝ち。だが▲7六金には△5七歩と飛車先を押さえる手があって、以下▲3八飛△7五歩▲6五金△同歩と進めた局面は▲3一飛成ぐらいしか「たいした手がない」(森内)状況で、この変化はむしろ先手自信がないようだ。 *次に調べられたのは(2)▲5九玉と早逃げする順。相手の攻め駒から遠ざかりつつ角取りになる味のよい受けなのだが、▲5九玉△9九角成▲4八玉△7七桂成の局面はやはり難解。変化中の△9九角成と△7七桂成が上部を開拓する手になっていて、後手玉は上部に逃走ルートができている。先手玉も右辺に逃げ出せる形のため、お互いに玉を寄せにくい、息の長い将棋になる。 *本譜は▲8六金に△5七銀がぴったりで、はっきりとした局面となった。だが感想戦でもわからなかったように代わる手も難しく、はっきりとした結論を出すことが難しい局面のようだ。 88 5七銀打 ( 0:00/00:00:00) *羽生の右手が銀を摘まんだ。険しい表情で△5七銀と打ち込む。 *今度は森内が指し手に悩む番だ。モニターからは「残り7分」の声。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>▲5七同飛は△7九角打▲7八玉に△7七歩が良い手で、▲6九玉△5七角成で8四の地点に利いてきます。 * *【きわどい変化】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-07a4.html 89 7八玉(68) ( 0:00/00:00:00) 90 5八銀(57) ( 0:00/00:00:00) 91 同 銀(47) ( 0:00/00:00:00) *【控室は「後手勝ち」】 *http://kifulog.shogi.or.jp/kisei/2014/06/post-ce31.html 92 7七歩打 ( 0:00/00:00:00) 93 6八玉(78) ( 0:00/00:00:00) 94 8二歩打 ( 0:00/00:00:00) *検討順に進む。 *ここで▲9一飛成と香を取れば次の▲9三竜を見て攻めが続くようだが、△5七角▲同銀△7九角成▲5九玉△6九飛▲4八玉△5七馬▲3七玉△4九飛成が詰めろ逃れの詰めろ。5七に成った馬が遠く9三歩を守っている。継ぎ盤は△4九飛成の局面で止まっている。 95 5九玉(68) ( 0:00/00:00:00) *▲9一飛成は△5七角から先手が負け。森内は▲5九玉と早逃げした。 *「早逃げされたらどちらにするか迷いますね」(吉田五段) *後手には△5七角と△7九角成、2つの手段があるようだ。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>早逃げして、△7八歩成か△7九角成か決めてもらおうということですか。 96 7九角成(88) ( 0:00/00:00:00) *羽生は△7九角成を選んだ。 97 4八玉(59) ( 0:00/00:00:00) *モニターから残り2分の声。森内は間もなく1分将棋。 98 4六馬(79) ( 0:00/00:00:00) *控室の検討陣は「後手勝ち」の見解。 *羽生の残り時間は4分。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>これははっきり後手が良くなったと思います。先手玉に△5七角からの詰めろがかかっています。 99 3七銀打 ( 0:00/00:00:00) *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>▲3七銀と打つようでは勝ち味がなくなってしまうのでつらいです。 100 5七桂成(65) ( 0:00/00:00:00) *決めにいった。△5七桂成▲同銀△4七飛▲3八玉△4九飛成▲同玉△5七馬で、先手の持ち駒は飛桂。後手玉に詰みはないようだ。 101 同 銀(58) ( 0:00/00:00:00) 102 4七飛打 ( 0:00/00:00:00) *控室の検討陣、関係者はモニターの進行を見守っている。終局に備えて報道陣が準備を始めた。 103 3八玉(48) ( 0:00/00:00:00) 104 4九飛成(47) ( 0:00/00:00:00) *金を取り、飛車を裏返す。羽生の手が微かに震えている。 105 同 玉(38) ( 0:00/00:00:00) *森内は静かに▲4九同玉。 106 5七馬(46) ( 0:00/00:00:00) *銀を駒台に置き、馬をナナメに滑らせる。指先は、今度は震えていなかった。 *△5七馬を見て、森内が頭を下げた。終局時刻は19時18分。消費時間は▲森内3時間59分、△羽生3時間57分。第1局は後手番の羽生が先勝。難解な中・終盤を制し、棋聖7連覇に向けて幸先のよいスタートを切った。第2局は2014年6月21日(土)、愛知県豊田市「ホテルフォレスタ」で行われる。 * *■ニコニコ生放送■ *佐藤天彦七段>投了以下、先手玉は△3九金からの詰めろで、▲4八歩と受けるぐらいですが△4七銀▲同歩に、△3九金▲5九玉△6八角▲6九玉△7九角成▲5九玉△6八馬引で詰みます。 *一局を通して、本当に色々なことがあったなという将棋でした。横歩取り模様から相掛かり風味に進んで、どちらの方が良いかというのが結構入れ替わりましたし、飛車の追い方、飛車の逃し方も珍しい展開だったと思います。 *特に羽生棋聖の飛車の逃し方がうまかったですね。かといってそれで先手が悪かったということもなく、最後の▲8六金が少しどうだったかという気がします。大変な終盤戦でとてもおもしろかったです。 * *※局後の感想※ *横歩取りの最新形から力戦模様に進んだ本局。序盤から前例のない戦いとなり、一手一手が難しい、構想力の問われる将棋となった。 *感想戦で森内が「▲8六金からはまずい」と語っていたように、終盤戦に指された87手目▲8六金が本局の勝敗を分ける一手となった。だが、▲8六金以外に勝ち筋があるかといえば容易ではなく、感想戦で調べた限りでは見つからなかった。もし▲8六金の局面で先手に手段がないならすでに先手が悪いことになり、敗着はさらに前の局面までさかのぼらなければならない。 *もう1つのポイントになりそうなのは78手目△6五桂の局面だが、本譜の▲5四歩がいいのか、▲6四銀がいいのか、それとも他に手段が残されているのかは感想戦ではっきりしなかった。とすると、本局の敗因はさらに前の局面にあることになる。 *結局、感想戦で調べられた限りでは明確な敗着は見つからなかった。ただ、今後の精査で有力な一手が発見されれば、はっきりとした結論が得られる可能性はある。 107 投了 ( 0:00/00:00:00) まで106手で後手の勝ち