# --- Kifu for Windows (Pro) V6.65.60 棋譜ファイル --- 対局ID:13253 記録ID:61c9652aa0dc5700033b6467 開始日時:2022/02/06 09:00 終了日時:2022/02/06 19:16 棋戦:第47期棋王戦五番勝負第1局 戦型:矢倉 持ち時間:4時間 消費時間:140▲239△239 場所:静岡県焼津市「焼津グランドホテル」 備考:昼休前46手目33分\n 振り駒:1,0,渡 先手消費時間加算:0 後手消費時間加算:0 昼食休憩:12:00〜13:00 昼休前消費時間:46手33分 手合割:平手   先手:永瀬拓矢王座 後手:渡辺明棋王 後手省略名:渡辺明 手数----指手---------消費時間-- *第47期棋王戦五番勝負が開幕を迎える。9連覇中の渡辺明棋王に永瀬拓矢王座が挑戦する、タイトル保持者同士の決戦になった。永瀬にとっては4期ぶりのリベンジマッチだ。渡辺は10連覇を、永瀬は初の棋王獲得と二冠復帰を目指す。第1局は2月6日(日)、静岡県焼津市「焼津グランドホテル」で行われる。 *立会人は青野照市九段、記録係は折田翔吾四段。現地大盤解説会の解説は森内俊之九段、聞き手は中村桃子女流二段が担当する。対局開始は9時、持ち時間は各4時間。昼食休憩は12時から13時まで。 *6日、焼津はよく晴れた朝を迎えた。空気は冷たく、風は強い。8時40分、スーツ姿の永瀬が入室。8時49分、和服の渡辺が入室した。2人が駒を並べ終えると、青野九段が「第1局ですので振り駒を行います」と告げ、折田四段が振り駒を行う。と金が4枚出て永瀬の先手に決まった。 * *※局後の感想※ *23〜24手目、38手目、52手目、62手目、68手目、76手目、88手目、92手目、104手目、106手目、112手目、116手目、最終手に記載。 * *(棋譜・コメント入力=文) *[棋譜表示の*はコメント付きの指し手。#は局後の感想が追記された指し手] 1 2六歩(27) ( 0:00/00:00:00) *9時、青野九段が「定刻になりましたので、永瀬挑戦者の先手番で始めてください」と告げる。両対局者が一礼し、永瀬が盤上に手を伸ばした。カメラのシャッター音が響く。 * *【対局開始】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kiou/2022/02/post-75cb.html 2 8四歩(83) ( 0:00/00:00:00) *渡辺は間を置いてから、ゆっくりとした手つきで歩を手に取る。再び連続したシャッター音。対局室から関係者が退室した。 3 7六歩(77) ( 0:00/00:00:00) *◆永瀬 拓矢(ながせ たくや)王座◆ *1992年9月5日生まれ、神奈川県横浜市出身。安恵照剛八段門下。2009年、四段。2020年、九段。棋士番号は276。 *タイトル戦登場は9回。獲得は王座3期、叡王1期の計4期。棋戦優勝は2回。 4 3二金(41) ( 0:00/00:00:00) *◆渡辺 明(わたなべ あきら)棋王(名人・王将)◆ *1984年4月23日生まれ、東京都葛飾区出身。所司和晴七段門下。2000年、四段。2005年、九段。棋士番号は235。 *タイトル戦登場は41回。獲得は竜王11期(永世竜王)、名人2期、王座1期、棋王9期(永世棋王)、王将5期、棋聖1期の計29期。棋戦優勝は11回。 5 7八金(69) ( 0:00/00:00:00) *棋王戦は共同通信社が主催する棋戦。今期五番勝負の特別協力はコナミグループ、協力はカロリーメイト。予選を勝ち抜いた棋士とシード棋士で挑戦者決定トーナメントを行う。挑戦者決定トーナメントはベスト4以上2敗失格のシステムが特徴だ。挑戦者決定戦は変則二番勝負で、挑戦権獲得にトーナメントの勝者組優勝者は1勝、敗者復活戦優勝者は2勝が必要になる。 * *【株式会社共同通信社 | 株式会社共同通信社の情報ポータルサイト】 *https://www.kyodo.co.jp/ * *【コナミホールディングス株式会社 | KONAMI】 *https://www.konami.com/ja/ * *【カロリーメイト公式サイト | 大塚製薬】 *https://www.otsuka.co.jp/cmt/ 6 8五歩(84) ( 0:00/00:00:00) *本局の観戦記は内田晶さんが担当する。今日の静岡新聞朝刊に掲載されている観戦記は、挑戦者決定トーナメントの藤井聡太三冠(現竜王)−斎藤慎太郎八段戦。藤井聡竜王の多忙なスケジュールが指し手に影響を及ぼしたという分析がされている。本間博七段が執筆した。 * *【棋王戦観戦記掲載紙一覧】 *河北新報・下野新聞・千葉日報・新潟日報・信濃毎日新聞・山梨日日新聞・静岡新聞・北日本新聞・北國新聞・京都新聞・日本海新聞・山陰中央新報山陽新聞・中国新聞・愛媛新聞・高知新聞・佐賀新聞・長崎新聞・熊本日日新聞・南日本新聞・沖縄タイムス 7 7七角(88) ( 0:00/00:00:00) *五番勝負第1局は静岡新聞社・静岡放送が主催する。共催は焼津市、後援は焼津市教育委員会、焼津商工会議所、協賛は渥美雅之・日本将棋連盟静岡県支部連合会名誉会長、協力は焼津グランドホテル、日本将棋連盟静岡県支部連合会。2021年に静岡新聞は創刊80周年、焼津市は市制施行70周年、2022年に静岡放送は開局70周年をそれぞれ迎える。節目の記念に棋王戦が開催される運びになった。 * *【@S[アットエス] | 静岡新聞SBSオフィシャルサイト】 *https://www.at-s.com/ 8 3四歩(33) ( 0:00/00:00:00) *焼津市は静岡県の中部に位置する。「焼津」の名は古事記や日本書紀に登場し、日本武尊(やまとたけるのみこと)が東征の折に天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)で野の草を刈り、火をつけて賊を撃退したことに由来する。焼津漁港は全国有数の水揚げを誇り、海産物や水産加工品が特産品になっている。立会人の青野九段の出身地でもある。 * *【焼津市ホームページ】 *https://www.city.yaizu.lg.jp/ 9 8八銀(79) ( 0:00/00:00:00) *焼津対局が行われる焼津グランドホテルは景勝地の大崩海岸に位置し、駿河湾や伊豆半島が一望できる。焼津温泉を源泉とする大浴場からも富士山が見える眺望のよさが魅力だ。棋王戦の開催は3回目。久保利明棋王(当時)に郷田真隆九段が挑戦した第37期五番勝負では第3局が、渡辺に千田翔太五段(現七段)が挑戦した第42期五番勝負では第1局がそれぞれ行われた。 * *【焼津グランドホテル オールインクルーシブ|中島屋ホテルズ】 *https://www.sn-hotels.com/ygh/ 10 4四歩(43) ( 1:00/00:01:00) *9時6分、渡辺が着手。永瀬が角換わりを目指したが、渡辺が角道を止めて拒否した流れになった。 11 2五歩(26) ( 0:00/00:00:00) *現地では14時から大盤解説会が開かれる。解説は森内俊之九段、聞き手は中村桃子女流二段。応募は締め切られている。森内九段は第31期の棋王。中村桃女流二段の師匠である高橋道雄九段は第12期の棋王だ。日本将棋連盟の会長として現地を訪れている佐藤康光九段は第32期、第33期の棋王である。 * *【第47期棋王戦五番勝負第1局[焼津市]|アットエス】 *https://www.at-s.com/event/article/sbs/1003451.html 12 3三角(22) ( 0:00/00:01:00) *両者の対戦成績は渡辺16勝、永瀬5勝と渡辺が押している。タイトル戦で対峙するのは3回目。棋王戦と王将戦でタイトルを争ったほか、竜王戦と棋聖戦で挑戦権を争うなど、大きな舞台での勝負が多い。 13 4八銀(39) ( 0:00/00:00:00) *今日は奨励会が例会日のため、記録係は折田四段が務める。前回の焼津対局では佐々木大地四段(現五段)が記録係だった。 14 4二銀(31) ( 0:00/00:01:00) *4年前の第43期棋王戦五番勝負は、フルセットの激闘の末に渡辺が永瀬の挑戦を退けた。2017年度の渡辺はプロ入り後で初めて年度勝率が5割を切り、順位戦ではA級から陥落するなど、不調にあえぐ中での防衛だった。その後はA級復帰、王将復位、棋聖獲得と完全復活。棋王戦はこうした流れのちょうど転換点に位置していた。 15 5六歩(57) ( 0:00/00:00:00) *本局の模様はABEMAで中継される。解説は中村太地七段と高野智史六段、聞き手は貞升南女流二段と和田あき女流初段が担当する。有料チャンネルでは両対局者の個別カメラ映像、現地の棋士と女流棋士によるスペシャル企画を視聴できる。有料チャンネルには屋敷伸之九段、村山慈明七段、加藤桃子清麗が出演する。なお第2局では屋敷九段が立会人、村山七段が解説者を務める。 * *【ABEMA】 *https://abema.tv/channels/shogi/slots/ARZhiNi4TWyfom 16 4三銀(42) ( 0:00/00:01:00) *今期の五番勝負で渡辺が防衛すれば10連覇を達成する。棋王戦の最多連覇記録は羽生善治九段の持つ12連覇。その偉大な記録に近づくことになる。永瀬にとっては、渡辺と藤井聡竜王が複数冠を保持する中で自身の勢力図を広げるチャンスといえる。 17 6九玉(59) ( 0:00/00:00:00) *永瀬の今年度成績は31勝18敗(0.633)。 *対局数はランキング2位、勝数は5位。 *通算成績は425勝175敗(0.708)。 *今年度は棋聖戦で渡辺に、竜王戦で藤井聡三冠(当時)に敗れて挑戦を逃した。今回の棋王挑戦はようやく実現したタイトル挑戦である。 18 6二銀(71) ( 0:00/00:01:00) *渡辺の今年度成績は18勝16敗(0.529)。 *通算成績は701勝362敗(0.659)。 *王将戦では挑戦者の藤井聡竜王に3連敗してカド番に立たされている。棋王戦と王将戦でダブルタイトル戦が多い渡辺は冬に強いイメージだが、2022年に入ってからは白星がない。本局で勝って流れを変えたい。 19 6八角(77) ( 0:00/00:00:00) *永瀬の棋王戦成績は44勝16敗(0.733)。初出場は第36期。第39期、敗者復活戦を経て挑戦者決定二番勝負に進んだが、敗退してタイトル初挑戦はならず。第43期に再び挑戦者決定二番勝負に進み、挑戦を果たす。五番勝負では渡辺と戦い、初タイトル獲得にあと1勝まで迫ったものの、第5局で敗れている。今期は挑戦者決定トーナメントで稲葉陽八段、木村一基九段、豊島将之九段、佐藤康光九段に勝利。挑戦者決定二番勝負第1局で郷田真隆九段に勝ち、負けなしで4期ぶりの挑戦を決めた。 20 5二金(61) ( 1:00/00:02:00) *渡辺の棋王戦成績は51勝24敗(0.680)。初出場は第27期。第36期に敗者復活戦を経て挑戦権を獲得、棋王初挑戦を決めたが久保利明棋王(当時)に敗れて奪取はならず。第38期、2度目の挑戦で郷田真隆棋王(当時)に勝ち、初の棋王獲得を果たした。第42期には5連覇を成し遂げ、史上2人目となる永世棋王の資格を得る。前期は9連覇を達成。今期は10連覇がかかるシリーズになる。 21 5八金(49) ( 0:00/00:00:00) *両対局者は対局前日の5日に現地入りし、検分と開幕式に臨んだ。盤と駒は日本将棋連盟から運ばれたもので、児玉龍兒師作、錦旗書の盛上駒が使われる。開幕式では渡辺が「次の春で38歳になる。若い世代にどう対抗していくかは大きなテーマになる。若い人から学びながら戦っていくシリーズにしたい」と語った決意が印象的だった。 * *【検分】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kiou/2022/02/post-42ac.html * *【開幕式2】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kiou/2022/02/post-5c03.html 22 7四歩(73) ( 0:00/00:02:00) *何の変哲もない立ち上がりに見えるが、データベース上の実戦例は1局のみ。2017年の日本シリーズ、▲糸谷哲郎八段−△豊島将之八段戦(肩書は当時)で指されている。類似の実戦を見ると、先手が早めに▲5八金と上がっているのがやや珍しく、先に▲3六歩と攻めの手を指すケースが多い。 23 4六角(68) (10:00/00:10:00) *好位置に角を出て牽制する。いわゆるツノ銀雁木は△6四歩〜△6三銀〜△7三桂の形だが、△6四歩と突かせないことで簡単には組ませないようにしている。先述の前例では▲6六歩〜▲6七金右から囲いの整備を優先し、菊水矢倉に組んでいた。早めの角出は永瀬の工夫といえる。控室の森内九段は「この瞬間は珍しい。永瀬さんは自分がたくさん研究している形に持ち込もうとしている」と話す。後手は角筋を止める手として△7三桂か△7三銀かで作戦の性格が変わってくるため悩ましい。森内九段は「△7三銀は少し妥協した手」という。ツノ銀雁木に組めなくなるためだ。好形を見据えるなら△7三桂だが、▲7五歩△同歩▲2四歩△同歩▲同角△同角▲同飛△2三歩▲2八飛と仕掛ける筋が生じるため、リスクも抱えることになる。 *9時35分、渡辺が10分ほど手を止めている。大きな分岐点なので慎重になるのも無理はない。 * *※局後の感想※ *渡辺は「桂跳べないとおかしいんですけど」と△7三桂を示したが、▲7五歩△同歩▲2四歩△同歩▲同角△同角▲同飛と動かれるのを嫌った。振り返って先の△7四歩を「軽率でしたね」と反省する。序盤の何気ない駒組みの手順に一石を投じた意味で、永瀬の披露した新手は確かな価値があった。 24 6四歩(63) (23:00/00:25:00) *桂でも銀でもない。渡辺、素直には応じなかった。タダのところに歩を突き出すとは序盤から穏やかではない。「えっ、そんな手があるんですか」と森内九段が驚く。続けて「研究は外しましたね」。永瀬の想定にこの手があるとは思いにくい。 * *※局後の感想※ *永瀬は「銀はあるかなと思った」と△7三銀を予想していた一方で、本譜の△6四歩は「候補手ではなかった」。想定を外す効果は発揮していたことになる。 25 同 角(46) ( 5:00/00:15:00) *永瀬は2月4日に東京でA級順位戦を戦った。翌日が移動日という多忙な日程である。佐藤康九段も大阪でA級順位戦を指し、翌日に焼津に移動している。開幕式で佐藤康九段は主催者あいさつとして「体調を万全に整えて勝負に臨み、地域活性化に貢献してほしい」と述べていた。将棋は体力。一日の長時間を戦い抜くだけでなく、長期的な体調管理も棋士の大事な仕事だ。 26 7三銀(62) ( 0:00/00:25:00) *1歩を犠牲に銀の活用を急いだ。単に△7三銀だと▲7七銀で桂が使いにくくなる不満が残ったが、本譜は▲4六角に△8六歩から飛車先を交換できて主張が残る。「大駒は近づけて受けよ」というが、序盤で出てくるのは珍しい。 *控室には和服からスーツに着替えた佐藤康九段が戻ってきた。森内九段に「すごい手が出ましたよ」と話しかけられ、継ぎ盤で駒を動かす。しばらく△7四歩(22手目)の局面を見つめた佐藤康九段は「私なら▲7七桂と跳ねます。とがめるなら」。森内九段が「天才ですね」というと「変態?」と聞き返して「いや天才です」と森内九段が苦笑い。手を進めて△6四歩(24手目)に佐藤光九段が「えっ!」と驚きの声を上げる。「基本的に正統派の人間としては、歩損するのはおすすめしないですね」と話すと、森内九段が「珍しく気が合いますね」と笑った。佐藤康九段と森内九段は第32期五番勝負で棋王位を争っている。結果は森内棋王から佐藤康棋聖が奪取(肩書は当時)。第1局から第5局まですべて先手番が勝った。これは渡辺と永瀬が戦った第43期五番勝負と共通している。 * *【午前の控室】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kiou/2022/02/post-785b.html 27 4六角(64) (13:00/00:28:00) *10時のおやつは渡辺が特製アップルパイとホットコーヒー、永瀬がホットコーヒー。飲み物は対局室に運ばれた。アップルパイは焼津グランドホテルの名物とのこと。 * *【10時のおやつ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kiou/2022/02/10-b3b0.html 28 8六歩(85) ( 1:00/00:26:00) *角に当てて手番を握った効果で、飛車先交換が実現した。永瀬は早くも上着を脱いでいる。 *10時10分、控室には加藤桃清麗が訪れている。永瀬とは安恵照剛八段門下の同門で、焼津市に近い牧之原市出身。『将棋世界』4月号に掲載される観戦記を担当する。佐藤康九段と森内九段の検討を取材している。 29 同 歩(87) ( 4:00/00:32:00) *焼津市に近い静岡市では、3月3日にA級順位戦最終9回戦の一斉対局が行われる。先日の8回戦を終えて名人挑戦者は斎藤慎八段に決まり、こちらでも渡辺とのリベンジマッチが実現している。永瀬は残留が決まった。9回戦では来期の順位のために戦う。 30 同 飛(82) ( 0:00/00:26:00) 31 8七歩打 ( 1:00/00:33:00) *「あれっ、桂を跳ねなかったんですか」と佐藤康九段。検討では▲7七桂と跳ねて次に▲8五歩で飛車の捕獲を狙い、飛車を引けば▲6五桂を含みにする、といった順を予想していた。「これは穏やかですね」。先手としてはすでに1歩得という主張があるので、自然に収めても不満はない。 32 8二飛(86) ( 3:00/00:29:00) 33 3六歩(37) ( 0:00/00:33:00) 34 4二玉(51) ( 0:00/00:29:00) *緊迫した応酬が一段落して再び駒組みに入った。先手は歩得、後手は飛車先の歩を手持ちにしていることと手得がそれぞれ主張になる。継ぎ盤では▲3七桂△3一玉▲7七銀を調べて「後手の駒組みが難しいですね」と佐藤康九段。「そうか、▲3七桂と跳ねて△4五歩を突かせないのがいいんですね」とうなずく。先手の角が安定すると、後手はなかなか攻めの銀が前に進めない。 35 5七銀(48) ( 7:00/00:40:00) *右銀を中央に活用した。佐藤康九段は「桂がいい手に見えましたけど。これは受けきって勝つ方針ですか」と、▲6六歩〜▲6七金右〜▲7九玉〜▲7七桂を示す。先手は菊水矢倉が攻守にバランスのいい構えだ。桂を攻めに使いやすい利点は大きい。 36 3一玉(42) ( 2:00/00:31:00) 37 6六歩(67) ( 2:00/00:42:00) *先手は菊水矢倉を目標にして指す手に困らない。後手は陣形の進展性に乏しい。永瀬は自然に進めればいいが、渡辺には工夫が求められている。佐藤康九段は「持久戦になると手得が薄まってしまうので動かないといけないんですけど」。検討で△5四歩▲7九玉△4二角▲6七金右△6四角▲7七銀△2二玉▲8八玉と進めてみるも、「つらいですね」と渋い顔。後手は先手陣の不備を突いて動ければいいのだが、隙がない。「さすがに抜かりがないです」と佐藤康九段。現状は永瀬が渡辺の変化球に的確な対応を見せている。 38 4二角(33) (12:00/00:43:00) *働きの乏しい角を引いて使う。急務は先手の角に対抗することで、△5四歩〜△6四角となれば力関係は五分になる。 * *※局後の感想※ *永瀬の研究を外すことに成功した渡辺だが、現実の1歩損が響いていた。「1歩損なんで、先手はいろいろありますよね」。駒組みを進める▲7七銀でも後手は自信なし。渡辺は「基本ちょっと無理気味の動きをしてくことになるので」と話していた。 39 7五歩(76) (16:00/00:58:00) *11時、永瀬は音もなくスッと歩を突き出した。じっくり陣形を整える流れに見えただけに意外性がある。部分的には角の利きを生かした手だが、△6三金と応援を送って受かるため成否はなんともいえない。 40 6三金(52) ( 2:00/00:45:00) 41 7四歩(75) ( 0:00/00:58:00) *森内九段は開幕式で永瀬について「ここ数年で負けない将棋にスピード感が加わった。新しい永瀬将棋が見られると思う」と話していた。積極的な方針を打ち出した本局からはそうした一面がうかがえる。しかし流れとしては「ちぐはぐな気がします」と森内九段は懐疑的だ。「駒組みをすれば作戦勝ちに見えましたけど……。後手のほうが囲いがコンパクトにまとまっているので、戦いを起こすのは得策ではないように思えます。攻めるつもりなら▲5七銀(35手目)では▲3七桂といった手のほうがよさそうです」と首をひねっている。 42 同 金(63) ( 0:00/00:45:00) *角のにらみがあるとはいえ、四段目の金は異形である。永瀬が動いたのはこの悪形を狙ってのものと思われる。だが、見方を変えれば攻めに厚みが加わる側面もある。一長一短というわけで、永瀬としては長所が出ないように事を運んでいく手腕が求められる。 43 7七銀(88) ( 0:00/00:58:00) 44 5四歩(53) ( 3:00/00:48:00) *角が使える形になって戦闘態勢が整った。金が攻めに加わっていることで▲6五歩に対策があり、次は△6四角だけでなく△6四銀も十分に視野に入る。 * *【焼津グランドホテル1】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kiou/2022/02/post-611b.html * *【焼津グランドホテル2】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kiou/2022/02/post-801b.html 45 7六銀(77) (18:00/01:16:00) *守りの銀が前に出ていく。恐ろしいまでの積極性だ。次は▲7五歩と押さえて飛車のコビンを狙う。「敵の打ちたいところに打て」の△7五歩には▲6五銀とさらに前進する。角を軸にした超攻撃的な組み立てである。しかし、自玉が薄くなるだけに反動が怖い。例えば△8六歩▲同歩△同飛▲8七金△8三飛▲8六歩△8五歩となると、上ずった金が攻めに参加してくる。手順中△8三飛が工夫した引き場所で、角のにらみを避けて攻めに専念しやすい形にしている。2人がかりで先手陣を薄くしている手順であり、これをまとめきるのは相当な苦労が伴う。森内九段は「8筋から6筋まで全部歩が利くので大変です。毒まんじゅうを食べてお腹を壊しましたかね」とつぶやく。渡辺の△6四歩(24手目)にペースを乱されたというわけだ。確かに、後手が攻める展開では6筋の歩が切れていることが好都合になる。 *12時、渡辺が33分使って昼食休憩に入った。消費時間は▲永瀬1時間16分、△渡辺1時間21分。昼食は両者とも「旬彩御膳」。駿河湾産キンメダイの炊き込みご飯など、魚介類が豊富に使われている。旬の食材、地元の食材を使い、豊かな彩りをコンセプトに棋王戦用に作られたメニューとのこと。対局は13時に再開される。 * *【昼食休憩】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kiou/2022/02/post-bc24.html 46 8六歩打 (33:00/01:21:00) *13時、対局再開。銀が動いて手薄になった飛車先を突っかけた。 * *【対局再開】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kiou/2022/02/post-2985.html 47 同 歩(87) ( 0:00/01:16:00) 48 同 飛(82) ( 0:00/01:21:00) 49 8七金(78) ( 0:00/01:16:00) 50 8三飛(86) ( 0:00/01:21:00) *三段目に引く。横利きが使えず中途半端な場所に見えるが、角のにらみを避けて臨機応変の好位置だ。先手は駒が前に出ていて当たりが強くなっているため、次に△8六歩や△7五歩が残っていてまとめにくい。急所を手当てする▲8六歩にも△8五歩でどんどん駒が前に出てくる。こうなると悪形だったはずの四段目の金が分厚い攻め駒になっている。 51 8六歩打 (17:00/01:33:00) *13時19分の着手。永瀬は両手を膝の上に置いて盤面を見つめている。 52 8八歩打 ( 2:00/01:23:00) *金の裏に歩を打った。これは▲8八同金△8六飛▲8七金△8三飛▲8六歩△8八歩……。千日手筋がある。もちろん渡辺は後手番なので、指し直しで先手番になるなら作戦成功といえる。ガンガン攻める△8五歩や△7五歩と比べると小さなつづらを選んだ印象だ。森内九段は「打開する人が多いと思いますけど」と話す。 * *※局後の感想※ *「千日手を打開させて、という」(渡辺) 53 同 金(87) ( 5:00/01:38:00) 54 8六飛(83) ( 0:00/01:23:00) 55 6七金(58) ( 0:00/01:38:00) *驚愕。なんと永瀬が打開した。銀にヒモをつけながら飛車の横利きを通して受けている。モニターを見ていた森内九段から悲鳴のような歓声のような声が漏れた。 56 8三飛(86) ( 1:00/01:24:00) *慌てず騒がず引いておく。渡辺は指して長机の棋譜用紙をのぞき込む。お茶を飲み、ポットから湯呑みに注ぐ。落ち着いている。先手は相変わらず空中分解してもおかしくない形だが、永瀬はどう切り抜けるのか。森内九段は永瀬の打開について「指しているうちに後手から打開してくるのを気にした可能性はあります。それに第1局から千日手では勢いがないですから、▲6七金のほうが手としては前向きですよね」と話す。肝心の形勢はどうか。「先手がしんどいと思います。どこかで△6八歩があるんですよね」。先手は飛車の横利きを止められないため、▲同飛の一手に△8六角が飛んでくる。大駒のスイッチ。後手は飛車を引いたことで角を出る手が生じているわけだ。現状は8筋が素通しだと、次に△7五歩▲6五銀△同金▲同歩△2七銀といった筋が生じる。何かしら左辺を手入れしたいが、▲7五歩は△同金で数が足りていないし、▲8七歩も△7五歩で収まらない。受けの力が求められている。 57 7五歩打 (24:00/02:02:00) *数が足りていない7筋を押さえた。角のにらみを生かして△7五同金▲同銀△同角▲7四歩でどうか。呼び込んで切り返しを狙う指し方だ。継ぎ盤では以下△6四銀▲7六金打△2七銀▲8四歩が調べられた。後手は△2七銀、先手からは角を取って▲5三角の筋とそれぞれ激しい狙いの切り札がある。互いに突っ張れば、一気に終盤戦になだれ込んでもおかしくない。 58 同 金(74) ( 5:00/01:29:00) *この歩を取らず△6四金では▲8七歩で先手陣がしっかりする。弱気を出してはまずい。 59 同 銀(76) ( 0:00/02:02:00) 60 同 角(42) ( 0:00/01:29:00) *要の駒である角を生かして▲7四歩が有力手だ。以下△6四銀に▲7六金打で不安定になった角と銀を目標にする。後手玉がラインに入っているため、▲7五金△同銀▲5三角が狙い筋になる。三段目の飛車が利いてくるのですぐには実現できないが、どこかで▲8四歩とたたく手が急所になる仕組みだ。 * *【ABEMA-PPV】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kiou/2022/02/abema-ppv.html 61 7四歩打 ( 6:00/02:08:00) *本局、永瀬は▲4六角(23手目)が骨子の手だった。その角を最大限に生かす組み立てである。渡辺はふっと天井を見上げる。扇子を握りしめて前傾姿勢になる。 62 6四銀(73) (15:00/01:44:00) *現地では14時から大盤解説会が始まった。解説が始まる前、控室では森内九段が▲7六金打を示していた。次の狙いは▲8四歩で、△同飛は▲7五金△同銀▲5三角で勝負あり。よって▲7六金打に△4五銀と急所の角に狙いをつけて攻め合うのは一案だ。以下▲8四歩は△4六銀で相当に怖い。縦の攻め合いでは一段玉の先手に不安が残る。こうした展開を見据えるなら、どこかで▲2四歩の突き捨てが入るかどうかも考えたい。 * *【解説会開始】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kiou/2022/02/post-3ed9.html * *※局後の感想※ *「引くのは利かされで銀が活躍しなくなるので、気合は上がるところ」(渡辺) 63 8四歩打 (10:00/02:18:00) *14時33分、永瀬の手が動いた。手の組み合わせを工夫して▲8四歩を先にする。自然な△8四同飛に▲7六金打なら、今度は△4五銀に▲7五金△4六銀▲8四金で先手の攻めが速い。ただ、歩切れになってしまうため一長一短がある。 64 同 飛(83) ( 3:00/01:47:00) 65 7六金打 ( 0:00/02:18:00) *飛車を近づけて当たりを強めてから狙いの金打ち。青野九段は「これはどっちかがいいね」とつぶやく。激しい流れなので、いい勝負では収まらないという意味だ。 66 4五歩(44) ( 1:00/01:48:00) *渡辺、わずか1分で歩を突き出した。読み筋なのか。永瀬は額に手を当てて体を小さく前後に揺らす。一直線に攻め合う▲7五金△4六歩▲8四金△4七歩成の分かれがどうか、じっと▲3七角と引くのは△4五歩との交換がどう働くのか。考える要素が多い中で渡辺は決断よく指した印象を受ける。 67 3七角(46) ( 4:00/02:22:00) 68 2二玉(31) ( 0:00/01:48:00) *角の位置を変えてからじっと入城。意味としては▲7五金△同銀のときに▲5三角が王手にならないようにしている。あらかじめ角の利きをそらしたことで▲2四歩△同歩▲同角を消して用意周到だ。狙いに対応するという意味ではシンプルだが、角が当たりになっている中で手を渡す発想はなかなか浮かばない。先手も持ち駒を使いきったため、攻める手段が限られているという事情はある。例えば▲7五金△同銀▲9一角成は香を取った手がやや甘いため、△6八歩や△7六銀打と攻められて受け身になってしまう。特に△6八歩は攻防の切り札で、▲6八同飛と飛車を2筋からそらせば後手玉が安全になる効果が大きい。 * *※局後の感想※ *渡辺は「ここは感じがよかった」と振り返る。手応えを感じていたようだ。永瀬も「そうですよね」と失敗を認めていた。 69 7三歩成(74) (20:00/02:42:00) *15時4分の着手。手筋の一着で△7三同桂なら▲7五金△同銀▲7三角成とスムーズに駒を取れるが、当然ながら手抜きで猛攻に出てくるだろう。渡辺は席を立っている。午後のおやつが出たので対局者控室にいるのかもしれない。渡辺の注文は「ケークショコラ〜静岡harumi〜」とホットコーヒー、永瀬はホットコーヒー。「ケークショコラ〜静岡harumi〜」は「はるみ」みかんとバルサミコ酢を使い、さっぱりと大人の味に仕上げたチョコレートケーキ。永瀬は同じものを昼食時のデザートに頼んでいたとのこと。 * *【15時のおやつ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kiou/2022/02/15-43b0.html 70 2七銀打 (14:00/02:02:00) *ガツンと飛車の頭に銀を打ち込んだ。銀を取る▲2七同飛は△8八飛成と突破されてそれまで。飛車が縦に動けない弱みを突いている。 71 7八飛(28) ( 4:00/02:46:00) *7筋に数を足して反発を見た逃げ場所だ。ただ、相変わらず▲7五金△同銀に▲同飛と取れないのは悲しい。飛車の利きをそらしたことで後手玉が安全になった点は見逃せない。 72 3六銀成(27) ( 0:00/02:02:00) *残り時間には40分以上の差があり、渡辺は余裕がある。「渡辺さんは自信があるでしょうね」と青野九段。角は取られる形だが、速い継続手がない。 73 6三と(73) ( 5:00/02:51:00) *と金を寄せて▲6四とや▲5三と△同銀▲7五金を狙う。確実な手を見せて攻めを催促した。後手も忙しいので厳しい攻めで迫る必要がある。ひとつは△3七成銀▲同桂で角をどこに使うか。候補に△9四角、△4九角、△3六角、△8七角と効果的になりそうな場所は多い。それぞれ厳しさがやや異なり、特に△8七角は必ず飛車が取れる手で必然的に激しくなる。どこに打つかだけでも比較に時間を要しそうな場面といえる。 74 3七成銀(36) (24:00/02:26:00) *15時54分、渡辺の手が盤上に伸びた。さあ、角はどこに打つのか。 75 同 桂(29) ( 0:00/02:51:00) 76 8七角打 ( 0:00/02:26:00) *金の頭に角をねじ込む。角を取る▲8七同金は△同飛成で崩壊する。絶対に飛車を取るという最も激しい選択だ。飛車を持てば先手陣に打って桂香を取れるため、戦力を増やしながらの寄せが見込める。 * *※局後の感想※ *渡辺が期待していた一手だが、これが思ったほど厳しくなかった点に誤算があった。「▲8五銀と打つ一手だと思っていた」と渡辺。実際は受けずに攻め合う手が利いたので、想定とは大違いだったことになる。代案として出た△4九角は有力で、以下▲5八銀△2七角成は後手十分。また△4九角に▲6八玉も△8六歩で後手が戦える。渡辺は「このほうがよかったですね」と話していた。 77 5三と(63) ( 1:00/02:52:00) *永瀬も読みの範疇だったか、指し手は早かった。代えて▲6四とはすぐに銀を取れるが、▲5三と〜▲4三とのほうが取れる銀の価値が高い。ひとひねり利いた攻めでハッとする順である。飛車を取られるのは痛いが、△7八角成に▲同玉で先手玉も意外にしっかりしている。 78 7八角成(87) (16:00/02:42:00) 79 同 玉(69) ( 0:00/02:52:00) 80 8七歩打 ( 0:00/02:42:00) *急所に一発。持ち駒に飛車があるので▲9八金は△8八飛とゴリゴリ攻められて怖い。 81 同 金(88) ( 0:00/02:52:00) *ひとまず取るよりない。ただし歩を手に入れたので▲8五歩が生じている。例えば△3九飛のときにしっかり8筋をシャットアウトできるのは心強い。 82 3九飛打 ( 6:00/02:48:00) 83 8五歩打 ( 3:00/02:55:00) *歩を渡したためにこの受けが生じた。解説会では森内九段が「手の流れがおかしいですね。逆転したんじゃないですか」。後手は△8七歩と打ったからには、▲同金に△同飛成や△8六歩と攻めたかったという。 84 8六歩打 ( 3:00/02:51:00) *飛車当たりに▲8五歩と打たせてから急所の△8六歩を入れる。戻って▲8七同金(81手目)に△8六歩と打った場合に比べると、金を逃げるだけでなく▲8六同金上と歩を取る変化が生じている。あえて相手の選択肢を増やした面もあるわけで、難解な応酬である。 85 7七金(87) ( 5:00/03:00:00) *歩を取らずにかわした。玉頭の拠点は怖いが、後手の持ち駒が乏しい現状は大丈夫だ。 86 8三飛(84) ( 0:00/02:51:00) 87 4五桂(37) ( 0:00/03:00:00) *桂を逃げながらと金にヒモをつける。駒割りは飛車と金の交換で先手が損しているが、と金で銀が取れる形なので実質的には駒得といえる。安易に清算せず▲6一角で数を足す狙いもあって楽しみは多い。後手は拠点に打ち込む駒がほしいのだが、△1九飛成〜△8七香では迫力不足だ。 88 4四銀(43) ( 6:00/02:57:00) *取られそうな銀を逃げながら桂にアタック。先手も桂を取られるため▲5四とで追撃する余裕はない。桂をさばくなら▲3三歩だが、歩切れになるので△同桂▲同桂成△同銀▲4五桂△4四銀のときに▲3三歩と打てず、わかりやすい攻めにはならない。 * *※局後の感想※ *「やけくそだと思った」と渡辺。永瀬は「いいと思っていた。なんとかしたいと思ったんですけど」。しかし意外に明快な順が出ない。 89 6一角打 ( 7:00/03:07:00) *飛車に当てながら先手玉に迫る駒を増やした。縦に逃げる△8二飛は▲4三とが厳しいので△7三飛とかわすことになる。ただ、それも▲7四歩△同飛▲4三とで追撃が利く。これは後手が苦しくなった。 90 4五銀(44) ( 5:00/03:02:00) *飛車を見切った。決断の一着だ。飛車を取られたときに攻めが続くかの勝負になる。 91 8三角成(61) ( 0:00/03:07:00) 92 9五桂打 ( 0:00/03:02:00) *数を足して△8七歩成を狙う。代えて△8七桂と打てば詰めろになったが、▲8八銀と受けられて継続手が難しかった。ただ、本譜も▲9六銀のときにどう迫るか。桂を渡すと▲4四桂のお返しが厳しいので攻め方に神経を使う。 * *※局後の感想※ *ここで▲9六銀は△8七歩成▲同銀△同桂成▲同金△8六歩▲同金上△同角▲同金で「一局ですよね」と渡辺。「勝ちにくるなら本譜かと思った」と話した。 93 6八金(67) (11:00/03:18:00) *数を足さずに△8七歩成を甘受した。ドキッとする受けだが、▲6七玉と金銀の中に逃げ込んだ形は耐久力がある。 94 8七歩成(86) ( 0:00/03:02:00) 95 6七玉(78) ( 0:00/03:18:00) 96 8九飛成(39) ( 0:00/03:02:00) 97 4三銀打 ( 2:00/03:20:00) *金銀に囲まれた先手玉は詰みにくい。いよいよ攻め合いに乗り出した。後手玉は▲3二銀成以下の詰めろ。 98 7七と(87) ( 1:00/03:03:00) 99 同 金(76) ( 0:00/03:20:00) *渡辺は頭に手をやって天井を見上げる。 100 5三銀(64) ( 1:00/03:04:00) *角当たりが消えたので銀を支えていると金を外す。先手失敗のようだが、▲3二銀成△同玉▲7二飛で王手角取りがかかる。 101 3二銀成(43) ( 0:00/03:20:00) 102 同 玉(22) ( 0:00/03:04:00) 103 7二飛打 ( 0:00/03:20:00) *攻めながら自玉の上部を開拓して受けにも働いている。王手を受ける△4二歩に▲7五飛成と角を取った手がさらに4筋の銀に当たっている。その銀取りをさらに受けるとなると、後手に反撃の手番が回ってこない。終盤で受け一方になる展開は苦しい。 104 4二金打 (18:00/03:22:00) *17時32分、渡辺が着手。歩ではなく金を投入して囲いを修復した。攻撃力は落ちるが、自玉を寄せられては元も子もない。 * *※局後の感想※ *渡辺は代えて△4二歩だと、▲7五飛成△3六銀▲3三歩△同桂▲7一竜のときに△4一歩が利かないため危険と判断した。 105 7五飛成(72) ( 0:00/03:20:00) 106 7六歩打 ( 0:00/03:22:00) *焦点のたたき。嫌みな手で、▲7六同竜は銀当たりが外れ、▲7六同金は先手玉が薄くなるうえに上部が詰まる。青野九段は「なるほど、角を消してから△5五歩か」とつぶやく。単に△5五歩は▲9八角が王手竜取りで失敗した。ここから▲7六同金とさせて△5五歩なら▲9八角が王手にならない。 * *※局後の感想※ *永瀬は▲7六同金だと△5五歩を気にした。渡辺の予定は△3六銀で、以下▲7一竜△4一歩は先の長い勝負になる。ただ駒割りは角と桂桂の2枚換えで、先手は「駒が少なかったのが誤算だった」と永瀬。感想戦の終わり際には「悪いんですか……」と嘆息していた。 107 同 玉(67) ( 5:00/03:25:00) *強く玉で応じた。上部脱出は含みのひとつだが、あまりに早いと当たりが強く危なくなる恐れもある。 108 6四桂打 ( 3:00/03:25:00) *さっそく顔を出した玉に狙いをつける。ここで▲6七玉と引けば△7六歩と打つ調子がいい。 109 6五玉(76) ( 1:00/03:26:00) *生きた心地はしないが、意志を継承するなら上がるしかない。しかし竜の横利きが止まって手順に銀取りが受かってしまった。渡辺に攻めの好機が訪れている。金がほしいので△8七桂成、入玉を阻止する△7三歩など有力そうな手はいくつか見える。 *17時47分、渡辺は扇子であおぎながら盤面に集中している。「残り30分です」と折田四段から声がかかった。永瀬はうつむいて額を押さえる。 110 8七桂成(95) ( 7:00/03:32:00) *玉を危険地帯に引っ張り出してから着実に攻める。金は逃げるのが自然だが、▲6七金寄で再び手番が回るなら後手の得だ。 111 6七金(77) ( 8:00/03:34:00) *永瀬は額を押さえたり、こめかみのあたりに手をやったり、脇息にもたれて天井を見上げたり。現状が想定通りの展開なのかどうか。 112 7三歩打 ( 3:00/03:35:00) *入玉を止めるには足場になる駒を盤上に増やすことが重要だ。歩1枚で先手玉の脱出路をぴったり封じている。あとは△8六成桂〜△8五成桂とじっくり攻めていけばいい。高い駒が取れるなら▲7三同馬から清算する選択も生じるだろうが、取れる駒が歩ではそうはいかない。 * *※局後の感想※ *ここで▲6三角は△8六成桂でうまくいかない。 113 3三歩打 ( 9:00/03:43:00) *歩で玉をたたいた。自然に△3三同桂と取られたときにどのような効果があるのか、すぐには狙いが見えてこない。 114 同 桂(21) ( 3:00/03:38:00) 115 7四歩打 ( 3:00/03:46:00) *歩を合わせて脱出路の開拓を目指す。しかし自分の駒が邪魔になる恐れもあってルートを作るのは大変だ。後手は△8六成桂▲7三歩成△8五成桂でよければ話は早い。 116 5六桂(64) ( 9:00/03:47:00) *軽妙な桂跳ね。玉頭に駒を打つ空間を作っている。さらに金当たりで2つの狙いを持っている。複数の狙いを持つ攻めは受けにくい。開き直って▲7三歩成とするしかなさそうだ。 * *※局後の感想※ *「(4筋の)銀にヒモがついたので、息長く寄せていこうと思った」(渡辺) 117 7三歩成(74) ( 2:00/03:48:00) *念願の上部開拓。しかし道が▲7四玉〜▲6三玉しかないのでは心細い。 118 6八桂成(56) ( 0:00/03:47:00) *金を取って戦力を蓄える。駒を増やしておけば入玉を阻止する手段が増え、たとえ入られても自陣で捕まえる形にしやすい。 *18時36分、永瀬は残り10分になった。折田四段の秒読みの声が響く。永瀬は額に手をやる。 119 7四玉(65) ( 6:00/03:54:00) 120 8六成桂(87) ( 1:00/03:48:00) *タダで取れる金には触らず、成桂を活用した。先手は▲6三玉で入玉は果たせるのだが、△7一金と頭を押さえられると身動きが取れない。 121 8四馬(83) ( 2:00/03:56:00) *馬を引いて△8五成桂に備えつつ、▲8三玉と入る余地も作った。しかし、現状の戦力では守り駒が十分とはいえない。入っても捕まる可能性が高い。 122 9四銀打 ( 6:00/03:54:00) *数には数。再び△8五成桂を狙う。 123 6三玉(74) ( 0:00/03:56:00) 124 6一金打 ( 0:00/03:54:00) *入ってきた玉を迎え撃つ。先手玉はがんじがらめだ。 125 6二と(73) ( 0:00/03:56:00) *と金を入って血路を開く。馬が利いているので数は足りている。 126 8五成桂(86) ( 0:00/03:54:00) *渡辺は天井を見上げてから意を決したように手を伸ばした。と金を引き離してから切り札を出す。 127 4五竜(75) ( 0:00/03:56:00) *当たっている竜をバサッと切り飛ばす。大事な竜を失うが、△4五同桂に▲3三歩のたたきが嫌みな手だ。 128 同 桂(33) ( 1:00/03:55:00) 129 3三歩打 ( 0:00/03:56:00) *拠点は残さないのが基本だが、△3三同玉は▲1五角の王手があって青ざめる。しかし△4三玉とかわすのも▲2一角といった手で怖い。 130 同 玉(32) ( 2:00/03:57:00) *歩を払って前に進む。 131 1五角打 ( 0:00/03:56:00) *狙いの王手。後手は出せる合駒が飛車しかないので非常に怖い。 132 4四玉(33) ( 0:00/03:57:00) *後手玉に即詰みはなさそうだが、▲6一とと金を補充する手が残っているのでまだまだ手段はある。 133 6一と(62) ( 2:00/03:58:00) 134 8四成桂(85) ( 0:00/03:57:00) *玉に近い攻め駒と守り駒の数に差があって先手玉が息苦しい。この差を打破する手段はあるか。 135 6四金打 ( 0:00/03:58:00) *単騎で▲7二玉と突っ込むのでは安全とはいいがたかった。しかし銀の利きに金を打つのもすごい手だ。金を取る△6四同銀は▲4二角成があるが、左側から迫られたときが怖い。 *19時9分、渡辺は一分将棋に入った。 136 4一角打 ( 2:00/03:59:00) *角で合い利かずの王手をかけた。逃げる場所は▲7二玉しかない。そこで△7四成桂と竜の利きを開けば先手玉は△8三竜▲7一玉△7二飛までの詰めろになる。 137 7二玉(63) ( 0:00/03:58:00) 138 7四成桂(84) ( 0:00/03:59:00) *竜の利きを自陣に届かせる切り札だ。先手玉は△8三竜▲7一玉△7二飛までの詰めろ。 *19時14分、永瀬も一分将棋に入った。 139 同 金(64) ( 1:00/03:59:00) 140 9二飛打 ( 0:00/03:59:00) *飛車を離して打つ明快な詰みがあった。先手玉は▲7一玉に△8二竜までの詰み。秒を読まれて永瀬が肩を落とす。そして頭を下げた。終局時刻は19時16分、消費時間は両者3時間59分。形勢が揺れ動く激戦を渡辺が制した。第2局は2月19日(土)、石川県金沢市「北國新聞会館」で行われる。 * *【終局直後】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kiou/2022/02/post-bb10.html * *【解説会場で振り返り】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kiou/2022/02/post-a21e.html * *【感想戦】 *https://kifulog.shogi.or.jp/kiou/2022/02/post-10da.html * *※局後の感想※ *永瀬の▲4六角(23手目)が工夫でペースを握るが、△2二玉(68手目)では後手が指せている。その間の、先手が自らの玉頭から動いていった構想に問題があった可能性がある。だが、渡辺の△8七角(76手目)がミスで形勢混沌。以下は先手よしになったと両者の見解は一致したが、▲7六同玉(107手目)に代えて▲7六同金としても難解。明快に先手勝ちという順は感想戦では出てこなかった。渡辺は「意外とバランスがとれてましたか」と首をかしげ、永瀬は「悪いんですか」と落胆した様子だった。 141 投了 ( 0:00/03:59:00) まで140手で後手の勝ち