# --- Kifu for Windows (HTTP) V6.53.2 棋譜ファイル --- 対局ID:1729 開始日時:2013/01/14 09:00 終了日時:2013/01/14 16:27 表題:女流名人位戦 棋戦:第39期女流名人位戦五番勝負第1局 持ち時間:各3時間 消費時間:113▲147△179 場所:島根・出雲文化伝承館 手合割:平手   先手:里見香奈 後手:上田初美 手数----指手---------消費時間-- *里見香奈女流名人に上田初美女王が挑戦する第39期ユニバーサル杯女流名人位戦五番勝負は、2013年1月14日(月・祝)に開幕する。里見は4連覇を、上田は初の女流名人位を目指す。過去の対戦成績は里見5勝、上田0勝。 *第1局の対局場所は島根県出雲市「出雲文化伝承館」。立会人は杉本昌隆七段、記録係は荒木隆三段(22歳、森信雄七段門下)。現地大盤解説を山崎隆之七段が、聞き手を香川愛生女流初段が担当する。 *先後は振り駒で決定する。持ち時間は各3時間。対局開始は9時。昼食休憩は12時〜13時。 * *(棋譜・コメント入力=翔) *[棋譜表示の*はコメント付きの指し手。#は局後の感想が追記された指し手] * *■門倉啓太四段によるTwitter解説(当コメント欄に随時転載あり) *https://twitter.com/shogi_mobile * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>おはようございます。本日、女流名人位戦第1局のツイッター解説を務めさせていただきます、四段の門倉です。どうぞよろしくお願いいたします。戦型予想は先後が決まっていないので難しいのですが、里見女流名人の居飛車、上田女王の振り飛車になるのではないかと思います。お二人とも中終盤のねじり合いを得意とされていますので、力比べをどちらが制すかが見所となるでしょう。東京は冷たい雨が降っていますが、むしろ将棋観戦日和といえるかもしれません。寒さを吹き飛ばすような熱い戦いが期待されますので、最後までどうぞごゆっくりお楽しみください。 1 7六歩(77) ( 0:00/00:00:00) *長岡秀人・出雲市長による振り駒の結果、歩が3枚出て里見の先手と決まった。 *初手は▲7六歩。前夜祭で戦型を問われた立会人の杉本七段は「最初の2手だけは自信があります。初手▲7六歩、2手目△3四歩」と答えたが、さて2手目は。 2 3四歩(33) ( 0:00/00:00:00) *2手目は△3四歩。里見の初手に続いて、無数のフラッシュが盤上を照らした。 3 7五歩(76) ( 0:00/00:00:00) *里見の3手目は▲7五歩。石田流の出だしだ。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>振り駒で里見さんが先手となり、3手目▲7五歩と早石田を目指しました。早くも戦型予想がはずれてしまいました。 4 1四歩(13) ( 0:00/00:00:00) *◆上田 初美(うえだ はつみ)女王◆ *1988年11月16日生まれ、東京都小平市出身。伊藤果七段門下。2001年、女流2級。2011年、女流三段。女流棋士番号は26。 *タイトル戦登場は4回目。獲得は女王2期。 5 1六歩(17) ( 0:00/00:00:00) *◆里見 香奈(さとみ かな)女流名人(女流王位・女流王将・倉敷藤花)◆ *1992年3月2日生まれ、島根県出雲市出身。森けい二九段門下。2004年、女流2級。2011年、女流五段。女流棋士番号は33。 *タイトル戦登場は13回目。獲得は女流名人3期、女流王位1期、女流王将3期、倉敷藤花5期(クイーン倉敷藤花)の計12期。 6 5四歩(53) ( 0:00/00:00:00) *上田の通算成績は160勝96敗(勝率0.625)。 *今年度成績は17勝6敗(勝率0.739)。昨年5月にマイナビ女子オープンで長谷川優貴女流二段の挑戦を退けている。 7 6六歩(67) ( 0:00/00:00:00) *里見の通算成績は130勝46敗(勝率0.737)。 *今年度成績は13勝2敗(勝率0.867)。昨年5月に女流王位を奪取。10月に女流王将を、11月には倉敷藤花を防衛している。 8 4二銀(31) ( 0:00/00:00:00) *対局開始前、先に対局室に入ったのは上田。8時47分頃の入室だった。大輪の花柄が散りばめられた和服に、濃い緑色の袴姿。ひんやりとした対局室に、どっしりとした存在感を放った。 *里見が入室したのは8時52分頃。扇子1本を片手にスーツ姿。いつものシンプルな戦闘服で盤に向かった。 9 7八飛(28) ( 0:00/00:00:00) *里見、第1局は得意形のひとつである石田流を採用した。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>対する上田女王は端歩で様子を見てから相振り飛車を目指すようです。 10 5三銀(42) ( 0:00/00:00:00) *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>4手目に△1四歩とするのが最近の流行で、端を受ければ相振り飛車、受けなければすぐに突き越して居飛車にするのが狙いです。 11 5八金(69) ( 0:00/00:00:00) *開始5分が経ち、関係者が対局室から戻ってきた。 12 3三角(22) ( 0:00/00:00:00) *上田は今期の女流名人位戦A級リーグを7勝2敗で終えた。同じく7勝2敗だった清水市代女流六段とのプレーオフは昨年12月3日に行われ、上田が制して初挑戦を決めた。第35期で10期目の女流名人位に就き、失冠後も連続挑戦を続けていた清水女流六段の五番勝負連続出場は4期でストップした。 *このプレーオフは、上田にとって対清水戦4年8ヶ月ぶりの勝利だった。上田は『週刊将棋』1月9日号に掲載されたインタビューで「成績についてはあまり気にしていませんでした。一局一局は別物ですから」と話している。 *里見との戦いについては、スポーツ報知に掲載された開幕直前インタビューで「人には頑張らなきゃいけない時が必ずあると思っていて、私にとっては今だと思うんです。後悔したくないです」と決意を示している。 * *■上田女王「昭和女の意地見せます」…女流名人位戦5番勝負(スポーツ報知) *http://hochi.yomiuri.co.jp/leisure/shogi/news/20130112-OHT1T00140.htm 13 2八銀(39) ( 0:00/00:00:00) *里見は第36期女流名人位戦五番勝負で清水女流名人(当時)を3−0で破ったあと、前期まで3連覇を果たしている。奪取当時は女子高生名人と騒がれた里見も今年3月で21歳。女流四冠を保持し、女流棋界の第一人者に成長している。 *力強い言葉を残した上田のインタビューに対して、里見もスポーツ報知の紙面上で「こちらも全力でぶつかって五番勝負を盛り上げられれば」と語っている。 * *■里見女流名人「地元で初戦楽しみ」…女流名人位戦5番勝負(スポーツ報知) *http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20130112-OHT1T00141.htm * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>▲2八銀は金無双や矢倉を目指した一手です。1筋の突き合いが入っているので、先手は端が弱点となる美濃囲いにはしづらい意味がありました。 14 2二飛(82) ( 0:00/00:00:00) *上田の飛車が2筋に移動し、相振り飛車が確定した。前夜祭で山崎七段は「相振り飛車は避けるのでは」と話しており、控室でも意外だと声があがった。 15 4八玉(59) ( 0:00/00:00:00) *先手は▲3八玉〜▲4八金上とすれば金無双。▲3六歩〜▲3七銀を急げば矢倉になる。 16 2四歩(23) ( 0:00/00:00:00) *対局場は出雲文化伝承館の中にある「松籟亭」(しょうらいてい)。普段はお茶室の営業が行われている。 *大盤解説会場は同じく出雲文化伝承館の縁結び交流館。入場無料。13時開場。13時半から終局まで、山崎隆之七段と香川愛生女流初段による解説が行われる。 17 7四歩(75) ( 0:00/00:00:00) *対局が行われる島根県出雲市は島根県の東部にある市で、山陰地方屈指の都市。現在の出雲市は2005年に旧出雲市・平田市など2市4町が新設合併して誕生した。その後2011年に斐川町が編入している。 *先日野球殿堂入りが決まった元プロ野球選手の大野豊氏は出雲市出身。また歌手の竹内まりやさんや女優の江角マキコさんは、里見と同じく県立大社高校の出身。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>▲7四歩と早速飛車先を交換しにいきました。里見さんは金無双で戦うつもりのようです。 18 同 歩(73) ( 0:00/00:00:00) *里見の存在以外にも、出雲市は将棋と縁の深い土地柄だ。 *現在は出雲市の一部である平田市は、将棋界では「四人将棋」発祥の地として知られている。四人将棋は1993年に誕生。そのときにアドバイザーを務めたのが、今回日本将棋連盟専務理事として出雲を訪れている田中寅彦九段だ。 *また、三世名人の初代伊藤宗看(1618-1694。名人在位1654-1691)は出雲国出身。 *2010年には市内の遺跡から15世紀中頃〜16世紀初めと推測される将棋盤が出土している(発見されたものでは最古)。この遺跡は里見の実家から近い場所にあるそうだ。 19 同 飛(78) ( 0:00/00:00:00) *本日使用されている駒は、「関西駒の会」(かんさい こまのかい)に属する松原一典さんが制作した錦旗書。この駒は2011年の第19期倉敷藤花戦第2局でも使用されている。関西駒の会はアマチュアで駒作りを愛好する方々のサークルで、松原さんの本職は歯医者さん。駒の会の例会は初心者が参加しても彫り方を指導してもらえる。 * *■道楽の世界(「関西駒の会」の案内) *http://www.geocities.jp/top100top/index.html 20 2五歩(24) ( 0:00/00:00:00) *7筋はすぐに受ける必要がないので、上田は飛車先の歩を伸ばした。17手目に▲7四歩ではなく▲3六歩だと△2五歩に▲3七銀が間に合ったが、本譜では△2六歩からの飛車先歩交換が防げない。17手目の門倉四段のTwitter解説にもあるように、里見は矢倉には組むつもりがないようだ。 21 7六飛(74) ( 0:00/00:00:00) *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>ここは上田さんにとって作戦の岐路で、7筋に歩を打って低い構えから速攻を目指すのか、7筋に歩を打たずに金銀を盛り上がって先手の攻撃陣を圧迫するのかで後の展開がガラリと変わります。 22 7三歩打 ( 0:00/00:00:00) *上田は少し考えて歩を打った。これは門倉四段のTwitter解説によれば、速攻を目指す手だ。 23 7七桂(89) ( 0:00/00:00:00) *里見が桂馬を跳ねたところで、時刻は9時半を回った。朝から雨が降り続いていた出雲市は、今も厚い雲が空を覆っている。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>△7三歩と打ちました。これは攻めを重視した手ですので、このあと攻め合いになることが予想されます。 24 8二銀(71) ( 0:00/00:00:00) *飛車先の歩を交換せずに銀を上がった。 *控室の山崎七段は「△8二銀は▲8六歩をけん制していますね」。▲8六歩には△8四歩から銀冠を目指す意味で、直前の▲7七桂を咎めに行ったとも言える。 25 6五歩(66) ( 0:00/00:00:00) *△2六歩からの飛車先歩交換をしなかったので、▲6五歩で飛車の横利きを通して受けた。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>▲6五歩は飛車の横切きを通して2筋の歩交換を防いだ意味があります。 26 6二玉(51) ( 0:00/00:00:00) *引き続き、山崎七段のコメント。 *「今見れば、上田さんは想定局面があるような指し方ですね。4手目△1四歩で▲1六歩と受けたので相振り飛車にして、囲いを限定しました。先手が美濃囲いにすれば△1五歩からの端攻めが生じます。後手は△2六歩を突かなかったことや△7三歩を早めに打ったことから、玉の整備を優先していますね。先手を金無双に限定したので、玉の囲いをしっかりすれば十分と見ているのでしょう」 27 9六歩(97) ( 0:00/00:00:00) *前夜祭会場では、本局を特集したスポーツ報知のPR版が配布された。片面は里見特集。里見だからこそ語ることのできる出雲の魅力が紹介されている。 *この紙面には冒頭に「(出雲には)何もない」という里見のコメントが掲載されており、前夜祭では田中寅彦九段(日本将棋連盟専務理事)が「今や里見さんは出雲の観光大使のような存在なのだから」と苦笑混じりに紹介する一幕もあった。 *「何もない」と言いつつ、紙面では観光スポットが里見のコメント付きで紹介されている。 28 9四歩(93) ( 0:00/00:00:00) *スポーツ報知PR版のもう片面は上田特集。見出しはズバリ「勝たなきゃ」。前夜祭挨拶でも、女流棋界を盛り上げるためには自身の活躍が必要であると自覚している様子がうかがえた。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>先手はこのあと▲9七角、▲6八銀〜▲6七銀と攻撃態勢をととのえるでしょう。一方の後手は飛車先交換を防がれてしまったので、攻撃態勢を築くのがやや難しくなりました。若干先手ペースの序盤戦だと思います。 29 3八玉(48) ( 0:00/00:00:00) 30 5二金(41) ( 0:00/00:00:00) 31 8六歩(87) ( 0:00/00:00:00) *▲8六歩までの消費時間は▲里見13分、△上田18分。 *山崎七段「▲8六歩に△8四歩と突いて突っ張るようなことになれば、激しい展開になりそうです」。 *しばらくして山崎七段が「いててて」とほほを押さえる。「口内炎ができているので、たくさんしゃべると痛いです」と苦笑。 *ここで上田が考えている。香川女流初段は「ここで△8四歩は突きづらいのではないでしょうか。7九銀で角にひもがついているので、▲9五歩△同歩▲8五歩△同歩▲同桂と動く筋があります」。△8四歩が突けないのであれば後手の玉形の進展は望めないので、先手はゆっくりと▲6八銀〜▲6七銀と銀を上がることができる。 *ちなみに香川女流初段は、上田と「兄弟のような」仲。「(昨日訪れた)出雲大社で皆さんに『こんにちは〜』って挨拶をしているのに、私だけ『おー!』と言われました」とは「弟」の弁である。 *上田が30分近く考えている間に、時刻は10時を回った。両者に出されたおやつは地元の菓子工房「みまつ」の生大福。 *10時20分。上田は引き続き考えている。「固まっちゃったねぇ。画面が(エラーで)止まっているんじゃないよね」と田中寅九段。山崎七段は「△8四歩を突くつもりで進めてきたので、予定が狂っちゃったんじゃないでしょうか」と返す。 *あまりにも画面が動かないので、立会人の杉本七段が対局室に確認に向かった。しばらくして、モニターにかすかに映り込んでいた上田の脇息がぐぐっと動き、画面から消えた。やはり上田は長考している。 *戻ってきた杉本七段は「39分使っていました」。その後も考えているので50分近く考えていることになる。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>▲8六歩は次に▲8五歩〜▲8六飛として、8筋の歩も手持ちにしようという狙いです。後手がそれを嫌って△8四歩ならすかさず▲9五歩△同歩▲8五歩△同歩▲同桂として激しい戦いになるかもしれません。上田さんが長考していますが、△8四歩以下の手順を掘り下げているのではないでしょうか。しかし、その変化は先手良しだと思います。 32 4四銀(53) ( 0:00/00:00:00) *10時33分、上田の手がモニターに映った。 *「ん!」と山崎七段が声をあげる。「どちらでもない」。△8四歩が無理ならば△7二玉と見られていたが、上田は銀を上がった。「▲8五歩ならば△4二角と引いて、先手の角を使いにくくしようとしているのだと思います」(山崎七段)。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>△4四銀はひねり出した感のある手です。▲8五歩に△4二角として先手の角を使いづらくする狙いだと思います。 * *※局後の感想※ *上田「△4四銀▲8五歩△4二角のときに▲9七角が大丈夫か確認しているうちに長考になりました」 *▲9七角以下△同角成▲同香△8七角▲8六飛△9八角成▲8八銀△5三銀が検討され、後手が指しやすい。 *上田「先手はこの順は選びにくいとは思いましたが」 *里見「▲9七角は全く考えていなかったです」 33 8五歩(86) ( 0:00/00:00:00) *7七桂は使いにくくなるが、△8四歩〜△8三銀と銀冠に組む順を防いでいる。また▲8六飛〜▲8四歩も狙いになる。 *「ここで△3五銀は▲9七角と出られます。△4二角は▲9七角を防いでいます」と山崎七段。 34 4二角(33) ( 0:00/00:00:00) *「男性棋士でも3時間の将棋で50分使うことはめったにないですね。3手で時間がなくなっちゃいますからね」(山崎七段)。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>これですぐに▲9七角とはしづらくなりました。ただ、先手は銀を7五まで持っていけば▲9七角とできるようになるので、困ったわけではありません。 35 7八銀(79) ( 0:00/00:00:00) *向かい合っていた角が動き、桂馬が跳ねることもしばらくはなさそうなので、8八角にひもをつけている必要はない。銀の活用を目指していく。 36 7二玉(62) ( 0:00/00:00:00) *▲6七銀が自然だが、▲8七銀も考えられる局面だという。継ぎ盤の周辺に人が集まった。 *報道陣にコメントを求められた杉本七段は「センスのいい駒組みですね。最初に(▲8六歩で)一本取ったのは里見女流名人ですが、△4四銀以下はなかなかの修正手順だと思います」 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>後手は相変わらず攻撃態勢をつくるのが難しいです。先手陣は低い構えなので、歩で圧迫しながら攻めるのが基本となるのですが、△4四銀は歩越し銀なのでそういった展開になりにくいのです。先手は▲7五銀〜▲9七角までいけば攻め駒が後手の玉頭に集合してかなりの迫力になります。ここまでは里見さんがうまくやっている印象です。 37 6七銀(78) ( 0:00/00:00:00) *10分ほど考えて銀を上がった。時刻はまもなく11時。 38 6二金(61) ( 0:00/00:00:00) *△6二金上までの消費時間は▲里見26分、△上田1時間11分。32手目△4四銀には48分が記録されていた。 *控室では、大盤解説会の次の一手当選者にプレゼントされる色紙が準備されていた。山崎七段は落款を忘れてしまい、色紙右上に押す関防印を杉本七段に借りた。さらに朱肉に親指をぐりぐり。その指を落款を押すべき場所にべたっと押し当てた。そして完成した色紙を見て後悔したのか、筆を持つと赤い指紋の周辺に駒型のイラストを描き始めた。 *記者「関防印には何と書いてあるんですか?」 *杉本「『日々是精進』です。山崎君には似合わないけど」 *山崎「それはどういう意味ですか……。まじめな顔でさらっと言われてしまいましたけど」 *杉本「あ、いや、山崎君は凡人じゃないから」 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>ここで▲4八金上とすればお互い金無双が完成しますが、先手は玉頭にあまりプレッシャーがないので、もうこの玉形のまま戦うかもしれません。里見さんが長考していますが、▲6六銀とすると2筋の歩を切られてしまうので、その前に有効な手がないか考えているのだと思います。 39 6六銀(67) ( 0:00/00:00:00) *「これは△5五銀とぶつけられるとどうするのでしょうか」と山崎七段。 *△5五銀に(1)▲同銀は△同歩で、次に△8七銀の飛角両取りがある。 *(2)▲7五銀は△2六歩。以下▲同歩△7五角▲同飛△2六飛で△6六飛や△8六飛が受けにくい。また、△2六飛の局面は次に△7四銀で飛車が取れる形になっている。 *継ぎ盤では田中寅九段を中心に検討されている。しばらく継ぎ盤を見ていた山崎七段は「そうかそうか。△5五銀には(1)▲同銀△同歩に▲9七角と勝負するのかもしれませんね。△同角成▲同香△8七角から馬を作る展開になりますが、先手も▲6四歩△同歩▲3一角があります。△5五銀の他には△3三桂も考えられますね。▲7五銀ならやはり△2六歩があります」。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>ここで後手から△5五銀とするのは▲7五銀で先手十分かと思っていましたが、そこで△2六歩▲同歩△7五角▲同飛△2六飛の局面は存外大変かもしれません。先手が7五に銀を上がると常に先ほどの順があります。というより、後手としてもその順を決行しないと作戦負けになる可能性が高いので、お互いここ数手が正念場かもしれません。 40 3五銀(44) ( 0:00/00:00:00) *これも△2六歩を見せている。「ただ▲6四歩が突き捨てやすくなりましたね」と山崎七段。あまり検討していなかった手が出て盛り上がりかけた継ぎ盤だが、田中寅九段が「あっ」と時計を見る。帰京する時間になっていたようだ。「ではあとは皆さんにお任せします」と言い残し、控室を後にした。田中寅九段は、明日C級1組順位戦の対局がある。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>△3五銀は▲7五銀に対し、場合によっては△2六歩▲同歩△同飛と決戦する狙いかもしれません。ただ後手は中央がやや手薄になったので、▲4八金上〜▲5六歩としてみたいです。 * *※局後の感想※ *代えて△5五銀は▲同銀△同歩▲4六飛で、次に▲9七角や▲5四銀がある。 *また、△3三桂は有力で、▲7五銀△同角(△2六歩は▲6四歩があるので、先に角を切る)▲同飛△2六歩▲同歩△同飛が並べられた。 41 6四歩(65) ( 0:00/00:00:00) *予想されていた突き捨て。(1)△6四同角は▲6五銀△4二角(△5五角は▲9七角)▲5四銀と手順に銀を進出される。 *(2)△6四同歩は▲6五歩や▲7五銀が考えられる。6六銀を動かせば、先手からはたとえ歩頭であろうとも▲6五桂と跳ねる手が飛車取りの切り札になる。 *▲6四歩の局面で12時となり、昼食休憩に入った。消費時間は▲里見47分、△上田1時間53分(持ち時間各3時間)。上田は次の一手に24分考えている。対局は13時に再開される。 *対局者の昼食はいずれも市内のとんかつ屋「かつ楽」のメニューより、里見がヒレかつ定食(ミニ)、上田がレディース膳。「かつ楽」は前述のスポーツ報知PR版で里見がよく連れていってもらったと名前を挙げている店だが、本局の昼食で利用されるのは全くの偶然だそうだ。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>▲6四歩と突きました。これは△同歩なら▲9七角、△同角なら▲6五銀ということでしょう。やや軽い攻めにも思えますが、比較的早く決断したことからも、里見さんは形勢に自信をもっているのではないでしょうか。この局面で昼食休憩となったようです。中盤戦の入口となり、ここから一手一手の重みが増していきます。午後も引き続きよろしくお願いいたします。 42 同 角(42) ( 0:00/00:00:00) *13時に対局再開。上田はすぐに△6四同角と指した。 *代えて△6四同歩は▲7五銀の受け方が難しかったようだ。手筋は△7四歩▲同銀△7三歩(銀の逃げ場がない)だが、▲6三歩△6一金▲6五桂が飛車取りになる。以下△3三桂▲7三桂成△同桂▲8四歩と進めば、先手の攻めは続く。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>再開の一手は△6四同角でした。これには▲6五銀△4二角▲3六歩という展開が予想されます。局面はまだまだこれからの勝負だと思いますが、上田さんの残り時間が約1時間しかないのが気がかりです。対して里見さんは早指しを続けているため2時間以上残しています。 * *■出雲大社参拝(1)■ *昨日13日、上田など東京組は正午前に羽田空港を発ち、空路で出雲入り。その後、参拝と記念撮影のためにマイクロバスで出雲大社へ移動した。立会人の杉本七段など大阪組は新幹線と特急を乗り継いで14時過ぎにJR出雲市駅に到着。こちらもマイクロバスで出雲大社に移動した。 43 6五銀(66) ( 0:00/00:00:00) *歩を突き捨てた利点は、6五に駒が進出できるようになったこと。早速銀を出て角に当てる。 * *■出雲大社参拝(2)■ *出雲大社に先に到着したのは東京組だった。遅れて、記者(翔)も乗った大阪組のバスが到着した。記者、若葉記者、将棋連盟関西本部の職員、荒木三段、香川女流初段、山崎七段、杉本七段の順に降りると、上田はきょとんとした様子で扉が閉まるバスを見ていた。このバスに里見も乗っていると思っていたようだ。実際には里見は出雲市内にある実家から直接出雲大社に移動していた。 44 5五角(64) ( 0:00/00:00:00) *△4二角が有力視されていたが、上田はノータイムで角を出た。「大胆だなぁ」と山崎七段。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>△4二角ではなく△5五角と逃げました。角が先手の攻め駒の近くにいるため当たりが強くなりますが、先手の桂を捌かせないことを優先した手です。ここは▲9七角とするのが有力です。▲3一角成と▲6四歩の二つの狙いがあります。 * *■出雲大社参拝(3)■ *里見は駐車場から少し歩いたところで、一行を笑顔で迎えてくれた。 *年末に出雲に帰省し、関西将棋会館での奨励会のために一旦大阪に戻り、また出雲に帰ってきたという。6日の奨励会例会で里見は2連勝し、いいところ取りで10勝3敗。12勝4敗が規定となる奨励会二段昇段まであと2勝1敗とした。26日の例会で2連勝すれば二段に昇段する。 45 9七角(88) ( 0:00/00:00:00) *里見は少考で角を出た。控室の継ぎ盤は、現局面のまま動かされない。 *里見が席を外していたようで、黒い影が下座側から上座側に動く様子がモニターに映った。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>やはり▲9七角でした。これは一気に上田さんが苦しくなってきたかもしれません。 * *■出雲大社参拝(4)■ *出雲大社(正式には「いずもおおやしろ」と読む)は今年、60年に一度の「大遷宮」が行われる。遷宮とは、神社の修理などに伴って御神体を別の場所に移すことをいう。今回の大遷宮では2008年に御神体である大國主大神を仮殿へ移す仮殿遷座祭を行ったあとに本殿の大改修が行われており、今年5月10日には大國主大神を再び本殿に帰す「本殿遷座祭」が行われる。昨日13日に里見、上田ら関係者が参拝したのは仮殿である。 46 5三金(52) ( 0:00/00:00:00) *▲3一角成を受けつつ、6四への利きを増やした。△5三金直までの消費時間は▲里見59分、△上田1時間54分。 *「うーん」と香川女流初段がうなる。「本当は△2六歩と突きたかったですが、単に▲3一角成で困っていたのかもしれません」。 *現地では13時半から大盤解説会が開催される。午前中から多くの方が列を作ったため、開場時間を早めたそうだ。杉本七段、山崎七段、香川女流初段が会場に向かった。 *杉本七段はすぐに控室に戻ってきた。「考え所ですね」と継ぎ盤を見て話す。現在は観戦記担当の木屋太二さんと▲5六銀を検討している。△6四角には▲6五桂と跳ねることができる。 *下で門倉四段が指摘している▲7四歩も検討される。「何かひねり出さないとなぁ」と、後手側に座る杉本七段が頭を抱えている。 *13時45分。里見の考慮は30分に達しようとしている。午前中の上田の長考で残り時間の差は大きい。ここでしっかりリードを奪おうとしているようだ。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>さきほど示した先手の攻め筋を同時に防ぐために△5三金直としました。しかしこれには(1)▲7四歩が厳しそうです。▲7四歩に△同歩は▲5四銀と捨て、△同金に▲7四飛が王手金取りになります。また▲7四歩に△6四歩もそこで▲5六歩が好手で、以下△7七角成▲同飛△6五歩▲3一角で先手優勢です。(1)▲7四歩の他に(2)▲5六歩△4四角▲6四歩や(3)▲6四歩△同歩▲5六歩もありそうで、ここは里見さんも腰の落としどころでしょう。 * *■出雲大社参拝(5)■ *上田は聞き手を務めた2期前の女流名人位戦第1局で出雲を訪れたときに、空き時間に出雲大社に参拝し、それ以来の参拝。昨日奉納した絵馬には「たくさんの人が将棋を楽しんでくれます様に」と書いた。 47 4八金(49) ( 0:00/00:00:00) *「へぇ……。なかなか落ち着いていますね。へぇ…。へぇ……」(杉本七段) *上田は再び考慮に沈んでいる。時刻は14時を回った。控室の検討は一旦中断し、40手目△3五銀に代えて△5五銀の変化を調べている。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>じっと▲4八金上は相当に渋い手です。これで後手からやる手がないとみているのでしょう。私ならつい攻めこんでしまっていたところです。確かに考えてみると後手が何を指して良いかわかりません。持ち時間も少なくなってきて上田さんはかなり焦っていると思います。 * *■出雲大社参拝(6)■ *地元に住む里見は何度も訪れている出雲大社。昨日13日は出雲市の成人式が行われていたこともあって、晴れ着姿の若者を始めとした多くの参拝客でにぎわっていた。里見は「毎年1月の土日は人が多いんですよ」と話しながらも、いつも以上のにぎわいに驚いていた。絵馬には「感謝の気持ちを持って、楽しんで指す」。 * *※局後の感想※ *代えて▲6四歩は△同歩▲5六歩△7七角成(△4四角は▲6四銀)▲同飛△6五歩。これも有力だが、「本譜の▲4八金上で指す手がありませんでした」と上田。 48 9五歩(94) ( 0:00/00:00:00) *25分ほど考えて、玉と反対側の端に手をつけた。 *杉本七段は「おとなしくしていては勝てないと見ましたね。▲9五同歩には△同香▲9六歩△同香▲同飛△7七角成▲9二飛成△9一歩▲9六竜。これなら、まぁ収まりますかね。そこで△9九馬は▲5三角成△同金▲9九竜で抜かれてしまいますが。ただこの手自体が厳しいわけじゃないし、▲9五同歩△同香にいきなり▲5三角成△同金▲9五香の2枚換えもあるので、里見さんもこれはこれで悩むかもしれませんね」と見解を述べた。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>△9五歩と、思わぬところから開戦しました。▲同歩△同香▲9六歩△同香▲同飛△7七角成の狙いでしょう。 *手順中▲9六歩に代えて▲5三角成△同金▲9五香△8七角▲9二香成となればやはり先手が優勢ですし、この局面で▲7四歩も考えられます。手の流れからすると▲9五同歩が自然ではあります。 * *■出雲大社参拝(7)■ *出雲大社は「二拝四拍手一拝」の作法で拝礼する。里見、上田の他、関係者も作法に則って参拝した。年末年始にインフルエンザで寝込んだ里見にとっては、この参拝が初詣になった。帰り道、「あっ。いつもお願いする『健康』を忘れていました」。その代わりに願った内容は、里見の胸の中に大事にしまわれているはずだ。 * *※局後の感想※ *上田の渾身の勝負手。▲9五同歩は△同香▲5三角成△同金▲9五香△8七角▲7八歩△2六歩▲同歩△2七歩▲同銀△7六角成▲同銀△2六銀▲同銀△同飛▲1七角(2六飛と5三金を狙う)が調べられた。里見は「これは選びづらいです」。 49 5六歩(57) ( 0:00/00:00:00) *「これは▲6四歩の狙いですね。▲9五同歩と相手をする順も考えられましたが、やりづらかったのでしょう」と杉本七段。48手目にあった▲9五同歩△同香▲9六歩△同香▲同飛△7七角成▲9二飛成△9一歩▲9六竜の順は「意外と大変かもしれません」。また、▲5三角成△同金▲9五香△8七角▲9二香成は△7六角成▲同銀△7七角成で「急所の桂馬を外せるのが大きいと思います」。 *先手が有利に持ち込もうとしている、が杉本七段の見解。本譜の▲5六歩に△4四角▲6四歩△9六歩▲6三歩成の激しい順がまず検討されているが、優位に立つ里見がそこまで危険な順は選ばないだろうと言われている。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>▲5六歩でした。▲4八金上と△9五歩の交換はどちらが得をしたか微妙なところですが、後手としては△9五歩とした甲斐はあったと思います。後手は△4四角とし、9筋で一歩手に入れてから△2六歩▲同歩△2七歩▲同銀△2八歩▲同玉△2六銀▲同銀△2七歩という攻めを狙いたいです。 * *■出雲大社参拝(8・了)■ *参拝を終えた一行は、勢溜(せいだまり。出雲大社の正門とも言える場所)の前にあるぜんざい屋さんに入り、ぜんざいをいただいた。ぜんざいは出雲の「神在祭」で振る舞われた餅が由来という説がある。突然の大人数での来店に、先に入っていたお客さんは戸惑いを見せていたが、輪の中央にいる地元のスターを見つけ「あの人、将棋の里見さんじゃない?」と言って携帯電話で写真を撮っていた。 *ぜんざいでお腹いっぱいの一行は、戦いの地である出雲文化伝承館に向かった。女流名人の里見はもちろん、2年前に大盤解説の聞き手だった上田も知っている会場で、検分はスムーズに進んだ。上田は暖房の風が当たらないかと心配していたが、スタッフが昨年までの経験を活かして既に対策を取っていたため、新たな設営は不要だった。 50 4四角(55) ( 0:00/00:00:00) 51 3六歩(37) ( 0:00/00:00:00) *「ああ、そういう狙いかぁ」と杉本七段が声をあげる。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>先述の順を防ぐために▲3六歩としました。 52 同 銀(35) ( 0:00/00:00:00) *「これは取る一手ですね。引いてはいけません。▲5六歩△4四角を入れたのは、5五角のまま▲3六歩と突くと、△2六歩と突かれるのを気にしたのでしょう」(杉本七段) * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>△3六同銀には▲5五歩ということだと思いますが、△同角▲3六飛△7七角成の展開は後手もかなり盛り返しています。 53 5五歩(56) ( 0:00/00:00:00) *これが銀取りになっている。銀を守るのは▲5四歩の取り込みが厳しい。 54 同 角(44) ( 0:00/00:00:00) *△5五同角までの消費時間は▲里見1時間45分、△上田2時間21分。上田の残り時間は39分。 *従って、△5五同角と応じるしかない。▲3六飛と銀を取るのは△7七角成がある。 *控室でひとり検討している杉本七段は「里見さんが複雑な手順を選んでいます。形勢を難しいと思っているときに選ぶ指し方のような気がします」と語る。 *朝から雨が降ったりやんだりだった対局場周辺に晴れ間が覗いた。窓の外に見える山々は雲に覆われている。女流名人位戦にだけ天からの光が当たっているかのようだ。 *「▲3六飛△7七角成と進めば、上田さんも十分だと思いますよ。これは控室が色めき立っています。……私だけですが」(杉本七段) *対局室では、里見がやたらとため息をついていたという。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>次に△2六歩▲同歩△同飛が厳しいので、▲3六飛とするしかありません。▲3六飛ではなく▲3七歩には△2六歩▲同歩△2七歩が嫌ですし、△4五銀と引かれても数手前と比べて先手が損しています。上田さんが盛り返してきたということで現地の杉本七段が色めき立っていらっしゃるそうですが、私も色めき立っています。 55 3六飛(76) ( 0:00/00:00:00) *15分ほど考え、紅く染まった里見の右手が銀をつまんだ。 56 7七角成(55) ( 0:00/00:00:00) *後手は銀桂交換の駒損だが、馬ができた。 57 6四歩打 ( 0:00/00:00:00) *ゆっくりとした動きで、歩を6四に打つ。先手期待の一手だ。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>一気に3手進みました。▲6四歩は急所の一手で、先手の狙い筋でした。もう終盤戦の入口といって良いでしょう。 58 同 歩(63) ( 0:00/00:00:00) 59 同 銀(65) ( 0:00/00:00:00) 60 同 金(53) ( 0:00/00:00:00) 61 同 角(97) ( 0:00/00:00:00) *6四の地点で総交換。どちらの手つきも、落ち着いたものだ。 62 5三銀打 ( 0:00/00:00:00) *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>先手の角と銀が捌けたようですが、△5三銀がしっかりした受けです。角が逃げれば△9九馬が次の△3五香をみた厳しい手になります。 63 7五角(64) ( 0:00/00:00:00) 64 9九馬(77) ( 0:00/00:00:00) 65 6六角(75) ( 0:00/00:00:00) *57手目▲6四歩からノータイムの指し手が続いた。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>▲6六角は振り飛車らしい捌きです。△同馬▲同飛△5五角には▲6三銀△同金▲6一角で一気に寄せてしまう狙いがあります。 66 同 馬(99) ( 0:00/00:00:00) 67 同 飛(36) ( 0:00/00:00:00) *後手からは△3五香の狙いがあったが、手順に飛車を逃がした。 *時刻はまもなく15時。両対局者にはマロンケーキが出される。担当の方によれば、最近出雲の女性に人気の「Linz」(リンツ)というお店のものを取り寄せた。 *杉本七段は大盤解説会に出演するため、控室を出た。現在、控室で検討は行われていない。大盤解説会は既に満席で、立ち見の方も数十人。合計すると約300人のファンが駆けつけているようだ。毎年、出雲の大盤解説会は大入りになっている。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>ですので、ここは△6五歩と受けると思います。△6五歩に▲同飛は△4六桂▲同歩△5六角が王手飛車取りになります。以下▲4七角と合駒しても△6五角▲同角に△3五飛がまた王手角取りになってしまいます。よって、△6五歩には▲4六飛でしょうか。 * *※局後の感想※ *上田「さっきよりは大変な局面になったと思いましたが、指す手がよくわかりませんでした。△6三歩は▲4六飛でよくわかりませんでした」 68 5五角打 ( 0:00/00:00:00) *門倉四段も指摘していた▲6三銀△同金▲6一角の順があるが、上田は受けずに角を打った。現在、控室には女流王座戦を主催しているリコーの将棋部の皆さんが訪れている。「しのげると見ているのでしょうか」と驚いた表情を見せていた。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>△5五角は最強の手です。先述の手順(▲6三銀△同金▲6一角)で、▲6一角以下△同玉▲6三飛成△6二銀打でしのいでいるとみているのかもしれません。ここで後手玉が寄らなければ後手が優勢になります。ここ数手で優劣がはっきりするでしょう。 69 5六飛(66) ( 0:00/00:00:00) *里見は少考で飛車を寄った。「へぇ〜っ」と歓声があがる。 *▲6三銀以下の順は飛車の横利きもあって攻めきれないと見たのだろう。 *大盤解説会では▲6三銀△同金▲6一角△同玉▲6三飛成△6二銀打に▲7二金△5一玉▲5二歩△同飛▲6一金打△4二玉▲6二金寄が解説されていた。これは先手良しの順。ということは、▲6三銀も十分考えられたということか。 *控室のアマチュア強豪陣の検討では、上記手順中▲5二歩に△4二玉▲6二金△7四角で先手が攻め切るのは大変だったのでは、とされていた。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>寄りなしとみて▲5六飛でした。しかしこれは後手が指しやすくなりました。ひと目は△2六歩▲同歩△2七歩が筋です。 70 3六桂打 ( 0:00/00:00:00) *タダの桂打ちに見えるが、▲3六同飛には△3五香の串刺しがある。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>△3六桂はうっかりしました。▲同飛に△3五香で飛車を取る狙いです。しかし△3五香に▲3七歩△3六香▲6五桂で先手も指せそうな気がします。 * *※局後の感想※ *里見「この局面はなんとかなると思っていましたが……」 71 3七銀(28) ( 0:00/00:00:00) *里見の手つきからは優勢の雰囲気は感じられないが、かといって悲壮感もない。淡々とした手つきで銀を上がった。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>▲3七銀としてくれるのなら△3六桂がものすごい好手になっています。 72 2六歩(25) ( 0:00/00:00:00) *攻めの幅を広げる歩の突き捨て。▲同銀なら△2八角成だし、▲同歩には△2八歩が生じる。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>すぐに金を取らずに△2六歩でした。▲同歩に△2八歩でしょう。 73 同 歩(27) ( 0:00/00:00:00) *晴れていた対局場周辺はまた曇った。それどころか深い霧が山々を隠している。 74 2八歩打 ( 0:00/00:00:00) *耐え忍んでいた上田が、次々とパンチを繰り出している。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>先手はもう受けが効かない形なので、▲3六銀△2九歩成▲6三歩と攻め合いますか。後手が良さそうですが、まだまだ大変な局面です。期待に違わぬ熱戦となりました。 75 3六飛(56) ( 0:00/00:00:00) *飛車で桂を取った。手つきは相変わらず淡々としている。 * *※局後の感想※ *代えて▲6三歩は手抜かれて△2九歩成が厳しい。 76 2九歩成(28) ( 0:00/00:00:00) 77 6三歩打 ( 0:00/00:00:00) *玉の近くの金は守りの要。急所をついて攻めていく。この手を指して、里見はすぐに席を外した。 *▲6三歩までの消費時間は▲里見2時間14分、△上田2時間41分。 *上田は残り少ない時間から10分以上割いて考えている。対局室では、記録係の荒木三段による秒読みが始まっている。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>▲3六飛から攻め合いになりました。どこかで後手は△3五香が狙いです。△6三同金▲7五桂△3五香で後手が勝ちそうにみえます。先手は飛車を取られると△3九飛からの詰めろになり、受けても一手一手になります。よって△3五香と△3六香の2手が回る前に後手玉を寄せなければいけません。 78 3五香打 ( 0:00/00:00:00) *金取りを放置して香を打って決めにいった。次の△3六香が詰めろになる。この手の考慮時間は、手元の計測で15分。残り時間は3〜4分と見られる。 *▲6二歩成は△同飛で、飛車が一気に使えてくる。 *大盤解説会場から杉本七段が戻ってきた。解説を求めて、報道陣が一気に群がる。「いやぁ激しい終盤ですね。里見さんもまさか▲6三歩を手抜かれるとは思っていなかったでしょう」(杉本七段) * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>一番過激に金取りを放置して△3五香でした。しかし、歩で王手をかけられながら金を取られるのでかなり思い切った手です。▲6二歩成に△同飛は▲6三歩と再度叩かれて後手が嫌な形です。△6二同銀でしのごうということでしょうか。 * *※局後の感想※ *里見「▲6二歩成に△同飛の形が堅いのは分かっていたのですが、この瞬間だけ取ってもらえない可能性があるのが抜けていました」 *上田「もう仕方がないかなと思っていました」 79 6二歩成(63) ( 0:00/00:00:00) *7分ほど考えて、金を取った。まずこの王手への対応が大事。控室では杉本七段を中心に、△6二同飛▲6三歩△同飛▲5二銀△3六香を調べている。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>▲6三歩を手抜くというのは普通は「読んではいけない」手なので、非常手段なのかそれとも勝ちを読みきっているのか。 80 同 飛(22) ( 0:00/00:00:00) *「▲6三歩の筋がダメだとすれば、これは先手結構大変ですね」(杉本七段) * *※局後の感想※ *代えて△6二同銀も有力。以下(1)▲5六飛△3七香成▲同金△3九と▲4八玉△3七角成▲同玉△4五桂▲2八玉△3七金▲1七玉で詰みはないが、そこで△6三歩と自陣に手を入れておいて後手陣が安泰。 *しかし(2)▲4六飛が少し嫌味。こちらは深く検討されなかった。なぜなら、△6二同飛で後手勝ちだからだ。 81 6三歩打 ( 0:00/00:00:00) *継ぎ盤は△6三同飛の局面で止まっている。そこで後手玉に詰めろをかけられるかどうか。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>△6二同飛で▲6三歩まで進みました。もしかしたらこれも手抜こうということなのかもしれません。 82 同 飛(62) ( 0:00/00:00:00) *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>流石に△6三同飛でした。ここで▲5二銀が有力と思います。▲5二銀△6九飛成は▲6三金で先手勝ちそうなので、▲5二銀に手抜いて△3六香で、そこで後手玉が詰むかどうか。 83 5二銀打 ( 0:00/00:00:00) *控室では▲5二銀が詰めろになっていないと見ている。その見解が正しければ、△3六香と飛車を取って後手の勝ち筋になる。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>後手玉は上部が広いので逃げきれていそうです。 84 3六香(35) ( 0:00/00:00:00) *これは△3九飛▲2七玉△3七香成以下の詰めろ。▲3六同銀も△2八角成▲4九玉△3九飛まで。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>△3六香でした。上田さんの終盤力が光っています。 85 6三銀成(52) ( 0:00/00:00:00) 86 同 玉(72) ( 0:00/00:00:00) *「うーん、詰まなさそうですね」(杉本七段) * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>後手玉は詰まなそうなので、どこかで▲6九飛としますか。 87 4六歩(47) ( 0:00/00:00:00) *詰めろを受けた。杉本七段がぐぐっと身を乗り出した。 *継ぎ盤では△3九飛▲4七玉△3七香成▲同金△5六銀が調べられている。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>▲4六歩には詰みがあってもおかしくありません。△3九飛から精算して△4五桂で詰んでいそうです。 88 3九飛打 ( 0:00/00:00:00) 89 4七玉(38) ( 0:00/00:00:00) *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>詰みそうといいましたが、まだ私も読みきれていません。 90 3七香成(36) ( 0:00/00:00:00) 91 同 金(48) ( 0:00/00:00:00) *「詰みそう」と言われているが、変化が多いためまだ控室では断言されていない。 92 4九飛成(39) ( 0:00/00:00:00) *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>△4九飛成には▲4八金打で詰まなそうです。これはまたどちらが勝ちかわからなくなりました。大熱戦です。▲4八金打に△3五桂は▲3六玉が「桂先の玉寄せにくし」になります。 * *※局後の感想※ *敗着。△5六銀なら後手の勝ち筋だった。 *△5六銀以下、 *(1)▲同玉は△4四桂▲4七玉△4九飛成▲5七玉△6六銀▲6八玉△5六桂▲7八玉△7七銀成までの詰み。 *(2)▲3六玉で詰みはないが、△3五銀▲2五玉△3七飛成で先手玉は受けなし。後手玉は詰まない。このとき、△5六銀と打ったことによって詰みを逃れる変化があるという。これは山崎七段らによる大盤解説会で指摘されていた。 *上田は「本譜は足りないとわかっていました。(△4九飛成▲4八金打を入れずに)単に△5六銀は見えなかったです」と明らかに悔しそうな表情を見せた。 93 4八金打 ( 0:00/00:00:00) *これで先手玉に詰みはなくなったと見られている。どちらが勝ちかわからない。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>やはり▲4八金打でした。これが竜取りになっているので後手は忙しくなりました。 94 5六銀打 ( 0:00/00:00:00) *控室で検討されていた銀打ち。▲5六同玉に△4四桂▲4五玉△5八竜で詰めろをかける意味だが、今度は後手玉に詰みがあってもおかしくない。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>詰将棋のような捨て駒ですが、先手玉は詰みません。先手が勝ちになったのではないでしょうか。 95 同 玉(47) ( 0:00/00:00:00) *△4四桂▲4五玉△5八竜に▲4一角は△6四玉で「詰みはないんですが、後手勝ちかと言われると……」(杉本七段)。 96 4四桂打 ( 0:00/00:00:00) 97 5七玉(56) ( 0:00/00:00:00) *「5七に! ほぉ。ほぉほぉほぉほぉ。△5六銀は▲6八玉。△6六銀は▲4七玉。これは勝ちに行っていますよ」(杉本七段) * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>これで詰まないとみました。しかし△5六銀から王手は続きます。 98 5六銀打 ( 0:00/00:00:00) 99 6八玉(57) ( 0:00/00:00:00) *「これは詰まないですね。詰まないなら合駒がないので、先手勝ちですね」(杉本七段) * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>後手はもう詰ますしかありません。 100 6七歩打 ( 0:00/00:00:00) 101 7八玉(68) ( 0:00/00:00:00) *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>△5八竜〜△7七金ですがわずかに足りなそうです。 102 4八龍(49) ( 0:00/00:00:00) *△7七金以下の詰めろだが、▲4一角の王手への対応が難しい。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>これは▲4一角で先手勝ちです。 103 4一角打 ( 0:00/00:00:00) *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>合駒すると竜を取られます。 104 6四玉(63) ( 0:00/00:00:00) *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>▲6三飛から詰みです。 105 6三飛打 ( 0:00/00:00:00) 106 7五玉(64) ( 0:00/00:00:00) 107 7六銀打 ( 0:00/00:00:00) *「これは詰みですね」(杉本七段) 108 同 玉(75) ( 0:00/00:00:00) 109 8七金打 ( 0:00/00:00:00) 110 7五玉(76) ( 0:00/00:00:00) 111 7六香打 ( 0:00/00:00:00) *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>最後は▲6四飛成が決め手。 112 8五玉(75) ( 0:00/00:00:00) 113 6四飛成(63) ( 0:00/00:00:00) *角による開き王手。ここで上田は投了した。投了以下は△7四銀に▲同角成△9四玉▲8五馬△同玉▲8六銀、あるいは▲7五竜△9四玉▲9五竜の詰みがある。 *終局時刻は16時27分。消費時間は▲里見2時間27分、△上田2時間59分(持ち時間各3時間)。 *第2局は1月20日(日)に千葉県野田市「関根名人記念館」にて行われる。 * *■Twitter解説■ *門倉啓太四段>7四に合駒も▲同角成で詰みです。大熱戦を制したのは里見女流名人でした。序盤は里見さんがうまく指していたのですが、やや踏み込みを欠いたところがあり上田さんが盛り返しました。終盤ははっきり上田さんが勝ちの局面がありましたが、先手玉が詰むや詰まざるやだったのが災いしたか、寄せを誤ってしまいました。里見さんが最後ギリギリのしのぎをみせ、勝利となりました。本当に白熱した大熱戦でした。上田さんも残念でしたが、次局以降も楽しみです。本日はありがとうございました。両対局者、観戦していただいた皆様、関係者の皆様、お疲れさまでした。 114 投了 ( 0:00/00:00:00) まで113手で先手の勝ち